海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME / 戦略研究グループ / トピックス・コラム / 017

 戦略研究グループ

 論文「大きな役割を担う小国:アラブの春の後のカタールとアラブ首長国連邦」
要約及び仮訳

(トピックス017 2013/02/13)



1 著者

 クリスティアン・コート・ウルリヒセン(Kristian Coats Ulrichsen)博士は、ロンドンスクールオブエコノミクスで「クウェートの開発並びに湾岸のガバナンス及びグローバリゼーションに関する研究プログラム」副責任者を、チャタムハウスで「中東・北アフリカプログラム」客員研究員を務める。同博士は、2011年に「不安定な湾岸」(コロンビア大。2011。)”Insecure Gulf : The end of Certainty and the transition to the Post-Oil Era” (Columbia Univ. 2011)を発刊された。ここで、湾岸諸国での世界規模の政治、経済分野の変化が、いかに地域の伝統と安全保障に影響を及ぼしているかが明らかにされている。同博士はこのほかに、中東及び北アフリカに関する数多くの論文及び著作を執筆されている。アラビア半島、イラクの歴史と政治を専門とされている。


2 アル・サバーハプログラム1

 HHシェイク・ナセル・アル・ムハンマド・アル・サバーハ・プログラムは、2011年に英国ダーハム大学でクウェートの委託を受けて設立されたものであり、現在の中東・北アフリカの政治、安全保障に関する問題を取り上げて研究し、その成果を発表している。その目的とするところは、とりわけ中東とその周辺の小さく脆弱な国家の安全保障に関して理解を深めることにある。同プログラムにおいては修士課程及び博士課程が設置されており、中東研究者の養成にも力を注いでいる。プログラムの名称に出資者であるクウェート首長の名が冠されている。


3 論文の位置づけ

 論文「大きな役割を担う小国たち:アラブの春の後のカタールとアラブ首長国連邦」2は、ウルリヒセン博士が昨年2012年にアル・サバーハプログラムからの依頼を受けて執筆したものであり、同プログラムの論文シリーズでは3番目のものである。


4 要約

 2000年代、湾岸諸国は石油輸出による収益を国内開発に向けたが、すべての産油国がその発展において成功したわけではなかった。2008年のアジアを中心に広がった世界的な信用不安の影響を受けて、国家の経済が停滞し近隣国から経済支援を仰ぐ国家も現れた。そのようななかで、カタールとアラブ首長国連邦の2国は際立った発展を達成した。

 両国の発展は、国家ブランド化戦略及び新興経済グループとの経済的連携の強化によるものである。特に、食糧とエネルギーの安全保障に関して中国及び韓国との連携が深化した。そして、カタールが2022年のサッカーワールドカップの開催国に決定されたことで顕著な発展が世界に認められたことが印象付けられた。

 劇的な発展を続けた両国は、2011年のいわゆる「アラブの春」で、特にリビアへの介入以降においては異なった動きを見せた。

 カタールは、仲介を掲げた外交方針を展開してきたが、2000年代後半から外国の紛争で紛争当事者の一方に与する介入へと変え、反体制組織への武器、資金支援を強力に推進するようになった。NATO主導のリビアへの空爆においては、空軍の戦闘機を派遣し、反体制組織に資金、武器の支援を行った。アル・ジャジーラ放送局をツールに活用し、潤沢な資本と、伝統的な制約から解放されている利点を活かして、独裁国家の反体制活動を支援する動きをますます強めている。その結果、アルジェリア、シリア、イエメンの現体制は、カタールの介入を干渉であるとみなして反発した。

 UAEは、アブダビとドバイが突出して発展し、他の5首長国との格差が大きく開いていたが、石油利益がもたらされ、カタールと同様な国家ブランド化戦略をとって国内開発にその資本を集中した結果、さらに格差が拡大した。アラブの春では、カタールに追従してリビアの反政府組織に武器、資金援助を行ったのと同時に、バハレーンの民主化要求活動に対しては、「湾岸の盾」軍に派兵してバハレーン王室政府を積極的に支援し、暴徒鎮圧に協力した。しかし、カタールと異なって経済、インフラ、教育その他多くの面で国内の格差が拡大し、貧しい首長国がテロ・犯罪の温床となっていることが今後の脆弱性として指摘される。

 国家ブランド化戦略と巨大資本をテコに地域のみならず地球規模での影響力を増してきた両国であるが、アラブの春への対応でそれぞれが抱える安全保障上の脆弱性が明らかになった。


5 謝辞

 今回、ダーハム大学アル・サバーハプログラム責任者アヌーシ・エフテシャーミー(Anoush Ehteshami)博士の御好意により、翻訳及び幹部学校ホームページにおける発表の許可をいただいた。ここに著者ウルリヒセン博士とアル・サバーハプログラム責任者エフテシャーミー博士に対する謝意を表するとともに、全文を仮訳して紹介する。


「大きな役割を担う小国:アラブの春の後のカタールとアラブ首長国連邦」訳文PDF


(幹部学校研究部第1研究室 蓮本 一朗) 


--------------------------------------------------------------

1 http://www.dur.ac.uk/alsabah/
2 http://www.dur.ac.uk/resouces/alsabah/SmallStateswithaBigRoll.pdf
  


 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。