海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME / 戦略研究グループ / トピックス・コラム / 020

 戦略研究グループ

 米国、北極圏戦略を発表

(トピックス020 2013/05/15)


 2013年5月10日、米大統領府が北極圏戦略を発表した。


 北極圏戦略の要旨の仮訳は以下のとおり。


北極圏戦略
(National Strategy for Arctic Region)
2013年5月


要旨 (Executive Summary)

 「合衆国は北極圏に広範で基本的な利益を有する極北の国であり、我々はそこで国家の安全保障上の必要性を満たし、環境を守り、責任を持って資源を管理し、現地のコミュニティを支援し、科学調査を支援し、幅広い問題について国際協力を強化する。」

国家安全保障戦略、2010年5月

 北極圏戦略は合衆国政府の北極圏への戦略的優先順位を規定している。この戦略は、海氷の消失と新たな北極環境の出現による北極での活動の著しい活発化により生じた、挑戦と新たな機会に合衆国が効果的に対応できるようにすることを意図している。この戦略は、北極圏における合衆国の国家安全保障上の国益を定義し、連邦、州、地域、部族組織による現在のイニシアチブの上に積み上げるべき努力の優先順位を明らかにし、機会が存在し行動が求められている分野の活動に焦点を当てることを狙いとしている。これはまた、環境条件の変化をもたらしている気候変動と戦うというグローバルな目標を追求すると同時に、変わり行く北極の環境の現実に合致したものになっている。我々の戦略は、3つの努力系列の上に成り立っている。


1.合衆国の安全保障上の国益を追求する。

 我々は、我々の艦船及び航空機が国際法に基づいて、北極の海上、海中、上空で行動し、合法的な交易を支援し、北極圏における活動の監視能力を高め、必用な耐氷能力を持ったプラットフォームを含めた我々の北極におけるインフラと能力を的確に設置していく。北極における米国の安全保障は、安全な通商・科学探査活動から国防まで、幅広い活動要素を含んでいる。


2.責任ある北極圏の管理を追及する。

 我々は、北極の環境を守り、その資源を保存し、統一された北極管理枠組みを確立・組織化し、北極圏の海図を整備し、北極の理解を深めるために科学探査を推進する。


3.国際協力を強化する。

 二国間関係と北極評議会を含めた多国間枠組みを通じて、我々は集団的利益を増進し、北極をめぐる国家の共通の富を振興し、北極の環境を守り、地域の安定化を図るための取り決めを追及する。そして、我々は合衆国の国連海洋法条約への参加のために働きかける。

 我々の取り組みは以下の指針となる原則に従って特徴づけられる。

 平和と安定を擁護する。
 同盟国、パートナー及びその他の関連団体と共に行動し、北極圏を紛争の無いエリアとして維持していく。そのため、以下の活動を維持・支援する。国際的に合法な航行の自由と上空飛行の自由の原則、これらの自由に関係した海洋と空域のその他の利用、妨げられない合法的な交易、全ての国家による係争の平和的な解決。

 入手可能な最善の情報を用いた意思決定
 全ての試みにおいて、決定は最新の科学及び伝統的な知識に基づいて行われる必要がある。

 革新的な合意の追及
 この緊縮財政環境にあって我々の戦略的優先目標を推進するために、適切で実現可能な場合、より効果的な開発、資源、管理能力のために、アラスカ州、北極圏諸国、その他の国際的なパートナー及び民間セクターとのパートナーシップを促進する。

 アラスカの原住民との対話と調整
 部族政府と合衆国とのユニークな法的関係を認識し、アラスカの民族コミュニティに影響する連邦の政策を通報する適時適切な機会を提供しながら、アラスカの部族との対話プロセスに参画する。


★ 解 説

 5月10日、米国のオバマ大統領は「北極圏に対する国家戦略( NATIONAL STRATEGY FOR THE ARCTIC REGION1)を公表した。

 これは今月15日からスウェーデンで開催される、2年に一度の北極評議会(ARCTIC COUNCIL)閣僚会議に備えて、米国の積極的な北極関与を明確に打ち出すとともに、国連海洋法条約批准に向けた国内的な狙いがあると考えられる。

 気候変動に伴う北極海の融氷は近年大きな課題となっている。温室効果ガス問題や融氷を早めるブラック・カーボンの問題、生態系への影響という、負の側面がある一方、北極海航路利用による距離の短縮効果や未発見石油の13%、天然ガスの30%とも言われる資源開発等2、期待される効果もある。また、それに伴う、安全保障上のリスクも増大すると分析されており、北極圏諸国はもとより、中国や韓国も積極的な動きを見せている。(これらの背景分析は、拙稿「北極海の戦略的意義と中国の関与」参照3

 北極の海底資源を巡っては国連海洋法条約の規定に基づき、大陸棚の延伸を沿岸各国が申請する中、米国だけは上院の反対で、同条約を批准できておらず、申請していない。

 このような情勢下、積極関与の姿勢を内外に明確に示し、活動を進める指針として示したのが、今回の戦略であると言えよう。


(幹部学校研究部 平山 茂敏、石原 敬浩) 


--------------------------------------------------------------

1 THE WHITE HOUSE, WASHINGTON, May 10, 2013, <http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/docs/nat_arctic_strategy.pdf> 2013.5.13アクセス
2 "Assessment of Undiscovered Oil and Gas in the Arctic", Science, Vol. 324 no. 5931, 29 May 2009.
3 石原敬浩「北極海の戦略的意義と中国の関与」、『海幹校戦略研究』、第1巻第1号、2011年5月、 <http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/1-1/1-1-4.pdf>
 


 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。