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 戦略研究会

強力なベクトル -中国の巡航ミサイル開発を評価する-

(トッピクス029 2015/02/09)

   米統合参謀本部の季刊誌であるJoint Force Quarterly, Issue 75, 4th Quarter 2014に掲載された本論文(A Potent Vector – Assessing Chinese Cruise Missile Development1)は、中国の巡航ミサイルの開発状況をDennis M. Gormley, Andrew S. Erickson, Jingdong Yuanの3氏が公表資料を基に共同で分析評価した研究成果2からの引用である。中国の巡航ミサイルについては、台湾海峡や中国「近海」における危機発生時、同海域における米軍やそのパートナー諸国の活動を制限しようとするA2/AD能力の中核をなすものとみられており、我が国としても大きな関心を持つ必要がある分野である。本稿では定量的な分析を踏まえつつ、巡航ミサイルに関するドクトリン、軍事シナリオ、拡散等が論じられ、その内容は非常に具体性に富んでおり、安全保障に関心がある者にとって必読と思料し、要約をここに紹介するものである。

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■軍事的価値
   中国軍の近代化は「情報化条件下」における局地戦で勝利することに重点を置いており、巡航ミサイルが有する攻撃の精密性、発射プラットフォームの多様性がもたらす実質的な長射程化、キャニスター化やコンパクト化がもたらすモバイル性などに加えて、超音速、ステルス化、超低空飛行を実現できれば、多方向同時攻撃により台湾危機のみでなく中国近海で活動しようとする米軍の能力を飽和できると考えている。いわゆるA2/AD能力の獲得である。ただし現状においてはタイムリーな情報共有、発射プラットフォームのステルス性及び残存性、任務計画立案能力、C3システム、被害評価能力が十分ではない。

■開発製造関連機関及び組織
   中国は1950年代後半に巡航ミサイルをその兵器体系に加え、1959年以降ソ連からの技術支援も受け1960年には南昌の航空機製造会社にASCMの製造ラインが設置された。同年9月、中ソ対立によりソ連技術者が全員引き揚げたのにもかかわらず初のミサイル試験を成功させた。以後、文化大革命などの混乱期にも関わらず最高指導者たちは巡航ミサイルに関して予算や人員を優先的に割り当てる配慮を示したが、核兵器や弾道ミサイルより低い優先度や、各軍種にとってミサイルは付随的なものでしかないとの認識で生じた軍民癒着により、その開発は重大な制限を被り、1970年代初期までソ連から受けた初期モデルの派生型を生産することができなかった。近年YJ-62のようなASCM及びYJ-63/AKD-63、DH-10といったLACMに顕著な発展が見られるが、特にロシアとウクライナからの設計支援能力に大きく依存し続けている。

■ASCMの開発
   中国はASCMを軍事衝突の結果を左右し、それ故に平時の抑止力を強化するものとみなし、能力の高い国産ミサイル(YJシリーズ)を開発するとともに超音速のロシア製ミサイルを輸入している。ロシア製のモスキート(NATOコード:サンバーン)ミサイルはソブレメンヌイ級駆逐艦に装備される射程120kmの超音速ASCM(シースキミング)であるが、高高度飛行を選択することによりその射程を倍増させることができる。(ただし被探知距離が増加し脆弱性が増す。)キロ級潜水艦に装備されるクラブS(NATOコード:シズラー)は亜音速シースキミングで接近し(200km)、その後先端部を切り離し超音速(マッハ2.9)で突入する(20km)。国産ASCMの代表格は汎用性の観点でYJ-82及びYJ-83/83K、先進性の観点でYJ-62であり、YJ-82は潜水艦発射で西側のハープーンミサイルと類似した特性を有するが、射程が短い。YJ-83/83KはアビオニクスやIRUの換装で射程を延ばしている。先進的なYJ-62は旅洋II型駆逐艦に搭載され射程は280kmとあるが、これはMTCRの輸出制限である300kmを考慮したもの(YJ-62の輸出タイプC602の射程)であり、実射程はGPSや北斗衛星誘導システムを利用して400kmを達成している。(いずれも亜音速)国産の超音速ASCMであるYJ-12及びYJ-18は試験段階であり、前者は空中発射のみに対応、後者は潜水艦や旅洋III型駆逐艦の円筒型VLSから発射可能な2段分離型(先端部分離後マッハ2.5~3.0)でロシア製のクラブミサイルのコピーであり、米国防省の議会への年次報告書2010年版、2011年版の中でCH-SS-NX-13として言及されている。人民解放軍海軍はASCMの開発と歩調を合わせ、その訓練をより現実なものに変えイージス防衛システムに打ち勝つための手段を研究し、多数のミサイルによる異方向同時攻撃によりそれを飽和しうると考えているが、OTHターゲッティングにおいて課題が残る。

■LACMの開発
   現在配備している亜音速のLACMは、射程が200kmのYJ-63/AKD-63(空中発射)及び1,500km+のDH-10(陸上発射)であり、第1世代である前者はEOセンサーを持つが、人間が介在するコマンドデータリンクで制御する。第2世代である後者は衛星航法、慣性航法に加え、地形照合やデジタル背景照合を有している可能性もある。両ミサイルとも主として台湾に向けられているが、このうち陸上発射のDH-10は、H-6爆撃機での空中発射試験、試験艦「大華(Dahua)892」での海上発射試験が確認されている。海軍がASCMだけでなくLACMにも興味を持っているということは、将来両方のミサイルが搭載可能な巨大なVLSを装備する意図の表れとみることもできる。また、LACMの発射プラットフォームの多様化は、台湾危機のみでなくそれを超えた中国近海まで攻撃力を発揮する能力を高めるかもしれない。

■巡航ミサイルの配備、ドクトリン及び訓練
   1996年の台湾海峡危機において米国が2個空母打撃群を派遣して以来、人民解放軍の計画立案者は米空母を主たる脅威とみなしその対策を練り、戦略家たちは米空母打撃群を目標とする方法を模索してきた。中国語の文献や部隊配備が示唆するのは、米軍と衝突した場合に空母打撃群及びイージス防空圏に対し、多方向から大量のASCMによる攻撃を実施することが推測される。

■台湾シナリオにおける可能性のある展開
   中国のASCMやLACMは米軍やそのパートナー諸国を攻撃しうるその他のA2/AD能力とともに使用されるだろう。現在両岸関係は安定しているが、その変化を懸念する北京政府はその軍事的優位を利用し、何としても平時のうちに再統一を果たしたいと考えている。膨大なLACMと通常兵器型弾道ミサイルを共同で使用し台湾の防空能力を混乱、麻痺させることにより、後に続く航空攻撃が有効となろう。こうした効果は両ミサイルの発射機の数に依存し、それは台湾の重要防衛施設、民間インフラに十分な火力を加え続けることができる。

■拡散についての意味合い
   中国は2004年以降MTCRへの加盟を模索し始めたが、過去の弾道ミサイルの他国への移転に関する不透明な実績が影響し加盟が拒否された。現在中国はMTCRのガイドラインに従うことを誓約しているが、北京政府が広大な国土において爆発的に成長する輸出業者への管理能力を改善しない限りミサイル技術の拡散についての懸念は消えない。

■結 論
   中国の巡航ミサイルへ開発への莫大な投資は、発射プラットフォームの発達と相俟ってその戦力投射範囲を主目標である台湾海峡を越えた近海まで広げるという成果を生み、併せて最大の脅威である米空母打撃群に対する攻撃能力を着実に向上させつつある。ただし、多くのプラットフォームを同時並行で統合運用するために必要な指揮統制能力、調整能力等が不十分である。この中国の能力に対応する防衛策は存在するものの、より焦点を絞った努力、すなわち①より効果的なミサイル防衛システム、②技術的な対応策、③創造性に富んだ作戦上の対応、が必要である。

(戦略研究室 平賀 健一) 

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1http://ndupress.ndu.edu/Media/News/NewsArticleView/tabid/7849/Article/11240/jfq-75-a-potent-vector-assessing-chinese-cruise-missile-developments.aspx
2 Dennis M. Gormley is a Senior Lecturer and Cruise Missile Expert in the Graduate School of Public and International Affairs at the University of Pittsburgh. Dr. Andrew S. Erickson is an Associate Professor in the Strategic Research Department at the U.S. Naval War College. Dr. Jingdong Yuan is an Associate Professor in the Department and International Relations at the University of Sydney. 本稿は上記3氏が共同執筆した「見えない戦力多重増強:中国の巡航ミサイルについての野心の評価(A Low-Visibility Force Multiplier: Assessing China’s Cruise Missile Ambitions (NDU Press, 2014))」からの引用である。

 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。