海上自衛隊幹部学校

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 戦略研究会

中国は日本のシーパワー及び海上自衛隊をどのように見ているのか。


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(トピックス082 2020/06/10)(最終更新日:2020/06/17)

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   2020年5月19日、米国シンクタンクCSBA(Center for Strategic and Budgetary Assessments : 戦略予算評価センター)の上席研究員トシ・ヨシハラ(Toshi Yoshihara)氏が、「ドラゴン 対 太陽 - 中国から見た日本のシーパワー(Dragon against the Sun: Chinese views of Japanese Seapower)」というレポートを発表した1(原文はこちら)。

   本レポートにおけるヨシハラ氏の主張は、以下のとおりである。
・ 過去10年間で、中国海軍は艦隊の規模、総トン数、火力等の重要な戦力で海上自衛隊を追い越した。既に互いに強い疑念を抱き、ライバル関係にある日中両国の競争はさらに激化するだろう。
・ 中国が日本を上回る海軍力を持つことは、受け入れ難い戦略的傾向をもたらし、次の危機における抑止の失敗の確率を高める可能性がある。このことは、日本が同盟国としての責任を果たす能力に対する米国の信頼を損ねる恐れがあり、安全保障パートナーシップの中に辛辣な感情を植え付けている。
・ 中国の政治家や軍の指導者は、中国海軍の方が優位であるという見通しによって、日本との局地的な海洋紛争において攻勢的な戦略を採用するだろう。
・ 日本と中国の海軍力の不均衡を放置すれば、日米同盟を緊張させ、アジアを不安定にする。日米両国は、中国の挑戦を認識し、迅速に行動し、海軍のバランスを取り戻さなければならない。

   本レポートの主題について、ヨシハラ氏は、太平洋戦争に関する歴史書である『鷲 対 太陽(Eagle Against the Sun: The American War with Japan)』に敬意を表して、「ドラゴン 対 太陽」というタイトルを付け、比喩的に、現在の日本の窮状と、ますます支配的になっている中国との関係を、80年前の米国との関係と重ね合わせるように、後世の人々に呼びかけている2。本タイトルは、「上昇するドラゴン」と「昇った後、落ちていく太陽」をも連想させる。

   本レポート発表後、ヨシハラ氏と『太平洋の赤い星(Red Star over the Pacific)』を共著したジェームズ・ホルムズ(James Holmes)米海軍大学教授は、日米両国の政治指導者が果たす役割に注目し、両国はいかなる政治的余白(political space)も残してはならず、太陽(日本)だけでなく鷲(米国)とも戦わなければならないことをドラゴン(中国)に通告する必要がある、と主張している3。奇しくも、本レポートが公表された同日、日本においては、自民党の「日本の尊厳と国益を護る会」が、尖閣諸島を守り抜く「7つの緊急提言」を、安倍首相に提出した4。このことは、日米両国の現状認識に相違がないことの証左とも言えるが、ヨシハラ氏は、日米が直面する今後の事態や課題の予兆を伝える中国の文献を読むことによって、日米の政治家や軍の指揮官の間で自己満足が起こる危険性を排除しなければならない、と警告している5

   本レポートの副題である「シーパワー」について、米国の海軍史家アルフレッド・マハンは、その古典的名著『海上権力史論』において、「シーパワーとは、武力によって海洋またはその一部分を支配する海上の軍事力だけでなく、平和的な通商及び海運も含んでいる。」と述べている6。ホルムズ氏とヨシハラ氏は、2017年の時点で、中国のグレーゾーン戦略を阻止するためには、戦略の海洋的側面だけを考えるだけでは十分ではなく、日米両国は、総合的な大戦略的姿勢(grand-strategic posture)を取らなければならない、と提言している7。本レポートの副題が「海軍力(Naval power)」よりもさらに広い概念である「シーパワー」となっていることからわかるように、本レポートは、海洋戦略や軍事戦略を考える上で有用であるだけでなく、海洋国家である日本の大戦略(grand strategy)を考える上でも一読の価値がある。

   中国語の読解が可能な筆者特有の研究結果である本レポートは、中国の戦略家や分析家が日本と中国の海軍のバランスの変化をどのように捉えているかを評価しており、中国側の思考を知る上で非常に有益である。一方で、レポート全般を通して、中国の文献に基づいた中国側の主張なのか、筆者であるヨシハラ氏の主張なのかを誤読しないよう注意する必要がある。最後に、本トピックス執筆にあたり、ヨシハラ氏から日本人の読者に向けてメッセージをいただいたので、以下に紹介する。

   「日本と米国で、私のレポートに対する非常に好意的な反応を見て、恐れ多いと感じています。何人かの同僚が私にこの研究を書いた理由について尋ねてきました。この場を借りて、この報告書を作成した理由を、日本の読者の皆さんと共有したいと思います。

   このプロジェクトのための予備調査をしたとき、日本の状況が劇的に逆転したことに驚きました。中国海軍が海上自衛隊より先を行っていたため、その事実と数字は非常に厳しいものでした。さらに厄介なことに、私の歴史の解釈は、地域の海軍のバランスの急進的な変化が、しばしば激しい大国間競争や戦争の前に起こることを思い起こさせます。さらに驚いたのは、この力の変化を厳密に評価している人が米国と日本にはほとんどいないことでした。こうして私は、中国が海上で日本を追い越した場合に起こりうる結果について政策立案者や一般の方々に告げるため、このレポートを書きました。

   誤解のないように言うと、この報告書は衝突が運命づけられているとは主張していません。むしろ、抑止力を強化し、平和を維持することは日米同盟の力の範囲内であると主張しています。しかし、時は熟しています。日米両国は、何十年にもわたる犠牲を払って築き上げてきたシステムを守るために、今、行動しなければなりません。私は、この記事が、日本の政策コミュニティと市民の方々にこのメッセージを伝えてくれることを願っています。」8

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(海上自衛隊幹部学校付 佐藤善光) 

(本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省及び海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 Toshi Yoshihara, Dragon against the Sun: Chinese views of Japanese Seapower (Washington DC: Center for Strategic and Budgetary Assessments, 2020), https://csbaonline.org/research/publications/dragon-against-the-sun-chinese-views-of-japanese-seapower.
2 James Holmes, “Has China's Navy Caught Up (and Surpassed) Japan?,” The National Interest, May 23, 2020, https://nationalinterest.org/feature/has-chinas-navy-caught-and-surpassed-japan-157216?fbclid=IwAR12Wbz59AUyjaxViVmjcKd1JX2vnJkr6NFoUi-g86eyynt8O065drgohks.
3 Ibid.
4 「米研究機関が衝撃リポート!中国軍が尖閣諸島“奪取”を計画か 防衛へ「7つの緊急提言」自民党保守系グループが提出」夕刊フジ、2020年5月26日、https://news.yahoo.co.jp/articles/82e8bf3f8ad7b56ace07a20c2e036d0707b8aa30
5 Toshi Yoshihara, Dragon against the Sun: Chinese views of Japanese Seapower, 76.
6 Alfred Thayer Mahan, The Influence of Seapower Upon History, 1660-1783, (New York: Dover Publications, 1987), Kindle edition, 28, http://www.gutenberg.org/files/13529/13529-h/13529-h.htm#Page_58.
7 James Holmes and Toshi Yoshihara, “Five Shades of Chinese Gray-Zone Strategy,” The National Interest, May 2, 2017, https://csbaonline.org/about/news/five-shades-of-chinese-gray-zone-strategy.
8 Toshi Yoshihara, email message to author, June 3, 2020.