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 戦略研究グループ

 米議会への年次報告「中華人民共和国に関する軍事・安全保障上の展開 2013」

(トピックス019 2013/05/08)


 2013年5月6日、米国防省は議会に対する年次報告「中華人民共和国に関する軍事・安全保障上の展開 2013」を公表した。この報告は国防授権法(The National Defense Authorization Act for fiscal year 2000, amended in FY2010)に基づき公表版と秘密版の双方の作成が義務付けられており、作成者は国防長官室(Office of the Secretary of Defense)であるが、その作成には国務省、国土安全保障省、財務省等他省庁も加わっており、合衆国政府全体の対中視点を反映した文書である。本トピックスでは、本文書に加え、David Helvey国防次官補が行った記者会見の内容も紹介したい。

 国防次官補によれば、中国は長期的視野に立った包括的な軍事力の近代化を継続しており、その狙いとする所は、情報戦環境下における高烈度の短期局地戦に勝利することである。また、中国の指導者は、21世紀初頭の最初の20年間における中国の国家発展目標を達成するための戦略の中心的要素として軍事力の近代化を位置づけている。中国の発展に伴い、中国の国益は増大し、その影響力はアジア・太平洋に留まらず世界中に拡大している。このため、中国の軍事力の近代化は目の前の領土問題を超えて、能力と任務を拡大させる方向に焦点を当て始めている。これは新たな歴史的任務と呼ばれ、対海賊任務、平和維持任務、人道支援、災害救難等を含んでいる。これは、中国をパートナーとするという視点に立てば好機である。

 台湾海峡を挟んだ関係は改善傾向にあるが、台湾を対象とした軍事力の建設にペースダウンの動きは無いし、引き続き最優先事項となっている。

 中国は海洋領土の主張についても高い優先順位を置いている。近年、中国はより頻繁に更に有力なプレゼンスを南シナ海及び東シナ海で示すようになっており、地域内で中国の意図に対する懸念が高まっている。

 中国は、以下の武器に対する投資を継続している:核戦力、短中距離通常弾道弾、先進的な航空機、無人航空システム、ミサイル防衛、対地攻撃及び対艦巡航ミサイル、潜水艦、水上艦艇。これらのいくつかは、中国のアクセス阻止/エリア拒否(A2/AD)戦略の一部を構成している。

 中国はJ-20及びJ-31と呼ばれるステルス戦闘機の実験を行っている。これは、中国側が先進的な5世代戦闘機を開発したいという野心の現れである。しかしながら、両機とも作戦能力を有するようになるのは2018年以降と考えられる。空母艦載機については、作戦能力を持つまでにはあと3~4年は要するだろう。そして、今後15年間に、数隻の国産空母を建造するだろう。

 中国軍はサイバースペースの利用に向けての訓練と演習も実施している。2012年には、米国政府保有のものも含めた世界中の数多のコンピューターが侵入のターゲットとなったが、そのうちいくつかは中国政府又は軍が直接関与したものと思われる。

 本年3月5日に公表された軍事費については10.7%の伸びと、引き続き高成長を続けており、公表値で1140億ドルに達する。実際の軍事費の推定は、透明性の欠如から困難であるが、昨年について言えば、公表値1060億ドルに対し、実際の軍事費は1350から2150億ドルと推定される。

 2012年を通じ、昨年5月の中国国防相の訪米に象徴される様に、米中の軍同士では有意義な交流が行われた。6月にはロックリア米太平洋軍司令官が訪中し、9月にはパネッタ国防長官が訪中した。米国は引き続き中国との軍事的な関係構築に邁進し、アジア・太平洋地域の安全保障への米国のコミットを明らかにしていく。


 以上が、Helvey国防次官補からの説明の概要であり、この後で記者との質疑応答が行われた。

 記者からの質問は以下のとおりであり、米国における中国への関心の方向性の一部を現していると思われる。

 ・ 中国による産業スパイ:特にジョイント・ストライク・ファイター等
 ・ 中国の潜水艦の活動実績
 ・ 中国の無人機開発段階
 ・ 中国の予想以上に早い兵器開発の有無
 ・ サイバー戦
 ・ 中国のステルス機の能力(F-22と比較して)
 ・ 南シナ海・東シナ海の係争の今後の行く末
 ・ 北朝鮮との関係
 ・ 軍事費の増大
 ・ 対艦弾道弾の配備数
 ・ リムパックへの中国海軍の参加
 ・ 台湾指向兵力(特に弾道弾)

 特に、対艦弾道弾及び戦闘機については複数の質問があり、一言で言えば、A2/ADに関する関心が高かったように思われる。

 尖閣問題については、「要旨」には登場しないものの、「本紙」には本文3ページの「領土紛争(territorial disputes)」の項目に登場する。本文では取り上げるものの、要旨で特筆するほどの扱いではないという位置づけである。我が国は一貫して尖閣に領土問題は存在しないという立場であることから、本報告書がSenkakuをterritorial disputeとしている点は認識しておく必要があろう。なお、中国が昨年9月以降主張している尖閣を含む直線基線は不適切(improperly)とする一方、中国による領有権の主張自体に対する米国の立場については言及が無く、この点で日中の領土問題(我が国は領土問題は存在しないというスタンスだが)について、一方の側には立たないという姿勢に変化は認められない。なお、記者会見においては、南シナ海と東シナ海双方における領土問題についての見通しを問う質問はあったが、具体的に「尖閣」或いは「日中」に言及する質問は認められなかった。この点も、米国における尖閣問題の微妙な位置づけ(認識されてはいるが特筆されるほどではない)を現しているのかも知れない。


 今年の「中華人民共和国に関する軍事・安全保障上の展開 2013」の要旨(Executive Summary)は以下のとおり。


 要旨 (Executive Summary)

 中華人民共和国(PRC)は、短期間の高烈度地域武力紛争を戦い、勝利するための、長期的かつ 包括的な軍事力近代化計画を継続し続けている。台湾海峡は引き続き最重要な焦点であり、中国 の軍事投資の主要な原動力である。しかしながら、中国の国益が増大し、国際社会におけるより 大きな影響力を獲得するにつれ、中国の軍事力近代化は目の前の領土問題を超えた幅広い任務を 実施する能力に軍事能力の投資の焦点が移動しつつある。これらの任務とは、対海賊、平和維持、 人道支援・災害救難(HA/DR)及び地域的な軍事作戦である。これらの任務及び能力のいくつかは、 国際的な安全保障上の課題にも向けることができ、一方で、その他の任務や能力は、更なる領土 主張や海外における影響力の構築といった中国の狭義の国益や目標に貢献する。

 中国人民解放軍(PLA) の拡大する役割と任務を支援するため、2012年を通して、中国の指導者 は、先進的な短中距離通常弾道弾、対地攻撃及び対艦巡航ミサイル、対宇宙兵器、軍事サイバー スペース能力への投資を維持したが、これはアクセス阻止/エリア拒否(A2/AD)任務(人民解放軍 の戦略家は「対干渉作戦(counter-intervention operation)」と呼称している)を指向している ように思われる。人民解放軍は核抑止、長距離通常攻撃、先進的戦闘機、初の空母「遼寧」の就 役を含む限定的な域内パワー・プロジェクション、統合防空、水中戦、改良された指揮統制、中 国の空軍・海軍・陸軍にまたがるより洗練された訓練と演習といったものの改良も継続している。

 2011年1月の首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と胡錦濤国家主席(当時)は、「健全で、 安定した、信頼できる軍同士の関係が、明白で、協調的で、包括的な両国で共有されるビジョン の重要な要素である」と共同で確認した。この枠組みの中で、米国防省は中国との軍同士の持続 的で実際的な関係の構築を追及し、中国が米国、その同盟国、パートナー諸国、そしてより広範 な国際コミュニティと公益の普及において協力するよう働きかけていく。米国が中国との軍同士 の関係のためのより強固な基盤を築く一方で、米国は中国の発展する軍事戦略、ドクトリン、部 隊の展開にも目を光らせ、中国が軍の近代化計画で更に透明さを増すよう働きかけていく。同盟 >国とパートナー諸国と共に、米国はこれからもその部隊、配備そして作戦概念を安定で安全なア ジア・太平洋の安全保障環境を維持するために適合させていく。


(幹部学校研究部 平山 茂敏) 


 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。