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 戦略研究会

エアシー・バトル(ASB)構想がジャム・ジーシー(JAM-GC)に

(トピックス028 2015/01/23)

  

   2015年1月8日、米国防省は、エアシー・バトル(Air-Sea Battle)として知られていた対アクセス阻止/エリア拒否(A2/AD)作戦構想の名称を変更すると発表した 1。新たな名称は「国際公共財におけるアクセスと機動のための統合構想(Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons: JAM-GC)」であり、通称はジャム・ジーシー(Jam, Gee-Cee)である。
   エアシー・バトル構想は、公表版が昨年5月に発刊されているが(秘密版はこれに先立って立案され、少なくても9回改定されている)、米海軍協会の報道(“Pentagon Drops Air Sea Battle Name, Concept Lives On”) によれば、本年末までにエアシー・バトル構想は見直され2、新たにJAM-GC構想が発表されることになる。

◆エアシー・バトルの系譜

   エアシー・バトルは人口に膾炙した作戦構想であるが、同時に幅広い議論の対象であった。A2/ADの脅威に対抗する構想であるエアシー・バトル構想について国防省の公文書が初めて言及したのは、QDR2010である。その中で「統合エアシー・バトル構想」は、米国の行動の自由に挑戦するアクセス阻止・エリア拒否戦略に対応し、陸・空・海・宇宙・サイバー空間の全ての作戦領域において、海空の部隊の能力を統合するために、海軍と空軍が開発している構想であると定義された3
   その後、2012年1月に「統合」の対アクセス阻止・エリア拒否構想として「統合作戦アクセス構想(JOAC)」が、統合参謀本部議長の名前で発表されると、この中でエアシー・バトルはJOACの下位構想であると定義され、名前から「統合」が消え、エアシー・バトルは海軍と空軍の連携の強化に焦点を当てた「限定的な構想」であるとされた4。この時点まではエアシー・バトルは海軍と空軍の間で適用される2軍種間の協力を謳った作戦構想であった。
   2013年5月付で、「エアシー・バトル構想」の要約版(本文書の中で、エアシー・バトル関連の文書としては秘密版の「エアシー・バトル構想ver9.0」、「同別紙」、「2013年度執行基本計画」があることが明らかにされ、公表されたのはその要約版であった)が公表された5。従来の「エアシー・バトル」では、海軍と空軍の連携が強調されていたが、本エアシー・バトル構想の表紙には陸・海・空軍及び海兵隊の4軍の記章が並び、本文書が4軍の合意の上にあることが明示されていた。この要約版が、最新かつ唯一の「公式」エアシー・バトル構想である。

◆海空軍vs陸海兵隊?

   しかしながら、エアシー・バトル構想について、海空軍の他の軍種特に陸上コンポーネントである陸軍と海兵隊がもろ手を挙げて賛成していたかというと多分に疑問である(5番目の軍種である沿岸警備隊はエアシー・バトル構想に参加していない)。海空軍のトップである海軍作戦部長と空軍参謀総長は連名でエアシー・バトル関連の論文を2回発表しているが6、陸軍と海兵隊のトップはエアシー・バトルを論ずる文書を管見の及ぶ限り書いていない。
   逆に、陸軍参謀総長のオディエルノ大将は陸軍、海兵隊、特殊作戦コマンドからなる「戦略ランドパワー統合室(Joint Office of Strategic Landpower)」を提案し、エアシー・バトル室に対抗している様にも見えた。その後、2013年5月には陸軍、海兵隊及び特殊部隊の長が「戦略ランドパワー」タスクフォースの設立で合意した。陸軍と海兵隊はエアシー・バトルに疑念とフラストレーションを有していたと報じられているが7、米海軍協会も今回の名称変更には、米国の陸上兵力をより幅広い構想(JAM-GC)に取り込む狙いがあると報じている8

◆JAM-GCが包含するもの

   エアシー・バトルからJAM-GCに名称が変わるが、中身がどう変わるかは現時点では明らかになっていない。エアシー・バトル構想自体も、シンクタンクであるCSBAの構想ペーパー、海空軍トップの共著論文、最終的な「公式」エアシー・バトルと変遷する間で、内容が変化してきた。ゆえにエアシー・バトルからJAM-GCに移行する過程で内容が変化することは予想に難くないが、それほど大きなものではないかもしれないと筆者は考えている。
   理由としては、A2/ADに対抗する統合レベルの構想としてはJOACがあり、エアシー・バトル構想はその下位構想に位置付けられているが、JAM-GCにおいてもこの構図に変更は無いとすれば、JAM-GC構想もJOACの枠の中に限定されることになる。したがって、JAM-GCもアクセスを回復するための限定的な作戦構想という性質に変化は無く、「対中」という特定の国家を対象としたり、「軍事戦略」といった高次の構想に発展することは無いであろう。「対中軍事戦略」という言葉は魅力的だが、これが議論されるとすればJAM-GCの外で行われるであろう。JAM-GCはJoint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons: JAM-GCという名称のとおり、国際公共財におけるアクセスと機動を回復するための「限定的な」構想となるだろう。
   一方で、陸軍と海兵隊を取り込むためには、アクセス回復のために陸上兵力が何をするのかがより具体的に打ち出されることになろう。アフガン・イラクからの撤退後、役割が縮小したかに見えた陸上兵力はもっとも大きな削減の対象となっており、一方でエアシー・バトルは名称が示す通り、海軍と空軍が中心的役割を担うイメージがあり、陸上兵力の演ずる役割が見えにくかった。新構想では、陸軍と海兵隊を取り込むためにも、陸軍と海兵隊の「出番」が作られるのではないだろうか。

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室長 平山茂敏) 

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1Document: Air Sea Battle Name Change Memo, Department of Defense, January 20, 2015,
http://news.usni.org/2015/01/20/document-air-sea-battle-name-change-memo, accessed Jan 22, 2015.
2“Pentagon Drops Air Sea Battle Name, Concept Lives On”, USNI, January 20, 2015, http://news.usni.org/2015/01/20/pentagon-drops-air-sea-battle-name-concept-lives
3Secretary of Defense,Quadrennial Defense Review 2010, p. 32.
4Joint Operational Access Concept, Joint Chiefs of Staff, p. 4.
5Air-Sea Battle Office, Air-Sea Battle.
“Overview of the Air-Sea Battle,”Navy Live, June 3, 2013.
http://navylive.dodlive.mil/2013/06/03/overview-of-the-air-sea-battle-concept/ accessed on 10 Oct 2013.
6Norton A. Schwartz and Jonathan W. Greenert, “Air-Sea Battle”, American Interest, February 20, 2012.
www.the-american-interest.com/article.cfm?piece=1212, accessed on September 4, 2013. J. Greenert and M. Welsh, “Breaking the Kill Chain”, Foreign Policy, May 16, 2013. http://www.foreignpolicy.com/articles/2013/05/16/breaking_the_kill_chain_air_sea_battle, accessed on September 4, 2013.
7Marc V. Shanz, “AirSea Battle’s Battle”, Air Force Magazine, April 2013, pp. 31-32.
8“Pentagon Drops Air Sea Battle Name, Concept Lives On”, USNI, January 20, 2015.


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。