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 戦略研究グループ

 無人機の法的地位

(トピックス013 2012/02/08)


 最近、新聞紙面等に登場している「無人機(Unmanned Aerial Vehicle)」に関して、その法的地位、具体的には軍用機(military aircraft)と同様の主権免除(sovereign immunity)を有しているのか否かという点について、米海軍の見解を中心に紹介します。

 昨年12月、米中央情報局(CIA)の極秘任務に従事していたとされる米国の無人機が、イラン領内で不時着したと報じられました1。この件に関し、米国及びイランは、いかなる主張を行うことができるのでしょうか。

 軍用機に係る国際法上の規則としては、まず、「軍用機は軍艦と同様に、外国による捜索及び検査からの主権免除を享有する。」2というものがあります。また、「外国の官憲は、軍用機指揮官の同意なしに、当該航空機に立ち入ることはできない。」3とされています。

 一方で、軍用機には無害通航(innocent passage)の規則が適用されないので4、外国の領空を飛行(着陸等を含む。)するためには当該国の許可が必要となります5。したがって、攻撃機は言うに及ばず、情報収集に使用される非武装の軍用機についても、仮に軍事的任務を帯びて外国の領空を侵犯した場合、自衛のための武力行使(use of force)の対象となり得るわけです6

 米国(米海軍)は、「国防省が運用する全ての無人機は、『軍用機』と見なされなければならない。」7とマニュアルに記述しています。しかし、同じマニュアルにおいて無人水上航走体(Unmanned Surface Vehicle)や無人水中航走体(Unmanned Underwater Vehicle)については、軍艦とは見なされ得ないものの「政府の非商業的役務に従事しているものは主権免除を有する。」8と明確に表現されています。つまり、同じ無人体でありながら、その地位についての統一性が欠如した記述により、特に無人機の地位(主権免除の有無)についての曖昧さを強めてしまっていると考えます。

 軍艦又は軍用機にかかわらず、主権免除というものが最も際立つのは、許可を得て外国の港湾又は空港に所在する場合です。したがって、無人機等が国際水域(international waters)(その上空も含む。)において、外国の権利を侵害しないように運用されている限り、主権免除の有無は問題となることはありません。また、(特に、航空機が)外国の領域内に許可なく侵入した場合9、強制力行使の対象となることを考えれば、主権免除が存続するとしても、それが問題の本質とはならないことは明らかでしょう。

 現時点において、無人機等の地位について規定した条約は存在しませんし、慣習法も確立されていないことから、無人機等の法的地位については、未だ国際的に定まっていないと見るのが妥当でしょう。

 いずれにしても、今回の件に関して言えば、「領空侵犯(イラン)」と「国家の財産の返還(米国)」という主張が対立するという構図ではないかと考えます。


(幹部学校第3研究室長 沼田 良亨) 


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1 http://www.foxnews.com/politics/2011/12/05/us-military-sources-iran-has-missing-us-drone/(最終アクセス日:2011年12月6日)
2 The Commanders’ Handbook on the Law of Naval Operations, Edition July 2007 (NWP1-14M) (U.S. Department of the Navy, Office of the Chief of Naval Operations, 2007) [hereinafter The Commanders’ Handbook], para. 2.4.2.
3 同 上。
4 The Commanders’ Handbook, para. 2.5.2.1.
5 民間航空機については、国際民間航空条約(Convention on International Civil Aviation, Dec. 7, 1944)に基づき、より緩和的な条件の下で他国領空への飛行、通過、運輸以外の目的での着陸が認められている。
6 The Commanders’ Handbook, para. 4.4.2.
7 The Commanders’ Handbook, para. 2.4.4.
8 The Commanders’ Handbook, para. 2.3.6.
9 遭難等に起因する、または、遭難に対する援助のための緊急的な入域は、一般的に認められている。
 


 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。