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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その9)

(トピックス045 2016/08/23)

   第3章では、第2章で抽出した米国の兵力投射における作戦上及び戦略上の問題点を克服するために必要な新たな戦略の骨子と、長期的な競争に耐えうる態勢の構築について論じている。
   今回は、米国が優位を保つ各作戦能力分野における新たな戦略の方向性に関する部分の紹介である。

********************************* 目 次 **********************************

   序 言(Foreword)

   要 旨(Executive Summary)

   イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

   第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素
・兵力投射のために永続的な米国優勢事項をそれぞれに強化する
・拒否と制裁による抑止をさらに強調する

   第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想

   結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■ 第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素
   作戦上のリスクを削減し、危機事態の安定性を改善し、通常抑止の強化及び長期の米国への財政賦課を逆転するためには、国防省は新たな相殺戦略として以下を構築して採用する必要がある。

1. 強固なA2/ADネットワークを持ち、脆弱性が増大する前進陸上・海上基地への依存を軽減しつつ、 敵に対して持続した前方プレゼンスを維持し、必要な時及び場所に兵力を投射するために米国優勢の恒久的な資源を開拓する。
2.  旧態への復帰(status quo ante)のための“伝統的な”複合軍事活動による直接的な攻撃の脅威という前提に立った従来の抑止戦略から、相対的にさらなる重点を拒否及び制裁による抑止に置くという戦略へとシフトする。


   1950年代のニュールック政策でのように、米国は長距離航空作戦及び“戦略的非対称性”の威圧的有用性、もしくは、戦闘作戦の直接の戦域の外側にある高価値目標への攻撃で脅威を与えることによって生み出される戦略的柔軟性を利用すべきである。1970年代後半のブラウンとペリーの取り組みがあったように、米国は科学技術の優位性 —将来の敵とのジェット機対ジェット機、ミサイル対ミサイルでの競争ではなく、より小規模な統合兵力の効果を全体的に増強させ、有利な分野での競争に移行し、長期競争の一部として将来の敵に財政賦課を課す— の幅広い資源を強化すべきである。加えて、余裕のある規模柔軟性に関しては、今後の10年にわたって米軍が地球上の各地で直面するであろう多様な脅威に対して調整された、均一な“ハイ・ロー”ミックスな能力をも受け入れるべきなのである1。たとえば、世界のほとんどの地域で常時稼働するISRのプレゼンスは、非ステルスの空軍「RQ-4グローバルホーク」高高度長時間耐用無人機(HALE UAVs)、海軍「MQ-4トリトン」広域海洋監視無人航走ビークル、及び東欧(ロシア)、中東/レバント地域(シリア及びイラン)、西太平洋地域(中国、ロシア、北朝鮮)で重要視される中~高程度の脅威地域で必要とされ、いくぶんさらに高価な“ステルス”版無人機と対抗させた「MQ-9リーパー」中高度長時間耐用無人機(MALE UAVs)によって作り出されるものである。同様に、沿岸での遠距離攻撃能力は、多くの地域にある潜没プラットフォームよりもミサイル搭載駆逐艦(DDG)によってさらに余裕をもって得られる一方、追加の水中攻撃能力は、遠距離にて水上戦闘部隊を探知し、攻撃目標とする能力を有する敵国に対する兵力投射の際に必要となるであろう。(例:中国、ロシアはますます、結果的にイラン及びおそらくはシリアも)最終的に、過去の政策の両方がそうしたように、“第3の”相殺戦略は米国の同盟国との安全保障関係を十分に利用すべきなのである。

◆兵力投射のために永続的な米国優勢事項をそれぞれに強化する

   1970年代後半から1980年代にかけて米国がソ連の地上兵力の動きを制限し、その増強を弱めさせることによって戦争計画を妨げたこととなるワルシャワ条約機構の領域の “深部を注視”し“遠距離で射撃する”ための情報科学技術において優位を取っていたように、新たな相殺戦略は必要とされる時及び場所に確実に兵力を投射し、A2/AD能力への敵の投資の効果を削減し、危機事態の安定性及び通常抑止を高め、長期競争の一部分としてライバルにコストを課すために、永続的な米国の科学技術、作戦及び人的資産の優勢を利用することが可能であろう。現在の傾向を元に、無人オペレーションを含む米軍の優位の永続的な資源としては次のものがあるように思われる。長距離航空作戦、ステルス性航空作戦、水中戦、複合的システムエンジニアリング、統合及び運用である。

 無人オペレーション

   米国は無人システムの開発及び運用では、特に、RQ-4グローバルホークやX-47B UCAS-D(Unmanned Combat Air System-Demonstration)のような、発展的な自律ビークルに関しては、最一線に立っている。世界中で —特にイラク、アフガニスタン、パキスタン及びイエメンにおいて— 数100機もの無人機を運用してきた10年以上もの経験で、米軍は募集及び訓練プログラムを構築し、戦闘管理ツールを開発し、競争相手が簡単にはコピーできない運用上の成果を得てきた。

   陸軍及び海兵隊はイラク及びアフガニスタンにおいて、主に技術的な偵察及び手製の爆発物の駆逐に関して無人地上ビークル(Unmanned Ground vehicles : UGVs)運用の何年にも及ぶ技術的及び実務的経験を獲得してきた。海軍は、無人船舶(Unmanned Surface Vessels : USVs)と無人水中航走ビークル(Unmanned Underwater Vehicles : UUVs)の広い範囲での開発と経験を経てきている。ほとんどの努力は海洋ISR、海底地形マッピング、対機雷アプリケーションに焦点が置かれているが、海軍は、積極的に無人船舶と無人水中航走ビークルの開発を、対潜戦、器材運搬(payload delivery)、情報戦、及び緊急攻撃のために行っている2。産業はその間に、高密度エネルギー貯蔵装置及び水中通信を含む主要な無人水中航走ビークルを可能とする科学技術の分野において、重要な進歩を遂げているのである。

   米国は人工知能及び機械学習技術において世界のリーダーでもあり、時が経てばその技術はすべての無人システムを更に自動化するであろうから、潜在的に脆弱なデータリンクに依存しないようにすることができる。規模を拡大した無人オペレーション —海上、水中、地上及び宇宙空間を含む— は、米国の実用経験、自動化に関する項目における技術的競争力、複合的システムエンジニアリング及び統合において深く根付いた米国の優勢を強化する。燃料再充填可能または“再充電可能”な無人システムは、有人プラットフォームに比して比較的低いライフサイクルコストで任務継続性を延伸させるがゆえに、それらのシステムは、同時に複数地域に対する伸縮可能で持続した対処範囲を得る余裕を持った手段を潜在的に提供することができる。実際のところ、将来の可能性を有する先駆けとして、同時無人機オペレーションは、 —限定規模でのロケーションであっても— 既にアフガニスタンとパキスタン、中東及びアフリカの複数の“ホットスポット(hot spot)”で実施されている。

 長距離航空オペレーション

   継続的に高機動なISR及び攻撃オペレーションをグローバルに実施できる国は世界には他にない。この大陸間の到達を可能にする中心的技術は、空中給油(air-to-air refueling : AAR)である。米陸軍航空団(U.S. Army Air Corps)は、1929年という早い時期に空中給油を実験しており、戦略航空団(Strategic Air Command : SAC)は、大容量の燃料移送のための“フライングブーム(flying boom)”を装備したレシプロエンジンのKC-97ストラトタンカー、後に、最終的に700機生産されたジェット推進のKC-135ストラトタンカーを開発、配備することによって、1950年代初頭に空中給油を作戦能力に組み込んだ。半世紀以上にわたる空中給油の経験で、空軍は現在、ざっと現役、退役に分けてみても456機の空中給油機部隊を運用している。空軍は、ほとんどがKC-135Sであるが、老朽化する給油機部隊の予算を再構成し、2027年までに全179機のKC-46Aに換装しようと考えている3

   近い時期に、補給機部隊に加えて、長距離航空作戦部隊の中心勢力は有人爆撃機(B-2、 B-52及びB-1)、数100機のMQ-1/MQ-9リーパー異種型及び30機以上のRQ-4グローバルホークのような高高度長期耐用ISR無人機を手放すことになるであろう4。将来、統合艦隊は60機以上の長期耐用MQ-4トリトン広域海洋監視無人機でますます無人化される。艦隊は最初にB-1を、それから理論的にはB-52をステルス性の長距離攻撃爆撃機に代替するので、生存性もさらに向上するであろう。

   長距離航空オペレーションで賢明に学んだ財産は、米国がますます脆弱となる至近の前進基地へのアクセスなしに兵力を投射することを可能とするであろうし、そのことは危機事態の安定及び通常抑止を強化することになる。中~高程度の脅威環境においてこの能力を持続させるためには、給油機が敵の統合防空システム圏外に所在する間、兵力投射に十分な戦闘半径を有し、敵の航空防護戦闘機を包含するためのステルス性ISR攻撃機を開発・配備することが肝要である。無人オペレーションとグローバルな空中給油能力の結合は、時間でなく日数で計算して良いほどに極めて長時間の任務継続をも可能にし、広い地理的領域をカバーする比較的少数の持続的ISR攻撃無人機により可能になるのである。後者は —絶対必要ではなくても— 広範囲における移動及び再配置可能目標の探知及び攻撃に非常に役に立つのである。その無人機の基地が当初どこにあるのかにかかわらず、地上配備及び空母搭載の無人機が急速に特定の作戦域に集中できるというグローバルな即応性をも得ることができる。

   本章では航空戦力に焦点を当ててきたが、同様の米国の優位性は —即応性が低かろうとも— 原子力艦船(例:航空母艦、攻撃型原潜、巡航ミサイル原潜)、ドライ・カーゴ/武器弾薬艦(T-AKE)、急速戦闘補給艦(T-AOE)及び給油艦(T-AO) からなる戦闘補給艦部隊(CLF)並びに沿岸兵站施設の組み合わせによって可能となった海上作戦のグローバルな範囲に関して、おそらく存在している。第2章で述べたように、この優位性はますますもろくなり、いくつかの事項では過去20年にわたって委縮してきた。およそ30隻の艦船では、戦闘補給艦部隊はおそらく適切な戦時艦隊支援を行うにはあまりに規模が小さい。民間人も乗艦している。艦船は、それ自体ではいかなる自衛能力も有していない。加えて、沿岸施設は一般的に無防備である。海軍はもはや、航海中の垂直発射装置への再搭載を行う運用能力を有していないのである。

 “ステルス”航空オペレーション

   マルチスタティックレーダーとパッシブ赤外線探知システムは、将来的に“ステルス”航空機の探知性を向上させるかも知れないが、それには競争者が、信頼でき、探知、追尾、攻撃する最先端の長距離攻撃爆撃機のような低被観測性(Low Observable : LO)システムのISR攻撃ネットワークを一貫して配備するために、多大な時間と資源を必要とするであろう。ステルス性航空機により得られる重要な米国の作戦上の優位性を持続させるために、パッシブレーダーの非常に低い特性とラジオ周波数領域での発展型電子攻撃との相乗効果の結び付きはますます重要になってきており、それは電磁スペクトラムの赤外線部分の特性管理向上も同様である。いくつかの将来の敵(例:ロシア及び中国)は、彼ら独自のステルス機の開発と配備を開始しているが、米国はLO機の設計と製作において多大な質的リードを維持している。さらに、空軍の人員は30年にも及ぶ計画立案、実施及びLO機での戦闘作戦の継続の実用的な経験を有している。運用的には、競争者が熟練度のレベルに合致することは極めて困難であろう。LO機の作戦、近接電子攻撃及び新たな兵器の組み合わせでの米国の優位性は、防護された目標に対する大容量で精密な攻撃を可能とする。これにはA2/AD拠点、持続監視及び攻撃並びに機動及び移動目標への攻撃、また、防護され地中深く埋設された目標(hardened and deeply buried targets : HDBTs)への大型、地中貫通兵器による攻撃を含む。

 水中戦

   隠密性の利用は、海面下深く運用することと非常に低い音響特性によって可能であり、米国の潜水艦は、独自のISR任務、対潜戦(anti-submarine warfare : ASW)、対水上戦(anti-surface warfare : ASuW)、特殊作戦(special operating forces : SOF)における潜搬入及び搬出、無警告の精密対地攻撃を実施するために、ハイエンドのA2/AD環境下に侵入することができる。将来の敵は、米国の潜水艦にさらに対抗できる浅海域、チョークポイントで運用する対潜戦技術(例:海底設置、低周波アクティブソナー、無人水中航走ビークル、非音響センサー)の開発及び配備への投資を行っているが、海面下から兵力を投射する米国の潜水艦の実力は、ほぼ確実に持続し、敵が効果的に対抗するにはコストと時間を要するであろう。米国は、対センサー及び対航空作戦と同様に電子攻撃を行う能力を組み込むために、水中攻撃能力及び柔軟性の拡張によってこの優位性をさらに十分強化することができる。強固に防衛された至近の沿岸水域へ到達する米国の能力を保持するためには、以下を配備する必要があろう。

・進出している有人攻撃型原潜からの支援を受ける、さらに自動化した探知困難な同種系統長距離無人水中ビークル
・平時は潜水艦又は水上艦艇により、また、交戦時はステルス性航空機により敷設可能な海底設置型のペイロード・モジュール
・攻撃型原潜により事前に敷設できる、大容量の曳航式ペイロード・モジュール(towed payload modules : TPMs)5


   多くの水中戦に関する科学技術は、時が経てば必然的に拡散するであろうが、ライバルが米国潜水艦乗りの経験、熟練度及び実用的手法におけるスキルに匹敵できるのは困難であろう。

 複合的システムエンジニアリング、統合及び運用

   米軍と防衛産業は、“統合システム”構造と同様に非常に複雑な兵器システムの設計、製作、運用及び維持整備で証明された業績を有している。この財産は、何年にもわたる実務的な経験を集積した“コツ(art)”の重要な基準に加えて、深く広い技術的理解力が必要であり、この経験は多くの競争国が複製するには困難

なままとなるであろう。米国は、地理的に分散した異質のプラットフォーム —特に、前に参照されるプラットフォーム(例:長期耐用UAV、遠距離ステルス性航空機及び水中システム)— を、グローバルな監視攻撃ネットワークにリンクすることによってこの優位性を活用することができる。

   経営戦略の用語を借用すれば、これまで述べた5つのすべての能力分野は国防省の“コアコンピタンス(訳者注:競合他者を圧倒的に上回る能力)”と考えられる。コアコンピタンスとは、米軍が競争国の複製や対抗が困難な戦略的に有用なオペレーションを実行することを可能とする科学技術、産業基盤、熟練した労働力、職業訓練、戦略及び実務的経験の複雑な組み合わせである6。さらに言うなら、いくつかのプラットフォームが多様なコアコンピタンスを切り開くということは注目するに値する。B-2と長距離攻撃爆撃機はグローバルな到達能力とステルス性を結合させる。戦略型原潜と攻撃型原潜は、水中戦、おそらくは原子力により得られるグローバルな到達能力における米国の優位性を開拓する。将来の空中給油可能な、空母及び陸上配備の無人空中戦闘システムは、無人、長距離及びステルス性オペレーションでのコアコンピタンスを作り上げるのである。

(その10に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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11981年に、一例としてブラウン長官は“もっとも高度な武器システムをもってしても、我々とソ連との間の多くの不均衡がさらに広がることは許容できない。であるから、我々は、より高価でなくより複雑ではない高い科学技術で、高い性能の‘ハイ・ロー’ミックスを基調とする兵力の計画を継続するのである。”と述べている。Brown, Department of Defense Annual Report Fiscal Year 1982, p. x.
2Antoine Martin, “U.S. Expands Use of Underwater Unmanned Vehicles,” National Defense, April 2012, pp. 34-35; and DoD, Unmanned Systems Integrations Road Map FY2013-2038 (Washington, DC: DoD, 2013), p. 8
3DoD, Annual Aviation Inventory and Funding Plan: Fiscal Years (FY) 2014-2043, pp. 20-21
4米空軍は大まかに400機のMQ-9リーパーの調達を計画している。その調達は、ISRのみで30時間及びヘルファイアミサイルを搭載し約23時間の使用に耐える標準仕様と、それぞれで42時間及び35時間の任務に対応する距離延伸仕様とで分割されるであろう。また、3機のRQ-4 Block20、21機のBlock30及び11機のBlock40を配備予定である。そして、いずれも30時間強の耐用時間がある。Aaron Mehta, “U.S. Air Force Plans for Extended-Range Reaper,” Defense News, March 3, 2013.
5海底設置型ポッドは4000~6000mの深さに何年も前から敷設しておくことができ、それぞれが3から4基の武器または他の装備を格納しておける。考えられている曳航型ペイロードモジュール(TPM)は、長さ200フィート、直径30~40フィートで容量3000トン~1000トンの12本の円筒になる。それは続けざまに数か月配備に就くSSNに曳航されて大陸棚の海底に錨などで係止される。
6W. Cockell, J. J. Martin, and G. Weaver, Core Competencies and Other Business Concepts for Use in DoD Strategic Planning (McLean, VA: SAIC, February 7, 1992). This report was done for the Directors of Net Assessment, OSD, and the Defense Nuclear Agency.


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。