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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その10)

(トピックス046 2016/08/31)

   今回は、新たな戦略に必要な戦略上の方向性について論じる部分の紹介である。

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   序 言(Foreword)

   要 旨(Executive Summary)

   イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

   第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素
・兵力投射のために永続的な米国優勢事項をそれぞれに強化する
・拒否と制裁による抑止をさらに強調する

   第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想

   結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■ 第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

◆拒否と制裁による抑止をさらに強調する

   これまで述べた米国のコアコンピタンスのさらなる利用によるそれぞれの兵力投射に加えて、米国についての従来の抑止信頼性への不安は、戦力の直接的な適用を通じて旧態に復帰するという、脅威にあまり依存しない戦略の採用により改善されることにもなろう。その代わりに、米国は、第一に戦争目標達成の可能性に関する敵の認識を減じること(すなわち拒否による抑止)、そして高価値目標への非対称的な報復攻撃で脅威を与えることにより、敵が戦争目的を達成しようとすることの予想コストを増大させること(すなわち制裁による抑止)に更なる重点を置くべきである。前者は脅威状況または基地利用の可否にかかわらず、高度な情勢認識と、敵の軍事行動開始直後にそれを挫くために速やかに兵力をあてがう実力の両方が要求される。そのゴールは、いずれも米国が急速な既成事実化(fait accompli)を達成する実現性について疑念の種をまくことになる。その実現性は、米国との摩擦が国内政治及び経済のすべての当事者によって長引くことになる恐れを米国が覆すにはコスト高で困難であり、そして/または、その恐れを増大することになるだろう。拒否による抑止は、生存性のある、戦闘で信頼のできる前線でのプレゼンスとグローバルな即応性に絶大な評価を置くのである。持続した前方でのプレゼンスは、敵に概略近い基地に所在する部隊によって真っ先に得る必要はなく、実際のところそうすべきではない。しかし、速やかに占位でき、長期間オンステーションし続けることができる沿岸の海軍プラットフォーム及び長距離空軍部隊があればその限りではない。制裁による抑止は、戦略家トーマス・シェリング(Thomas Shelling)によれば、それは“傷つける(hurt)”実力であり、最優先目標がどこに所在するのか、また、どのように防護されているのかにかかわらず、識別し破壊する実力と意志が要求される。

   武力をもって目的を達成しようとする敵の能力にある自信を減じる(拒否)ために、適した規模、形態及び態勢をとる将来の米軍だけでなく、敵がそうしようとするための蓋然的なコスト評価を上げさせること(制裁)は、通常抑止を強化することになるのである。敵を抑制すること及び同盟を再保証するためには、将来の敵の攻勢的な軍事行動計画に関連する作戦の重要な部隊と思われるものを粉砕する米国の能力を明示するために、平時における共同訓練は規定通りに実施することができる。—そして速やかに及び米国に対して受容可能なコストでそうすること。人間をリスクに曝さない無人プラットフォームに対する一層の信頼性は、例えば、米国の指導者は戦傷者を出すことに反対していると見る潜在的な敵の心情に、それら無人機の有用性の認知度を高めることになる。米軍は、以前に安全と推定された目標(例:堅牢に防護され、地中深く埋設された施設)を無力化する実力を証明するために、演習を計画することもできる。

   この拡張された抑止の枠組みが失敗に終わった場合には、米軍は敵の攻勢的な作戦を、急速攻撃、地域友好国および同盟国への損害を抑制、同時に、望ましくは既成事実化も妨げることによって、挫折させる準備ができるであろう。また、意図して段階的に引き上げられる制裁を与えることによって敵の追従(例:敵対行動の中止)を引き出そうとする試みにもなる1

    たとえば、中国がスプラトリー諸島や尖閣諸島を獲得しようと試みていること、または台湾に対する強襲揚陸に応じて、これはありそうにはないのだが、米軍は速やかに部隊と兵站の移動を阻止し始めるような態勢をとるだろう。(即ち、拒否による抑止)主要な兵力は、以下のような局所的なA2/AD能力を含むものであるだろう。同盟国の沿岸防備巡航ミサイル及び地対空ミサイル部隊、長距離攻撃爆撃機や地上及び空母搭載型無人空中戦闘システム並びに前方配備の無人水中ビークルによってあらかじめ敷設された機雷によって増強された“高機能(smart)”沈底機雷、攻撃型原潜及び無人水中ビークル(可能性)による魚雷攻撃、長距離攻撃爆撃機及び無人空中戦闘システムによる航空機発射型対艦ミサイル攻撃、地上・艦上からの無人・有人両方の航空機による攻勢的及び防勢的な対空ステルス性オペレーションである。目的は中国人民解放軍部隊の占拠の成功を妨げることであり、それをすぐさま“逆転させる”のはもっと困難で、コストが掛かりそうである。さらに上昇していくリスクをはらんではいるが、米軍は、(攻撃を行わなければ、損害を)受容せざるを得ない同盟国/友好国に対する損害を局限するのみならず、比較的距離の離れている第2砲兵ミサイル部隊のほとんど射程圏外にある米国“沿岸”基地への脅威を軽減するためにも、中国の飛行場、機動ミサイル部隊に対して攻撃を実施することも可能である。並行して、米軍は制裁軍事行動の一部として、中国人民解放軍の水上艦隊及び潜水艦隊を地理的位置にかかわらず沈め始めることもできる。中国の政府高官は、インド及び日本のような他の地域国による妨害からの重要なシーレーンの防護について神経を尖らせており、高コストの累進的な損失、交換困難な戦闘艦艇は、ほぼ確実に彼らの損失利益計算に影響を与えている2。 敵対行動の中止及び旧態への回帰という米国の要求を満たす“メンツを立てる”選択肢の中国政府に対する申し出は、段階的に上げられる非対称の“制裁”活動という説得力のある脅威によって支持されるのである。

(その11に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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1トーマス・シェリングは後者を“compellence”と表した。“野蛮な力(brute force)”が価値あるものを奪い、領土を占領し、または敵の武装を解除するために直接的に敵を制覇するが、compellenceとは“敵の撤退、または黙従、または傷つく恐れを引出し、しばしば狙うところが武力的に完結させることができなかった場合、にもかかわらず追従を引き出すために十分損害を与えることができる。”ということである。 Thomas C. Schelling, Arms and Influence (New Haven, CT: Yale University Press, 1966), pp. 2-3, 70-71, and 79-80.
2中国が輸入するおおよそ80%の原油、1日当たり300万バレル以上が、マラッカ海峡を通過する。
Gabriel B. Collins and William S. Murray, “No Oil for the Lamps of China?” Naval War College Review, Spring 2008, p. 1. For additional information on Chinese fears of interdiction of its energy lifelines to the Middle East, see: Ling Yun, “The Dragon’s Arteries,” Modern Ships, October 2006, pp. 8-19; Lei Wu and Shen Qinyu, “Will China Go to War over Oil?” Far Eastern Economic Review, April 2006, p. 38; Gabe Collins, Andrew Erickson, and Lyle Goldstein, “Chinese Naval Analysts Consider the Energy Question,” in Maritime Implications of China s Energy Strategy(Newport, RI: Chinese Maritime Studies Institute, 2006); and Andrew Erickson and Lyle Goldstein, “Gunboats for China’s New ‘Grand Canals’,” Naval War College Review, Spring 2009, pp. 43-75.


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。