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   米国防総省、「2018人工知能戦略」を発表

(トピックス065 2019/03/12)

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図1:2019 Missile Defense Review 表紙
   発図1:Summary of the 2018 Department of Defense Artificial Intelligence Strategy 表紙1

   米国防総省(Department of Defense: DoD)は2019年2月12日、「DoD 2018人工知能戦略(Summary of the 2018 Department of Defense Artificial Intelligence Strategy)」(以下、AI戦略)を発表した。この中でDoDは、中国やロシアが軍事利用でAIに多大な投資を行っていることに警鐘を鳴らすとともに2、DoDにおいてもAI開発を加速させる方針を打ち出した3。このAI戦略の内容については後述するが、AI戦略は前日の11日、トランプ米大統領がAI研究開発の大幅な強化を指示する、大統領令「AIイニシアティブ(American AI Initiative)」4に署名したことを受けて発表されたものである。このAIイニシアティブの主要項目は以下の6項目である。
   1. 連邦政府機関(federal agencies)に対し、AIの研究開発に対する投資を優先すること を求める。
   2. 米国のAI研究者のために、長期の研究を支援し、連邦政府が保有するデータやコンピュター研
      究資源へのアクセスを促進することによってAIの革新を解き放つ。
   3. 米国人がAI関連スキルを習得するのを助け、科学(Science)、技術(Technology)、
      工学(Engineering)、数学(Mathematics)STEM教育を促進させることによって、米国の労働力を
      担保する。
   4. 米国標準技術研究所(NIST)に対し、AIシステムのための適切な技術的及び安全上の 規格の
     策定を命じる。
   5. 米国のAI研究やAI産業を支える国際環境を促進しつつ、重要なAI技術を保護する ことによ
     り、AIにおける米国の主導権を維持する。
   6. 米国が苦労して得た知的財産を不法に取得した人々に対して、米国の安全保障革新拠点
     (National Security Innovation Base)を防護する。

   この主要項目に対して、特に注目すべきは6.の知的財産を不法に取得した人々が誰を指すのかである。米国がこの時期に発表したAIイニシアティブやAI戦略は、AIという安全保障に直結する知的財産を防護することによって、ライバル国に対する米国の技術的優位(第三のオフセット戦略5)を担保するために出されたと考えられるからである6
   2018年12月1日カナダのバンクーバーで中国最大企業の一つでるファーウェイ(Huawei)の副会長兼最高財務責任者、孟晩舟(モン・ワンジョウ)氏が、米国政府がイランに科した制裁に違反したとして逮捕されたことは記憶に新しい。ファーウェイの端末部品の一部が米国で製造されていることから、イランへの販売は米国の法律に反しているというのが逮捕理由である7。しかし、この逮捕には別の深い理由があるとされる。イタリアの日刊紙イル・フォッリョ(IL FOGLIO)から出された「テクノロジー世界戦争(La Guerra mondiale delle tecnologie)」によれば、1987年に中国広東省に設立されたファーウェイの創業者、任正非(レン・ジェイフェイ:孟の父)は人民解放軍の元将校であり、中国共産党との深いつながりがあるとされる。また、同関連企業ZTEも中国共産党との関係が疑われており、今回の逮捕は中国共産党によるデータの吸い上げを防止するため、西側同盟諸国に対し、インフラ整備のために中国製品を使用しないように説得することが目的であったと分析している8
   これに先立ち2018年5月2日には、DoDは安全保障上の理由から全ての米軍基地内でファーウェイとZTEが製造する携帯端末を販売することを禁止している9
   これらの背景から出されたAI戦略の中では、DoDは中国10やロシア11が人権侵害の用途を含む、軍事利用でAIに多大な投資を行っていることに警鐘を鳴らすとともに12、DoDにおいてもAI開発を加速させる方針を打ち出している13。AI戦略の主要項目は以下のとおりである。

    1. AIは将来の戦争の形を変える可能性があり、中国やロシアが行っている軍事目的でのAIに
      対する多大な投資は、自由で開かれた国際秩序を不安定にする恐れがある。このため、米国及
      びその同盟国はその戦略的地位を維持し、将来の戦争に勝ち、秩序を守るためにAIを活用す
      る。
    2. そのための基盤として、学術界及び産業界と協力して防衛に関連する長期研究に投資すると
      ともに、世界クラスのAIスキルを有する者とパートナーを組み、次世代の優秀なAI人材を教育
      するビジネスを支援する。
   3. AI機能の提供を加速し、DoD全部門のAI活動を同期させ、統合部隊(Joint Force) の利点を
      拡大するため、共同AIセンター(Joint Artificial Intelligence Centre: JAIC)を設立する。
   このAI戦略の焦点は、2018年6月にDoDの最高情報責任者(Chief Information Center)ダナ ディジー(Dana Deasy)の下に設立されたジョン シャナハン(John Shanahan)中将率いるJAICの設立にあるとされる14。JAICの任務は、①現在の軍事的優位を強化するために、任務のニーズ、運用結果、ユーザーからのフィードバックやデータを活用することによって、将来のAI研究開発を強化する。②AIの効果を拡大させるための共通基盤を確立する。③DoDのAI活動を同期させ、国防戦略との整合性を確実にする。④世界トップレベルのAIチームを引き付け、育成する。

   これらの国際情勢から、現在「世界的なAI軍拡競争(global AI arms race)」を引き起こす可能性があると指摘されている15。例えこれが危険なAI軍拡競争であったとしても、AIは将来の戦争の形を変える可能性がある以上、防衛省・自衛隊においてもAI開発は重要なテーマである。30大綱には、AIについて以下の3点を言及している。
   1. 各国はゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術を活用した兵器の開発に注力す るとともに、
      AIを搭載した自律型の無人兵器システムの研究にも取り組んでおり、将来の戦闘様相を更に
      予見困難なものにする16
   2. AIの技術革新の成果を活用した無人化・省人化を推進する17
   3. AI等のゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術をはじめとする重要技術に対して選択と
      集中による重点的な投資を行う18

   技術革新の動向から、防衛省・自衛隊はこの「世界的なAI軍拡競争」に乗り遅れた場合、二度と追いつけなくなることを念頭に、AI開発に取り組むべきである。



(幹部学校運用教育研究部 未来戦研究所 上野博嗣)

(本稿に示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 https://dod.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/2018-National-Defense-Strategy-Summary.pdf.
2 Summary of the 2018 Department of Defense Artificial Intelligence Strategy [hereinafter: DoD AI Strategy] Harnessing AI to Advance Our Security and Prosperity, p. 5.
3 Ibid., p. 4.
4 https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/president-donald-j-trump-is-accelerating-americas-leadership-in-artificial-intelligence/(last visited March 3, 2019)
5 2014 年11 月15日に開催されたレーガン国防フォーラムにおいて、ヘーゲル(Chuck Hagel)国防長官(当時)は、兵器、システム及び作戦概念を新たな形で組み合わせることで、敵国の軍事的優位を相殺して余りある軍事的能力を確保し、もって抑止力を生み出すという「第三のオフセット戦略(third offset strategy)」について言及した。この軍事技術の優位性を担保する技術として、ロボット工学、自律性、AIを挙げている。 web
 〈https://dod.defense.gov/News/Speeches/Article/606635/〉(last visited Feb 14, 2019)
6 第三のオフセット戦略からAI戦略までの米国と中露の関係については、拙稿「完全自律兵器の自律とは-ターミネーターは誕生するのか-」海幹校戦略研究コラム131、2019年を参照。
7 『CNN』Dec 6, 2018.
8 『IL FOGLIO』“La Guerra mondiale delle tecnologie”, Dec 6, 2018.
 https://www.ilfoglio.it/tecnologia/2018/12/06/news/la-guerra-mondiale-delle-tecnologie-228085/(last visited March 3, 2019)
9 『The Wall Street Journal』May 2, 2018.
 https://www.wsj.com/articles/pentagon-asking-military-bases-to-remove-huawei-zte-phones-1525262076?mod=djemalertNEWS&ns=prod/accounts-wsj&ns=prod/accounts-wsj&ns=prod/accounts-wsj&ns=prod/accounts-wsj&ns=prod/accounts-wsj&ns=prod/accounts-wsj(last visited March 3, 2019)
10 中国は2030年までにAIで世界をリードすることを目標に掲げている。Elsa B. Kania, “Battlefield Singularity: Artificial Intelligence, Military Revolution and China’s Future Military Power”, Center for a New American Security, November 2017, p .4.
11 ロシアはロボット兵器にAIを活用することにより、ロボット兵器の自律性を向上させ、ロボット兵器のみで任務を遂行させることを構想している。Paul Scharre, Army of None: Autonomous Weapons and the Future of War, W. W. Norton & Company, 2018, p. 117.
12 Summary of the 2018 Department of Defense Artificial Intelligence Strategy Harnessing AI to Advance Our Security and Prosperity, p. 5.
13 Ibid., p. 4.
14 DoD AI Strategy, p. 9.
15 Paul Scharre, Army of None: Autonomous Weapons and the Future of War, W. W. Norton & Company, 2018, p. 7.
16 30大綱、3頁。
17 同上、21頁。
18 同上、22頁。