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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その14)

(トピックス051 2016/10/03)

********************************* 目 次 **********************************

   序 言(Foreword)

   要 旨(Executive Summary)

   イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

   第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

   第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

   第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想

結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■ 結言

   1953年の“ニュールック”国防戦略において、アイゼンハワー大統領は、極めて多大ではありつつも短期間の大陸間攻撃及び核兵器優勢の強化により、米国財政上の国防負担を低減することができた。その戦略は、10年近くは有効ではあったけれども、数で勝るNATOの通常兵力を食い止めるために米国が核を先制使用するという脅威の信ぴょう性は、ソビエト軍が米国本土を核攻撃の危機下に置いたままにするという十分な力を露わにするに従って次第に低下していった。新たな相殺戦略、とりわけGSS構想に関しては以下に示すいくつもの教訓を導き出すことができる。

・低度及び高度な脅威の双方に対応するためのバランスの取れた戦略の必要性

・米国のグローバルな航空オペレーションの戦略的重要性 -今日も依然増加する優位性

・“制裁(punish)”の非対称的脅威の威圧的有用性 -それは核の領域においても通常兵器の領域においても適用可能

・従来の兵力投射を補完するものとしての、隠密的活動の潜在的な有用性

・同盟の戦略的重要性


   1970年代半ばから後半、ブラウン国防長官とペリー国防次官は、ヨーロッパにおいて数量的優位性が増大し続けるワルシャワ条約機構軍を相殺するためのみならず、ソ連には長期にわたる競争の一部としてコストを課すための戦略を、同盟軍と米軍への情報科学技術の様々な実用形態をもって念入りに策定した。これらの投資はヨーロッパの兵力バランスを安定させ、空地共同戦闘/部隊縦深攻撃(the Air-Land Battle/Follow-on Forces Attack、トピックス037参照)の形態の新たな作戦構想を可能とさせたのみならず、統合的偵察及び精密攻撃網の開発により可能とさせた、多くが“戦争における革命(revolution in war)”と見なしているもののお膳立てを行った。この時代からは次のような教訓がいくつか導かれる。

   ・科学技術は数量的劣勢及び米国の好む方法での軍事競争を相殺するに効果的な“兵力増加手段(force multiplier)”でありうる。

   ・余裕をもって実行可能で、前線に配備された、戦闘において信頼できる地球規模でのプレゼンスを維持する十分に“廉価(low-end)”な能力を保持することが重要である。

   ・意味ある変化のための戦略的継続性の必要性と組織のコミットメントも然りである。

   米軍は、四半世紀近くの第2の相殺戦略により導かれた精密攻撃革命の分野においてほぼ独占してきたが、それも徐々に廃滅しつつある。将来の敵は、冷戦後の米軍による兵力展開アプローチに対抗するために、彼ら自身の監視網を張り巡らしている。彼らは戦域至近距離の拠点の設置、大規模地上部隊、洋上部隊、空母、非ステルス航空機及び宇宙インフラ機能へのリスクを保持することがますます可能になるであろう。ヘーゲル国防長官は、“今これらの課題に真剣に取り組まなければ、米軍は、米国の技術優勢を挫き、行動の自由を制限し、米国民の生命を危険に曝す先進破壊的な科学技術を有する兵器に直面した戦場に、将来行き着くことになる。”と述べている1

   アクティブ防御、すなわち“戦闘機対戦闘機”という方法で脅威に対称的に対処しようとすることは実用的ではなく、長い目で見れば財政的にも持続はしない。第3の相殺戦略は、米国の核心競争力であるところの無人システム及び自動化、長距離ステルス航空オペレーション、水中戦、複合的システムエンジニアリング及び統合を強化することによって、敵のA2/AD能力への投資 -特にかつてのミサイル保有数の拡大- を通常は相殺することができる。GSSネットワークは、これら永続的な優位性の分野における相互関連性を利用して、つり合いの取れた弾力性のある、グローバルに兵力展開可能な能力を供給することになる。新旧航空、地上、水上及び水中の作戦並びに地上配備システムをすべてリンクすることによって、脅威範囲全般のあらゆる地理的位置内における強固なISR攻撃プレゼンスの望ましい状態を維持するために、必要に応じて規模を拡大縮小することになるだろう。それは新たな兵器及びセンサー体系の有効性を向上させることによっても、超長期作戦遂行能力及び比較的低いライフサイクルコストを有し、ますます自動化する無人プラットフォームをさらに利用することによっても可能である。抑止が不成功に終わった場合、GSS兵力は侵略者の戦争目的を挫くために、固定、機動及び防護強化型並びに内陸奥地に存在する目標に対して速やかに攻撃し、非対称的な“制裁”軍事活動を遂行し、そしてもし必要なら、敵対者の監視攻撃ネットワークの“影響力を削減(rolling back)”することによって大規模、複数フェーズの複合軍事活動の態勢に移行することもあるだろう。

   1970代半ばにブラウンとペリーが予見した“アサルトブレイカー(トピックス034参照)”のすべてを配備するのに10年以上を費やしたとおり、もし、目的に集中した調査研究が今始まって、国防省、大統領府及び米議会が少なくともこれからの10年以上にわたって方向性を定めたとしても、GSSネットワークが初期運用能力(IOC)に到達するのは、せいぜい2020年代半ばまでであろう。国防に必要な、有限で減少を続ける資産を考え併せると、米国は兵力投射への現状の“通常業務的取組み(business as usual approach)”を継続することも、資産の準備並びに作戦及び戦略上の多くの課題を是正する時間も、それらがいったん顕在化した場合には、現状の手法では得ることができないのである。

(了)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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1Secretary of Defense Chuck Hagel, Defense Innovation Days, Opening Keynote Speech to Southeastern New England Defense Industry Alliance, September 3, 2014.


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。