海上自衛隊幹部学校

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 戦略研究グループ

 米国国防費削減の現状とその影響
      ~エアシーバトルとわが国の役割分担~


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(コラム013 2011/11/11)

 財政事情の悪化に伴い、米国では今後10年単位で大幅な支出削減と増税が実施される。現在、議会では超党派の特別委員会が設置されており、支出削減の対象と、その規模について今月23日までに結論を出すこととされている。国防予算もその対象であり、かつ今回の削減の主たる対象の一つとなる模様である。

 万一、特別委員会が決裂した場合、今後10年間で2兆2000億ドルの支出削減が自動決定する。下院軍事委員会の試算によれば、そのうち40%強、金額にして1兆ドル強が国防費からの削減となる。2013会計年度は約1000億ドルの削減となり、これは現予算案の6000億ドル弱と比較すると約18%のカット、ということになる。1

 米国では財政赤字が累積する一方で、今世紀初頭以来、国防予算は「テロとの戦い」の名の下に、比較的優遇されてきたと言える。しかし、今回の削減規模は社会保障費等「mandatory(必須)」と言われる項目にまで切り込まれるため、国防予算も当然、削減対象となる。むしろ、現在の米国世論と議会の主たる関心事項は、雇用と景気回復といった国内事情であって、安全保障ではない。特別委員会が決裂する見込みは必ずしも高くはない、との見積もりも聞こえてくるが、逆に特別委員会が削減案を取りまとめた場合、削減額自体は自動削減額以上である必要があることから、決裂時の必須予算・裁量予算を考慮しない自動削減の場合よりも国防費の削減額が大きくなる、という可能性も考えられる。


 このような状況の中で、先の下院軍事委員会アセスメントでは、具体的な装備への影響についても試算しており、その一例は表1のとおりである。

  2000年 2011年 現予算案に
基づく予測
特別委員会
決裂時
陸軍高機動大隊
(単位:個)
172 98 78 60~70
海軍艦艇
(単位:隻)
316 288 263 238
空軍戦闘機
(単位:機)
3602 1990 1739 1512
戦略爆撃機
(単位:機)
153 135 118 101

表1:下院軍事委員会アセスメントによる具体的な装備への影響


 海軍艦艇を例に取れば、空母は現在の11隻から9隻程度、強襲揚陸艦は29隻から17隻程度になる、との予測がなされている。また、弾道ミサイル防衛をはじめ、様々な分野で装備の更新と研究開発が遅延するとも予測している。

 表1は国防費削減が正面戦力を直撃するものとして試算しているものであり、訓練費用等の間接経費をどれくらい削減できるか、という検討はなされていない。本アセスメントにも「最悪のケースとして」という但し書きが付されている。また、このアセスメントに対し、米シンクタンク「スティムソンセンター」の研究チームは「根拠の薄弱な分析によって国防予算削減の悪影響を主張している」といったコメントを出している。

 しかしながら米軍内において、今回の削減への懸念は大変深刻である。去る11月2日の下院軍事委員会では陸海空軍と海兵隊のトップがそろって「戦略なき削減」への危険性について証言し、例えば海兵隊のアモス総司令官は「今後1正面作戦すら遂行できなくなる」と警鐘を鳴らした。

 一方でクリントン国務長官は10月11日、米誌「Foreign Policy」に寄稿し「対テロのため、2001年以降の10年間中東に投資した一方、今後外交の重心は東に移動し、アジアが重要になる」との見方を示した。パネッタ国防長官は10月23日、ASEANプラス国防大臣会議(ADMM+)に出席し、その後の記者会見で「アジアにおいて米国のプレゼンスが低下しないと確約する」と発言している。

 これらの発言を見る限り、当面の焦点はヨーロッパ及びイラク、アフガニスタンなど中東からかなりの兵力を引き上げ、そこで浮いたコストで削減分を吸収できるかどうか、ということになるだろう。そして、当面アジア太平洋正面は兵力を維持され、削減の影響を全く受けないのか、と言えばそうではなさそうである。パネッタ国防長官は10月11日、ワシントンの講演で、「同盟国は自国防衛のために、今以上の負担を担うことになる」といった旨の発言もしている。これまでの発言を総括すると、どうやら「削減分は同盟国とのアレンジによっても埋め合わせる」と理解するべきであろう。つまり、わが国をはじめ米国の同盟国、友好国は「平和を享受するために、応分の負担をすべき」ということになる。これはかつて1969年に出されたニクソン・ドクトリンを彷彿とさせる。ニクソン・ドクトリンの要点は次の2点である。
 a. 核の傘は提供する。
 b. 同盟/友好諸国は自国の幸福について、自国が第一義的責任を負う。

 ところで「応分の負担」とは、どのようなものであろうか?
 (1) 前方展開する米軍のホストネイションサポート(いわゆる「思いやり予算」)
 (2) 新規装備の共同開発によるコスト削減
 (3) 運用における役割分担
といったところではないだろうか。今後(1)と(2)は予算削減の結果がどうであれ一層強く求められるものと考えられる。また、(3)については、同盟国の特性に応じたものになるであろう。

 結局、削減規模がどの程度になるのだろうか?わが国周辺にどのくらい影響を及ぼすのだろうか?現時点ではまだ不明としか言いようがなく、特別委員会の結論を待つ必要がある。

 ところで、現在米軍では今後の新しいオペレーショナル・コンセプトとして「統合エアシーバトル構想」を提唱している。その詳細はまだ明らかにされていないが、端的に言えば従前の「エアランドバトル」が、有事における陸、空からのパワープロジェクションに重きを置いていたのに対し、「エアシーバトル構想」は対象国のA2/AD戦略に対し、平時から有事、そして空~海上~海中そして宇宙やサイバースペースまでを包含した、精密なC4ISRとストライク能力を実現するものである。

 仮にそうであるならば、それは名前のとおり海空軍に重点投資する可能性がある。しかし、そのことを当然のことながら陸軍、海兵隊は歓迎しないであろう。現に中東では「アラブの春」が現在進行形で新たな不安定要因を作り出しつつある。中東での軍事行動が従来の「安定化作戦」を継続するものであれば、それは陸軍中心となる。一方、NATO諸国の多くは深刻な財政問題を抱えており、中東においてどこまで役割分担できるのかは不透明である。

 また、アジアにおいても朝鮮半島有事は地上戦が主となることが予想されており、在韓米軍の主力は陸軍である。10月28日にソウルで開かれた第43回米韓安全保障協議会における共同声明では、「在韓米軍は現状の28500名態勢を維持する。」とされており、アジアの中でもエアシーバトル構想とは異なる様相が存在する。

 ざっと見ても米国内の要因(陸軍、海兵隊の抵抗)、「アラブの春」の帰趨、NATO諸国の財政状況、在韓米軍の現状維持といった問題があり、「エアシーバトル構想」一本に重点投資することはなかなか困難であるように見受けられる。最終的にこれらのパラメータを解いた結果、「エアシーバトル構想」がアジア太平洋正面においてどのくらい推進され、その結果、米軍のプレゼンスがどの程度変化し、わが国をはじめアジアの同盟・友好国がどのくらいこれをカバーする必要があるのか、という問題が見えてくるだろう。

 冒頭で述べたとおり、今回の米国における支出削減は極めて大規模なものとなる。国防予算と、米軍の前方展開能力への影響も当然大きい。必然的にわが国をはじめとする同盟国への要求も大きく、かつシビアになるだろう。わが国としてはこの予算削減の動向と、「エアシーバトル構想」の実現過程に注目する必要がある。わが国とて厳しい財政事情は同じである。限りある予算の中で「選択と集中」によって何をなすべきか、何ができるのか、検討していくことが求められているのではないだろうか。

(幹部学校第1研究室  後瀉 桂太郎) 


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1 ‘Assessment of Impacts of Budget Cuts’ HASC Republican Staff, Sep22, 2011.
2 ‘Wills and Wallet’ (http://thewillandthewallet.squarespace.com/)


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。