海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME / 戦略研究会 / トピックス・コラム / 027

 戦略研究会

紹介:米国国務省報告書China: Maritime Claims in the South China Sea, Limits in the Seas, No.143 (5 December, 2014), 25pp.

(トピックス027 2014/12/19)

China: Maritime Claims in the South China Sea


   2014年12月5日、米国国務省海洋国際環境科学局(Office of Oceans and Public Affairs, Bureau of Oceans and International Scientific Affairs)は、中国が南シナ海における島嶼に対する主権主張の根拠とされているいわゆる「九段線(Nine-Dash Line)」について「国連海洋法条約(以下「UNCLOS」)」に照らし合わせて正当化され得ないとする報告書を公表した(http://www.state.gov/documents/organization/234936.pdf, as of 18 December, 2014.)。以下においては、本報告書の要旨を紹介する。なお、本報告書のより詳細なコメンタリーについては、近日中にコラムという形態により本校ホームページ上において発表する予定である。

*****************

1 分析手法、構成及び特徴
   本報告書は三部構成であり、まず第1部においては、主として中国(中華民国(当時)を含む)が発刊した数種類の地図を引用して「九段線」の地理的位置等を紹介する。つぎに、第2部においては、関連する海洋法上の事項についての説明を行い、続く第3部において、UNCLOSに照らし合わせて「九段線」を根拠として南シナ海において中国が行っている主張を検討している。
   なお、本報告書において言及及び引用されている資料の大半は一次資料であり、論文等の二次資料については、注釈における一部の紹介を除き検討の対象とされていない。さらに、外交政策上の配慮等から、本報告書においては、南シナ海における中国の主権の主張そのものに対する評価及び検討は慎重に回避されている。

2 分析(Analysis)
   本報告書において分析の対象とされているのは、中国による「九段線」の内側に所在する島嶼に対する主権の主張(claims to sovereignty)、海洋境界線(maritime boundaries)としての「九段線」の法的妥当性及び「九段線」の内側の海域を中国が主張する歴史的水域(historic waters)または歴史的権利(historic rights)により自国への帰属を正当化することの可否である。
   まず、「九段線」の内側に所在する島嶼に対する中国の主権の主張については、UNCLOSの関連規定、とりわけ領海、接続水域、排他的経済水域(以下EEZ)大陸棚及び島に関する各条項に合致する必要がある。南シナ海の島嶼に対する主権は複数の沿岸国により主張されている。つまり、これらの島嶼をめぐって紛争が存在していることから、UNCLOS第121条により発生する海域についても同様に紛争の対象となり得る。したがって、これらの島嶼及び海域に対する主権(及び主権的権利)は、他の沿岸国との海洋境界線決定をめぐる主題となるのである。
   つぎに、海洋法規則に鑑みた場合、中国が発行した地図においては「九段線」は海洋境界線として記されているという解釈することは妥当ではない。海洋境界線は、関係する諸国との交渉により画定されるものであり、(中国が行っているような)一国のみによる一方的な宣言により成立するというものではない。
   さらに、「九段線」の内側の海域と歴史的水域または歴史的権利とを連関せしめることについては、中国がUNCLOS第10条及び同第15条を恣意的かつ独善的に解釈しているとの誹りを免れない。第10条は沿岸国の近傍についての規定であり(第1項)、また、南シナ海は複数の沿岸国のEEZが重畳する半閉鎖海であることから、海洋法はかかる海域において「歴史」によりある特定の国の権利を優先させることを許容していない。むしろかかる解釈とは正反対に、海洋法の主要な目的及び成果は、沿岸国が権原(title)を有する海域(maritime zone)を統一的に明確化するこことにある。なお、仮に南シナ海に対して歴史的水域の法理が適用可能であるとしても、「九段線」は歴史的水域の要件に欠落しているため、中国が「九段線」の内側の海域をかかる法理により自国に帰属させることは困難であると思料される。
   以上のような分析の結果、本報告書は「九段線」にかかわる上記のいずれの主張も国際法(UNCLOS)に合致しないと結論付けている。
   

(戦略研究会事務局)

 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。