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 戦略研究会

米海軍が150kw級レーザーの射撃実験に成功
-確実に実用段階に入ったレーザー兵器-


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(トピックス080 2020/06/04)

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米海軍のレーザー兵器開発試験計画
   516日、米海軍輸送揚陸艦LPD-27 Portlandが、米海軍研究局(ONROffice of Naval Research)のレーザー兵器システム実証試験においてドローンに対する射撃実験を行い、撃墜に成功したと報じられた1Portland艦長サンダース大佐(CAPT. Karrey Sanders)は声明で、飛行中の物体をも破壊しうる高エネルギーレーザー兵器の実験成功により「我々は潜在的な脅威に対抗しうるこの兵器の貴重な情報を得ることができるだろう」と説明、新たな先端的能力を踏まえ、米海軍における海上戦闘の再定義を図るとも述べた2
   試験に用いられたレーザーシステム「LWSD Mk2 Mod0」は、米ノースロップ・グラマン社の開発による出力150kwの半導体レーザー砲で、米海軍が2012年から実施している「SSL-TMSolid-State Laser Technology Maturation:固体レーザー技術成熟)計画」において開発されたものである。このSSL-TM計画の焦点はもともと、爆発物、ISR無人機、安価な武装ドローン、小型自爆ボートなどの脅威に対処することを目標とするものであった3
   Portlandに先立つ2014年、SSL-TM計画において米海軍は、米レイセオン社製出力30kw級のレーザー兵器システム「AN/SEQ-3 LaWS」を輸送揚陸艦LPD-15 Ponceに搭載し、実射試験において移動中の水上/空中の小型ドローンへの命中及びその一部の破壊に成功、Ponceはこのレーザー砲とともに2017年までペルシャ湾へ展開された4。当初のSSL-TM計画の目標から、Ponceのこの実戦配備の事実をもって、SSL-TM計画はその初期において早くも目標を達成したかに見えた。

顕在化する脅威への対処
   しかし、SSL-TM計画はその後も更新され継続されている。さらに多様な脅威への対処を目標として、PonceからPortlandへとプラットフォームを移し、より高出力での試験が引き続き行われている。Ponce30kwに比して、今回の150kwという出力は飛躍的に伸びたと言うことができよう。それ以上となると、例えば巡航ミサイルや、マスト・砲塔など水上艦艇構造物の破壊には約300kw、弾道ミサイルの破壊には500kw以上が必要とされる。したがって、今回Portlandによって試験に成功した150kw級レーザーの有効な攻撃対象は、大型ドローンやRHIBRigid-hulled inflatable boat:複合型高機動艇)程度まで向上したと考えられる。42日米国防総省から米議会への報告書にも「実用的な対艦ミサイルの迎撃には300kwが必要」とある5。現在のSSL-TM計画によれば、2022年までに300500kw級レーザーをDDG-51 Arleigh Burkeに、2025年以降には1MW級レーザーを水上艦艇や空母に搭載する計画とされている6
   500kw級や1MW級もの大出力レーザー砲が睨む先には何があるのか。それは、中国が所有するYJシリーズやロシア製モスキートなどのASCM(対艦巡航ミサイル)7CM-401DF-21DF-26などのASBM(対艦弾道ミサイル)8、それらのMaRVManeuvering Re-entry Vehicle:機動型弾頭)及びその複数化弾頭、スウォームUAVなど、増大するA2/ADの課題の中で顕在化しつつある中国の潜在的脅威9であろう。
   複雑な3次元経路を飛翔しながら近接するASCMに対しては、極めて短いリアクションタイムの中で確実に撃破できるだけの高エネルギーが必要である。また、マッハ5超の高速で迫るASBMを破壊/無力化するためには、狭帯域に高密度のレーザーを収束させた上、これを超高速で飛翔中の目標に一定時間以上照射し続けなければならない。加えて、複数化弾頭やスウォームUAVに対処するためには、レーザーパルス間での再充電若しくはレーザーシステムの複数装備が必要となる。さらに、新たなゲームチェンジャーと認識される極超音速飛翔体の開発が中国でも進めば10、高出力レーザーのニーズはさらに高まるであろう。
   このように、米海軍は実行可能な技術的ロードマップの下、高出力レーザーの実戦配備を着実に目指している。冒頭Portland艦長に言を俟つまでもなく、これをもって米海軍は中国との海上戦闘におけるイニシアチブを握ろうとしているとも言えるのではないだろうか。

実用段階に入った中国・ロシアのレーザー兵器
   一方、中国やロシアのレーザー兵器についてはどうか。
   中国については、2019年の米国防長官から米国議会への年次報告「中華人民共和国に関わる軍事・安全上の展開2019」の中で「人民解放軍は、指向性エネルギー兵器・地上配備型レーザーの開発などにより、破壊的な潜在力を持つ先進的な軍事能力を追求している」と指摘されている11
   中国のレーザー兵器開発状況の詳細については情報開示に乏しいが、中国軍が既に限定的な軍用レーザーを運用していると思われる事例はいくつか報道されている。20184月、アフリカ・ジブチの中国軍基地から米輸送機C130へ軍用レーザーが照射されて乗員2名が目に軽傷を負い、米国務省が正式に中国政府に抗議した12。また20202月、グアム沖の公海上において、中国海軍052D型駆逐艦から米海軍P-8A哨戒機に対して軍用レーザーが照射され、米海軍当局が正式に中国に抗議している13
   ロシアの状況についても不透明であるが、2018年にレーザー兵器「ペレスヴェート」が実戦配備されたとの報道がなされている14。大型トラックに牽引されたコンテナ様の筐体に搭載された外観以外、能力等の詳細は不明であるが、プーチン大統領は「(ペレスヴェートの)開発によって大きな成果が得られた。これは単なるプロジェクトでもなく、始まりでさえない。軍は既にシステムを受け取った」と述べている15
   米国はまた、中ロ両国が、米国安全保障上のバイタルノードである人工衛星に対し、レーザー兵器によってその稼働の妨害、弱体化、破壊を目指す公算が大きいと見ている。米国防総省は、中国が2020年中に低軌道人工衛星のセンサーを攻撃できるシステムを導入、ロシアが航空宇宙軍に配備しているレーザー兵器を人工衛星搭載センサーの破壊目的に運用しようとしているとの見通しを、それぞれ明らかにしている16

おわりに
   このように、レーザー兵器の実戦への投入はもはや「始まりでさえない」。ステルス機やUAV同様、レーザー兵器は既に現実のバトルフィールドに登場し戦力化されているウェポンである。今後とも、米中ロによるレーザー兵器のさらなる高出力化、多用途化の開発はより一層加速するだろう。
   高出力化・多用途化のためには、効率的なレーザー増幅システムの実現、電力源部における充電→放電(レーザー照射)→再充電にかかる費消時の短縮、放熱/冷却機能、バッテリーのマガジン化/セル化、システム全体の小型化/軽量化など、ブレイクスルーが必要な技術的課題がまだ山積している。特に、所望のレーザー出力を得るためにはその3倍の電力供給能力が必要とも言われ17、パワーソース確保のために必要な大規模な電源設備及び関連システム所要のため、目下のところは地上配備型か、搭載プラットフォームが限定される。
   しかし、やがて将来、各プラットフォームが従来火砲に代わって軽量大出力レーザーを主力兵装とする日が、必ずや到来するであろう。
   我が国の多次元横断(クロス・ドメイン)防衛構想において“技術的優越の確保及び研究開発の推進にあたり重点的に資源配分すべき研究分野”と位置付けられているエネルギー兵器18。その研究開発の推進にあたっては、米国等の同盟国・友好国との技術協力・共同研究開発も極めて重要である。

(海上自衛隊幹部学校 未来戦研究室 遠藤 友厚) 

(本コラムに示す見解は、海上自衛隊幹部学校における研究の一環として執筆者個人が発表したものであり、防衛省・海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 U.S. Pacific Fleet Public Affairs, “USS Portland Conducts Laser Weapon System Demonstrator Test,” America’s NAVY forged by the sea, May22, 2020, https://www.navy.mil/submit/display.asp?/story_id=113063 なお、実施場所は「太平洋上」とのみ報じられている。
2 Brad Lendon, “The US successfully tested a laser weapon that can destroy aircraft mid-flight,” CNN World Asia, May23, 2020, https://edition.com.cnn/2020/05/22/asia/us-navy-lwsd-laser-intl-hnk-scli/index.html
3 “Solid-State laser Technology Maturation (SSL-TM),” Global Security.org, Feb12, 2019, https://globalsecurity.org/military/systems/ship/systems/ssl-tm.htm
4 Jim Sciutto, Dominique van Heerden, “Exclusive: CNN witness US Navy’s drone-killing laser,” CNN Politics, Jul18, 2017, https://edition.cnn.com/2017/07/17/politics/us-navy-drone-laser-weapon/index.html
5 「アメリカ海軍が150kw級レーザー砲の試験射撃に成功」、Yahoo!ニュースJapan, 2020年5月23日、https://www.yahoo.co.jp/biline/obiekt/20200523-00179923/
6 Brian Wang, “US Navy will fire 150 kilowatt laser on a test ship in 2018 and then from carriers and destroyers in 2019,” nextBIGFUTURE, Jan26, 2017, https://www.nextbigfuture.com/2017/01/us-navy-will-fire-150-kilowatt-laser-on.html
7 これらの中国のASCMの開発動向等については、平賀健一『強力なベクトル-中国の巡航ミサイル開発を評価する』海上自衛隊幹部学校戦略研究会トピックス029、2015年2月9日、https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/029.html に詳しいので参照されたい。
8 これら中国のASBMの開発動向等については、山下奈々「【研究ノート】中国のASBMの開発動向-DF-21Dを中心に-」『海幹校戦略研究』特別号(通巻第19号)2020年4月、116~135頁 に詳しいので参照されたい。
9 野口裕之は、米海軍によるレーザー兵器を、マッハ20超で襲来する弾道ミサイル等を念頭に置いた電磁波版MD(ミサイル防衛)として「主敵を中国とするオフセット戦略のコンセプトにも合致した新兵器」と位置づけ、「中国に対する強い抑止力になり得る」としている。「【野口裕之の軍事情勢】世界のガン(中国)を消す日米『レーザー相殺手術』」Sankei Biz×SANKEI EXPRESS、2015年5月25日、https://www.sankeibiz.jp/express/news/150525/exd1505250600001-n4.htm
10 米ロが競って研究開発や飛行実験を進める中、中国も2018年8月、極超音速飛翔体「星空2」の飛行実験に成功している。「中国『極超音速飛翔体』兵器の実験に成功 マッハ6で飛行 MDで撃墜不可か」産経新聞、2018年8月5日、https://www.sankei.com/world/news/180805/wor1808050003-n1.html
11 「研究報告 米国議会への年次報告書 中華人民共和国に関わる軍事・安全保障上の展開2019」日本国際問題研究所、2020年3月19日、https://www.jiia.or.jp/research/2019.html
12 「『中国軍のレーザー照射で米兵負傷』、米政府が抗議 ジブチ」CNN Japan、2018年5月4日、https://www.cnn.co.jp/world/35118677.html
13 「中国軍、太平洋で米哨戒機に軍用レーザー照射 米海軍が発表」CNN Japan、2020年2月28日、https://www.cnn.co.jp/world/35150009.html また、「世界の苦悶をよそに海洋派遣の拡張を図る中国の蛮行」JB Press、2020年3月26日、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59874
14 「0.5秒で標的破壊、ロシアが最凶新型レーザー兵器『ペレスヴェート』実戦配備」TOCANA、2018年12月7日、https://tocana.jp/2018/12/post_19016_entry.html
15 ニコライ・リトフキン「『プーチンの超兵器』通称 オンライン投票で決まる」RUSSIA BEYOND日本語版、2018年3月27日、https://jp.rbth.com/science/79929-putin-choheiki-no-tsusho
16 「宇宙でも中ロの脅威 レーザーで米衛星攻撃か 国防総省が警告」CNN Japan、2019年2月12日、https://www.cnn.co.jp/usa/35132570.html
17 Brian Wang, Ibid. 150kwの出力を得たければ、450kwの給電能力が必要ということになる。450kwは、おおよそ一般家庭150戸分の電力を賄える量である。
18 “新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画の策定に向けた提言~「多次元横断(クロス・ドメイン)防衛構想」の実現に向けて”、自民党Lib Demsニュース、2018年7月31日、https://www.jimin.jp/news/policy/137478