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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その5)

(トピックス040 2016/07/13)

   今回は、現在の米国を取り巻く各種情勢に照らし合わせた新たな戦略に必要と考えられる能力等について,
先行事例となる2つの戦略から得られた教訓を抽出し、検討を開始する部分の紹介である。

********************************* 目 次 **********************************

   序 言(Foreword)

   イントロダクション(Introduction)

第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例
・ニュールック政策
・相殺戦略
・“第3の”相殺戦略に向けた機会と課題

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

   第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

   第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

   第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想

   結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■ 第1章:“第3”の相殺戦略の先行事例

● “第3の”相殺戦略に向けた機会と課題

   今日、米軍は先の見えない厳しい財政状況に直面している。一方で米国には、全世界で増加する複雑に絡んだ安全保障の問題が同時に立ちはだかっている。米国は、現状の統合寄せ集め的兵力投射の単なる規模拡大では対応しきれないのである。実際、特に医療及び退役手当に関して膨れ上がる人件費のために、来る10年のうちに人的労働力はおそらく縮小して行くであろう。同時に、砂漠の嵐作戦以来 —戦闘部隊の大規模な集中の遅延を典型的に引き起こした(例:空母打撃群、有人機航空隊、及び機械化海兵隊大隊・陸軍旅団戦闘部隊)のと同じく、急速に推移する軍種混成の軍事行動の前提として確保される前線地域において生じる後方支援基盤と兵員— 一般的な米国の兵力投射に対するアプローチは、下記に詳細に示す作戦及び戦略上の多くの理由から、ますます持ち堪えられなくなりつつある。

   したがって何が必要かと言えば、新たな相殺戦略であり、それは費用対効果並びに持続する前方プレゼンス及び急速な兵力投射を維持するための米国優勢という恒久的な資産を開拓するもので、一般には強固なA2/AD下の敵兵力と、とりわけこれまでに拡散した通常型ミサイル兵器への対抗を含んでいる。

   その戦略は以下に示すものであるべきである。

・衛星搭載機能の喪失もしくは機能低下に対する保護策

・“全世界に伸びる”米海空軍戦力、航空戦力及びミサイルの即応性並びに配備位置での持続性及び低ライフサイクルコストな無人プラットフォームの活用

・現下の戦闘地帯の外側で目標を危機にさらす“戦略的非対称性”の開拓

・競合国への財政賦課を行いつつ、競争を米国の優位な分野(例:水中領域)へシフトさせる方向付け

・地位的優位性の確保及びいくつかの場面では財政的負担を分担する同盟関係の活用


   今日の相殺戦略を構築するのは、1970年代後半の同時期よりも次の少なくとも3つの理由からさらに困難な仕事となるかも知れない。

   第1は、中国の重大な経済減退がなければ、これからわずかな期間で“解決法を買う”決定が米国にとって困難であるとの証明におそらくなる、ということである。


   CIAの当時の見積もりによれば、1960年から1980年の間のソ連のGDPは、米国のそれの50~60%で推移しており、ソ連の経済成長率は10年間減少傾向にあった。1970年代の半ばから終わりにかけて、ソ連は米国よりも絶対的に国防に予算をつぎ込んだ一方、経済に対する国防負担は少なくとも2倍になっていた1。したがって財政的な観点から、時はおそらくアメリカの側に移っていた。今日米国の経済は振るってはおらず、今後10年は少なくとも、国防予算は横這いか、下降のままであると予測される。これに反して、経済上での米国の第一の競合国である中国は実質7%越えで成長し、控えめな“公式”の国防支出は、過去10年間で年間平均10%に上っている2。2024年までに中国の経済は米国を凌ぐという共通認識が大勢になりつつあるように見えるであろう3。とは言うものの、構造的な多くの問題及び輸出に偏重した成長モデルからの移行の必要性を考慮に入れると、中国経済が今後10年で大幅に減速する良い機会がある4。もしこれが起こると、中国政府は各軍種の分野と支援基盤、国内消費及び軍の近代化への投資において困難な選択を迫られることになるだろう。

   第2は、米国とその同盟国の基地分散と防護策への著しい投資によって軽減されるだろうけれども、海外と国内の双方におけるそのような支出は、政治的なハードルを越えることが困難となる。


   ブラウンとペリーの相殺戦略は西ヨーロッパのワルシャワ条約機構の侵略を抑止するために、必要ならばそれを挫くためにまずは守備隊兵力を使うことに焦点を当てていた。地理的に分散された圧倒的なネットワーク、堅牢化された基地に事前に配備されていたので、冷戦時の米軍は事実上、西ヨーロッパに機械化地上軍を展開するソ連軍に対してNATO同盟国とともに防御的“ホームゲーム”を演じていた。今日、状況は反転している。米軍はもはや自陣フィールドでの優勢を有していない。ほとんど防護されていない限定数の前方基地は、ますます比較的短距離の誘導ロケット、砲兵隊及び迫撃砲 —同じく長距離弾道ミサイル、巡航ミサイル及び攻撃戦闘機による攻撃のリスクに見舞われるが、これらの前方基地に膨大な距離を越えた兵力投射を可能とすることが必要である。

   第3は、米軍の兵力投射能力に対する作戦上の課題はさらに多面化しており、将来の敵の数は、それぞれの軍事力の見通しと同様、はるかにより大きくなっている。


   ブラウンとペリーの相殺戦略は、比較的狭い範囲の作戦上の問題(例:ソ連とNATOとの通常兵力との数量的不均衡、特に中央ヨーロッパにおける陸上兵力)及び明確な敵であるソ連に焦点を当てていた。今日、楽観的な側面からいうと、米国は広い範囲の地域友好国及び共通に認識された脅威に対して連携した同盟国をも有している。この優位性は、米国の将来の敵(例:イラン、北朝鮮、ロシア及び中国)がそのような同盟国を有していないだけでなく、それらの国々を監視しようとする地域の対抗国にも対峙しているという事実によって、その影響を強めているのである。

   この報告書は以降、現状の米国の兵力投射に関連した作戦及び戦略上ますます増える課題について論じることとする。それにより、無人オペレーション、長距離ステルス航空オペレーション、水中戦、複合的システムエンジニアリング、統合及び運用という永続的な米国優勢を開拓することによって、敵によるA2/AD能力を“相殺”することを提言する。その戦略の中心軸はGSS(Global Surveillance and Strike)ネットワークの開発と配備であり、脆弱な前方基地に対して減少した依存性及び多大なライフサイクルコストの削減を約束する無人システムへの著しく増加した信頼性をもって、すぐさま複数地域に米軍兵力を投射するものである。

    コストを最小化するため、この新たな相殺戦略もハイ・ローミックスの取り組みと古い戦力構成と装備の強化も採用する。“ニュールック政策”とブラウンとペリーの相殺戦略の双方と同様であるが、わずかな新たな装備にも以下に示す短期的投資が必要になる。

・平時及び戦闘時両方における中~高程度の脅威環境下でのISRオペレーションを遂行する、ステルス高高度長期耐用(high-altitude, long-endurance : HALE)無人飛行ビークル

・中~高程度の脅威環境下における自走及び移設可能目標の探知、破壊に特化した、ステルス陸上配備及び空母搭載型の無人航空戦闘システム(unmanned combat air system : UCAS)

・長期耐用性、多目的水中無人ビークル(undersea unmanned vehicle : UUV)、海底設置型ペイロードポッド及び曳航型ペイロードモジュールを含む、新たな水中プラットフォーム及びペイロードの同種系列

・一連の新たなネットワーキング、通信及び戦闘管理システム


   財政的制約を考慮すれば、特に中~高程度の脅威環境において優先上位で予算をつけるほどの作戦上の有用性がなくなりつつある、“性能不足(sunset)”と選定された装備(例:非ステルス性ISR有人及び無人航空機、短距離有人攻撃戦闘機、重機械化地上兵力)の近代化及び兵力構成の縮小が必要となるだろう。

(その6に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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1そのことが明らかになるにつれて、当時CIAはソ連の経済を深刻に過大評価し、国防予算を過小評価した。
Andrew Marshall, OSD Director of Net Assessment, letter to Mr. Richard Kaufman, Joint Economic Committee, September, 18, 1975; GAO, Soviet Economy: Assessment of How Well the CIA Has Estimated the Size of the Economy, report to Senator Daniel Patrick Moynihan (Washington, DC: GAO, September 1991); and Office of Soviet Analysis, Directorate of Intelligence, A Comparison of Soviet and U.S. Gross National Products, 1960-1983 (CIA, August 1984). Available at: http://www.foia.cia.gov/sites/default/ files/document_conversions/89801/DOC 0000498181 .pdf.
2World Bank data: http://www.worldbank.org/en/publication/global-economic-prospects/regional-outlooks/ eap; OSD, Military and Security Developments Involving the People s Republic of China 2013, Annual Report to Congress (Washington, DC; DoD, 2014), p.45; and Daniel Kliman, “Is China the Fastest-Rising Power in History?” Foreign Policy, May 16, 2014.
3“China to Become World’s Largest Economy in 2024 Reports IHS Economics,” IHS Economics press release, September 7, 2014, available at http://press.ihs.com/press-release/economics-country-risk/china-become- worlds-largest-economy-2024-reports-ihs-economics. Using another metric—GDP on a purchasing power parity (PPP) basis—China will surpass the United States as soon as the end of 2014. “Crowning the Dragon,” The Economist, April 30, 2014.
4World Bank, China Economic Update, June 2014.
http://www.worldbank.org/content/dam/Worldbank/document/EAP/China/China_Economic_Update_
June2014.pdf.


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。