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 戦略研究グループ

 米国「中国の軍事力・安全保障の進展に関する年次報告書」(2012年版)を公表

(トピックス014 2011/5/24)

中国の軍事力・安全保障の進展に関する年次報告書(2011年版)イメージ中国の軍事力・安全保障の進展に関する年次報告書(2012年版)


 米国防省(U.S. Department of Defense)は2012年5月18日、「中国の軍事力・安全保障の進展に関する年次報告書」(2012年版)(ANNUAL REPORT TO CONGRESS, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2012)(以下、「中国の軍事力」と呼称)を連邦議会に提出・公表しました。「中国の軍事力」は向こう20年間にわたる中国人民解放軍の動向等について、毎年国防長官が連邦議会に報告するもので、2000年の第1回公表以降、ほぼ毎年公表されてきており、今回で12回目の公表となります(2001年のみ無し)。

 今回の「中国の軍事力」は、4つの章と4つの付録で構成されています。各章の要約等は、以下のとおりです(要旨(Executive Summary)のみ全文仮訳)。



要旨 (Executive Summary) (全文仮訳)

 中華人民共和国(The People’s Republic of China (PRC:以下中国))は、「情報化条件下の局地戦」、あるいは高烈度かつ情報中心(information centric)の地域的な短期軍事オペレーションにおける戦闘と勝利のために、中国の軍事力を向上させるべく、長期的かつ包括的な軍の近代化プログラムを継続して実施中である。中国の指導者らは中国人民解放軍(Chinese People’s Liberation Army(訳註:以下PLAとする))の近代化を、21世紀最初の20年間を「戦略的な絶好の機会」(window of strategic opportunity)と認識して、中国の国家的発展に資するという戦略を推し進める上での必要不可欠な要素であると捉えている。この期間において、中国の指導者たちは経済的成長及び発展に焦点を当てた戦略的余地を中国に提供するための、好ましい外部環境の醸成を優先事項としてきた。その期間、中国の指導者らは、中国政府が戦略的余地をもたらすよう経済成長と発展に焦点を絞り、積極的な対外環境構築の推進を第一優先として位置付けてきた。同時に中国の指導者らは、自国周辺の平和と安定の維持を求めており、市場、資本、資源へのアクセスを容易にすべく外交的な影響を拡大し、米国及びその他の国々との直接的な対決を避けてきたのである。この戦略が、経済及び外交の権益の新規開拓とその増大に伴い、世界中に中国の存在感(presence)を増大させたのである。

 これらの権益が増大するにつれ、中国が、国際社会における新たな役割や責任を担うようになるにつれ、中国軍の近代化は、軍が中国からより遠方のエリアにおいても幅広い任務が遂行可能となるような軍事力への投資により一層重点が置かれている。PLAがこのような任務拡大に向かいつつある中にも、主要な焦点は台湾海峡の不測事態への備えであり、中国の軍事投資の大半を占める。これに関連して、昨年以降、PLAは、台湾の独立表明を抑止するため、海峡をはさんだ紛争における米国の実効的な干渉を抑止、遅延、拒否するため、台湾軍との武力衝突時に勝利するため、継続してその能力を向上させ、ドクトリンを発展させている。

 拡大するPLAの一連の役割や任務を支えるため、中国の指導者たちは2011年において、接近阻止/領域拒否(A2/AD)又はPLAが「対干渉作戦」と称している戦略を可能とする、巡航ミサイル、従来型中短距離弾道ミサイル、対艦弾道ミサイル、対宇宙兵器、軍のサイバースペース能力向上に対する投資を維持した。PLAは、ステルス戦闘機J-20の初テスト飛行が立証しているような改良型次世代戦闘機、中国初の航空母艦の試験航行の開始にみられる限定的な戦力投射、統合化された防空、水中戦、核抑止と戦略的攻撃、指揮統制の改善、中国の空、海、陸軍を超えたより複雑な訓練、演習によって向上した能力を示し続けている。

 より強調すべきは、中国指導者らが中国に隣接する関心領域を超えてその任務を大きく拡大しようとしていることであり、過去1年の間に、PLAはリビアからの(在留中国人の)退避活動に対するアセットの派遣、3年目を迎えたアデン湾の海賊対処活動に伴うプレゼンスの長期化、国連平和維持活動における指導的役割、中国海軍の病院船を使用したラテンアメリカ及びカリブ海諸国における医療活動を実施した。

 2011年1月のサミット期間中、バラク・オバマ大統領と中国の胡錦濤主席は相互尊重と互恵に基づく協力的なパートナーシップを一緒に構築する考えを示した。その枠組みの中では、米国防省は中国との健全で、安定的、信頼できる、継続可能な軍レベルの関係構築を模索している。中国との軍レベルでの関係強化は、海賊対処や国際平和維持活動、人道支援、災害派遣といった国際社会の公共の利益の提供への努力において、米国やその同盟国及びパートナー国と協力するべく、中国の選択を方向付けていくための努力の一環である。米国が中国との軍レベルの関係においてより強固な基盤を構築することは、中国の推し進める軍事戦略、ドクトリン、軍の発展を継続してモニターしていくことにもなる。米国は同盟国やパートナー国と協力し、安定且つ安全なアジア太平洋の安全保障環境を維持するために軍事力、態勢、オペレーション概念を引き続き適合させていくのである。


第1章 中国の軍事戦略とドクトリン
 (Chinese Military Strategy And Doctrine)

 人民解放軍の潜在的最重要任務は2011年現在においても台湾であり、そのための能力とドクトリンを構築していくとし、「情報化条件下の局地戦」(local wars under conditions of information)に勝利することを念頭に、軍能力の整備をしていると指摘しています。また、人道支援・災害派遣(HA/DR)などの非戦闘活動を「新しい歴史のミッション」(new historic missions)と呼び、拡大しているとも述べています。


第2章 軍近代化の到達点と趨勢
 (Force Modernization Goals And Trends)

 中国は2012年3月4日に、軍事予算を約1,060億ドルと発表しましたが、国防省は2011年の軍事費を、1,200億ドルから1,800億ドルの間と見積もっています(昨年度の中国の軍事力の見積もりは「1,600億ドル以上」でした)。これら軍事費は、ミサイル開発やサイバー戦能力向上などに使われていると指摘しています。


第3章 軍同士の交流 (Military-To-Military Contacts)

 米国は、より強固な中国との軍同士の交流をしていくとしています。そのための具体的な努力として、(1)平和維持活動及びHA/DR並びに海賊対処作戦などの相互にとって利益のある分野における協力能力の増大、(2)軍学校・研究機関や初級・中級士官などの間の交流を通じた組織的な理解の醸成、(3)地域の安全保障環境及びそれに関連した安全保障上の問題点に関する共通の見積もりの構築に焦点を当てていくとしています。


第4章 中華人民共和国の台湾戦略 (The PRC’s Taiwan Strategy)

 中国の台湾の経済・軍事目標への攻撃能力は向上したとしつつも、台湾侵攻に向けた本格的な両用戦能力は限定的であると見積もっています。このため、もしも中国が台湾に対して軍事力を行使する時には、他国が反応する前に政治的決着を付けようとし、それが失敗した場合には、中国は、(1)米国の干渉を阻止するために、米国指導者と民衆に潜在的なリスクを喧伝する、(2)(1)が失敗した場合は、干渉を遅らせるようにし、さらに圧倒的且つ迅速で局限的な勝利を模索する、(3)中国民衆に「勝利」と確実に宣伝できるような目標を達成したならば戦闘を停止し政治的な解決を追求する、という行動を取るであろうと分析しています。


付録1 中国の軍隊の規模、場所、能力
(Size, Location, and Capabilities of Chinese Military Forces)

 省略


付録2 中国と台湾の軍事データ (China and Taiwan Forces Data)

 省略


付録3 軍事交流 (Military-To-Military Exchanges)

 省略


付録4 地図・海図 (Maps And Charts)

 省略


 また、中国の国産空母は2015年以降に実戦配備可能となり、今後10年間で複数の空母とそれを支援する艦船を持つであろうといった1、昨年度版2にはない新しい分析もいくつか見られます。ただし、全般的に昨年度版までに述べられてきたことの踏襲という印象が強いものとなっています。

 さらに昨年度のものと比べると、そのページ数の少なさが特に目を引きます。昨年度版は80ページ以上ありましたが、今年のものは40ページ余りで、昨年度版の半分程度にとどまっています。また、近年は8月に公表されていたのに、今年は3か月も早い5月の公表となりました。

 いずれにせよ米国は、中国に対しては、今後連携を深めていく努力をするとしつつも、一定の警戒感を持つという、従来のスタンスを継続していく模様です。我々も海洋安全保障を進めていく上で、中国と今後どのように接していくのかについて、より深く考察していく必要があるものと考えます。


(幹部学校国際計画班  関 博之、五十嵐 尚美(要旨翻訳)) 


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1 “ANNUAL REPORT TO CONGRESS, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2012,”Office of the Secretary of Defense, May , 2012, p.22.
2 トピックス005トッピクス006参照
 


 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。