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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その7)

(トピックス043 2016/07/27)

   今回は、作戦上の各要素の脆弱性に関する検討部分の紹介である。

********************************* 目 次 **********************************

   序 言(Foreword)

   要 旨(Executive Summary)

   イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点
・増大する作戦上のリスク(2/2)
・増大する戦略的リスク

   第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

   第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想

   結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

   ◆水上艦艇の脆弱性

   洋上を移動する艦船の遠距離からの探知、追尾及び攻撃は、広範囲のISRネットワークが必要なだけでなく、迅速にミサイル“発射母体(shooters)”へ正確な目標データを送るため、当該データの収集、処理、融合及び伝搬を実施するための指揮、統制及び通信(command, control, and communication : C3)システムを必要とする。最終的に、ミサイルそのものは飛行費消時に累積される目標位置誤差を自動修正(または目標飛行中の更新情報を受信)することができなければならず、海面の“クラッタ―”(例:一般航行船舶(commercial traffic))から目標を分離できなければならない。成功裏にこの“探知~攻撃の流れ (kill chain)”を進めることが要求されるISR-攻撃ネットワークは非常に困難な課題であるが、いくつかの将来の敵は過去20年以上着実に進歩を遂げてきたのである。中国の場合は、例えばネットワークのISR部分は、地上、水中、空中及び衛星の拠点から構成され、パッシブセンサー(例:電子光学[electro-optical : EO]/赤外線[infrared : IR]、信号及び電子情報[signals and electronic intelligence : SIGINT/ELINT]、そして音響信号)とアクティブセンサー(例:over-the horizon : OTHレーダー、合成開口レーダー[synthetic aperture radar : SAR]及びソナー)の両方を運用する。現在では、遠方から西太平洋および南シナ海へ侵入しようとする米国の水上戦闘部隊を探知し追尾する運用能力を有している。

   将来の“海上拒否(sea denial)”ネットワークを有効にするISR及びネットワーク技術は、広く活用でき、広がっている。ロシアと中国の両国は、非常に能力の高いパッシブ、アクティブセンサーの多くの種類を市場に出している。海軍の専門家は、“おそらく2030年までに、艦船は、距岸数百~数千海里の範囲のだれもがそう望めばはっきりと存在を認識され、識別され、追尾されるということを我々は受け入れなければならないだろう1”と適切に総括している。

   将来の敵により開発配備されつつある“対海軍”ネットワークの精密攻撃部分は、発展型魚雷、陸上・海上・航空発射型対艦巡航ミサイル(ASCM)、中国とイランの場合には対艦弾道ミサイル(anti-ship ballistic missile : ASBM)である。中国の実戦配備中のASBMは、射程1500km以上のDF-21Dであり、“中国人民解放軍に西太平洋における空母を含む大型艦艇を攻撃する能力を持つことになる。2”数名の専門家は、中国人民解放軍は2015年の“12期5ヶ年計画”の終わりまでにはASBMの射程を3000kmに延伸しようと真剣に試みている可能性があるとしている3。イランはKhalij Farsを複製し、推定射程300kmでEO/IR終末誘導のFateh-110型ミサイルの同種型ASBMに努力を傾注している4

   過去20年にわたるコンピューターの計算及びデータ処理能力での劇的な成長を利用して、将来の敵はターゲティングの不正確さを補償し、比較的低スキルな人員により十分に運用可能な“打ちっぱなし(fire-and-forget)”兵器(例:発展型ASCM及び航跡誘導魚雷)の配備も進行している。今後10年の“対海軍”監視攻撃ネットワークの成熟及び拡散は、米国にとって、敵国の沿岸数百海里内での空母の運用を含む大規模部隊の運用は、ますます危険度を高めて行くであろう。西太平洋と南シナ海では、このスタンドオフ距離は10年以内に1500kmを超えてくる。これはトマホーク対地ミサイル(Tomahawk land-attack-missile : TLAM)の射程より約500海里も長く、大まかにF/A-18E/Fスーパーホーネット戦闘機の無給油戦闘半径の3倍である。将来の軍事行動の早期において、敵国の対海軍ネットワークが完全もしくはそれに近い状態で即応運用されることとなったならば、米国のミサイル駆逐艦(guided missile destroyers : DDGs)及びミサイル巡洋艦(guided missile cruisers : CGs)は、有効なTLAMの射程圏内に近接した場合リスクを受けるであろう。同様に、もし空母がASBMの対海軍脅威を受ける場合、搭載されている戦闘機は指定目標エリアからの進入/退出方の間の多様な空中給油サイクルを必要とするであろう。

◆航空機の脆弱性

   出撃中の米国航空機及び程度は低いであろうが、航空・海上発射型巡航ミサイルへの最も重要な“エリア拒否(area denial)”の脅威は、地上及び海上配備の統合防空システムである。最新式の統合防空システムは地球上に広く普及しているのみならず、それらはいくつかの重層的で、相互関係を有する傾向のために、さらに決定的に成長しつつもある。その傾向とは、広帯域周波数で運用するさらに高感度なレーダー、電子攻撃への抗耐性の増加(例:妨害(jamming)及び欺瞞(spoofing))、さらに進化した信号処理及び高速通信網である。ロシア製のS-300(SA-10/20)(訳者注:地対空ミサイル)の同種型を例として、これは、すでにアルジェリア、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ブルガリア、中国、スロバキア及びベネズエラを含むおよそ12ヶ国に供用されている。イランとシリアの両国は、ロシアからS-300の調達を繰り返し試みている。現状の同種型が、要撃機の最大レンジである100海里以上の物理的攻撃範囲を有しているが、伝えられるところによると、“ステルス性の(stealthy)”航空機及び巡航ミサイルを追尾し対処することができる幾分の能力を有しているとのことであり、後続のシステムはかなり長いレンジを持つと予想される5。中国はS-300の国産版であるHQ-9(訳者注:長距離地対空ミサイル)を複製し開発したが、それは近い時期に輸出可能となるようである。

   将来の敵は、近代化されたセンサーシステムを装備し、視界外(beyond-visual-range : BVR)で発射される空対空ミサイルで武装した、さらに高性能な戦闘機にも投資を行っている。これらの航空機は —いくつかのケースで、かなりの機数— 地上配備の低周波早期警戒レーダーによって発見された粗い航跡情報に基づいて米国航空機を要撃するために方向指示可能である。これは米国の航空戦力に重大な結果をもたらすが、現状、この航空戦力は、給油機から短い範囲にとどまっている限定的な無給油行動半径の戦闘機によって支配されている。米国の給油機が、自国の航空機が進入するための空中給油軌道(会合点)を維持する際には、敵戦闘機の無給油行動半径とそれらのBVRミサイルの射程の両方を受け入れる必要が生じるだろう。無給油時の戦闘範囲が600-900海里ある要撃機の部隊を増強している中国のような国家に対抗するには、米国の給油機は750-1000海里もの距離を開けた活動を必要とすることになる。このスタンドオフ距離がF/A-18E/F, F-22、F-35A/B/Cの無給油範囲を超えていることから、すべての米軍戦闘機部隊に関する攻勢的打撃の役割を前もって効果的に排除するということに注目することは非常に重要である。将来の攻撃機には、非常に長い無給油距離か、もしくは給油機を防護する新たな構想のいずれかが必要とされるであろう。

   先進の統合防空システムの拡散は、大多数の米国の監視攻撃機がこれまで述べたとおり行動範囲が短くステルス性がないことから、伝統的な米国の兵力投射にとっては問題となっている。今日、ステルス性の航空機(B-2, F-22, 及びRQ-170センチネル)は、統合部隊で保有する機の10分の1にも満たない。B-2を除けば“ステルス性”の航空機でさえも、脅威レーダー周波数全域及びすべての体勢からのRCS低減が不十分である。“準ステルス性(semi-stealthy)”のF-35ライトニングⅡ多機能戦闘機は、2020年半ばの長距離攻撃爆撃機(the Long-Range Strike Bomber : LRS-B)と同様、艦隊のあらゆる面での生存性を高めるであろう6。 ステルス及び非ステルス航空機間の厳しい不均衡は、国防省が現在執行中の公式計画の下では残存するであろう。この不均衡の矯正が、新たな相殺戦略の重要な構成部分となるべきである。

◆宇宙における聖域の喪失

   兵力投射のために、GPS、SAR、EO/IR及びELINT/SIGINT衛星、長距離搬送通信及び気象学を動員してのほぼ全球をカバーするISRで得られる精密航法及び時間計測について、米軍は極めて宇宙に依存するところが大である。不幸なことに、この依存を認識して、世界中の多くの国家が世界の市場で広く利用可能なGPS及び衛星通信(satellite communications : SATCOM)妨害に投資してきた。小さいが増加する政府は、地上配備型のレーザーシステムで低緯度軌道にあるEO/IR衛星を“幻惑”し、または盲目にすることができる。ロシアと中国は、致命的なレーザー攻撃を仕掛ける装備を開発している。これには、直接飛行し直撃破壊する対衛星(anti-satellite : ASAT)要撃や共通軌道攻撃を行うものがある7

   ロシア、中国を含む他の国も商用、軍用ともに宇宙に依存しているが、米国の依存度はさらに高いものがある。元米国国家情報局長(Director of National Intelligence)のジェームズ・クラッパー(James Clapper)が述べているように、“中国及びロシア軍の指導者は宇宙システムによりもたらされる独自の情報優位を理解しており、紛争の際に米国の宇宙利用を妨げる能力の開発を行っている8。”中国の場合、対宇宙の攻撃は、彼らの戦略書に際立って現れている。国防省によれば次のとおりである。

   中国人民解放軍戦略書は、“敵の偵察及び通信衛星を破壊し、損ない、妨害すること….”の必要性を強調しており、航法及び早期警戒衛星のようなシステムは、“敵の情報入手経路を断つ”ようデザインされた攻撃の目標として狙われることになる9

   

・GPSの精密航法及び計時信号は、特に重要施設の周辺ではしばしば精度が落ち、妨害され、利用不能となる。

・防護措置のない商用及び軍用衛星通信は激しく品質が低下するので、耐妨害性のある“防護された”衛星通信(例:最新の極高周波衛星)に殺到することになる10

・敵は、EO/IR衛星の直上通過時刻を知り、低~高出力レーザーでそれらを攻撃するかも知れない。

・SAR及びELINT衛星は、地上及び軌道上からの妨害を受けやすくなる。


   将来の兵力投射構想は、防護された衛星通信も含めて、高価な衛星の完全な喪失に対しても保護策を有しておくべきである。

   増大する前進基地の脆弱性の組み合わせ、地上戦闘部隊が遠距離の攻撃にさらに影響を受けやすいこと、さらに致命的となる敵の統合防空システムの拡散及び主要な衛星装備の潜在的な喪失又は機能不全が、“伝統的な”米国の兵力投射へのアプローチを根底から覆す恐れがある。このことは、米国のC4ISRネットワークの分断に焦点を絞った攻撃的な電子攻撃及びサイバー攻撃のような、他のA2/AD脅威によって悪化させられるだけなのである。

(その8に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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1 Norman Friedman, “The U.S. Navy of 2030,” Defense, Spring 2012.
2 OSD, Military and Security Developments Involving the People s Republic of China 2013, pp. 5-6; and Ronald O’Rourke, China Naval Modernization: Implications for U.S. Navy Capabilities, RL33153 (Washington, DC: CRS, February 2014), pp. 5-6.
3 Amy Chang and John Dotson, Indigenous Weapons Development in China s Military Modernization, Staff Research Report (Washington, DC: U.S.-China Economic and Security Review Commission, April 5, 2012), p. 23; and Mark Stokes, China s Evolving Conventional Strategic Strike Capability, p. 2.
4Jeremy Binnie, “Iran Rolls Out Ballistic Missiles,” IHS Jane’s Defence, March 6, 2014.
5“S-30/Favorit (SA-10 ‘Grumble’/SA-20 ‘Gargoyle’),” Jane’s Strategic Weapon Systems, July 18, 2013.
6 Carlo Kopp, “Evolving Technological Strategy in Advanced Air Defense Systems,” Joint Forces Quarterly, Issue 57, 2nd Quarter 2010, p. 93; and “Interview with Congressman J. Randy Forbes,” The National Interest, June 9, 2014.
7 2010年8月と11月、そしておそらく2008年に、中国が低高度周回軌道 (low earth orbit : LEO) 上で共通軌道対衛星能力を実証したと報じられている。
Andrea Shalal-Esa, “China’s Space Activities Raising U.S. Satellite Concerns,” Reuters, January 14, 2013; and Brian Weeden, “China’s BX-1 Microsatellite: A Litmus Test for Space Weaponization,” The Space Review, October 20 2008.
8 James Clapper, Director of National Intelligence, “Worldwide Threat Assessment of the U.S. Intelligence Community,” statement for the Senate Select Committee on Intelligence, January 29, 2014, p. 7.
9 OSD, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2013, p. 33.
10 現状及び予定されている米軍衛星通信の構成並びにこれに対する脅威についての詳細な議論は、次を参照のこと。
Todd Harrison, The Future of MILSATCOM (Washington, DC: Center for Strategic and Budgetary Assessments, 2013).


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。