海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME / 戦略研究会 / トピックス・コラム / 023

 戦略研究会

 米国防長官、国防省の北極圏戦略公表

(トピックス023 2013/12/02)


 11月22日、ヘーゲル(Chuck Hagel)米国防長官がハリファックス(カナダ)で行われていた国際安全保障フォーラムで、米国防省としての北極圏戦略を公表した1

 以下、要旨の抄訳と解説を述べる。

北極圏戦略(Arctic Strategy)

国防省(Department of Defense)
2013年11月


要旨 (Executive Summary)

 北極圏では予想より早い勢いで融氷が進んでおり、戦略的な転換点を迎えている。アクセスが良くなったため、石油、天然ガス、鉱物・水産資源開発、航路開発、観光といった、経済的な動機に基づく活動が増加しつつある。北極圏内外諸国は、各種国際フォーラムで将来の北極に関する戦略や立場を確立しつつある。国防省としても、今年大統領から公表された国家北極圏戦略に従い、同盟国・パートナー諸国と協調しつつ、当該地域における環境及び人間の安全保障追求にバランスのとれたアプローチを実施する。

 北極圏における安全保障は、資源開発や貿易から、安全なる商業・科学的活動と国防といった、幅広い諸活動を含むものである。安全保障協力活動やその他の軍・軍関係は、摩擦が生起する可能性を軽減し、安全保障上の挑戦に対し必要な国家間関係やパートナーシップ確立、維持に繋がる。

 国防省は引き続き、革新的で余力のある安全保障問題解決、北極圏での責任分担、北極圏のパートナーと共に地域への慣熟と寒冷地作戦の機会を作為し、協調戦略的パートナーシップ育成に努める。

 国防省は今後も当該地域において、環境変化の観測、情勢の変化に対応した適切な行動が取れるよう、定期的なローテーションと訓練を実施する。

 この戦略は国防省にとっての目的を明示するものである。それは:安全で安定した地域、そこでは米国の国益の安寧が保たれ、本土が防衛され、挑戦に対しては国家間が協調する、である。

 そのため、二つの目標を設定する。:地域の安定を維持するため-可能であれば他国と共同で、必要あれば単独ででも-安全保障を確立し、安全を支援し、軍事協力を進め広範囲の挑戦及び偶発事故に対応する備えをすることである。

 最後に、この戦略により、国家北極圏戦略を達成するため、国防省として実施する手段と方法を明らかにするものである。


★ 解説

 米国は今年5月スウェーデンで開催された、2年に一度の北極評議会(ARCTIC COUNCIL)閣僚会議に備え国家北極圏戦略を公表した。そこで、米国としての積極的な北極関与を明確に打ち出し、会議にはケリー国務長官が参加し、存在感を示した。

 今回公表された国防省の北極圏戦略はその下位文書として、国防省・軍が具体的に北極圏でどう活動し、米国の国益を守るか、その指針を示したものである。

 その中で特に協調されているのが、同盟国、パートナー国等との協調、協力である。その背景には本文中に“limitations of the available instruments of national power”2と述べられているように、潤沢な資源を贅沢に投入し、単独でリーダーシップを発揮する訳にはいかない国内事情が見え隠れする。

 この戦略が公表された、ハリファックスでの国際安全保障フォーラムでは、米国とカナダによるアジア・太平洋地域安全保障協力協定調印という話もなされた。これに関し、国防長官は、NORAD(北米航空宇宙防衛司令部:米、加合同の組織)に示される緊密な関係や、ケネディ大統領のカナダ議会演説を引用し、積年の同盟関係を強調した上で、新たな時代の安全保障協力としてアジア・太平洋地域における協力に関し、世界的な挑戦に対し、相互の強点を活用する梃子として新たな形の2国間関係の例(another example of our two nations being able to leverage each other's strengths in order to help address global challenges3)であると述べている。

 また、アジアへのリバランスについても「我々のアジア・太平洋へのリバランスは、単なる軍と軍関係だけのものではなく、それ以上に経済、貿易、社会、文化、教育、安全保障、安定といった、世界に繋がる関係の一部である。」(Our rebalance to the Asia-Pacific is about more than just military-to-military relations, It's economic, it's trade, it's social, it's cultural, it's education, it's security, it's stability -- all of these are part of relationships in an interconnected world.” )と述べ、カナダとの多分野での連携を強調した。

 財政や内政問題等を抱える米国として、10年前のような単独主義は遠いものであり、国際協調や同盟国、パートナー国との連携が益々重要になってくるという方針が読み取れる。

 北極問題に関しては、今年から来年にかけての北極評議会の議長国はカナダであり、その次は米国である。この緊密な連携により、今後どのような制度、ルール、秩序が構築されるのであろうか。北極評議会オブザーバー国となった我が国も、積極的な貢献、関与が必要であろう。


(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 石原 敬浩) 


--------------------------------------------------------------

1 “Department of Defense Announces Arctic Strategy,” U.S. Department of Defense News Release November 22, 2013, http://www.defense.gov/releases/release.aspx?releaseid=16389
2 U.S. Department of Defense,“Arctic strategy,”November 2013, p5
3 Karen Parrish, “U.S., Canada Sign Asia-Pacific Cooperation Framework,” American Forces Press Service, Nov. 22, 2013, http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=121215
4 Ibid.


 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。