海上自衛隊幹部学校

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 戦略研究会

 防衛駐在官の見た中国(その15)
 -国家海洋局と中国海警局-


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(コラム059 2015/02/25)

   このコラムは、筆者が在中国日本国大使館防衛駐在官として在勤中に得た経験をもとに中国に関する筆者個人の雑感をご紹介するものです。読者の皆様が、我が国の防衛・安全保障を考える上で、幾ばくかの参考となれば幸いです。
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再編から1年以上経過した国家海洋局

   平成25年(2013年)7月に「国家海洋局(State Oceanic Administration of PRC)」1が改編されるとともに、海洋法執行機関の機能が再編2されてから既に1年半が経過した。本年1月には2代目となる国家海洋局局長の就任も報じられた。

   同年6月に国務院より公表された「国家海洋局主要職責内設機構と人員編制規定(以下、「規定」)3 」 では、主要な海洋政策を所掌する国家海洋局は、国土資源部4 の管理下に置かれた次官級5 をトップとする組織である。「五つの龍」6 と呼ばれた海洋法執行機関のうち、海監、海警、漁政及び海関の海上法執行活動を再編したことにより、海洋の総合管理及び海上における権益擁護・法執行の機能を強化したとされている。

   大雑把に言えば、新たなこの組織は我が国の海上保安庁に例えられ、グローバルコモンズである海洋において日常的に外国の船舶や市民と接する中国の公権力である。しかしながら、再編前後から中国国内外で議論されてきた国家海洋局の不透明性は、現在に至ってもなお明らかにされていない。

国家海洋局のリーダーシップの捻じれ

   不透明性の第一は、国家海洋局のリーダーシップの捻じれである。  前述の「規定」では、国家海洋局のトップである局長は次官級とされている。その一方で、局長の部下であるはずの副局長7のうちの一人は、次官級である局長よりも職位の高い閣僚級8 が就いている。

   中国では組織の長の職位が当該組織の格付けを意味している。人民解放軍で言えば、北京軍区と海軍と国防大学は、それぞれ大軍区級(上将又は中将)をトップとする組織であることから格付けとしては対等である。副大軍区級(中将又は少将)をトップとする北京軍区空軍や、東海艦隊とは自ら格付けが異なる。国家海洋局のリーダーシップの捻じれを中国海軍に例えると、東海艦隊司令員(中将)の下に海軍司令員を兼ねる東海艦隊副司令員(上将)が存在するようなものである。

   新編後1年半以上が経過し、国家海洋局局長が交代した今日においてもその捻じれに変化は見られない。したがって、それは再編過渡期にみられる一時的な現象ではないようである。
   国家行政組織におけるこのようなリーダーシップの捻じれは、これまで我々が理解してきた一般的な法治国家の組織や制度では考えられない。組織を代表する真のリーダーは誰なのか。国際社会に無用な懸念を生む一因となっていると言える。

国家海洋局と中国海警局の二重構造

   不透明性の第二は、二つの名を持つ一つの組織というところにある。  再編された国家海洋局は、「中国海警局(China Coast Guard)」の名称により所掌する海上における法執行活動を行っている9

   国家海洋局には、様々な部門や外局10 があるが、法執行活動にかかわる部門は中国海警局の各部門と表裏一体となっている。二つの局のリーダーリーダーシップは変則的なクロス構造ではあるが、前述のとおり双方の局のリーダーシップを兼ねている。すなわち、国家海洋局局長は中国海警局政治委員11 であり、中国海警局局長は国家海洋局副局長である。
   国家海洋局において法執行活動の業務を所掌する国家海洋局海警司12 は中国海警局における海警司令部であり、人事や部隊建設及び要員養成等を司る国家海洋局人事司は海警政治部である。また、予算や装備調達及び後方支援等を司る国家海洋局財務装備司は海警後勤装備部である。

   一つの組織に二つの異なる名称を付してはいるが、「規定」その他、公開されている情報からその使い分けを理解することは難しい。海監、海警、漁政及び海関の海上法執行部隊の再編・統合の進捗状況についても多くの問題13 を抱えている様子である。この点もまた国際社会の無用な懸念を生む土壌の一つとなっている。

中国海警局のリーダーシップ(廂を貸して母屋を取られる)

   以下、中国海警局の視点に立って議論を進めたい。
   ここで再度、中国海警局の指導機構について確認してみると、その指導機構は局長と政治委員14 による2頭制の下に、2名の副局長と1名の副政治委員、さらには海警司令部参謀長15 、海警政治部主任、海警後勤装備部部長と称された編制となっている。局長を司令員と言い換えてみると、中国海警局の指導機構は武装警察の指導機構16 をほぼそのまま踏襲した形であることが理解できる。

   中国国内のインターネット記事を検索してみると、国家海洋局副局長を兼ねる中国海警局局長は、「副総警監」17 の階級を有するいわゆる公安(警察官)である。また、2名の副局長のうち1名は海監総隊総隊長であるが、残り1名は武警少将が配置されている。
   また、海警司令部18 参謀長、海警後勤装備部部長及び海警政治部のナンバー2である政治部副主任等、枢要な配置に多くの武警将軍が充てられている。

   このように見てみると、中国海警局において従前の海監(国家海洋局)出身の指導者は政治委員(国家海洋局局長兼任)と海警政治部主任(国家海洋局人事司司長)のほかに見つけだすことは難しい。漁政や海関出身者の名を探し出すのはさらに困難である。従前の「五つの龍」のうち、海警や海関は比較的中・小型の船艇により大陸沿岸の近海を、海監や漁政は比較的大型の船艇により排他的経済水域等の外洋を主たる活動の場としてきた。それゆえ、新たな中国海警局を運用するためには、多くの漁政や海関出身者も参画していると想像できるが、これらは中国海警局が公安・武警に主導された組織であるとの証左と言えるであろう。

国家海洋局と中国海警局の重複する指導者層(イメージ)
(各種資料より筆者作成)

中国海警(China Coast Guard)も正規軍?

   再編前の海警は公安部辺境防衛部隊(武装警察辺防部隊)の一部分として、辺防海警部隊(辺防海警)と呼ばれていた。「中国人民武装警察法」 19 によれば、武装警察部隊(武警)は人民解放軍現役部隊、予備役部隊及び民兵20 と共に「国家の武装力量(armed forces)を構成する」とされる中国軍の一部である。平素の武警は警察活動等に従事している一方、上記法第2条には「防衛作戦」も任務の一つとして明記され、第16条では中央軍事委員会等の規定により「防衛作戦」を実施することも明記されている。

   武警と人民解放軍との相違は、武警が国務院(公安部)と中央軍事委員会の2重指導を受けるところにある。それは武装警察のリーダーシップは武警司令員(武装警察上将)と武警第1政治委員である公安部長であることにより具現されている。武警部隊の各組織も同様であり、海警を含む辺防部隊の場合は公安部辺防管理局 21の指導下におかれていた。再編後の中国海警局の主たるリーダーシップも公安と武警将軍が多くを占めており、この枠組みは維持されていると考えることが妥当である。

   国務院によって国家海洋局や海上法執行機関の再編が発表された直後に、同じく国務院が発表した「中国武装力量の多様化運用」白書 22においても、辺防部隊は海上における重要な「武装法執行力量」であると強調されている。辺防海警の位置づけは米国沿岸警備隊 23を範としているのかもしれない。
   「中国軍網」 24や「武警網」 25等の官制メディアのHPを検索してみると、新たな中国海警も従前どおり武警の構成要素であり、引き続き中国の「武装力量を構成」しているものと見えても不思議ではない。中国海警が武警の一部であるとすれば、彼らの法執行活動が、ある時機、何かを契機に軍事活動(防衛作戦)に変更しうることを我々は理解しておく必要があろう。

   再編以降、尖閣諸島周辺海域に接近する中国公船は、かつての海監や漁政の船名を中国海警に改め、船体を中国海警仕様に塗装しているとのことである。中国海警への再編によって、「中国海警」の塗装と名称で活動する海監や漁政、海関の船舶も武警(中国軍)の一部になったのか否か。あやふやな状況は無用な懸念や摩擦を生む火種となりかねない。

中国海警のリーダーシップ、シーマンシップ

   「規定」によれば、国家海洋局海警司すなわち中国海警局海警司令部は、新たな中国海警の部隊を統一的に指揮して海上における法執行活動の具体的業務を展開することとされている。
   中国海警局が、辺防海警のみならず海監総隊、漁政総隊、海関緝私警察(税関の法執行部隊)の指揮権、人事権及び予算・装備調達の権限等を掌握しているのであるとすれば、中国海警のリーダーシップには、従前の辺防海警におけるそれを上回る識見と統率力、すなわち、陸上とは異なる自然環境(外洋における慣海性)や国際社会に直結した社会環境(国際性)にある海洋における活動を熟知したリーダーシップが期待されているであろうことは想像に難くない。

   インターネット等で検索・確認できる範囲では、中国海警の指導層を占める武警少将たちの略歴について、彼らの海洋における勤務経歴は判然としない。司令部参謀長や政治部副主任は、辺防海警を指揮下におく沿海部の辺防総隊総隊長を経験した形跡が窺える。一方、副局長や後勤装備部部長はその経歴のほぼ全てを消防部隊 26で過ごしている。
   中国海警局のリーダーシップには、前述の識見や統率力以上に重視される何かがあるのかもしれない。活動の場である海洋を同じくする我々としては実に興味深い。

おわりに

   筆者が北京で勤務していた頃、我々と海監等の中国海事関係者との交流 27は比較的フランクであったように思う。その後、2013年7月の再編と同時に、国家海洋局の庁舎正面には、「国家海洋局」の看板と共に「中国海警局」の看板が掲げられた。これまで国土資源部の下部組織として比較的透明性の高かった国家海洋局そのものも、中国海警局の名の下に公安や武警の組織が同居した結果、中国の一般市民にとっても敷居が高くなり、従前の透明性が失われつつあるようである。

   中国海警局が、我が国の海上保安庁や米国沿岸警備隊と同様にグローバルコモンズである海洋を舞台に活動する公権力であるならば、もう少し国外のシーマンたちにとっても分かりやすい組織となることを期待したい。
   昨年9月につづき本年1月22日に第3回日中高級事務レベル海洋協議 28が開催され、海上保安庁と中国海警局との対話の窓口を設置すること、及び協力の在り方についてできるだけ早く議論していくことで一致した。この合意は海洋を舞台として生きている日中双方のシーマンにとって、幸先良い航路を照らす灯光として歓迎されるものであろう。

(幹部学校防衛戦略教育研究部 山本 勝也) 

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1 国家海洋局:http://www.soa.gov.cn/。  ≪以下、関係インターネットアドレスを参考として掲載しているが、アクセスについては読者の責任の範疇で対応されることを希望する。≫
2国家海洋局の再編の概要については、岡村志嘉子「中国の『海洋強国化』と海洋関係法制-国家海洋局の機能強化を中心に-」『外国の立法』No.259などが詳しい。
3中国中央人民政府HP(http://www.gov.cn/zwgk/2013-07/09/content_2433032.htm)、2015年2月17日アクセス。
4国土資源部:国務院に属し日本政府における省に相当する機関。資源行政を所掌する機関であり、外局として国家海洋局のほかに国家測絵地理信息局(測量地理情報局)を有する。
5次官級:「省部級副職」と呼ばれている。中国最大の地方行政単位である「省」の首長(知事)及び日本の中央官庁「省」に相当する「部」の首長(閣僚)のポストに次ぐ職位であり、それらの副職(副省長(副知事)、副部長(次官))等のポストを示す。
   「中国国家公務員法」第16条(http://www.gov.cn/flfg/2005-06/21/content_8249.htm)、2015年2月17日アクセス。
65龍:中国における5つの海上法執行機関の通称。
   海警(China Coast Guard):公安・武警辺防海警部隊。  
   海監(State Oceanographic Administration):海監総隊。国土資源部国家海洋局に所属しEEZにおける海洋権益の保護・法執行、環境保全・科学調査に従事。  
   海巡(Maritime Safety Administration):交通運輸部海事局。海事情報提供、海洋汚染除去、船舶検査・捜索救難に従事。  
   漁政(Fisheries Law Enforcement):漁政総隊。農業部漁政局に所属し、漁業取締に従事。  
   海関(General Administration of Customs):海関総隊緝私警察。国務院海関総署(税関に相当)に所属し、水際における関税管理・密輸防止等に従事。法執行活動については公安部の指導下にある。  省以下の地方レベルでは以前から「海監」と「漁政」を統合した機関「(地方名)海洋与漁業局」や部隊「海監漁政(地方)支隊」として活動していたことから、他に比して両者の親和性は高いものと推察できる。
7国家海洋局副局長:「規定」により、4名の副局長を置き、うち1名は中国海警局局長を兼ねると定めている。
8閣僚級:「省部級正職」と呼ばれている。
9「国務院機構改革和職能転変法案」中国中央人民政府HP(http://www.gov.cn/2013h/content_2354443.htm)、2015年2月17日アクセス。  国家海洋局には、法執行活動以外を所掌する部門もある。
10国家海洋局の外局には、中国極地研究センターや国家深海基地管理センターなど多数存在する。
11国家海洋局局長は1月に交代したが、中国海警局政治委員は2月17日に国務院により任命された。「規定」では海洋局局長は海警局政治委員を兼ねるとされているものの、自動的に兼務されるものではなく、それぞれ個別に任命される人事案件であることが窺える。
12○○司:日本の省庁における局・部に相当。
13再編後の中国の海上保安機関に関する懸念や、当該機関の統合の進捗状況については、防衛研究所「中国安全保障レポート2013」、竹田純一「新発足 中国海警局とは何か-“整合”の進展度と今後の行方」『島嶼研究ジャーナル』第3巻2号、佐藤孝一「南シナ海をめぐる国際関係-中国の海洋進出とASEAN諸国」『東亜』2014年7月号などが詳しい。
14政治委員(政委):読者の中には政委と党書記とを混同している方もいるようである。両者は別個の存在である。
   党書記とは、当該組織に所属する共産党員で構成された、いわゆる党支部の指導者(中国海警局の場合、「中国海警局共産党委員会党書記」)、「共産党の役職」である。一方、政治委員(そのほか政治部主任等)は、当該組織を構成する行政機構の指導者であり、「国家行政組織の役職」である。
   中国の場合は、共産党が国家を指導するシステムであり、政府、軍、学校、企業等様々な組織体は、組織内の共産党員により構成された党組織が当該組織体を指導している。そのため、当該組織の指導者と党組織の指導者が同一人物であることが多い。
   国家行政組織である国家海洋局を、共産党の視点から指導する機関として国家海洋局党組織があり、そのトップである国家海洋局党委員会書記は国家海洋局局長が兼務している。
15参謀長:人民解放軍の各軍種・大軍区以下の指導機構における「司令員」とは、当該指導機構を構成する司令部、政治部、後勤部、装備部等の全ての組織を束ねるトップであり、「司令部」のトップは「参謀長」であり、武警も同様である。
16武装警察の指導機構:司令部、政治部及び後勤部の3部制である。
17副総警監:中国における警察の階級の一つ。総警監(公安部長、国家安全部長等)の次ぐ第2位。一般的には「省部級副職(次官級)」に位置付けられている。中国公安部HP「中国人民警察警銜条例」(http://www.mps.gov.cn/n16/n1282/n3493/n3763/n4138/427553.html)、2015年2月19日アクセス。
18海警司令部参謀長:海警司令部は「海警指揮センター」の別称も有しており、その場合、参謀長は「海警指揮センター主任」と呼ばれる。
19中国中央人民政府HP(http://www.gov.cn/flfg/2009-08/27/content_1403324.htm)、2015年2月17日アクセス。
20コラム056「海上民兵と中国の漁民」参照
21公安部辺防管理局:海上保安庁HPによれば、同局局長(武警少将)は北太平洋地域6か国(日、米、露、加、中、韓)の海上保安機関の長により毎年実施している「北太平洋海上保安フォーラム」の中国代表であった。中国海警局新編後は海警局局長(又は副局長)が参加している。
22「中国武装力量的多様化運用」白書、中国中央人民政府HP
   http://www.gov.cn/jrzg/2013-04/16/content_2379013.htm)、2015年2月17日アクセス。
23「中国武装力量的多様化運用」白書、中国中央人民政府HP(http://www.gov.cn/jrzg/2013-04/16/content_2379013.htm)、2015年2月17日アクセス。 米国沿岸警備隊(US Coast Guard):「沿岸警備隊は常に合衆国軍の一部門を成す(合衆国法典第14編
   (http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/USCODE-2010-title14/html/USCODE-2010-title14-partI-chap1-sec1.html)」とある。
   米国沿岸警備隊については、ローラ・ミカ「アメリカ沿岸警備隊の任務と根拠法」『外国の立法』No.259などが詳しい。
24中国軍網:総政治部直属の機関紙「解放軍報」HP(http://www.81.cn)
25武警網:「解放軍報」武警支社が主宰するHP(http://wj.81.cn)
26消防部隊:武装警察には、国家重要施設や要人等の防護及び辺境防衛のための部隊のほかに、水力発電所等を建設する「水電部隊」、道路や港湾を建設する「交通部隊」、地質調査・鉱山開発を担う「黄金部隊」、森林や草原の保護・開発を担う「森林部隊」のほか、我が国の総務省消防庁及び自治体消防に相当する「消防部隊」がある。
27ニュース、お知らせ「中国海監東海総隊・調研員 郁志栄氏 来校」も一例である。
28外務省HP「日中高級事務レベル海洋協議第3回全体会議及びワーキンググループ会議の開催」(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000047.html)、2015年2月17日アクセス。


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。