海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME / 戦略研究会 / トピックス・コラム / コラム063

 戦略研究会

 防衛駐在官の見た中国(その16)
-中国海軍と海軍コミュニティー -

(コラム063 2015/05/08)

   このコラムは、筆者が在中国日本国大使館防衛駐在官として在勤中に得た経験をもとに中国に関する筆者個人の雑感をご紹介するものです。読者の皆様が、我が国の防衛・安全保障を考える上で、幾ばくかの参考となれば幸いです。

******************************************

  

中国海軍記念日

   4月26日は「海上自衛隊の日」である。朝鮮戦争が行われていた昭和27年(1952年)のこの日に海上自衛隊の前身である海上警備隊が海上保安庁の外局として発足した。
   そして、4月23日は中国人民解放軍(PLAN:People’s Liberation Army navy)の創設記念日である。今日の中国海軍は、1949年(昭和24年)、国共内戦の最中に中国共産党の武装組織である人民解放軍華東軍区(南京軍区の前身)の部隊の一つとして生まれた。

   近年、中国海軍ではこの記念日の前後に様々な祝賀関連行事を行っており、創設60周年を迎えた2009年(平成21年)は、北海艦隊司令部の所在する青島(山東省)において、「中国海軍成立60周年多国間活動」1と称された一連の行事が行われた。

   この記念行事には、29カ国の海軍のリーダーが参加し、我が国からも加藤海上幕僚副長(当時)が出席した。当時、北京に駐在していた筆者も日本代表団の末席を汚す栄誉を得た。またこの時の主要イベントの一つとして国際観艦式が行われた。残念ながら海上自衛隊艦艇への招待は実現されなかったが、この観艦式には、14ヶ国21隻の海軍艦艇が参加した。国際観艦式に関する詳細は、別の機会に述べることとし、ここではそれと異なる点からこの行事を振り返ってみたい。

60周年行事で中国海軍が得たもの

   この60周年記念行事から、中国海軍は二つの果実を手に入れた。

   その第一は、国内パワーポリティクスの視点であり、具体的には胡錦濤(HU Jintao)主席(当時)との距離である。
   この記念行事で行われた国際観艦式の観閲官は、中華人民共和国の最高指導者である胡錦濤主席であった。首都北京から離れた青島での行事への参加、特に観艦式では洋上を航行する艦艇に乗艦する必要があったことから、胡主席は観艦式の前日から青島の海軍施設に入っていた。

   中国共産党及び人民解放軍の最高指導者である胡錦濤主席と一つの組織が長時間にわたり濃密に接触する機会は極めて貴重である。後に中国海軍の高級将校の多くが、「海軍は胡錦濤主席をほぼ丸一日独り占めした」と喜んでいたことは、中国国内のパワーポリティクスを図るうえで興味深いものであった。

   そのように見てみると、2014年(平成26年)に中国海軍が計画していた、習近平(XI JingPing)政権成立直後の国際観艦式が中止となったことに対する中国海軍の無念は想像に難くない。

   第二は、中国海軍のトップが事実上初めて国際的な海軍コミュニティーにデビューし、このコミュニティーの価値を理解したことである。このコラムの主題はここにある。

   海軍コミュニティーとは、各国海軍のリーダーが一堂に会する会議体を筆者が便宜的に名づけたものである。1年に1度、先進国のリーダーが一堂に会し、親しく意見を交わす先進国首脳会議(サミット)と同様に、ともに海洋を活動の場とする世界各国の海軍リーダーが定期的に集まる場がある。1969年(昭和44年)以降、ほぼ隔年周期により、米海軍大学を舞台にして米海軍が主催するISS(International Seapower Symposium:国際シーパワーシンポジウム)2がそれである。

   また、ISSの翌年には、ISSの地域版ともいえるWPNS(Western Pacific Naval Symposium:西太平洋海軍シンポジウム)3が加盟国海軍の持ち回り4によって実施されている5

   「和諧海洋(Harmonic Ocean)」を主題にした中国海軍60周年記念シンポジウムに参加したのは、わずか29か国ではあったが、このシンポジウムは、米、英、露などの海軍大国や東南アジア等の周辺諸国のみならず、アフリカや南米など世界各地からの参加を得た行事であった。北朝鮮海軍からも艦隊司令官が参加していたことは当時注目された。
   中国海軍の主唱により、日米英露をはじめとする世界規模の海軍リーダーを一堂に集めたこの行事は、海軍コミュニティーをリードする意味を中国海軍が認識するに十分な役割を果たしたと言えよう。

海軍コミュニティー

   海軍コミュニティーの価値は、呉勝利(WU ShengLi)海軍司令員自身が初めて参加した2014年(平成26年)のISSで発言したとおり、「各国海軍の相互信頼を拡大し、コンセンサスを共有し、協力を深化させる機会であり、各国海軍の指導者の友情を育み、アイデアを交換し、経験を共有する場」6である。

   特にWPNSは、2年に一度のアジア太平洋地域における各国海軍リーダーによるシンポジウムのほかに様々なプログラムが各国の発意によって提供され、関係国海軍各レベルの相互信頼、能力向上等に貢献してきた。
   例えば、海上自衛隊は、毎年、WPNSにおける次世代の海軍士官の交流の場のプログラム(EING:Exchange Initiative for Next Generation)として、WPNS-STEP(WPNS次世代海軍士官短期交流プログラム)やJMSDF-Ship Rider Program7を主催している。また、一部関係国との持ち回りにより、潜水艦救難訓練などの多国間訓練を主催している。

   これまで中国海軍は、ISSやWPNSのメンバーでありながら、このような海軍コミュニティーの中ではあまり積極的なアクターではなく、ISSやWPNSへの海軍司令員に対する招聘に応えて海軍司令員自身がそれらに参加することも筆者の知る限り皆無であった。前年(2008年)に、隣国の韓国が建国・建軍60周年を記念してWPNSを主催したが、そこに中国海軍司令員の姿はなかった8

海軍版AIIBの可能性は

   さて、東京大学の松田教授は、習近平政権の周辺外交政策を、「『新たな常態』を周辺諸国に受け入れさせればよいという論理である」9と述べている。また、多国間外交についても、国連やASEAN及びARFなどには触れず、中国が主催し、あるいはリーダーシップを発揮したもののみを取り上げ、「独自性を打ち出しやすい『舞台』」として、中国主導の組織や構想を強調していると見ている10。最近のAIIB(アジア・インフラ投資銀行)を巡る話題もこの文脈上にあると言える。

   一方、アジア太平洋地域における安全保障分野の多国間会議体に目を転じてみると、シャングリ・ダイアログと呼ばれるアジア安全保障会議が有名である。英国のシンクタンクである国際戦略研究所が主催するこの会議は、関係国の防衛相や参謀総長等各国国防当局の指導者が一堂に会する場となっている。しかし、近年のシャングリラ・ダイアログにおける議論は、中国にとって望ましい方向に進んでいるとは言えず、居心地の良いコミュニティーとは言い難い。そのためか、これに類似した年次の多国間会議として、近年、人民解放軍のシンクタンクである軍事科学院が香山フォーラム11を主催するようになった。

   再び海軍コミュニティーに話を戻してみる。米海軍が主催する世界規模のISSのみならず、地域枠組みであるWPNSもその由来はISSで発案されたものである。2014年に中国が主催したWPNSにおいてCUESが合意に至ったが、このCUESも過去のWPNSにおいて東南アジア諸国や豪州が主体的に議論を進めてきたものである12。ISSもWPNSも中国海軍が強力なリーダーシップを発揮するのはなかなか手強い成熟した会議体である。

   そのほか、この地域にはASEAN及び関係国防衛相による会議体としてADMM Plus(拡大ASEAN国防相会議)の枠組みの下に、海上安全保障をテーマとしたワーキンググループ13があり、各国海軍のコミュニティーとして活動している。しかし、この枠組みはARFと同様にASEANを主アクターとして、域外国がそれに協力する枠組みであり、中国を含む域外国が主導的役割を果たすことは望まれていない。

   中国海軍が海軍コミュニティーでリーダーシップを発揮するためには、ISSやWPNSなどの既存の枠組みと秩序を尊重した、より積極的な貢献を果たすことが必要であろう。もしそれをのぞまないのであれば、海軍版AIIBや海軍版香山フォーラムのような新たな枠組みを中国海軍は作らざるを得ないのかもしれない。

まとめに代えて

   言うまでもないことではあるが、アデン湾における海賊対処活動への艦艇派遣をはじめとして、中国海軍が世界や地域の海軍コミュニティーにおいて積極的な貢献を果たすことは、大いに歓迎されるものである。また、コミュニティーを通じてトップリーダー同士の交流が繰り返されることは、相互信頼の第一歩でもある。
   2014年、中国海軍はWPNSを成功させ、呉勝利海軍司令員は直後のISSにも出席した。日中の二国間関係には様々な問題があるものの、海軍コミュニティーの中では、河野海上幕僚長(現統合幕僚長)と呉勝利海軍司令員は、わずか1年の間でWPNSとISSの2回にわたり直接意見を交わし、時間を共有した。
   呉勝利海軍上将率いる中国海軍が海軍コミュニティーの共通認識を共有できる仲間をめざしていると信じたい。

(幹部学校付 山本 勝也)

--------------------------------------------------------------

1新华网「人民海军60周年」(http://www.xinhuanet.com/mil/hj60n/index.htm)、2015年4月20日アクセス。
2ISS:米海軍大学HP(http://usnwc.edu/iss)、2015年4月20日アクセス。
3WPNS(ウェポンズ):2012年にWPNSを主催したタイ王国海軍HPにWPNS憲章が掲載されている(http://www.navy.mil.th/wpns2013/)、2015年4月20日アクセス。
4海上自衛隊はこれまで第5回(1996年)及び第6回(2002年)のWPNSを主催した。また、第8回WPNSに併せて海上自衛隊創設60周年記念国際観艦式及び多国間捜索救難訓練を主催した。
5インド洋地域にも同様な地域枠組みIONS(Indian Ocean Naval Symposium)があり、海上自衛隊はオブザーバーとして参加している(ニュース「幹部学校長 第4回インド洋海軍シンポジウムに参加」)
621st ISS Report of Proceedings
(https://usnwc.edu/getattachment/9dcc25ee-b37a-4c0e-99fc-1d840f598ffc/ISS_XXI_Web_aspx)、2015年4月21日アクセス。
7 JMSDF-Ship Rider Program:練習艦隊が実施する遠洋練習航海の航程の一部に、関係国海軍の若手士官や士官候補生を招待するもの。
8呉勝利海軍司令員は、WPNS後の2008年11月に、中韓二国間交流として韓国を訪問している。中国外交部HP「中国人民解放军海军司令员吴胜利上将率团访韩
(http://www.fmprc.gov.cn/mfa_chn/wjdt_611265/zwbd_611281/t522075.shtml),
2015年4月21日アクセス。
9松田康博「習近平政権の外交政策-大国外交・周辺外交・地域構想の成果と矛盾」『国際問題』No.640,42頁。
10松田康博「習近平政権の外交政策」39頁。
11中国国防部HP「国防部:香山论坛升级高端安全和防务论坛 (香山フォーラムは高尚な防衛安全保障フォーラムにレベルアップ)」
http://www.81.cn/jwgz/2014-08/28/content_6116067.htm)2015年4月21日アクセス。
12これまでのWPNSにおけるCUESに関する議論の一部は、公開された過去の議事録から窺い知ることができる。タイ海軍HP
(http://www.navy.mi.th/wpns2013/pdf/WPNS2013WORKSHOPMINUTES.pdf)2015年4月21日アクセス。
13 ADMM Plusにおける枠組み(The ADMM Plus Experts’ Working Group (EWG) on Maritime Security)。ADMM Plus加盟国(ASEAN加盟国及び、日、米、露、豪、印、中、韓、ニュージーランド)の国防当局による海上安全保障に焦点を当てたワーキンググループ。2011年から13年まで、マレーシア及び豪州が、2014年以降はブルネイ及びニュージーランドが共同議長を務めている。


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。