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 戦略研究会

 米中経済安全保障委員会の年次報告書

(トピックス022 2013/11/28)


 11月20日、米議会の諮問委員会である米中経済安全保障調査委員会(USCC)が、年次報告書を議会に提出した 。本報告書は、米中間の経済・貿易関係が安全保障分野に及ぼす影響について分析しており、日本の安全保障の見地からも興味深い文書であることから、本報告書の要約(29頁)及び本文(453頁)の一部を引用してその内容を紹介したい。


第1章:米中貿易・経済関係

 2013年の1~3/四半期の経済成長率は7.66%であり、1980年代から2000年代にかけての急成長時代と比較すると大幅な減速傾向にある。原因は中国経済を牽引してきた輸出と大規模な公共投資に陰りが見られることにある。

 国家主席と首相を含めた政治指導部の大幅入れ替えが行われたが、政治局常務委員会には政治面でも経済面でも際立って改革派と目される人物は選出されなかった。ただし、経歴から判断すると王岐山と張高麗は経済改革へ前向きかも知れない。一方で政府による収入と機会の格差是正に向けた努力が認められる。都市化が将来の経済の牽引役になる可能性があり、住宅やインフラへの投資が期待される。

 米国の航空宇宙産業等、特定の分野では米国から中国への輸出の流れがあるが、全体的に見れば、米国の対中貿易赤字は拡大傾向にある。2013年7月には月間の貿易赤字が初めて300億ドルを超過した。

 中国政府の経済政策は、IMFが「投資に余りに依存し、クレジットが持続不可能なまでに拡大し、国内に脆弱性を抱える成長パターン」と呼ぶところに嵌まり込んでおり、ここから脱出するためには、GDPに占める国内消費が減少し、固定資産が拡大する現在の傾向を逆転させる必要がある。

 中国は元の為替レートを低く抑えるために外国為替市場に介入している。このような介入もあり、中国の外貨保有高は2013年9月現在で世界最大の3兆6600億ドルに達している。


米国内に対する中国の投資の傾向

 3兆6600億ドルと推定される中国の外貨保有高の実像は国家機密であるが、外部評価によればその70%がドル建てである。近年、中国は以前ほどリスクを敬遠しなくなり、米国内の土地、工場、ビジネスへの直接投資に意欲的になっており、その傾向は加速しつつある。2013年6月、中国は過去最大の米国内のアセットの買収を発表した;ヴァージニア州に本拠を置くスミスフィールド・フードであり、価格は71億ドルであった。

 第12期5カ年計画(2011-2016)は中国の海外への投資の3本柱を規定している。第1に、中国の生産企業は国際的ネットワークを構築し、世界的に認知されるブランドとなるために海外に投資すべきこと。第2に、中国の企業は中国国外における研究開発に投資すべきこと。第3に、ハイテク経済を促進する分野に向けた調達に移行すべきこと。しかしながら、現在のところ中国からの海外直接投資は限定的であり、2012年の米国への海外直接投資1747億ドルの中で、中国は2億1900万ドルを占めるに過ぎない(ただし、この数値には香港経由の投資は含まれていない)。

 交易に関係する外国からの投資は、しばしば国家安全保障上の懸念と交錯する。例を挙げれば、米国の技術、知的財産、貿易上の秘密、所有権情報に関して外国が行う情報収集及び工作活動は、政府が認める企業による海外投資を隠れ蓑に行うことが可能である。米国は特定の外国投資に起因する国家安全保障上の脅威の有無を決定する有力な手段を有していない。中国の国営企業による投資は、経済安全保障と国家安全保障の境界線を曖昧なものにしてしまう。中国の投資の裏側にある政府の意図或いは調整された戦略の可能性は、国家安全保障上の懸念である。米国も州政府のレベルでは、安全保障上の懸念よりも中国の投資によりもたらされる就職の機会や税収という地域経済への貢献についての方が関心が高いという実情がある。


中国の金融システムにおける統治と信頼性

 中国の第12期5カ年計画は、輸出及び政府主導のインフラプロジェクトへの依存を低減し、中国経済を支えるために国内消費を向上させることを呼びかけている。

 中国の銀行は欧米のものと比較して、独特の地位を占めている。中国の金融セクターは5つの巨大国有銀行により支配されており、これら5行で貸し出し高の5割を超える。巨大銀行の隙間を埋めるのが「シャドウ・バンキング・システム」である。その活動は公式な銀行チャンネルの外側で行われ、銀行のバランスシート上には現れないので、透明性が無い。シャドウ・バンキングに対する需要は主として、公式の銀行からの借り入れが難しい私的企業活動の分野から生じている。


中国の農業政策、食品基準、米中農業貿易(略)


第2章 米国の国益に中国が与える影響

軍事及び安全保障の見直し

 2012年末の政権交代で、中央軍事委員会の顔ぶれが大幅に更新され、習近平が中央軍事委員会主席、共産党中央委員会総書記及び国家主席の3大ポストを兼任することとなった。習の3大ポストへの就任は予想されていたが、その時期が予想以上に早かったことは識者たちを驚かせた。前任者の胡は、中央軍事委員会主席として権力に留まるという鄧小平、江沢民の慣例を破ったのである。

 中央軍事委員会主席に就任後、習近平は中国の長期的な軍事近代化の目標を徹底するために、公式声明を発出すると共に精力的に部隊訪問を行った。その中で、「中国の夢」という彼の新たな政治スローガンを達成する上で強力な軍が重要であることを強調し、その具現のために中国軍は戦闘即応態勢を向上させ、腐敗を撲滅する必要があるという彼の意図が示された。

 2012年11月、習主席は「中国の夢」構想を導入したが、この夢の達成とは2021年までに「適度に豊かな社会」を建設し、「強力で、民主的で、文化的で調和の取れた現代的社会主義社会」を2049年までに建設することである。このビジョンの達成のために習近平は「平和的発展」と地域の安定が重要であると述べているが、同時に、このビジョンと強力な軍隊とをリンクさせている。2013年6月に中国の公式メディアは「軍にとって、中国の夢とは強い軍隊の夢であり、中国の夢は強い軍の夢を導き、強い軍の夢は中国の夢を支える」と報じている。

 2012年12月、習近平は軍に対し、「より現実的な訓練」を通して「戦闘即応態勢」を向上させるよう呼びかけた。この戦闘即応態勢は、その後の彼のスピーチにおける中心的テーマになっていく。一方で、習近平は軍首脳に対して、汚職腐敗に断固とした姿勢で臨み、「厳格な勤務態勢」と「鉄の規律」を維持するよう求めた。習近平は汚職撲滅についてのメッセージを繰り返し発しており、これには個人的な祝宴の制限、行き過ぎた飲酒の禁止、豪華なホテルの利用の制限が含まれる。

 2013年3月中国は2013年の国防費を公式に発表したが、前年度比10.7%成長の約7200億人民元(約1174億ドル)であり、新政権が軍事力近代化を支持していることを明らかにした。政府支出に占める割合では5.3%となり、推定GDP比1.3%となる。これは22年連続の国防費増加であり、2006年に比較して倍増している。IISSの推定に拠れば、実際の中国の国防支出は公表値の40~50%増であり、米国防省は2012年の中国の実際の軍事支出を1350~2150億ドルと見積もっている。

 2012年9月の空母「遼寧」就役後、中国海軍は艦載航空部隊の養成に力を注ぐほか、少なくても2隻の国産空母の建造を計画している。1隻目は2020年までに就役する可能性があり、2隻目は2025年までに就役するだろう。中国の巨浪-2(JL-2)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は2013年末に実用化が見込まれているが、これと晋級弾道ミサイル原潜が組み合わされて、中国沿海から米国本土を狙うことができる中国初の信頼性のある海上核抑止力が生まれる。

 中国海軍は、近代的な水上艦艇及び潜水艦についても増加させており、現在7つの型の船舶を同時に建造しているが、これは更に増える可能性がある。中国は艦対地能力も開発しており、今後はグアムを含む陸上基地に対する攻撃能力を持つようになる。

中国海軍潜水艦の隻数の推移


中国海軍の水上艦艇の隻数の推移


中国のサイバー活動

 中国は2013年、中国政府が指示する大規模なサイバー・スパイ活動を米国に対して実施した強い疑いがもたれている。米国の民間サイバーセキュリティ会社のMandiantは、ある報告書の中で2006年以降、中国軍が少なくても141の企業、国際機関、外国政府に進入した証拠を示している。これらの企業の所在地は15カ国に及び、情報テクノロジーから金融サービスにいたる20の分野を横断していたが、そのうち81%が米国にあるか、米国を本拠としていた。

 米国防省も初めて、中国政府を米国ネットワークに対するサイバー・スパイ活動で非難した。国防省の中国の軍事力に関する2013年議会報告は、「2012年、米国政府が保有するものを含めた全世界の無数のコンピューター・システムが侵入の対象となっており、そのうちいくつかは中国政府又は中国軍によるものと思われる」と述べた。

 知的所有権の侵害等、サイバー・スパイ活動に対する対策がオバマ政権及び議会で検討されており、これには経済サイバー・スパイ活動に対する貿易上の制裁、窃盗された米国の知的財産を利用した中国企業との米国銀行の取引禁止等が含まれるが、現在のところ、中国により行われているサイバー・スパイ活動に対抗する包括的な枠組みは執行されていない。


中国の海洋紛争

 東シナ海及び南シナ海における主権争いは新しいものではないが、中国の増大する外交的、経済的、軍事的影響力は、中国が国益を主張する能力を伸張させている。中国が多国間交渉や国際法の適用により紛争を解決する意図がないことは益々明らかになってきており、これに代わって中国の主張を飲ませるべく強圧的な圧力を加えるために実力を用いてきている。海洋における中国の主張を堅持することが、政治的正統性の中核と見なされてきていることから、中国の指導層は東シナ海及び南シナ海における対外政策について国民のナショナリズムを利用している。中国は東シナ海及び南シナ海を自国の安全保障、領土の一体性、経済発展に死活的に重要と見なしている。一方で、中国の公式声明及び軍事力よりも法執行を優先していることは、中国政府が直接的な軍事力対決を避け、域内でのパワー・シフトに依拠してこの問題を長期的に解決しようとしていることを示唆している。

 東シナ海問題には日本、中国、台湾が関与しており、大きく二つの軸に分離できる。第1に尖閣諸島の領有権問題(ママ)であり、第2に、海洋資源を巡る海洋の分割の問題である。日中間の歴史的敵愾心、日中両国内におけるナショナリズムにより、尖閣問題は特に激しいものとなっている。2012年9月の尖閣国有化は中国を激怒させ、日中間の緊張を激化させた。中国政府及び法執行機関の船舶の活動は、以前は散発的で不定期であったが、国有化以降は、活動が活発化、常態化した。2013年を通じて、両国は自らの主張を支えるために、紛争海域における海軍及び法執行機関のプレゼンスを強化しており、緊張は持続している。


(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室長 平山 茂敏) 


 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。