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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その8)

(トピックス044 2016/08/03)

   今回は、戦略上の各要素の問題点に関する検討部分の紹介である。

********************************* 目 次 **********************************

   序 言(Foreword)

   要 旨(Executive Summary)

   イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点
・増大する作戦上のリスク(1/2)
・増大する戦略的リスク

   第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

   第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想

   結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

◆増大する戦略的リスク

   これらの作戦上の課題には、少なくとも3つの解決し難い戦略的派生結果がある。それは、高まる危機状況の不安定さであり、米国の抑止力の信頼性及び米国の安全保障関与に見合う米軍への同盟国の信頼性の弱体化であり、そして将来のライバルと長期間競にわたり競争するための能力が弱まる米国へのますますの財政賦課である。

●高まる危機状況の不安定さ

   比較的数の少ない主要な米国の兵力投射拠点への継続的な依存は、2つの側面で戦略的に不安定になる可能性がある。

それは、地域的な武力競争(regional arms races)の誘発先制攻撃(preemption)の促進である。
   米国基地の増加する脆弱性を理解すれば、地域友好国と同盟国は、米国が彼らを守ることができるかますます疑問を持つかもしれない。そのような疑義と彼らの安全保障への増加する脅威への直面に取り組むには、彼らは自身の防衛のための新たな攻勢的兵器システムの導入または開発を含む、さらに積極的な手段を取ってよいのである。結果として生じる“安全保障のジレンマ”の動きは、潜在的に地域武力競争を煽り、極論すれば核の拡散につながる1。この動きは、世界経済の重要な経済エンジンである東アジアで生起しているようであり、中東はすでに経済、人口、政治、宗教及び宗派の緊張が不安定に入り混じって悩まされている。米国の同盟国及び友好国が彼ら自身の国防にさらに投資するということは積極的な進展だという議論がある一方、米国の影響が減少し、地域の不安定さが増加し、そしてリスクの上昇という点において、それはかなりの高いコストに行き着くことになろう。以下に論ずるとおり、効果的な国防を実施するための米軍の実力に対する弱まった信頼性は、いくつかの国に米国政府との安全保障協議を放棄する気にさせ、地域ライバル国に“なびかせ(bandwagon)”ることにもなろう。

   米国の決断を示すこと及び将来の敵を抑止することよりも、危機事態の状況下で脆弱な前進基地(例:沖縄)において米国が戦闘力を構築すると、紛争を不用意に引き起こすかもしれない。中国人民解放軍ドクトリンにおける奇襲を最大化すること及び主導権を得ることを主眼として両立し、中国は、彼らの領土又は軍に対する不利になる攻撃を米国から受ける前に、先制的に地域至近の基地に展開する部隊を中立化するという強固な動機を得ることになるであろう。第2砲兵部隊のドクトリンは、こうも推奨している。“敵が我々の軍事作戦の意図、行動、奇襲、先制行動、迅速な攻撃、急襲による拘束を察知する以前に、最初の機会で敵を攻撃することが必要である。”2 “利用するか失うか”と同様な見方は、おそらくイランと北朝鮮のミサイル部隊にも当てはまるであろう。

●抑止の確実性と同盟の信頼性の弱体化

   抑止の要は、将来の敵による侵害のコストを受容しがたいほど高くさせるという、米国の認知された実力と意志である3。その計算において重要なのは、脅威を与える行為を米国がやり抜く際に予期されるコストである。信頼に値するためには、米軍は脅威を与える行為を実施するに十分な物理的手段を有しているのみではなく、自国に対するリスクとコストを受容できる実力が必要なのである。

   もし、将来の敵が彼らの完成したA2/AD能力が米国の兵力投射努力のおおよそのコストを著しく上昇させることになると認識すれば、通常の抑止は弱まるであろう。中国の戦略書は、抑止には脅威を食い止める“実効的な能力”、それを使用する意志とともに“敵対者に対して抑止兵力を使用するための能力と意志の双方を認識させることを確実にする手段”が必要とされると力説している4。 中国人民解放軍は、アジアでの紛争における米国の予想コストをここ10年で上昇させるという明確に計画されたさらに能力の高い“対妨害”能力を積極的に配備し行使しているが、ここには中国の指導者が —他の将来の敵と同様— おそらく間違って、米国は地域の侵害行為に対応して兵力投射を行うことができない、及び/または、その意志がないものと結論を下すかもしれないという増大するリスクがある。同様に、米国の友好国と同盟国は米国との協定及び他の安全保障上のコミットメントの信頼性に疑問を抱き始めるかも知れない。米国にその責務に見合う能力又は意志のいずれかが欠けていると判断した場合には、米国の太平洋地域における同盟及び友好国はますます経済的にも軍事的にも力をつけている中国の“バンドワゴン”になるかも知れない。それは、米国の地域における戦略地政学的立場及び超大国としての信望を弱めるのである。

●米国への財政賦課

   必要な財政投資があれば、前進航空基地及び海上基地をより良く防衛することが可能であろう。問題は、米国に現在配備中のミサイル防衛費用が、米国に向けられるミサイル、特にSRBM及び短距離LACMの対価をはるかに超えていることである。前進航空基地の防衛のために、米軍はパッシブ防衛(例:早期警戒ネットワーク、防護シェルター、地下燃料タンク、分散配備及びアクティブ防衛)にも投資できる(おそらくすべき)だろう。これらすべての財政投資は高価で、少なくとも前進基地では、高密度のミサイル一斉射撃と経空攻撃により壊滅させられる可能性がある。終末高高度地域防衛(Terminal High Altitude Area Defense : THAAD)、イージス弾道ミサイル防衛及びパトリオット能力向上型システムに必要な年間費用を例にとると、30億ドル近くであり、そしてそれは配備中のミサイル防衛に関連する総コストのほんの一握り分しか表していないのである5

   航空母艦の残存性向上のために、米海軍はASCMの迎撃及びDF-21D ASBMの“探知~攻撃の流れ” (広域OTH監視システムの機能劣化から、ミサイルの様々な飛翔段階での迎撃、終末段階におけるセンサー妨害及び欺瞞に至るまで)の分断に必要な幾層もの能力装備に対して広く多大な投資をしている6。海軍作戦部長として、ジョナサン・グリーナート(Jonathan Greenert)大将は2012年にこう説明している。

   海軍戦力は、敵が我が艦艇を発見、追尾し、弾道ミサイルを発射して攻撃を完了するために必要な作戦上の連接された一連の動作における各動作に対抗することによって、ASBMを打破していく。海軍は、遠距離で艦艇を探知、追尾するために必要な広域監視システムを妨害し、欺瞞し、混乱させる新たなシステムを配備しつつある。いったん発射されたASBMを撃ち落とすために、艦隊はイージスBMDシステム及びSM-3ミサイルを使用する。そして、ASBM攻撃を完遂させないために、海軍は艦艇に向かってくるASBMを破壊し、妨害又は欺瞞するであろう新たなミサイルシステム及び電子戦システムを以後数十年の間に配備していく7


   第1にこれらの防御的手段への投資は高価である。


   SM-3ブロックIBの1発はおよそ1000万~1200万ドル、ブロックIIAの1発はおよそ2000万~2400万ドル必要である8。標準のDF-21D対処シナリオでは、複数のSM-3が発射される。それらの迎撃ミサイルの総コストは、それゆえに、1発およそ500万~1000万ドルと見積もられているDF-21Dの費用をはるかに超えることになるのである9

   第2にいくつかの防御的手段には敵が対抗策を打ち出す前の、限定された“有効期限(shelf life)”がある。


   米国が配備中の、敵のセンサーを“妨害、欺瞞、混乱”できる電子戦システムは、例えば、容赦なくそれらのセンサー周波数帯をシフトすることにより効果を減じる対抗策、複数モードのセンサーの統合、さらに能力の高い電子的自己防護技術に導くことになるだろう。

   第3に海軍が艦隊を防護しようとすればするほど、艦隊の攻撃威力は減じられることになる。


   DDGまたはCGの搭載が必要とされるセル(vertical launch system : VLS)に6発が搭載される防勢的なSM-3又はSM-2ミサイルは、それぞれがトマホークLACM又はその他の攻撃的ミサイル1発よりも必ず能力が劣るのである。

   これまでよりも大型の弾道及び巡航ミサイル兵器を量産している敵との現状の対称的な競争を継続していくことは、米国がコスト方程式の誤った結論に基づいて財政賦課戦略に対処していくということである。短期的には、米軍は作戦の重要な前進基地を防護するためのそのような投資を継続していくほかには、採りうる選択肢はほとんど無いように思われる。現状の攻防コストバランスを反転させる見込みのある2つの選択肢は、電磁レールガン及びエネルギー指向型終末防衛(例:高出力、半導体レーザー)10である。双方ともに交戦“弾(round)”あたりのコストを劇的に低減する無限の弾倉(a very deep magazine)であり、事実上反論するのは高くつくと証明することになるだろう。レールガンは、熱防御された高速弾道ミサイル再突入体に対する防御に集中し、一方で高エネルギーレーザーは、巡航ミサイル、有人及び無人航空機並びに他のジェット推進(air breathing)の脅威に集中できるだろう。そのような新たな防衛装備をもってしても、高密度のミサイル攻撃は至近の陸上及び海上基地への持続的な問題を残すようになるだろう。(例:敵の500~700海里以内)そのように、いかなる新たな相殺戦略の重要な要素も、至近の基地への依存をはるかに少なくした軍隊へと転換していかなければならないのである。

(その9に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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1 安全保障のジレンマの説明については、次を参照のこと。
Robert Jervis, “Cooperation Under the Security Dilemma,” World Politics, January 1978, pp. 167-214.
2 PLA Second Artillery Corps, The Science of Second Artillery Campaigns, pp. 139-141, 326, 401. For additional insight on PLA missile doctrine, see: Peng Guangqian and Yao Youzhi, eds, The Science of Military Strategy (Beijing: Military Science Press, 2005), pp. 459-461,463^166; Yoshihara, “Chinese Missile Strategy and U.S. Naval Presence in Japan”; and Wang Houqing and Zhang Xingye, The Science of Campaigns (Beijing: National Defense University Press, May 2000), pp. 312-330.
3 将来の敵が相対的なコストと利益をどのように認識して量るのかを理解し、したがって何が最も彼らを抑止することになるのかは、さらなる調査と分析に値する。
4 Larry Wortzel, “Deterrence and Presence after Beijing’s Aerospace Revolution,” in Andrew Erickson and Lyle Goldstein, eds., Chinese Aerospace Power, pp. 436—437; and Peng Guangqian and Yao Youzhi, eds., The Science of Military Strategy (Beijing: Military Science Press, 2005), pp. 213-216.
5 地上配備の中間弾道防衛システム、ミサイル防衛庁に関連する運用維持管理コスト、支援ISR及び戦域ミサイル防衛のための通信構成を除く。
OSD Comptroller, Program Acquisition Cost by Weapon System for FY 2015 Budget Request (Washington, DC: DoD, March 2014), pp. 4.2~1.6.
6 O’Rourke, China Naval Modernization: Implications for U.S. Navy Capabilities, p. 55.
7 Jonathan Greenert, “Sea Change, The Navy Pivots to Asia,” Foreign Policy, November 14, 2012. See also: “Interview: Adm. Jon Greenert,” Defense News, January 14, 2013, p. 30.
8 ミサイル防衛庁は、洋上配備型イージス弾道ミサイル防衛事業におおよそ年間17億ドルの執行を計画している。
Ronald O’Rourke, Navy Aegis Ballistic Missile Defense (BMD) Program: Background and Issues for Congress, RL33745 (Washington, DC: CRS, April 8, 2014), pp. 5, 14.
9 Andrew S. Erickson, “Ballistic Trajectory: China Develops New Anti-ship Missile,” Jane s Intelligence Review, January 4, 2010.
10 Mark Gunzinger with Chris Dougherty, Changing the Game: The Promise of Directed-Energy Weapons (Washington, DC: Center for Strategic and Budgetary Assessments, 2012), pp. 25-52.


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。