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 戦略研究会

 米国防省の新たな軍事戦略(第3の相殺戦略)について(その2)

(トピックス035 2016/07/01)

   今回は、新たな戦略を必要とする改革の検討を打ち出した経緯、及び本報告書の目的とするところについて述べている2つのパートについて紹介する。

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序 言(Foreword)

   要 旨(Executive Summary)

イントロダクション(Introduction)

   第1章:「第3の相殺戦略」の先行事例

   第2章:現状における米国戦力投射へのアプローチの欠点

   第3章:新たな相殺戦略の鍵となる要素

   第4章:新たな相殺戦略の実行:グローバルな監視及び打撃構想

   結 言(Conclusion)

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新たな相殺戦略に向けて(仮訳)
Toward A New Offset Strategy

■序 言 (Foreword)

   2014年9月3日、米国防長官のチャック・ヘーゲル(Chuck Hagel)は改革についての基調講演を行ったが、それは彼の在職中における最も重要な実績であったと歴史が振り返るであろう。ロードアイランド・ニューポートにある南東ニューイングランド防衛工業会に対して行われた本講演は、特段メディアの関心を引くことはなかったものの、戦略環境の趨勢により国防省の主要な方針転換となりうる事業の幕開けとなったのである。

   ヘーゲル国防長官は、米国が地球規模で増大する国家安全保障の課題を掌握している一方で、抜け出す見込みが予測不能な厳しい財政状況に国防省は直面していると述べた。彼は、“先進国家のみがかつて単独で保有した破滅的な技術及び破壊的な兵器”は、組織的でない軍隊及びテロリスト集団に広く拡散していると注意喚起した。一方、中国及びロシアは“伝統的な米軍優位性に対抗するように設計された能力 -特に、急速に航空機、艦艇、歩兵部隊及び補給物資を割り当て、地球上のどの地域にも展開できる能力” -を有する軍部隊を整備するために、“長期的、包括的な軍近代化計画を追求し予算化”している。

   この厳しくも広範囲の課題に対処すべく、ヘーゲル長官は改革の必要性を強調するとともに、ロバート・ワーク(Robert Work)国防副長官に対して、新たな“これまでの状況を一変させる相殺戦略(game-changing offset strategy)” -1950年代におけるアイゼンハワー大統領の“ニュールック政策”及び1970年代における“相殺戦略”と類似している- を検討させることを発表した。ワーク副長官が2014年8月5日に国防大学で発言したところでは、それらの各時代における米国防省は、“敵国を凌駕する技術優位、また在来軍においてワルシャワ条約機構が保持していた膨大な物量の優位性を‘相殺’するための手段を追求していた。”
1950年代では、その有効手段は強固な核兵器及び関連する発射システムであり、1970年代では、それは“先進デジタルマイクロエレクトロニクス及び情報技術の飛躍的向上”の“スマートウェポン、センサー、ターゲティング及び管制ネットワークの新たな世代”への応用であった。

   ワーク副長官は、“第3の相殺戦略は新たな作戦構想の開発、新たな組織手法及び長期戦略といった革新的な思考が必要である”と強調した。彼は国防大学の学生に対して、“新たな、そして破壊的技術開発が継続して進んでいるであろう将来”、米軍の競争力の強みをいかに最大限に維持し続けること、さらに正確に言えば、いかに数量的に少ない米軍が、“いかなる潜在的な敵に対しても優越を維持”していくのかについて創造的に思考することを求めた。

   この報告書の目的は、米軍のグローバルな兵力投射能力を維持し、永続的な米国の優位性を取り戻すための第3の相殺戦略に関して一つのビジョンを示すものである。それらの優位性は、無人機作戦、長距離及びステルス(low observable)航空オペレーション、水中戦及び複合的システムエンジニアリング、統合及び運用を含んでいる。本報告書は、十分に練られた包括的な戦略を示すものではなく、むしろ国防省及び関連コミュニティに更に広く議論の端緒を提供するものである。

■イントロダクション(Introduction)

   10年以上続いたアフガニスタンとイラクでの損失の大きい軍事作戦の後、米国国民は戦争に疲弊し、国が債務から脱却しようと試みるように国防費の正当な削減を模索している。いつまで継続するか明瞭でない厳しい財政状況の中、米軍はそれにもかかわらずグローバルな安全保障の課題に直面している。欧州では、ロシアが勢力を盛り返しつつあり、近傍諸国に対する発言力をますます強めている。中東では、シリアでの民族紛争はくすぶり、イラク情勢は不安定で、イラクとレバントのイスラム国(ISIL)は勢力を増強しており、イランは核兵器能力獲得に向けて自国で運用できる弾道ミサイル兵器の拡大を継続している。中央アジアにおいては、アフガンにおける安全保障情勢は非常に希薄であり、米軍撤退から年月を追うごとに弱体化していく傾向にある。東アジアにおいては、不安定で、核武装した北朝鮮はこれまでと同じく強硬で、一方中国は、覇権獲得に向けた野心を剥き出しにし、南シナ海においてますます挑戦的になってきている。過激なイスラム脅威は、がん細胞が転移するかの如く中東及び中央アジアからアフリカに遷移している。同時に、米軍優位の従来要素は、破壊的なテクノロジーの成長と拡散によって弱まりつつある。 -最も特筆すべきは、A2/AD1能力である。国防長官のチャック・ヘーゲルが最近述べたところでは:

   先進国家のみがかつて単独で保有した破壊的な技術及び兵器は広く拡散し、組織的でない軍及びテロリスト集団が探し求め、手中に収めている。一方、中国及びロシアは長期的で包括的な軍近代化計画に投資することによって技術格差を埋めようとしている。
   彼らは従来の米軍優位 -特に、急速に航空機、艦艇、歩兵部隊及び補給物資を割り当て、地球上のどの地域にも展開できる能力- に対抗するため、対艦、対空、対宇宙、サイバー、電子戦及び特殊作戦能力をも開発中である。2

   米国の兵力投射能力の緩やかな衰退は、危機事態の安定性、米国の安全保障コミットメントにおける同盟信頼性及び従来の抑止力に対する波及的な問題となるのである。

   第二次大戦終結以降、米国は国防支出を抑える一方、同時に深刻な国際安全保障の課題に対処する必要があるという類似の時代に直面してきた。2つの特筆すべき事例は、1950年代前半のアイゼンハワー大統領による“ニュールック政策”及び1970年代中盤のハロルド・ブラウン国防長官による“相殺戦略”である。どちらの事例も、ソビエト連邦と比較して通常戦力の数量的な不均衡を十分に“相殺する”ためのメカニズムは、米国の技術優勢の増強という点では同じであった。1950年代には、それは数量的に増加する様々な種類の核兵器、長距離発射システム及びアクティブ、パッシブ防御という形態を取った。およそ四半世紀後、それはステルス(stealth)の出現及び広範囲な戦術システムへと続く情報テクノロジーの応用の形を取った。

   新たな“相殺”戦略は、米国の世界的兵力投射能力及び余力を取り戻す助けになる可能性がある。その前例と同様、この戦略は現有及び新興する米国の技術優位を開拓するものでもある。この場合は、無人システム、長距離・ステルス航空作戦、水中戦、複合的システムエンジニアリング、統合及び運用においてである。本報告書は、永続的優位性に関するこれらの分野における、弾力的で幅広い予想脅威に適合しうるグローバルな兵力投射能力を備えたGSS(訳者注:global surveillance and strike、トピックス034参照)ネットワークの基盤をもたらす相互の関わりを論ずるものである。最初に強調すべきではあるけれども、この戦略は危機事態の安定性を改善し、米国の安全保障関与における同盟の信頼性を揺るぎないものとして従来の抑止を強化するとともに、運用上のリスクを削減するために、米国の従来の兵力投射能力の回復について優先的に焦点を当てている。戦略を支える構想や能力は、その他の安全保障上の問題点に対して確かに適応するが、米国とその同盟国が直面する、特に著しくは核兵器、内乱、代理戦争及び“法律戦”によって引き起こされるあらゆる範囲の脅威に適切に対処することを提案するものではない。

   本報告書は、新たな相殺戦略と今後10年から20年にわたりGSS構想をもって実行に向けた重要なステップの大まかな輪郭を書き出すものである。そのためにはまず1950年の“ニュールック政策”及び1970年の“相殺戦略”から得られた教訓を検証し、精錬することによって始まる。それから、米国の兵力投射に対する現状の取り組みにおける作戦上及び戦略上の欠点を調査することになる。それらを根拠とした上で、これまで述べてきた能力優勢がなぜ永続的であることの証明になるのか、いかにGSS構想の一部として影響するのかについて明らかにしていく。本報告書は、現行の国防投資の再調整の方法、鍵となる短期的な新規構想及び将来的な調査の方向性について簡潔な考察に基づいて締めくくる。

(その3に続く)

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 松本裕児) 

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1“アクセス阻止”は、米軍部隊が作戦する戦域への展開を遅らせるか阻止する、または、米軍が望む基地運用からはるかに遠ざける能力のこと。“エリア拒否”は、行動の自由を制限し、作戦効果を削減し及び現場における友軍の作戦に関するリスクを増加させる活動をいう。
2Secretary of Defense Chuck Hagel, Defense Innovation Days, Opening Keynote Speech to Southeastern New England Defense Industry Alliance, 3.September, 2014. http://defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/605602, 2016年6月7日アクセス。


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。