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 戦略研究会

 CSISがアジア太平洋リバランス政策の評価報告書をカーター国防長官に提出

(トピックス032 2016/02/08)

   2016119日、米国のシンクタンク戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies: CSIS)から、「アジア太平洋リバランス2025: 能力、プレゼンス、パートナーシップ(“Asia-Pacific Rebalance 2025: Capabilities, Presence, and Partnerships”)」と題するリバランス政策の評価報告書がカーター国防長官に提出された。さらに、同報告書は、国防長官からコメントを付した上で、20日議会に送付された。この報告書については、日本のメディアにおいても「リバランス政策「不明確」 米研究機関が指摘1 」、「南シナ海 中国の湖になる 米政策の不備指摘 米研究所2 」、といったキーワードで部分的に報じられたが、同報告書における提言を実施するうえで同盟国や友好国に求める協力や、各提言に係るコストの見積もりに言及したものはなかった。CSISWeb Siteでは、表紙等込みで290頁の報告書(以下、「正式版3 」と呼称)の他に、表紙等込32頁の要約版(Abridged Report)(以下、「要約版4 」と呼称)も公開されている。本報告書は、表明から4年以上を経過した「アジア太平洋リバランス政策」の実体が未だ見えてこないとの米議会の懸念を受けてなされたものであり、日本の安全保障政策、特に米国や東アジア諸国との関係に係わる問題を研究する場合に、関心を寄せるべき文書であることから、その意義等について、解説を試みる。

 

■本報告書の位置づけ及び意義

 2015年会計年度国防権限法に基づき、米議会は、「太平洋軍の担任区域(AORArea of Responsibility)における米国の軍事戦略並びに同地域における同盟国、友好国の軍事態勢にかかる独立評価(第3者機関による評価)」を行うことを国防省に義務づけた。実施すべき評価内容として、今後10年間の安全保障環境に関するリスク、米国及び地域同盟国・友好国の軍事態勢の現状・将来計画、地域諸国の能力・意欲、地域諸国の北極に対する野心、米国及びその同盟国・友好国に要求される能力とその優先順位等、8項目について網羅するよう規定され5 、国防省はその独立評価をCSISに委託した。

 なお、米議会は2011年末に成立した2012年会計年度国防権限法において、国防省に「太平洋軍AORにおける米国の軍事態勢に係る独立評価」の提出を義務づけ、国防省は当時もその評価をCSISに委託した。委託を受けたCSISが実施した独立評価の内容は、本校Web Siteコラム032に詳しく解説があるが、CSIS2011年秋以降オバマ政権が提唱しはじめたアジア太平洋リバランス政策を存分に取り入れた評価報告書を20129月に国防省に提出した。

こうした経緯を受け、今回のCSISの報告書は、その2012年の自らの報告書を土台として現状のリバランス政策を分析、評価し、提言をまとめているところに特徴がある。また、両報告の検討において主導的役割を果たしたのが、ブッシュ政権下でNSCの日本・朝鮮担当部長、上級アジア部長兼アジア担当大統領特別補佐官を歴任したマイケル・グリーンであり、報告書の論旨の一貫性が保たれている。一方、2012年の報告書が米国の軍事態勢を評価対象としているのに対し、今回の報告書ではアジア太平洋地域における米国の同盟国・友好国の軍事態勢をも評価対象に加えているのが大きな違いである。また、数年来の国防予算の強制削減を背景に、各種提言の策定時に各々の概略のコストを見積もっているのも新たな試みである。さらに、議会の要求に基づき北極海に関する分析が新たに加わっていることも特徴の一つである。

 

 

■本報告書の構成及び要旨

本報告書(正式版)の構成は以下のとおりである。

1章:序論(アジアへのリバランス政策の概観、研究の背景、本報告における思考過程)

2章:アジアにおける米国の国益とリスク(2025年まで、アジアでの国益、中国、北朝鮮、ロシア、非国家主体によるリスク)

3章:アジア太平洋地域における米軍の態勢(現在の米軍の態勢、プレゼンスを通じた活動、リバランス表明後に芽生えたさらなる課題(アフガニスタン、ISIL、イラン対アラブ問題、好戦的となったロシア))

4章:同盟国・友好国・地域組織の役割(日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイ、インド、台湾、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナム、地域組織)

5章:能力の差異及び不足に関する分析(航空優勢及び地球規模の攻撃、海軍及び海洋部隊、陸軍部隊、特殊作戦部隊、ミサイル防衛、宇宙、ISR、サイバー、電子戦、核戦力、弾薬、戦略機動・即応性・兵站、戦域安全保障協力)

6章:地域諸国の北極海への野心及び海軍の北極ロードマップ(北極の理解:急速に変化する地域、太平洋軍の北極海に関する責任の変化、ロシアの戦略的利益、北極海におけるアジア諸国のプレゼンスの増加、米海軍の北極ロードマップ、米国の砕氷能力不足と将来の課題、北極海に関する政策提言)

7章:リバランス政策を持続させるための提言(下記の要旨にて記述)

付録

 A2015年会計年度国防権限法 第1059

 B2012年報告書における提言

 C:財政環境の変化に応じたケーススタディ

 DCSIS特別研究チームによる提言の列挙

 E:著者の紹介

 F:略語表

 G:文末脚注

 以下、要約版を用いて本報告書の要旨を紹介する。

*************************************************************************

アジア太平洋リバランス2025: 能力、プレゼンス、パートナーシップ(仮訳)

“Asia-Pacific Rebalance 2025: Capabilities, Presence, and Partnerships”

●アジアへのリバランス政策の評価

 オバマ政権はリバランス政策表明以降、20121月の国防戦略指針に始まり、最近では20158月のアジア太平洋海洋安全保障戦略を議会に提出するなど、リバランス政策強化のための重要なステップを踏んできた。しかし、リバランス政策の今までの遂行は米国の国益を守るには不十分であり、また一部国家の行動が米国の関与の信頼性に日常的に挑み続け、米国の能力向上が仮想敵のもたらす挑戦に追いつけないことから、地域の軍事バランスは米国にとって不利なものになりつつある。こうした否定的な変化の原因は以下の4点である。

過去4年間でスピーチや文書で使用された用語が大幅に変化し、同盟国・友好国に対する再保証や議会の支援を得る観点で障害となった。

201510月の超党派合意で、20173月までの予算増加が認められたものの、長期的な予算の不透明さ及びすでに実施された削減の影響は甚大である。

中国のA2/AD能力は、長距離の巡航/弾道ミサイル、航空機とミサイルによる先進的統合防空システム及び潜水艦からなる。サイバー、電子戦、外洋海軍、ミサイル、情報、ISRの発展に向けた中国の投資は、紛争時、地域から米軍を追い出そうという重要なシグナルである。こうして、中国は西太平洋の米軍基地や海軍部隊、同盟国・友好国、米国経済が依存する国際水域・空域の自由な使用を危険に陥れる能力を有することになるだろう。

米国だけでなく同盟国も一緒に中国の政策を再評価しなければならない。

総合すると、リバランス政策は太平洋軍AORでの防衛及び抑止のための要求を満たすために強化されるべきことが分かる。効果的なアジア太平洋戦略を遂行するには、明確で着実かつ機敏な以下のアプローチが必要である。

本報告で米国がこうしたアプローチをいかに採用すべきかを、大きく4点に分け提案する。なお、各項目におけるコスト見積もりは、「高」(2016年会計年度大統領予算教書に対し、5年間継続して、毎年10億ドル以上の追加が必要)、「中」(同、毎年1000万ドルから10億ドルの追加が必要)、「低」(同、毎年1000万ドル以下の追加が必要)に分類する。

●リバランス政策持続のための4つの提言

1.  米政府内及び同盟国並びに友好国の間で戦略を一致させる。

 オバマ政権が発したスピーチや文書を子細に調べても、リバランス政策を説明する中心的な文書は存在せず、国内外の指導者のインタビューを通じてもリバランス戦略についての理解に一貫した混乱が見られる。この混乱を克服するためにも、議会や同盟国・友好国とともに明確で一貫性のある戦略を策定する必要がある。

 国防省が20158月に発表した「アジア太平洋海洋安全保障戦略」は、防衛中心の海洋に特化した戦略であり、政府一体となった戦略の不足を補完できていない。2016年会計年度国防権限法は、大統領に米国の国益を増進するための総合的な戦略の策定を求めている。20171月からの新政権がこの戦略を策定すべきである。 (見積もりコスト:低)

ャングリラ会合でカーター国防長官が提唱した「アジア太平洋海洋安全保障構想」(地域の国に海洋能力整備のため42500万ドル支援)は政権と議会の協力が生んだ重要な前進と評価できる。政権は同構想の遂行に必要な議会の支援を得るため、議会と連携すべきである。また、議会は超党派で協力すべきである。 (見積もりコスト:低)

中東やヨーロッパでの新たな要求を含む戦略の達成目標と利用可能な資源のギャップが拡大していることから、戦略と資源投下の確実な一致が必須である。 2015年会計年度国防権限法でQDRの記述内容の変更が規定され、新たなQDR(名称がStrategic Defense Review: SDRと変更となる予定)では予算を考慮した記述となり、シニアリーダーが現実的な見直しを実施できる助けとなろう。 (見積もりコスト:低)

 同盟国・友好国の指導者たちの米国に対する疑念を払しょくするため、米国の当局者たちは、出発点としてグレーゾーンにおける抑止とエスカレーション力学について共同研究し、強圧的な振る舞いに対応する政府一体となった政策を策定すべきである。太平洋軍司令官は、AOR内により多くの資源が投下できるよう努力を強化すべきである。 (見積もりコスト:低)

 20153月に始まったアジア太平洋安全保障対話は、北朝鮮、南シナ海、宇宙といった問題で相互理解を深める可能性がある。海洋における衝突を防ぐため、コーストガードの船舶にもCUESを適用するよう、両国政府は同意すべきである。計算ミスからエスカレーションに至ることがないよう、政治レベルでの危機管理メカニズムが必要である。 (見積もりコスト:低)

2.     同盟国及び友好国の能力、回復力、インターオペラビリティを強化する。

 地域における安全保障能力、回復力、インターオペラビリティーを強化するには高度な軍事力を有する日本、オーストラリア、インド、韓国、シンガポールとの協力が必要である。

米国は、日本、オーストラリア、韓国といった主要な同盟国とシステム、訓練、兵站、コンセプト開発、一部の作戦任務などを共有し、より緊密にアプローチすべきである。例えば、同盟国の強点である水中戦能力はアジア太平洋地域における中国のA2/AD能力に対抗する重要な武器であり、主要同盟国でその専門能力を潜水艦設計で共有すれば、各国の能力が増すとともにインターオペラビリティーも向上する。その他、ミサイル防衛、MDA、サイバーセキュリティー、ISR、水陸両用戦、情報共有でも同様である。 (見積もりコスト:低)

 東南アジアの同盟国・友好国間でもっとも能力のギャップが大きいのが海洋安全保障分野であり、米国はそうした国の海洋安全保障能力を向上させるため、日本、韓国、オーストラリア、インドといった軍事先進国と協力すべきである。太平洋軍は国防長官府や国防省と協力し、FMS、訓練・演習、同盟国・友好国とのその他の機構を統合した海洋安全保障地域共同キャンペーンを開発すべきである。 (見積もりコスト:低(協調した能力構築)、中(追加的活動、ただし米国の関与の範囲による))

 統合任務部隊は紛争発生前から定期的に訓練を実施していなければ有効に機能しえない。第1列島線内で紛争が発生した場合、国防省は太平洋艦隊、第7艦隊、在日米軍等の、どこに統合任務部隊を設置すべきか研究すべきだが、CSISによる初期の研究では、第1列島線内に設置したほうが、抑止、再保証という作戦上の利点があるため、太平洋艦隊による統合任務部隊主導の下、危機発生時は第7艦隊が前方展開司令部として機能する形が望ましいと考える。 (見積もりコスト:低~中(既存のスタッフの兼務の程度による))

 日本は同盟調整メカニズムの設置に同意したが、危機や紛争発生時に共同で統合して早急に対応するために必要なC2要素が欠けている。米国は日本に専門家を派遣し、オーストラリアに似通った統合作戦コマンドを提案すべきである。日本政府が適当と認めれば米軍人を同コマンドに派遣可能である。 (見積もりコスト:低)

地域政府と一体となった協力を拡大するため、太平洋軍は災害対処の専門家を擁する民間組織とアジアの軍隊の代表をともに招集し世界レベルの会議を主催すべきである。また、太平洋軍は緊急事態発生時のための物資を貯蔵し、地域政府や非政府組織にとっての第1通報窓口となることができる。 (見積もりコスト:低)

3.  米国の軍事プレゼンスを維持・強化する。

米軍部隊の基地プレゼンスは朝鮮半島や南シナ海での安定を維持し、前方展開部隊は、基地配備が不可能な地域での訓練や演習の機会を提供している。一方、A2/ADの脅威に直面し、米軍基地や前方展開の部隊は、著しく危険な状態となってきている。

日本:沖縄における米軍のプレゼンスは戦略的に必要不可欠である。普天間基地から代替の辺野古への移転は再編の重点であり、他の沖縄全体の米軍基地の返還、必要な抑止力、再保証等とのバランスを加味し、日本政府と慎重に検討していく必要がある。

韓国:陸軍基地の再編は朝鮮半島での態勢をより持続可能とし弱点を減らすのに役立つだろう。派遣部隊のローテーション配備への移行は、地形、兵站、韓国側カウンターパートとの慣熟といった観点で、戦闘の即応性について懸念が残る。国防省はイラクやアフガニスタンでの作戦の経験から、こうした問題を緩和する教訓を調査すべきである。

オーストラリア:オーストラリア政府とともに、航空機のローテーション配備や必要なインフラの強化を含む米軍態勢構想(U.S. Force Posture Initiative)の航空部隊に関する部分の遂行を加速化させるべきである。

グアム:第1列島線外に位置し攻撃に対し脆弱性が少ないとともに、北東アジアと東南アジアの双方での危機に早急に対応することができる米国領土の基地であり重要である。米国は米軍基地の再編のための投資を継続すべきである。北マリアナ諸島自治連邦区は効果的な訓練と航空基地の分散化にとっても重要である。

 また、日本、韓国、グアムを超えて、オーストラリアやフィリピンで施設へのアクセスを拡大することで、米軍部隊を分散化し、共同訓練の機会を増加できる。 (見積もりコスト:高いがほとんどは予算化されている。)

短期的にはアジア太平洋地域でアクセスのための協定をネットワーク化し、危機における機動能力を確保する必要がある。長期的には、米海軍は日付変更線の西側に関連する打撃部隊、航空群、人員を含む第2の空母を配備(候補地は横須賀)するプランを研究すべきである。空母の追加配備は被攻撃の危険性はあるものの、アジア太平洋への米国の関与の明確な表明となり、抑止を強化し同盟国・友好国に対する再保証を確実にするものである。 (見積もりコスト:高)

 短期的には、グアムにロサンゼルス級SSN2隻追加配備し、計6隻とする。長期的に、海軍はインド洋地域にバージニア級SSNを数隻配備することを検討すべきである。候補地としてはオーストラリア西岸パース近郊のHMAS Stirling基地とディエゴガルシア基地がある。 (見積もりコスト:中(グアムへの2隻のSSN追加配備)、中(インド洋への2隻のSSN配備、ただしホスト国の支援と基地建設要求による))

アジア太平洋地域の米海兵隊のなかで、特にダーウィンにローテーション配備された米海兵隊には、揚陸能力が不可欠である。短期的には、海軍は西海岸から強襲揚陸艦をグアムに移籍し、さらに高速艦艇をグアムに追加配備すべきである。中期的には、第10両用即応グループ全体をサンディエゴから日本(例えば佐世保)に移動すべきである。長期的には、理想的ではあるが、海軍と海兵隊が第11両用即応グループを太平洋に創設することである。 (見積もりコスト:中(強襲揚陸艦のグアムへの移籍または高速艦艇の追加配備)、中~高(両用即応グループのグアムへの移籍、ただし、必要となる追加建設の量による)、高(両用即応グループの新設)、低(両用戦輸送手段の日豪での共有))

東アジアにおける米空軍の主要な作戦基地が少なく、巡航ミサイルや弾道ミサイルによる攻撃に対し脆弱なため、太平洋空軍は代替基地計画として、同盟国・友好国の施設や民間空港などの簡素な基地を利用した分散化を検討中である。国防省と国務省はフィリピン、オーストラリア、北マリアナ諸島、その他の国とアクセス確保のための努力を継続すべきである。 (見積もりコスト:中(北マリアナ諸島自治連邦区での作戦基盤の構築)、中~高(フィリピンやオーストラリアでの施設建設、ただし新築の程度による))

 

短期的、中期的には、迎撃ミサイルの在庫を増加させる必要がある。国防省は必要なユニットの追加を検討すべきである。日本と韓国のシステムとリンクさせることも有効である。短期的に、米国は韓国にTHAADミサイルシステムを配備する努力をなすべきである。 (見積もりコスト:低(韓国へのTHAADミサイルシステムの配備)、低(グアムへ現存するPAC-3システムを配備)、中(IFPCシステムの調達、追加のPATRIOTの人員、追加のTHAADまたはPATRIOTミサイルと発射部隊))

 現状の構想では、部隊の完全性や軍隊の利用可能度が損なわれ、朝鮮半島での危機の抑止や対応の支援が予想を超えた場合に、旅団レベルの常続的な配備の維持が困難となる。RAF構想をより下位の部隊レベルに適用すればミサイル防衛などの地域配備の効率は改善し、投下資源を削減できる。州兵や陸軍予備役の活用が良策である。 (見積もりコスト:低~中(現状のアジアへの大部隊の展開と、小部隊を多く展開する場合の総兵力の違いによる))

短期的に必要な措置の一つは、コスト削減のため来年予定されているT-AOE(高速戦闘支援艦)の退役を延長させることである。中期的、長期的には、追加の戦闘支援艦艇の調達、太平洋地域への配備が必要である。同盟国・友好国を含め、毎日あらゆる場所で活動している民間の力を活用することも良策であるが、政府や軍による適切な監督が必要である。国防省は兵站作戦用の安全な無秘匿(unclassified)回線を設置するとともに、必要な場所で兵站計画作成や実行のための秘匿(classified)回線を十分活用すべきである。 (見積もりコスト:低(友好国・同盟国の商業基盤の活用)、中(太平洋軍AORにおけるT-AOEの配備継続)、高(戦闘支援艦艇の追加))

 紛争発生後の輸送ではリスクが増大し、高烈度の紛争では艦艇、航空機等の目標が増えることから、弾薬不足が加速化される。国防省は、AIM-120D空対空ミサイルや統合空対地スタンドオフミサイル-長距離型のような、在庫の少ない弾薬の事前集積を拡大させるための昨今の投資を維持すべきである。調達後、米軍は、JDAM(統合直接攻撃弾)を韓国に、長距離誘導ミサイルを日本とグアムに事前集積すべきである。 (見積もりコスト:中(グアムでの追加の弾薬庫の建設)、中~高(特定の精密誘導弾の増産、ただし多くは予算化済み))

米国は同盟国と協力してISRプラットフォームと分析機材を開発すべきである。また、情報収集の効果を最大化させるため、ISR計画作成において協力、提携すべきである。また、米国は東シナ海、南シナ海において条約同盟国とともに、ISR任務に関し共同して作戦及び分析を実施すべきである。 (見積もりコスト:低)

 

4.  革新的な能力と概念の開発の加速

新たな作戦概念や次世代の能力を開発するには不透明性を伴うため、世界的なパートナーや商業セクターとの協力が不可欠である。CSIS2種類の能力ギャップを見出した。一つ目は米艦艇や米軍基地を狙った弾道ミサイルのリスクをかわすための能力であり、二つ目は地域の仮想敵に対し非対称な反撃を与える能力の開発力である。

図演では、専門軍事教育機関からの候補者で構成した「青部隊」と、米国内外の情報機関からの候補者で構成した「赤部隊」による、年次対抗演習を開始するべきである。最初の年次対抗演習は、中国の軍事力の増大と進歩がもたらす課題に打ち勝つことに焦点を置いた、例えば青部隊に対する情報がシャットアウトされた状態での演習とすべきである。実演(in-the-field experimentation)も図演以上に重要であり、戦術訓練レベルで革命をもたらした双方向の装備及び専門の赤部隊を、作戦レベル、戦略レベルにも適用すべきである。国防省は、例えば最も創造性に富む軍種・戦闘指揮官による実用試験、コンセプト開発、図演のアイデア考案等に対し、資金を提供するといった、試行(experimentation)文化を奨励すべきである。(見積もりコスト:中)

  耐用年数が長く、性能向上が頻繁には実施されない現状の装備では、将来の米国のニーズに対応できない可能性があり、モジュラータイプや交換可能なサブシステムを備えた装備の研究が必要である。MQ-9 リーパー無人機には、GORGON STAREシステムやVADERシステムといった新たなセンサーが追加可能であり、比較的簡易な装備品を最先端なものに変える実例の一つである。国防省は、装備品の性能向上と廃棄の線引き方針を定め、作戦概念や調達プロセスに反映すべきである。 (見積もりコスト:中~高(採用するシステムによる))

 先進的な長射程ミサイルは、F-35、長距離爆撃機、沿海域戦闘艦(LCS)といった新たなプラットフォームにとって重要である。米軍のミサイルには長射程だけでなく、先進的な終末誘導、敵の対抗策を打ち破る高速機動性が要求される。 (見積もりコスト:高(一部は予算化済み))

 ミサイルそのものより防衛システムのコストが急速に増大していることから、代替策が必要である。一つ目はレールガンであり、高い発射速度で、長距離から航空機、ミサイル、地上目標を射撃する能力を有する。二つ目は指向性エネルギー兵器であり、エネルギー貯蔵能力が大きい点で魅力的である。三つ目は通常型火薬火砲弾の性能向上であり、革新的な試験未実施の技術よりもコストとリスクが低い。 (見積もりコスト:中(研究・開発・試験・評価)、高(調達・配備))

 敵のステルス機探知能力向上により、長距離で、有人/無人、ステルス/非ステルスの適切な組み合わせによる次世代航空機の開発が米国にとって急務である。長距離爆撃機のほか、無人機(海/陸射出双方)は、作戦遂行の分散化と脆弱性の回避にとって必須である。特に、空母発射型の監視・攻撃用無人機は、空母打撃群から遠く離れた場所で敵の防空網をかいくぐりながら監視及び攻撃任務を遂行できる能力が必要である。 (見積もりコスト:高(多くは予算化済み))

 UUVの開発の他、SSNSSGNのアジア太平洋地域への増勢が考えられるが、なかでも潜水艦のペイロードの増加が特に重要である。2019年以降1隻おきにバージニア級SSNへの装備が予定されるバージニア・ペイロード・モジュール計画が続くならば、その大半は太平洋に配備すべきである。 (見積もりコスト:高)

 宇宙については、少なくとも地球上及び衛星の通信システムを敵のジャミングから防護するほか、外国衛星のペイロード借り上げ、現状において宇宙に基盤を置く能力を地上でバックアップするメカニズムの開発などがある。電子戦については、米軍部隊が敵のジャミングや先進的レーダーで満たされた戦闘空間でも作戦遂行できる能力を強化すべきである。サイバー空間については、攻撃的・防衛的サイバー能力の両者を保有するための投資、特にサイバー任務部隊への投資を継続すべきである。 (見積もりコスト:高(通信システムの防護)、中~高(電子戦への投資増加)、中(衛星のペイロード借り上げへの移行)、中(サイバー任務部隊の強化))


(幹部学校防衛戦略教育研究部 平賀健一)

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1『読売新聞』2016年1月21日。
2『朝日新聞』2016年1月22日。
3 http://csis.org/files/publication/160119_Green_AsiaPacificRebalance2025_Web_0.pdf.
4 http://csis.org/files/publication/160119_Green_AsiaPacificRebalance2025_Abridged_Web.pdf.
5 同上、付録A参照。


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。