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 戦略研究会

 米海軍大学 “Sense of the Faculty”が北朝鮮危機セミナーのレポートをウェブサイトにて公表

(トピックス059 2018/05/25)

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   2018年2月上旬、米海軍大学の30名の教授陣(Sense of the Faculty)が一堂に会し、一触即発の様相を呈している北朝鮮の核危機のあらゆる側面について検討した。これらの教授陣には、アジア太平洋地域の安全保障の専門家、核戦略の理論家、加えて軍事作戦の経験に富む専門家が含まれている。各人の意見聴取・聴取に加え、広範な討議・討論を実施したセミナーは丸一日に及んだ。
   この特別セミナーのレポートは、同年4月ウェブサイトにて公表された。
(https://usnwc.edu/Portals/0/Documents/NWC%20Sense%20of%20Faculty_DPRK%20Crisis%20Report_April2018.pdf?ver=2018-04-27-200730-407)

   以下において、本レポートの概要を紹介する。

1 要 旨(Executive Summary)
   教授陣は幅広い論点について議論した結果、いくつかの論点についてはほぼ意見の一致を見た一方、意見が割れて合意に至らなかったものもあった。これらの論点は本レポートの要約となる部分であるので、それぞれ以下に全掲する。
(1) 教授陣が一致に至った意見
   ・北朝鮮の主たる動機は体制の保障であり、米韓は抑止に依存できる
   ・北朝鮮が全ての核能力を放棄する可能性は低い
   ・米国の最も重要な目的は破滅的な戦争を回避することである
   ・米韓同盟は強固であり続ける
   ・文在寅韓国大統領の北朝鮮に対する関与戦略には、幾分の成功の見込み
    (some prospect of success)がある
   ・中国の非核化に関する関与は最小限に留まり、朝鮮におけるほぼ全ての
    紛争シナリオにおいて、米中の軍事衝突の可能性が相当にある
   ・北朝鮮に対する限定的な攻撃は、より広範な戦争を引き起こす可能性が
    高く、北朝鮮の非核化を促進することとはならない
   ・禁輸のための海軍作戦は、北朝鮮に対する圧力として決定的なものではない
   ・米海軍は、北朝鮮海軍兵力に対して圧倒的優位にある
(2) 教授陣が一致に至らなかった論点
   ・北朝鮮の意思決定の性質
   ・北朝鮮指導者と直接交渉すべきか否か
   ・あえて言うならば、いかなる“アメ”が非核化につながるか
   ・経済制裁は北朝鮮に非核化を強制する手段として効果的であるか否か
   ・中国の軍事介入がいかなるものであるか
   ・北朝鮮が近い将来、真正のICBM能力を保有するに至るか否か
   ・米海軍/米海兵隊は想定される武力紛争において決定的役割を果たすか否か
   ・海軍による完全な禁輸を実施した場合、大規模な敵対行動を引き起こすか否か
   ・増強されつつある北朝鮮の潜水艦兵力は、重大な脅威となるか否か

2 各 論(項目のみ)
   討議は、以下の5つのセッションで行われた。(3~5ページ)
   (1) 北朝鮮の体制における内部力学
   (2) 米韓同盟
   (3) 制裁、外交及び他主要国
   (4) 軍事的選択肢
   (5) 米海軍戦略にとっての重要性

   討議においては、特に12の論点について教授陣の間で異なる見解が表明された。ここでは論点のみを以下に紹介する。議論の詳細についてはレポートの該当部分(9~20ページ、DEBATE #1~12)をご確認いただきたい。
   (1) 米国の主たる目的は何であるべきか?
   (2) 金正恩を抑止できるのか?
   (3) なぜ北朝鮮は核兵器を欲するのか?
   (4) 米国と韓国は同盟(alignment)を維持するか?
   (5) 経済制裁は有効か?
   (6) 米国指導者は北朝鮮指導者と直接交渉すべきか?
   (7) 何を米朝直接会談の議題とすべきか?
   (8) 北朝鮮に対する限定的攻撃の効果は?
   (9) 中国は米朝戦争に介入するか?
   (10) 北朝鮮はICBM能力を保有するか?
   (11) 海軍による禁輸は北朝鮮に対する圧力として有効か?
   (12) 北朝鮮は次の10年において米海軍に対する脅威となるか?

   また、以下の論点については教授陣に対するアンケート形式での調査(6~7ページ)を実施している。ここでは質問の内容と、多数を占めた回答(グラフ表示のため、比率については推定)のみを以下に示す。
   Q 北朝鮮が核兵器を追求する最も重要な要因は?
     - A.体制保証 90%
   Q 朝鮮半島に関する米国益にとっての最優先事項は?
     - A.破滅的な戦争を回避すること 55% 非核化 20%
   Q 米韓同盟はどの程度強固か?
       - A.強固 75%
   Q 米国が北朝鮮に対し大規模な敵対行動を開始したというシナリオにおいて、
    米中が直接衝突することとなる可能性は?
     - A.高い 35% 極めて高い 25%
   Q 米韓が抑止への依存を選択した場合、戦争を抑止できる見込みは?
     - A.ある程度高い 50% 高い 30%
   Q 米国が北朝鮮に対する軍事行動を開始し、中国が介入すると仮定した場合、
    その主目的は何か?
     - A.国境の緩衝地帯維持 40% 米韓軍の38度線越境の防止 35%

3 解 説
   このセミナーは2月上旬に実施されたため、米朝首脳会談が計画されるに至る3月以降の国際情勢の変化は反映していない。しかしながら、現時点(2018年5月下旬)から見ても有効な議論を多く提供しており、示唆に富んでいる。
   全般として、米国による対北朝鮮の軍事行動については否定的である。北朝鮮に対する攻撃は、たとえ当初は限定的なものであったとしても、より広範な戦争へと発展する可能性が高い。そして、中国の介入する程度については意見が分かれるものの、最終的には米中の直接的対決に至り、これは米国の望むところではないというのが多数意見である。
   また、北朝鮮(金正恩)の主たる動機は体制の保証であって自殺的な戦争のリスクを冒す準備はなく、したがって抑止は可能であると見ている。朝鮮半島に関する米国にとっての最優先事項としては、非核化よりも破滅的な戦争の回避であるとの意見が多数を占めた。
   他方で、米朝の首脳による直接交渉については見解が分かれた。肯定的な者は、若く経験不足であり、先代指導者の方向性に縛られる傾向が少ない金正恩は、逆説的であるが米国を中国や韓国以上に信頼できるパートナーとみなす可能性もあると見る。これに対し否定派は、直接交渉は北朝鮮の時間稼ぎに貢献し、結局は核開発を助ける結果にしかならないと反論する。経済制裁が最終的な非核化につながるか否かについても意見が分かれたところであるが、少なくとも経済制裁が北朝鮮の態度を軟化させ、交渉のテーブルに引き戻すまでの過程には大いに効果があったと見ている。

   当該セミナーは米海軍大学としての統一見解を追求するものではないが、ここに提示された12の論点は、米国視点での関心事項リストとして見れば極めて有益である。レポートの該当部分においては、対立する見解が両論併記の形で整理されており、直近の朝鮮半島情勢を分析するツールとして参考になる。

(幹部学校防衛戦略教育研究部長 寺田 博之)

(本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)