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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その6)

(トピックス042 2016/07/20)

   第2章では、現状米国がグローバルな兵力投射に取り組む上で欠落している問題点を、過去の事例を紐解きつつ、また、特にロシア、中国等の現有能力を具体的に分析し、作戦的、戦略的側面から抽出している。

********************************* 目 次 **********************************

   序 言(Foreword)

   要 旨(Executive Summary)

   イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点
・増大する作戦上のリスク(1/2)
・増大する戦略的リスク

   第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

   第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想

   結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

    最近発出された4年ごとの国防レビュー(quadrennial defense review : QDR)では、国防省は“同時に本土防衛を可能とする能力を有するであろう、それは、分散維持された対テロ作戦の実施、複数地域における侵害抑止及び前線でのプレゼンス及び関与を通じての同盟の保証1”であると述べている。抑止が失敗した場合には、米軍は“大規模複数段階の軍事行動において地域の敵を打ち負かし、別の地域の侵害勢力の目的を拒否 —または耐え難い財政負担を強要— する2”とある。国防レビューは、勃興する作戦上の課題のいくつかに詳細に言及する一方で、いかに米軍が進行するA2/AD脅威の拡散及び度合いを考慮して兵力を投射するのかについて探求していない。国防レビューが助言(例:発展型防空ミサイル防衛、第5世代戦闘機及び“重要な海軍装備の最新モデル”)していないそれらへの投資は、兵力投射の日常業務的な取り組みの象徴的なものである。それを反映して、国防レビューで記述した、“再調整した(rebalanced)”2019年の米軍は、いくつかの分野ではさらに小規模であるが(例:地上軍及び戦闘機部隊)、今日配備されているものと全体としてほぼ同一である。

   1993年のボトムアップレビュー(訳者注:ほぼ同時に生起する2MRC[Major Regional Conflict、大規模地域紛争]に対応するために必要な戦力を積み上げ方式で算定した、第一次クリントン政権時の国防戦略・戦力構成見直し政策)の開始にあたり、それぞれすべての兵力組成計画は、重なる時間枠での主要な地域2正面における戦闘で勝利する最小限の余力が必要とされた3。2014年の国防レビューではしかしながら、副次的な戦域での作戦において単一の機会的侵害の目的を“拒否”しつつ、一つの敵を打倒するための要求を削減するという測定基準から出発している。“打倒”と“拒否”の間の境界は曖昧であり、この遷移については、米軍がもはや異なる敵対地域における二つの“大規模で複数段階の軍事行動”の実施に対して十分な余力を有していないという暗黙の認識となるものとみられる。世界中での潜在的な安全保障問題の数々を考慮に入れると、米国は一つ以上の将来の敵による機会的な侵害を拒否することができなければならない。国防諮問委員会による国防レビューでは、次のように結論付けられている:

   米軍は、一つの戦域において大規模侵害を抑止又は打倒するために規模を適正にスリム化すべきである。好ましくは地域同盟国及び友好国と協調し、一方で同時にそして断固として、複数他の戦域における機会的侵害を、敵の目的を拒否することにより、または許容できない賦課で制裁することにより抑止し挫きつつ、そしてこの間にも米国本土防衛及びグローバルに活動中の対テロ作戦のような任務を継続するのである4


   1994年から1995年のバルカン(Balkans)作戦及び2001年秋のアフガニスタン作戦 —これらは双方とも、小規模地上部隊“フットプリント(footprint)”による長距離、精密攻撃作戦運用上の効果を展示したもの— は特筆すべき例外として、砂漠の嵐作戦以来の兵力投射の際の事実上の米国の優先は、戦闘兵力及び作戦域で与えられる後方支援の“鉄の山(iron mountains)”を 徐々に構築することであり、近傍の陸上・海上基地からの航空戦力の出撃回数の最大化、及び武装部隊を通じて直接敵を“打倒”する大規模な機械化部隊を運用することとされてきた。我々は四半世紀以上学んできたが、このマンパワーを強調した取り組みは、前線基地への政治的なアクセスに依存し、即応性を欠き、非常にコストがかかり、いくつもの戦域において容易に規模の調整ができないのである。

   いかに米国は、勃興する脅威及び予想される財政レベルを考慮しつつ、いくつもの地域において好ましく抑止し、必要ならば侵害を打倒するのか?国防レビューで提起され、国防委員会(National Defense Panel : NDP)によって強調された規模の問題に加えて、米国の兵力投射への現行の取り組みをやり抜くにあたっての少なくとも他に二つの問題、つまりは増大する作戦上及び戦略上のリスクが存在するのである。(戦略上のリスクの例:危機事態の不安定さの高まり、米国の抑止関与の信頼性低下、及び受け入れがたい長期にわたる米国への財政賦課)

◆増大する作戦上のリスク

   米軍は、砂漠の嵐作戦で露わになった科学技術上の“相殺”を、四半世紀近くもの間探求し構築してきた。歴史における前代の“軍事革命”に対する競争的行為に基づくものと予想されるが、将来の敵は米国がいかに戦力を投射するか、発見した脆弱性を学んでおり、これらを利用するために装備を開発、配備している。言い換えれば、米軍が追及している方針に沿って兵力を投射した場合の予期コストは増大しているという事である。この課題に対処する効率的な努力なしには、現状及び計画されている兵力投射部隊は浪費の産物となってしまうだろう。チャック・ヘーゲル国防長官は最近次のようにコメントしている。

   我々は、洋上、空中及び宇宙 —言うまでもなくサイバー空間— における米国の支配的立場は、もはや当然のこととしては考えられない時代に突入している。そして、米国が現在決定的な軍事力及び科学技術において、どのような潜在的敵を凌駕していても、我々の将来における優位性は当然のことにはならない。


   さらに具体的に言えば、米軍は現在4つの主要な作戦上の問題に直面している。

   1.  地域至近の基地(例:港湾、飛行場及び陸上軍事施設)は、世界中の国々の数が増加している状況で、攻撃に対してはますます脆弱になりつつある。


   2.  洋上にある大規模な水上戦闘部隊及び空母機動部隊は、敵の沿岸から遠距離での探知・追尾及び攻撃がより容易になってきている。


   3.  非ステルス航空機は、近代化された統合防空システム(integrated air defense system : IADS)によって撃墜されるようにさらに脆弱になりつつある。


   4.  宇宙は、もはや攻撃から逃れる聖域ではない。


◆地上基地の脆弱性(Land Base Vulnerability)

   敵の観点からは、主要な米国兵力投射の“拠点(hubs)”に対する攻撃を企図することは、それらが比較的判りやすく配置されていることはよく知られているであろうし、比較的少数で、平時にはその正確な地理的位置は容易に特定できる。攻撃の選択肢としては、従来のありとあらゆる攻撃方法(例:テロ攻撃、妨害工作、特殊作戦部隊による急襲)から、「精密誘導ロケットによる短距離攻撃、砲兵部隊、迫撃砲及びミサイル(guided rockets, artillery, mortars, and missiles : G-RAMM)、高密度な航空攻撃」、そして最も恐れる「弾道ミサイル及び巡航ミサイルによる長距離精密攻撃」までがある6。ミサイルの拡散状況を考慮すれば、ミサイルで武装する国家が単に増加するだけでなく、それらの兵器それぞれの規模、殺傷性及び正確性も増加するということであろう。中国はこの件に関して脅威の先行役を演じているが、程度の差こそあるものの、ロシア、北朝鮮、イラン及びシリアは我の基地使用を拒否する他の能力同様、増強しつつかなりの通常のミサイル戦力を有しているのである。

   中国人民解放軍(China’s People’s Liberation Army : PLA)の第2砲兵部隊は通常及び核ミサイル作戦を担任するが、この部隊に求められるドクトリン(doctrine)は、特に米国および同盟国の前進基地と施設に対する攻撃である。中国の“積極防衛(active defense)”という最も重要な戦略と“介入阻止(counter-intervention)”及び“対航空急襲(anti-air raid)”行動と完全に調和しつつ、第2砲兵戦略指揮学院が指導するのは、例えば:

   勢力の強い敵が、我が国周辺の同盟軍の基地及び軍事介入の様々な形態を実行する航空機発艦プラットフォームとしての航空母艦を使用する際、また、わが国周辺のその敵の同盟国の軍事基地が我々の対空火器の射程圏外のとき、空母戦闘集団が我が国沿岸から遠く離れているとき….通常型ミサイルは我が国周辺と同時に空母戦闘集団周辺の敵の同盟国軍事基地に対する嫌がらせ的な攻撃に使用することができる7


   それらのドクトリンの根幹に戦闘力を置いてみると、第2砲兵部隊は少なくとも7個短距離弾道ミサイル(short range ballistic missile : SRBM)旅団、3個中距離弾道ミサイル(medium range ballistic missile : MRBM)旅団及び3個地上配備型巡航ミサイル(ground-launched cruise missile : GLCM)旅団を、過去20年の間に作り上げてきたのである8。それらは現在以下の装備を配備している。

・韓国及び台湾の主要基地を射程に収める1000基以上のSRBM

・DF-21とその同種型を含む多くのMRBM並びに沖縄の主要施設同様に日本、フィリピン、東南アジア本土の主要飛行場及び港湾を攻撃できる陸海空発射型対地巡航ミサイル(LACM)

・CJ-10/20LACMで武装したH-6K戦闘爆撃機による、グアムのアプラ港及びアンデルセン空軍基地を攻撃できる限定的能力9


   中国人民解放軍は、射程3000kmから5000kmの通常IRBMも開発しており、日本からマリアナ諸島及びグアムを経てインドネシアに至る“第2列島線に到達する、ほぼ精密攻撃に近いその性能は向上している10。”2013年の米中経済安全保障概観によれば11、“中国人民解放軍は急速に拡大し、以前は手が届かなかったグアムの米軍施設を含んで、アジア太平洋地域全体で米国の基地、船舶及び航空機を攻撃する能力を多角化している。”  中国人民解放軍の専門家によれば、中国は従来の精密攻撃能力を2020年までに8000kmまでに拡大したいと躍起になっている12

   世界中の将来の敵が我の近接基地使用を拒否することは —非通常攻撃、G-RAMM攻撃によるか、長距離航空及びミサイル波状攻撃によるかにかかわらず— 米国の兵力投射に対して大いに有害な暗示となるであろう。

   第1に、確保された港湾へのアクセスなしにいかなる種類の大規模地上兵力 —特に、装輪装甲車(Army’s Stryker)及び武装化“重” 戦闘旅団のような重機械化地上兵力— の投入及び維持も、少なくとも軍事行動の初期段階では現実的ではないだろう。戦況が目まぐるしく変わる航空作戦では兵站から見て、持続させるにはやはり問題があるだろう。


   第2に、近接航空基地(すなわち目標地域の500マイル~1000マイル圏内)へのアクセスなしには、米国本土を拠点とする主要な航空戦力も、不十分な戦闘半径ゆえに広範囲の(そして潜在的に脆弱な)空中給油支援も活動を妨げられるだろう。2019年時点では、即戦力化(combat-coded)された短距離、有人戦闘機は大まかに10対1の割合で長距離爆撃機の数を凌駕している13。中高度長期耐用型(medium altitude, long endurance : MALE)ではMQ-9リーパー無人航空機が考慮され、遠距離、短距離航空機の割合は未だに大まかに3対1である。


   第3に、米海軍兵力投射も、武器弾薬、艦船及び航空燃料が貯蔵されている沿岸沿いの前進兵站支援施設に頼り切っている。通常は防護されずにこれらの施設と艦隊との間を往復する戦闘補給艦艇部隊(combat logistics force : CLF)からの再補給がなければ、戦時における典型的な空母攻撃作戦は数日のうちに継戦不能となるであろう。


(その7に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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1 OSD, Quadrennial Defense Review 2014 (Washington, DC: DoD, 2014), p. 22
2 Ibid.
3 Mark Gunzinger, Shaping America s Future Military: Toward a New Force Planning Construct (Washington, DC: Center for Strategic and Budgetary Assessments, 2013), pp. 3-13.
4 William Perry and John Abizaid, co-chairs, Ensuring a Strong U.S. Defense for the Future: The National Defense Panel Review of the 2014 Quadrennial Defense Review (Washington, DC: United States Institute of Peace, 2014), p.2.
5 Secretary of Defense Chuck Hagel, Defense Innovation Days, Opening Keynote Speech to Southeastern New England Defense Industry Alliance, September 3, 2014.
6 ミサイル攻撃に対する航空基地の脆弱性に関する詳細な考察については、次を参照のこと。
John Stillion and David Orletsky, Airbase Vulnerability to Conventional Cruise-Missile and Ballistic-Missile Attacks (Washington, DC: RAND, 1999).
7 PLA Second Artillery Corps, The Science of Second Artillery Campaigns (Beijing: PLA Press, 2004), p. 401.
8 Ron Christman, “China’s Second Artillery Force,” in Peter Dutton, Andrew Erickson, and Ryan Martinson, eds., China s Near Seas Combat Capabilities, China Maritime Studies (Newport, RI: Naval War College Press, February 2014), pp. 31-34.
9日本所在の海軍基地、特に横須賀と佐世保を攻撃するために必要な作戦上の要求について、中国人民解放軍陸軍の思惑に関する詳細な議論は次を参照のこと。
Toshi Yoskihara, “Chinese Missile Strategy and the U.S. Naval Presence in Japan: The Operational View from Beijing,” Naval War College Review, Summer 2010.
10 OSD, Military and Security Developments Involving the People s Republic of China 2013, p. 37; and Andrew Erickson, “Beijing’s Aerospace Revolution,” in Andrew Erickson and Lyle Goldstein, eds., Chinese Aerospace Power (Annapolis, MD: Naval Institute Press, 2011). p. 7.
11U.S.-China Economic and Security Review Commission, 2013 Report to Congress (Washington, DC: GPO, 2013), p. 233
12Mark Stokes, China’s Evolving Conventional Strategic Strike Capability (Arlington, VA: Project 2049, September 2009), p. 2.
13 現在保有量(稼働及び予備)の点から、長距離及び短距離軍用機間の不均衡はおおよそ戦闘機3,300機に対して爆撃機159機、つまり20対1以上の比率である。2019年の時点で、空軍は戦闘機971機及び重爆撃機96機をすべての種類保有することになる。
DoD, Annual Aviation Inventory and Funding Plan: Fiscal Years (FY) 2014-2043 (Washington, DC: DoD, May 2013); and OSD, Quadrennial Defense Review 2014, p. 40.


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。