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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その13)

(トピックス050 2016/09/30)

   今回は、限られたリソースの中でのGSS構想の実現に向けて取り組むべき事項及び新たな開発のための投資の候補並びに今後さらに必要な研究の方向性について提示している部分の紹介である。

********************************* 目 次 **********************************

   序 言(Foreword)

   要 旨(Executive Summary)

   イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

   第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

   第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想
・無人作戦における米優位性の活用
・長距離及びステルス航空オペレーションにおける米優位性の開拓
・水中領域における米優位性の活用
・米国の複合的システムエンジニアリング及び統合での競争力の開拓
・GSS構想を実行する活動の候補
・GSS構想を実現するための現行国防オプションの再調整
・追加調査研究の方向

   結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■ 第4章:新たな相殺戦略の実行~グローバルな監視及び打撃構想

◆米国の複合的システムエンジニアリング及び統合での競争力の開拓

   GSSネットワークは、多種多様の世界的に分散された異種“要素 (nodes)”を、回復力のある指揮統制通信アーキテクチャの内にある動的でアドホックなネットワークにリンクさせる必要がある。異なる質及びタイプの要素を考慮すれば、多種多様なデータリンクの構築と同じく、この任務の規模と複雑さは非常に厳しいものとなるだろう。本ネットワークは、例えば、今日の共同交戦機能(Cooperative Engagement Capability : CEC)すなわち海軍統合射撃管制対空システム(Naval Integrated Fire Control-Counter Air System)よりもさらに複雑さが桁違いになる。それは、敵のサイバー攻撃や電子攻撃からも守られなくてはならない。GSSの運用は、ISRデータを集約・相関し、敵性行為に関連するパターンを認識し、利用可能なISR攻撃資源を効果的及び即応的に割当てられるよう、向上型戦闘管理システムにより“監督(overseen)”される必要がある。米国は、そのような芸当をやり遂げるに必要な複合的システムエンジニアリング及び統合での競争力を有しているのである。

   時間とコストの制約を考慮すれば、GSSの指揮統制通信構成及び戦闘監視システムは、“匍匐(ほふく)、歩行、走行”アプローチで開発されるのであろう。当初は、世界中で利用可能なGSS要素の総数の一部のみで旧式の通信経路とリンクに依存することになる。それは、例えば、戦闘管理のために中央集約化されて自動化された意思決定ツールのお粗末なセットである、大まかにリンクされたいくつかの戦域C4ISRネットワークの形式をとるかも知れない。時が経てば、さらなるノードが進歩的にさらに多くの通信経路とともにネットワークに加えられるであろう。同様に、戦闘管理システムはますます自動化され、戦争の作戦及び戦略レベルにさらに注意を集中できるよう、上級士官の負担が軽減することとなる。

◆GSS構想を実行する活動の候補

   GSS構想は、A2/AD環境下を含んで複数の地域における間断ない米国のプレゼンスを生み出し、必要な時に兵力を投射する確実な方法を提供するようである。そうすることによって、危機事態の安定性と抑止を向上させ、同時に抑止が失敗した場合のより幅広い即応の選択肢を米国が獲得するであろう。

   短・中期的GSS実行活動がもたらすいくつかの追加考慮事項は、以下に示す事項を含む。

・GPSの代替機能に関する研究開発の加速により、衛星搭載機能の損失に備え、長期行動可能で/または空中給油機能を有する“ハイ・ロー”ミックスなISR無人機の配備及び長距離通信のための宇宙空間に代わる“空中通信網(aerial layer)”の開発

・将来の敵からの米国衛星に対する攻撃を抑止するための対宇宙機能の開発と機能発揮

・高出力エネルギー貯蔵(出力と持続力)、水中航法及び通信、自律化を含む無人水中ビークル実現技術開発の加速による水中部隊の地理的範囲の拡大

・バージニア級ペイロードモジュール計画への十分な投資、海上ペイロードポッド(国防高等計画研究局の“upward falling payload”計画の拡大)開発の加速、曳航型ペイロードモジュールの開発の開始、さらに多様な目標への対応のための対地トマホークミサイル及びスタンダードミサイル系列の改良、潜水艦発射の従来の弾道/ブーストグライドミサイル開発の開始による海中ペイロード容量及び柔軟性の拡張

・固定及び展開可能な海中センサーネットワークによりもたらされる地理的範囲の拡張

・近代化された陸海空に展開可能な機雷、同じく長距離対戦兵器の開発及び配備

・電磁レールガンとエネルギー指向システム(当初は空母打撃部隊及び周辺基地防衛に焦点)の開発加速及び配備を通じて、アクティブ防御とミサイル攻撃コストとの交換比率を逆転させる。

・エネルギー指向兵器(例:高出力ミリ波ペイロード及び高エネルギーレーザー)並びに近接ジャマー/デコイを含む、新たな対センサー兵器の開発及び配備

・自動化空中給油能力の配備を加速

・長距離攻撃爆撃機の開発の加速及び調達の拡大1

・中・高程度の脅威環境下のためのRQ-4グローバルホークに類似した高高度長期滞空ISR無人機の開発及び配備

・脅威の範囲をまたぐが、特に中・高度の脅威環境における脅威地理的に分散された監視攻撃作戦(すなわち可搬・移動型目標の破壊)のための、深く侵入し、空中給油可能で、地上配備及び艦載型無人空中戦闘システムプラットフォーム(MQ-X 及び 海軍無人空中戦闘システム)の開発及び配備

・短・中距離統合防空システム、沿岸防備巡航ミサイル、防御機雷、無人水中ビークル及び機動型地対地ミサイルで構成される遠征地上配備型、地域A2/ADネットワークの開発


   これらの構想は、米国の兵力投射機能及び能力を余裕をもって取り戻すことにより、効果的な相殺戦略に貢献するものである。確実な拒否と制裁の脅威をもって従来の抑止を強化し、米国がさらに有効にまたは脅威が少ないと見ている分野に競争の場を移すと同時に多大な“埋没費用(sunk cost)”投資の価値を低下させることにより、長期の競争の一部として将来の敵にコストを課すのである。(表2参照)

表2 : GSSへの投資が敵に与える費用賦課

   これらの調査研究及び調達イニシアティブに加えて、抑止を強化し敵の投資意志決定を方向付ける米国の優れた拒否及び制裁能力の双方を“明示する(demonstrate)”ために、一連の分野及び艦隊での試験を練り上げる —代用品及び試作プラットフォームの広範な利用を含む— のにも役に立つであろう。

   初期GSSネットワークの構成要素及び役割をまとめた表1のさらに際立った側面の一つは、両方の兵力構成及び調達の点でやがてA2/ADの問題が拡大し、度を増すことを明らかに示す脅威傾向であるとしても、現在の国防計画は低・中程度の脅威環境における運用に対しては非常にいびつである。これまで述べてきたように、航空集団は短距離・非ステルス航空機に対してはまったく釣り合いがとれていない。同様に、強烈な脅威環境が正反対の所要を示唆した場合に、潜水艦の能力は水上艦艇のそれに関連して縮小しつつある。これは特に問題であり、なぜならばプラットフォームは今日作られて、部隊で20年から50年使用されるからであり —その間にもA2/AD及び他の脅威は、確実に激増しさらに拡散するのである。加えて表2に列挙してある潜在的に高費用で財政負担の大きいGSS投資の多くは、現在は予算計上されていないか、比較的低いレベルでやりくりされているかのいずれかである。

◆ GSS構想を実現するための現行国防オプションの再調整

   表3は、主観的であろうとも、2025年以後に予想される広範な脅威環境における主要任務遂行のために、これまで述べた海空GSS装備の多くの相対的実力評価を試みるものである。緑は、すべての脅威にわたって関連する能力を示す。黄色は、高度な環境における重要な能力を示し、その能力は緩やかな脅威環境でさらに強固となる。橙色は、A2/AD環境で制限されるが、低・中程度の脅威環境下ではさらに強固となる能力を示している。赤色は、当面関係する任務に対して本質的に何の能力もないことを示す。

表3:脅威範囲で選定されたGSSネットワーク要素及び任務能力

いくつかの見通しは、ここに示す明らかに“一見 (first blush) した”評価から見出せる。

・探知されにくく残存性がさらに高い能力が、高脅威環境下での空中早期警戒、戦闘管理及び指揮統制通信システムに求められる。

・主として残存性を有する近接拠点の欠落、給油機の脆弱性、運用中及び計画中の戦闘機の比較的短い無給油行動範囲のために、攻勢的及び防勢的な対航空作戦への新たな取り組みが中・高脅威環境にとって必要とされる。

・旧式の爆撃機及び巡航ミサイル原潜の退役までは、米軍には極めて強力な遠距離攻撃能力がある。しかしながら、2020年代から2030年代の間にそれを持続するには、長距離攻撃爆撃機、MQ-X、海軍無人空中戦闘システム、バージニア級ペイロードモジュールを装備した攻撃型原潜及び曳航型攻撃モジュールが決定的に必要になるであろう。

・低、高密度の直接精密攻撃能力は両方とも、 —機動目標の“ハンターキラー(hunter killer)”が受け持つ範囲と同じく— 高度な環境において長距離攻撃爆撃機、MQ-X及び海軍無人空中戦闘システムの配備に決定的に依存している。

・A2/AD環境下での内陸奥地の攻撃及びHDBT破壊任務は、B−2/長距離攻撃爆撃機及び潜水艦発射のブーストグライドミサイルの開発に依存している。


   さらに広くは、5つのGSS構成要素の候補のうち、見たところでは機能的に高い任務横断性を有している3つのMQ-X、海軍無人空中戦闘システム及び水中曳航ペイロードモジュールが、現在開発の途上にないことが印象的である。GSSネットワークに必要なこれら及び他の高ペイオフ機能の開発に投資することは、現在進行中のいくつかの事業への集中を見直し、人件費及びインフラコストを抑制し、ゆくゆくは価値が下がっていく見込みの旧式の装備を放棄する必要があるだろう。

   本報告で述べている概念的な海軍無人空中システムの開発は、例えば、現在予算計上されている低~中程度の脅威環境下での海洋領域への配慮及びISRに焦点を当てた艦載無人偵察攻撃機(UCLASS)技術開発計画の再方向付けによって実現できるだろう。海軍無人空中システム5〜10部隊の導入は、2020年度にF/A-18E/Fの換装の計画のあるF-35C及び/またはF/A-XXの調達に関して現在計上されているいくつかの予算を利用することによって、達成することができるだろう。すでに述べたとおり海軍無人空中システムは、艦載航空部隊で換装される有人機(F/A-18、F-35C及びF/A-XX)に比して多大の運用・整備(Operation and Maintenance : O&M)コストの削減を生み出す見込みがある。本質的に、劇的に一層低いライフサイクルコストのおかげでそれ自体で元が取れるのである。計画中のMQ−Xは空軍が以前から何らかの形での調達に興味を持っているものであり、開発コストの再発生を最小限とするため、できる限り海軍無人空中システム計画の下で開発される多くのサブシステムとして用途変更するものである。MQ−X調達コストは、有人戦闘機の近代化及び部隊構成を再検討することで担保できるだろう。MQ−Xの運用・整備コストは、MQ−9リーパー及び/または有人戦闘機の部隊構成を削減することで相殺することができるだろう。

   海軍は、バージニア級攻撃型原潜に対するバージニア級ペイロードモジュール更新のための調査研究試験及び評価(Research Development Test and Evaluation : RDT&E)へ予算を計上してきたが、1隻あたり最低限30万ドル〜40万ドルの調達コストがすでに発表されている艦船建造計画に追加する必要があるだろう。水中領域では、予算計上は海底設置型及び曳航型ペイロードモジュールの開発と調達にも必要であろう。新たな攻撃ペイロード及び複数任務対応型水中無人ビークルの配備も同様である。空中領域においては、ステルス高高度長期滞空ISR 無人機の開発及び配備のための追加の資産を見出す必要があるだろう。それらの事業に予算を計上するには、上に掲げた多彩な“より細かな候補(smaller ticket)”項目と同様に、国防省が米国本土の基地インフラの超過分を削ること、及び膨れあがる医療費と人件費を削減するために人事システムを再構成することによって、“歯(tooth)”と“尾(tail)”という相対立するものへの支出を削減するための2重の努力をし直すべきなのである。加えて、選ばれた同盟国(例:日本、豪州、英国)はGSS機能の開発、調達及び運用に関して、求めに応じて進んでコストを分担するだろう。

   それらのイニシアティブに関する政治的及び外交的な問題を考慮すれば、部隊構成を削減すること、低・中程度の脅威環境下での作戦に主として貢献する旧式兵力に関する近代化計画の規模を見直すことが、国防省に必要になるであろうとも思われる。それはいくらかの事態で増加するリスクを受容することを意味するが、許容される環境での作戦が可能な兵力とそうでない部隊間の現状の不均衡を修正するためには必須である。計画上の統合部隊は、低・中程度の脅威環境でのISR攻撃作戦に関しては能力が超過しており、中・高程度の脅威環境での作戦には極めて能力が不足している。それを考慮すれば、投資削減対象は以下の通りである。

・空軍、海軍及び海兵隊に横断的に所在する有人戦術航空兵力構成での削減であり、すべてのF−35系列の調達の規模縮小を考慮 —F−35Cのキャンセルの可能性(改良型スーパーホーネット及び最終的には海軍無人空中システム)を含む。

・少なくとも1隻の空母の除籍

・大規模な水上艦艇部隊の調達の縮小(DDG-51)

・陸軍旅団戦闘チーム部隊構成及び近代化計画の削減

・さらに高価な強襲揚陸艦の代わりに洋上出撃準備基地及び統合高速輸送船(Joint High Speed Vessel : JHSV)の混合調達

・両用戦闘ビークルのキャンセル


   有限の資源を考慮すれば、迎撃基本のアクティブミサイル防衛及び程度はより少ないが、防勢的宇宙利用のように米国にコストを賦課しそうな運用形態から離れるよう移行するのも重要である。科学技術の革新的発展を除いて、双方の領域における競争は現状では攻勢的な支配が極めて優勢であり、従って、積極的に防衛する試みという役に立たないように見える財政支出の増加は、米国に対するコスト強要戦略なのである。どちらの場合も、パッシブディフェンス(選択的堅牢化、分散/非集合及び欺瞞)は、残存性向上に関してさらなるコスト削減の選択肢を提供するかもしれない。いずれにしても、本来の報復的な実力はそもそものところ、そのような攻撃を抑止することもできるのである。

◆ 追加調査研究の方向

   追加の分析及び運用構想の開発は、本報告書で示した予備的なGSS構想を敷衍するのに必要である。重要な研究の方向性は以下の通りである。

・GSS構想を支援するために求められるグローバルな指揮統制通信アーキテクチャ及び戦闘管理システム

・GSSネットワークノードに関するグローバルな拠点体制

・GSS構想における同盟国/パートナー国の役割

・特に“防護された”衛星通信といった宇宙空間における回復力に係るコスト削減的投資

・衛星通信喪失時の効果的補償の提供に必要な、空中通信網の指揮統制通信ネットワークの構造と密度

・低・中程度及び中・高程度の脅威環下それぞれに、水中及び水上精密攻撃能力と同じく、必要な量の待機状態及び急稼働ISR攻撃兵力

・兵力投射のシナリオの範囲をまたいで、望ましいISR攻撃兵力を生み出すための陸上及び海上、有人対無人、短距離対長距離航空機間の最良のバランス

・水上及び水中兵力構成のバランス

・将来的な空母艦載航空隊の望ましい構成

・基地及び空母周辺のパッシブ及びアクティブ防衛

・将来兵器の保有量及び混成具合

・将来兵器の保有量及び混成具合

・GSS構想での特殊作戦部隊及び一般地上兵力に関する拡張された役割と任務


(その14に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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1Mark A. Gunzinger and David A. Deptula, Toward a Balanced Combat Air Force (Washington, DC: Center for Strategic and Budgetary Assessments, 2014).


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。