海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME / 戦略研究会 / トピックス・コラム / トピックス047

 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その11)

(トピックス047 2016/09/21)

   第4章では、GSSネットワークが必要とする新旧技術のバランス、高い抗たん性、数分レベルの即応性及び事態に応じた柔軟な拡張性について、構成要素ごとに脅威の程度に応じた任務を対比して論じている。

********************************* 目 次 **********************************

   序 言(Foreword)

   要 旨(Executive Summary)

   イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

   第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

   第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想
・無人作戦における米優位性の活用
・長距離及びステルス航空オペレーションにおける米優位性の開拓
・水中領域における米優位性の活用
・米国の複合的システムエンジニアリング及び統合での競争力の開拓
・GSS構想を実行する活動の候補
・GSS構想を実現するための現行国防オプションの再調整
・追加調査研究の方向

   結 言(Conclusion)

*****************************************************************************

新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■ 第4章:新たな相殺戦略の実行~グローバルな監視及び打撃構想

   新たな相殺戦略の一部として、第3章でまとめた5つの能力領域における米国の優位性は、確実な拒否と非対称制裁の脅威による抑止のための統合GSSネットワークの形成を強化する。必要ならば、この同じネットワークは敵のA2/ADネットワークの“後退(roll back)”に使用され、さもなければ更なる伝統的な米国の兵力投射活動に関する前提条件となる。GSSネットワークとは以下に示すものであろう。

・広くさまざまな脅威環境に適合したローエンドとハイエンドのプラットフォームを織り交ぜた構成で、バランスが取れていること。—発展したA2/ADの課題を包含

・至近の拠点に最小限に依存し地理的に分散されること、敵の防空能力からの被探知度を大幅に減じていること及び衛星システムの妨害に対して抗たん性が極めてさらに高く、回復力のあること。

・確実な監視攻撃が、指示後の数時間内に —あるいは数分で— 発揮できることで、即応性のあること。

・世界各地で同時並行して生起している事象に影響を与えるよう展開されることで、拡張性のあること。


   米軍の多くの装備品は将来のGSSネットワークで重要な役割を占めるであろうが、一般的に航空及び海上兵力への依存が偏っており、特に無人プラットフォームで顕著である。(表1参照のこと。)米軍は、低・中程度の脅威シナリオと同様に平時における宇宙開発を継続するであろうが、中・高程度の脅威環境での宇宙利用の質的低下のおそれに対する保護策を講じるであろう。コンピュータ通信網防衛、同通信網攻撃、及び同通信搾取は、紛争の目立った領域である。そのような作戦の機微な本質を考慮すれば、本レポートにそれらを明確に記述することはない。

表 1: 主な航空及び海上のGSSネットワーク要素とその役割  (別ウィンドウが開きます。)

   特に、中・高程度脅威環境に対して整合されたすべてのGSS構成要素は、若干脅威の低い状況においても運用されることがあるが、その逆はないであろう。低・中程度の脅威に対処するGSS構成要素は、さらに厳しい脅威環境において少なくとも初期段階ではかなり制限される。それらは、例えば、周辺地上基地の後方安全確保及びさらに高い性能のシステムに依存する航空母艦に重点を置いて利用され、又はSATCOMの喪失・質的低下を補償する航空通信中継として機能するのかも知れない。

   GSSネットワークは、広域ISR、通信、基本的な精密攻撃のような主幹となる高い要求度の任務に関して極めて重大な抗たん性を有する。その他の任務に関しては、更なる特殊性が存在する。その任務とは、HDBTの撃破を一例として、主としてB-2、長距離攻撃爆撃機及び潜水艦発射の弾道/ブーストグライドミサイルに備わっているものであろう。同様に、無数のプラットフォームが機動・移動ビークルを機会目標として攻撃し、それらの目標探知及び無力化は、低・中程度の脅威環境ではMQ-9リーパー及びMQ-1Cグレイイーグル無人空中戦闘システム増強部隊の主要任務であり、ステルス性の陸上・艦上無人空中戦闘システムについては中・高程度の脅威環境下での任務となる。

   表1には反映されていないが、地上兵力は、地上配備ISR攻撃システムのための友軍基地の確保及び準備を行い、同時に将来の敵のシステムを無力化するための小規模で高度に分散された急襲が可能である。さらに広範囲のGSSネットワークへリンクされている友好国または同盟国の脅威を受けている領土内では、地上兵力は、平時における地上及び地域A2/ADネットワークの設置と運用による拒否を通じた抑止への、増大する戦略的な強みを支持することもできる。この努力に関する関係部門ごとの役割は、技術的な補佐及び高度な訓練から、共同オペレーションや、十分な警備兵力の支援を得た米軍主導のオペレーションまで様々であるかも知れない。抑止が失敗した場合には、これらのA2/ADネットワークは米国の同盟国(将来の敵の攻勢的計画を複雑にする)の自衛能力を改善することができ、敵の海空路の輸送の流れを阻止し、当該地域において友好国の海上交通の事実上の“護衛”を実施し、後方支援活動を促進する。(例:米国の給油機は、同盟国の空域防護を得て運用できる。)1これらのA2/AD地上任務部隊は、たとえば次の要素で構成される。それらは軽飛行機搭載のレーダーにリンクされた沿岸防備用巡航ミサイルシステム、“高性能 (smart)”沿岸機雷システムネットワーク、沖合のアクティブ・パッシブ音響アレイにリンクされた地上発射長距離対潜戦兵器、関連するセンサーシステムとの短・中距離防空機能、必要な場合の対地弾道及び巡航ミサイルである。A2/ADシステムの開発と運用にかかわる費用は、米国とこれに守られた友好国及び同盟国の間で様々な程度にシェアされる。

   これらの任務部隊は、可能な限り分散した状態で高脅威環境下での生き残りを模索するだろう。その策とは、陸地及び沿岸の機動性の利用、偽装、隠蔽及び欺瞞(camouflage, concealment, and deception : CCD)の実施、移動可能なアクティブ防御手段(好ましくは、高出力レーザーと電磁砲を基本としたシステムの組み合わせ)の運用並びに耐性強化候補への投資である。それらは、作戦及び戦略レベルの効果を生むために、地理を利用するのである。西太平洋地域では、たとえば、琉球/尖閣諸島から始まり台湾を通ってフィリピンとシンガポールに繋がる“第一列島線(first island chain)”における派遣米軍及び同盟国のA2/ADユニットは、効果的に中国人民解放軍の海空兵力を“封じ込め(bottle up)”ており、彼らのシーレーンを分断し、妨害及び対妨害作戦の両方を支援し、前進部隊に対し、米国が長距離通信のための衛星通信への依存を緩和するラジオ周波数通信“変換機能(gateways)”を通じた世界的な光ファイバーネットワークへアクセスさせている。A2/AD任務部隊の能力は、特に機雷とミサイルであり、敵が防御及び対抗するにはかなり困難でコストがかかるであろうし、そのような理由からコスト強要戦略の様々な構成要素となり得るのである。

   GSSネットワークは、グローバルな対テロ(counter-terrorism : CT)作戦及び対拡散(counter-proliferation : CP)作戦を遂行する、世界的に分散された特殊作戦部隊への即応支援を可能とする。陸上配備のMQ-9リーパーとともに、前方配備で幅広く運用される回転翼MQ-8Cファイアスカウト無人機、対空能力のある艦船(例:沿海戦闘艦艇、ミサイル搭載駆逐艦、洋上出撃準備基地[Forward Afloat Staging Bases : FASB])は、グローバルな特殊作戦部隊の支援に必要な地理的ISR領域の大半を攻撃可能とするであろう。拒否されたり政治的に機微な地域での対テロ作戦及び対拡散作戦に関しては、ステルス性高高度長期滞空ISR無人機及び同じく陸上、艦上無人航空戦闘システムは、代替的に信頼できるものである。不朽の自由作戦の初期段階で明らかになったように、小規模な地上特殊作戦部隊である“フットプリント(footprint)”及び上空を徘徊する即応的な経空ISR攻撃能力の組み合わせは、非常に効果的な非正規戦(unconventional warfare : UW)及び対非正規戦軍事行動を可能にするのである。ある脅威環境下においては、特殊作戦部隊による特別偵察及び直接的行動によりGSSネットワークの間隙部分を補完することもある。GSS構想の一部であるとは明確にはしないが、米国の戦略核兵力は、核攻撃に対する確実な抑止を維持するために重要であり続けるだろう。それらは、核武装した敵国に対する従来のGSS兵力で兵力投射するに必要な支えとなる。一方で、GSS兵力による絶え間ない監視は、核の領域における危機事態管理及びエスカレーション管理を向上させるのである。加えて、GSS兵力の電子戦、対統合防空システム、対ミサイル及び対潜戦能力は、全般的な生存性及び戦略的核戦力の効果を強化するであろう。

   GSS構想は、世界中の米国との同盟及び安全保障協力も強化する。高密度のA2/AD脅威の外側の重要地域の基地へのアクセスに加えて、米国の同盟国及び協力国は、次を含むロジと指揮統制通信支援を提供することができる。燃料及び事前に配備した保有兵器、グローバル光ファイバーネットワークへの“変換機能”、前に述べた地域A2/ADネットワーク、そして、GSSアセットが担うべき“後には引かない(hold the line)”兵力である。

(その12に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

--------------------------------------------------------------

1比較的高価でなく、商用可能であり、機動可能な地上配備型対艦ミサイルが、いかに効果的に太平洋上の中国のSLOCを阻止するために運用されるかの評価に関しては、次を参照のこと。
errence Kelly et al., Employing Land-Based Anti-Ship Missiles in the Western Pacific (Santa Monica, CA: RAND, 2013).


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。