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 戦略研究グループ

 わが国の水陸両用作戦ビジョン(その3)


(コラム043 2013/05/24)

 連載の最終回として、今回はわが国の水陸両用作戦について、必要な能力とその限界、そして結論について述べます。


5 水陸両用作戦の方向性

 これまで戦略、作戦という2つの観点から検討を進めてきた。本項ではこの検討結果を総合し、まずわが国の水陸両用作戦の定義づけと役割を確定し、その上で水陸両用作戦の任務、能力とその能力限界を導出する。

 まず第3、4項で導出した結論を下に再掲する。

A. 領土紛争が発生する蓋然性は否定できない以上、水陸両用作戦能力は有事において欠かせない機能である。

B. 一方でそれは戦略守勢というわが国の基本方針に基づき、島嶼という限られた領土の防衛を目的とする。たとえるならば「槍の穂先(Spear Head)」であって、大規模な地上兵力の運用を想定する必要はない。

C. ただし、わが国がいたずらに米国の来援を乞うたとしても、それは期待できないばかりか同盟国の信認を失うことにもつながるのであって、わが国の保有する水陸両用作戦能力は「わが国自身の取組による」、すなわち同盟国の来援ありきではなく、自己完結したものでなくてはならない。

D. 島嶼国家であるわが国に対し、大規模な地上戦力を投射可能な国家は(同盟国である米国を除き)存在しない。また、わが国が所要のA2/AD能力を保有するかぎり、相手国はわが国領土周辺に兵力を自由に展開し、ロジスティクスを確保することはできない。よってわが国領土である島嶼に上陸可能な地上戦力の規模は限定的となり、これに対処する地上戦力もまた大規模である必要性はない。

E. 制空・制海は水陸両用作戦遂行の前提となる一方で、相手国のA2/AD環境下でこれらを長期にわたって維持することは現実的に不可能である。したがってわが国が実施可能な水陸両用作戦とは、一時的かつエリア限定的に獲得した航空/海上優勢のもとで迅速に実施できるか、もしくは隠密裏に実施可能なものに限られる。必然的にわが国が運用する水陸両用作戦兵力は、機動性に優れ、小規模なものでなければ実効性を持たない。

F. 水陸両用作戦は陸海空さらには宇宙や特殊部隊作戦など、あらゆる作戦領域を含む統合作戦であり、常設統合司令部、あるいはこれに準じる組織が計画、訓練、実施にあたるべきである。

G. 平時からグレーゾーンを経て有事に至る、あらゆる事態においてシームレスに対応することが求められる。このため、水陸両用作戦の検討にあたっては、法執行機関との連携を考慮する必要がある。


(1)定義・役割

 上記7項目のうち、定義づけに関連する項目はA、B、C、F、Gである。これらを総合し、平時の人道支援/災害救援(Humanitarian Assitance / Disaster Relief: HA/DR)からグレーゾーンでの法執行機関の支援、そして有事までを含めたわが国における水陸両用作戦とは何か、という問いに対する端的な回答、すなわち水陸両用作戦の定義を示すとすれば下記のとおりとなる。すなわち、

 「海から陸に対して行う統合作戦」

である。

 そして水陸両用作戦の役割としては、

 「わが国領土、特に島嶼を防衛するとともに、その能力をもって不当な侵略を抑止する」、

 「不測の事態において国民を保護する」

 という2点が挙げられるだろう。

 ちなみに米統合軍ドクトリンJP3-02において、米軍は水陸両用作戦の「目標」として図2に示す8項目を示している1。これらは「戦略の垂直構造」における戦略・戦域・作戦の各領域にまたがる事項をランダムに包含するため、やや混乱を招くおそれがある。しかしこれを見れば、戦略攻勢を前提とする米軍が水陸両用作戦によって獲得すべき目標は、戦略守勢にあるわが国といかに異なるのか、という点を容易に理解することができる。

 なお、図2末尾に示す「人道支援/民間支援」という目標は、近年米軍で追加付与されたものである。これは恐らく2004年12月に発生したスマトラ沖地震の救援を通じ、水陸両用作戦能力のHA/DRに対する有効性が実証されたことによると考えられる。すなわち「人道支援/民間支援」は水陸両用作戦の目標として従来存在したものではなく、あくまでその有用性が確認されたために追加したものであるため、能力を検討する際はその取り扱いに留意する必要がある。

    (図 2)

(著者作成)    

                        米軍が示す水陸両用作戦の目標

・ 主要作戦(地上侵攻)の初期段階としての橋頭堡構築
・ エリア拒否のための支援作戦
・ 陽動作戦
・ 奇襲作戦
・ 軍事的関与
・ 安全保障協力
・ 抑 止
・ 人道支援/民間支援


(2)任 務

 JP3-02によれば、水陸両用作戦は次の5つのカテゴリーに分類される2

 a. 水陸両用強襲(Amphibious Assault)
   敵性の海岸部への上陸部隊の展開

 b. 水陸両用襲撃(Amphibious Raids)
   撤退を前提とした一過性の攻撃あるいは目標の一時占拠

 c. 水陸両用陽動(Amphibious Demonstration)
   欺瞞行動

 d. 水陸両用撤退(Amphibious Withdrawal)
   上陸部隊の船舶、航空機による海上への撤収

 e. 水陸両用支援(Amphibious Support)
   紛争防止、危機沈静化に寄与する作戦


 わが国が実施する水陸両用作戦は、前記Bのとおり戦略守勢のもとで領土を防衛するものである。米軍と異なり、大規模上陸進攻作戦の劈頭における橋頭堡構築、というミッションは存在しない。また、前記D、Eに示す制約事項がある。すなわち時間的・空間的に限定的な海上・航空優勢の下、占拠された島嶼を迅速に奪回することを第一の任務とする。

 なお、領土防衛を目的とする以上、脅威下での撤退を前提とした一過性の攻撃を実施する「水陸両用襲撃」を実施することは考えられない。部隊の撤収は紛争終結後となるのであって、それは水陸両用作戦の範疇ではなく、平時における海上輸送である。

 さらに、「水陸両用陽動」は概念として存在することに異論はないが、現実にはわが国が実施する水陸両用作戦は、せいぜい一周数キロ~数十キロメートル程度の小さな島嶼における作戦が主体となるため、陽動を実施するだけの空間が存在しない可能性が高い3

 また、米軍は「水陸両用支援」を紛争防止、危機沈静化に寄与するため、としているが、わが国が海外で地上部隊を展開して安定化作戦を実施することは考えづらく、主としてHA/DRを念頭に置くものとなる。

 これらを総合すると、わが国における水陸両用作戦は、次の4項目を任務とすることになると考えられる。

 a. 水陸両用強襲(Amphibious Assault)
   占拠された領土の奪回、あるいは高脅威下での地上兵力の展開

 b. 水陸両用撤退(Amphibious Withdrawal)
   脅威の深刻化が予測される場合における陸自部隊・法執行機関等の撤収

 c. 水陸両用支援(Amphibious Support)
   HA/DR等 

 d. 水陸両用陽動(Amphibious Demonstration)


(3)能力とその限界

 これまで述べた役割を全うするべく与えられた任務を遂行するにあたり、これに必要な能力ならびにその限界について論じる。なお、はじめに断っておくが、以下に列挙する部隊あるいはビークルの厳密な所要数については綿密なシミュレーションあるいはオペレーションズリサーチによって算定されるべきものであって、本稿で正確に論証できるものではない。

 まず、前記B、C、D、Eからは、わが国の領土である島嶼防衛に必要な範囲で、かつA2/AD環境下で一時的に確保した海上・航空優勢のもと、迅速性と機動性をもって作戦を遂行できるか、あるいは相手の警戒監視網を突破し、隠密裏に作戦を実施できる、自己完結した組織と装備体系でなくてはならないことが明らかとなる。つまり限定的な航空・海上優勢を獲得した上で、迅速性を考慮すれば上陸手段は空中機動(ヘリボーン)が、隠密性を重視すれば潜水艦等からの潜搬入といった特殊作戦に類する形態が主体となるだろう。

 エアクッション艇(LCAC)、あるいは水陸両用車(AAV)といったビークルによる上陸作戦能力は、経空脅威等が低い場合、奪回作戦終了後の補給あるいはHA/DRに際して有効であるが、紛争の烈度が高くなるほど使用可能な局面は限られる。Eのとおり、アジア太平洋地域で実施する各種作戦はA2/AD環境下にあることを前提とすべきである。特にA2/AD環境下で最も烈度の高い水陸両用強襲を実施する場合、これらは長射程の対艦ミサイルや攻撃機による精密誘導爆撃、あるいは潜水艦の襲撃に対して回避能力を持たない上、あくまで一時的にすぎない航空・海上優勢のもと、短時間で作戦行動を完結させることが困難であるため、作戦上のオプションという位置づけになる。同様に掃海兵力は補給基地の港湾防備と航路啓開、あるいはLCACあるいはAAVと同様に経空脅威が低い場合、もしくは作戦終了後の補給等に際して必要となるが、空中機動あるいは特殊作戦主体の作戦において、作戦区域内で行動する可能性は低い。対空、対潜能力を持たない掃海部隊はA2/AD環境下で極めて脆弱であり、行動する際は、航空・海上優勢という条件が必須である。

 ちなみに米軍と同様に、HA/DRを自衛隊の実施する水陸両用作戦の任務に含めることは妥当である。しかしながら、水陸両用作戦能力の検討にあたってHA/DRを考慮することは適当ではない。これは大規模災害の発生規模、例えば南海トラフを震源地とする大地震の被害予想等を一瞥すれば明らかである。首都圏全域にわたり、数十万人の被災者を救援するような状況において、被災地域全域においてどのようなニーズがあるのか、そしてどのくらい迅速に対応するのか、といった観点に基づいて能力を検討したところで、算定される規模はおよそ現実的とは言い難いからである。蛇足ではあるが、大規模災害に際して自衛隊が有効に対処するには、そのために必要な兵力を算定するよりも、むしろ警察、消防あるいは地元自治体等との有機的な連携が重要となるだろう。

 以上の点を総合すると、下記のとおりとなる。

a. 既に保有する要素

・ 海兵旅団及び特殊作戦部隊(Special Operation Force: SOF)
 防護対象となる島嶼の規模を検討した場合、継戦能力(損耗率)等を考慮すれば最大で1個旅団程度保有することが妥当ではないか、と考えられる。
・ 輸送艦
 修理や訓練のサイクルならびに継戦能力を考慮すれば、現状の「おおすみ」型3隻から若干の増勢が必要ではないかと考えられる。
・ 輸送ヘリコプター等
 数量だけでなく、海自艦艇において陸・空自航空機の整備能力をいかに向上させるか、といった点が実効性の観点から重要となる。
・ LCACもしくはAAV
 前記のとおり、低脅威下もしくは平時の運用に限られるため、空中機動兵力と特殊作戦部隊の補完と考えるべきである。
・ 支援戦闘機
 水陸両用作戦遂行には継続的な火力支援が必須であり、増勢が必要となる可能性が高い。
・ 主要島嶼における補給、航空基地機能の強化と抗堪性向上
・ 補給港湾等の掃海兵力

b. 現在欠落している要素

・ 常設統合司令部等
 C、Fのとおり、高度な統合作戦である水陸両用作戦および水陸両用作戦支援(情報収集、火力支援、AOA内の防空、機雷掃海等)を自己完結的に遂行するためには、これらを包括的に計画、訓練、実施する常設統合司令部、あるいはこれに準じる組織が効率的に指揮することが必要である。
 加えて、状況により常設司令部は事前事後の海上輸送についても計画、実施することを求められる場合が考えられる。
・ 航空火力支援の洋上拠点機能
・ 潜水艦による隠密上陸作戦能力

c. 能力の限界


 これまで述べてきた能力とは、前提条件として提示したとおり、現状と同程度の予算規模において妥当と考えられるレベルである。これらは序論において述べた「制海(海上・航空優勢)を一時的であれ取り返す能力」ならびに「占拠されたわが国領土に地上兵力を投射して奪回する能力」を構成する。

 一方で奪回した後の状況について検討すると、「政治的解決が図られる」ケースと、「敵が再奪回を企図する」ケースが考えられるだろう。政治的にも軍事的にも前者が望ましいことは言うまでもない。しかし、後者のケースについてわが国独力で対処することとなれば、わが国は継続的な海上・航空優勢を可能とする膨大な海空作戦兵力(例えば正規空母を含む複数の空母打撃群)と、より多くの輸送艦等を含む大規模な上陸作戦能力の保有が必要となる。

 現時点でこの「再奪回」能力を保有することは、わが国の国力から見て現実的ではない。このため、敵が再奪回を企図して作戦行動を開始する場合、第3項で述べたとおり同盟国の来援に期待し、同盟国と共同で以後の作戦を進めることとなるのであり、この時点がこれまで論じてきたわが国の水陸両用作戦能力の限界である、ということとなる。


おわりに -わが国防衛のSpear Head-

 水陸両用作戦能力とは、わが国の防衛にあたって必要な、いくつかの槍(Spear)の一つである。そして上陸部隊(LF)とはさしずめ「槍先(Spear Head)」であり、水陸両用任務部隊(Amphibious Task Force: ATF)は「槍の柄(Shaft)」であろう。

 ただし、槍はそれを持つ兵士が、相手に届く位置まで前進しないかぎり効力を発揮することはない。槍が威力を発揮するか否かは「自分の槍が間合いに入るまで前進できること」、すなわち「局地的な海空優勢を確保し、ATFが水陸両用目標区域(AOA)に進出できること」、にかかっている。そして現在の情勢を見れば、間合いに入り、その位置を維持できる時間はとても短い。

 かつてベルギーは1830年にオランダから独立した後、欧州列強の緩衝国家として中立の立場をとっていた。第一次世界大戦開戦前夜まで列強はバランス・オブ・パワーの観点からベルギーの中立を保障し、またベルギーは列強の中立保障を信頼していた。このためベルギーは中立を立証するべく、列強のうち特定の一国と協調姿勢をとることも、逆に特定の一国を対象に防衛計画を進めることもなく、そもそも1910年まで参謀本部すら存在しなかった4。このような状況で、1914年にドイツがシュリーフェンプランに基づきフランス侵攻を開始する際、(フランス北部への回廊である)ベルギーに最後通牒を発した。その時ベルギーは強大なドイツに対し、戦備も整わないまま絶望的な戦闘を開始するか、あるいは国土と財産の全てを譲り渡すほかに選択肢はなかった。

 幸いにしてわが国は四海に囲まれ、陸続きの国境は存在しない。島嶼国家は陸伝いの侵入を許し、蹂躙されることはなく、限定戦争を可能とする地政学的条件を享受する。しかしそれは領土を奪還する際、逆に自らが海を越えてパワー・プロジェクションを実施しなければならない、ということをも意味する。冒頭で述べたとおり、戦略守勢という観点から、わが国は永らく水陸両用作戦能力の必要性を見落としてきた。しかしこの能力は領土の維持と国民の保護にあたって不可欠の要素である。戦略守勢とは作戦、戦術レベルに至るまで守勢に立たなければならない、ということではない。かつて鳩山一郎首相が「座して自滅を待つべしというのが、憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられない5。」と述べたとおり、戦略守勢にあっても時として作戦面で攻勢に出る覚悟がなければ国家の独立は保てず、また同盟国の信認を得ることもできないであろう。水陸両用作戦能力とは、わが国が国家防衛にあたって自らの手で守るという気概を示し、不当な侵略を抑止するとともに、有事に際して即座に使えるよう、常日頃から磨いておくべき槍先の一つである。翻って有事以外の事態に目を向けた時、日ごろ磨かれている槍だけが平時のHA/DR、あるいはグレーゾーンの紛争にも効力を発揮するのである。

(終わり)


(幹部学校防衛戦略教育研究部 後瀉 桂太郎) 


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1 Joint Publication 3-02, pp.xi.
2 Ibid, pp.xii.
3 フォークランド紛争において、英軍はアルゼンチン軍の根拠地であった東フォークランド島東岸のポート・スタンリーにおいて水上艦艇による陽動作戦として対地砲撃を実施する傍らで、同島西岸のサン・カルロスに奇襲上陸を敢行した。ポート・スタンリーとサン・カルロスの間は80キロメートル以上あり、陽動作戦は奇襲上陸成功に一定程度寄与した、と考えられる。堀元美『海戦フォークランド』、原書房、1983年、155頁参照。
4 バーバラ・W・タックマン『八月の砲声』山室まりや訳、筑摩書房、2002年、121、128頁。
5 衆議院内閣委員会における鳩山一郎首相答弁(船田中防衛庁長官代読)、『第24回国会衆議院内閣委員会第15号』(1956年2月29日)、1頁。


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。