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 戦略研究グループ

 米国、新たな戦略ガイダンスを発表

(トピックス010 2012/01/12)

 オバマ大統領は、2012年1月5日(米国東部時間)、国防省で新たな戦略ガイダンスを発表しました。この文書は、「米国の世界的リーダーシップの維持:21世紀の国防の優先事項」と題され、戦略環境の変化と国防費の削減を受けて行った、米国の国防戦略の検証結果に基づいています1。新たな戦略ガイダンスは、米国の安全保障戦略を新たな戦略環境と国防予算削減という状況に適合させるための文書であり、今後の米軍の規模とあり方に関する決定を導く原則となります。この文書で示された戦略アプローチは、2010年に発表された米国の「国家安全保障戦略」の要求を満たす一方、今後発表されると推測されるThe Joint Force in 2020のための青写真となると位置づけられています。

 「米国の世界的リーダーシップの維持:21世紀の国防の優先事項」は、序文、安全保障環境に関する見積もり、見積もりに基づく米軍の主要任務、任務を達成するための2020年における統合部隊、結論という構成になっています。

 「困難な世界的安全保障環境」と題された、見積もりに関する項では、中東、アジア太平洋地域、ヨーロッパ、その他の地域という地域別の見積もりのほか、テロ組織、国際公共財、大量破壊兵器の拡散について述べています。

 「米軍の主要任務」の項においては、見積もりを踏まえた上で、2010年に発表された米国の「国家安全保障戦略」の目的を達成するため、統合部隊が成功させるべき任務として、10個の任務を明記しています。そして、米軍の全般的な能力は、その10個の中の「テロ及び非正規戦への対抗」、「攻撃の阻止及び撃破」、「安全、確実、効果的な核抑止の維持」、「国土防衛及び民間機関に対する援助の提供」の4つの任務が必要とする要求に基づいて、決定されるであろうと述べています。

 「2020年における統合部隊に向けて」の項では、前項で示された任務の成功を確実にするための、軍事力及び計画の発展を導く8つの原則を示しています。

 本ガイダンスの内容に加え、本ガイダンスと「国家安全保障戦略」(2010年)、「4年ごとの国防計画の見直し」(2010年)及び「国家軍事戦略」(2011年)など、米国の安全保障関連戦略体系との関係も注目されます。

 以下は、我が国にとって影響が大きいと思われる箇所を中心に本文を仮訳したものです。原文(英語版)は、米国防省HP ( http://www.defense.gov/news/Defense_Strategic_Guidance.pdf ) で閲覧することが可能です。


(幹部学校研究部第1研究室 松﨑 みゆき) 


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1 「米国の世界的リーダーシップの維持:21世紀の国防の優先事項」の位置付けについては、同文書の「序文」及び「結論」を参照した。

 本トピックスに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。



米国国防省
2012年1月
「米国の世界的リーダーシップの維持:21世紀の国防の優先事項」


序 文 (訳註:「序文」は意訳)

 イラクとアフガニスタンにおける作戦での責任を果たした今、我々は経済の活力と変化の速度を速めている世界で我々の利益を守るために行動を起こす、という変化の時期に直面している。そのため、変化しつつある地政学的環境及び我々の財政状況を考慮した、米国の国防戦略の検証を行った。この検証の結果、我々は、国防組織を今日の戦争を重視するものから将来の挑戦に備えるように変化させ、米国の広範な安全保障上の利益を守り、再配分(リバランス)と改革のための国防省の努力を推進し、低予算の国防支出を通じた財政赤字削減という安全保障上の要請に耐えうる国防戦略を作り上げた。

 この戦略ガイダンス文書は、安全保障環境に関する我々の見積もりと、国防省が備える重要な軍事的任務について説明するものである。本文書は、今後の計画と予算サイクルの間、軍隊の規模とあり方に関する決定を導くために助けとなる原則を提供し、(本文書で)提案される戦略と関連した戦略的リスクに注目する、The Joint Force in 2020 のための計画となる予定である。


困難な世界的安全保障環境

(訳註:以下のパラグラフは全訳)
 ウサマ・ビン・ラーディンの死と、多数のアルカイダ高官の捕獲もしくは殺害により、アルカイダは弱体化した。しかし、アルカイダとその関連団体は、パキスタン、アフガニスタン、イエメン、ソマリア、その他の地で活動中である。(そして)より広い範囲で、暴力的な過激派が米国の利益、同盟国、協力国、米国本土に脅威を与え続けている。これらの脅威の主要な舞台は、南アジア及び中東である。破壊的な技術の拡散により、過激派は、我々の安全と繁栄に直接的影響を及ぼす、破滅的な脅威となる可能性がある。予見し得る将来、米国は、世界規模で、非国家的脅威の活動を監視し、統治が確立されていない地域に支配を確立するため、同盟国及び協力国とともに働き、必要であれば最も危険な集団及び個人を直接、攻撃することにより、脅威に反撃するための積極的なアプローチを継続する。

(訳註:以下のパラグラフは全訳)
 米国の経済及び安全保障上の利益は、西太平洋及び東アジアからインド洋地域及び南アジアに広がり、困難と機会が混在している弧における発展と密接に関連している。それゆえ、米国の軍隊は全世界規模で安全保障への貢献を継続する一方、我々は、必然的に、アジア太平洋地域における均衡を再調整していく。アジアの同盟国及び主要な協力国と我々の関係は、地域における将来の安定と成長にとって、死活的に重要である。我々は、アジア太平洋の安全保障にとって重要な基盤を提供する、現在の同盟国を重視する。我々はまた、共通の利益を保護するための、集団での能力を確保するため、アジア太平洋全域で新興の協力国との協力ネットワークを拡大する。米国はさらに、広範なインド洋地域において経済的中核となり、安全保障の提供者として役立つ能力を支えるため、インドとの長期的な戦略的パートナーシップに投資する。そして、核兵器計画を活発に追求している北朝鮮からの挑発を抑止、防衛するため、同盟国及び他の地域国家と効果的に努力することによって、朝鮮半島の平和を維持していく。

 この変動する地域において平和、安定、商業の自由、そして米国の影響力を維持できるか否かのある程度は、基礎となる軍事的能力及びプレゼンスの均衡にかかっている。長期的には、地域大国としての中国の台頭は、様々な形で米国の経済及び安全保障に影響を与える可能性がある。米中は、東アジアの平和と安定に強い利害関係を持ち、協調的な二国間関係を築くことに利益を有している。しかしながら、地域における摩擦を避けるために、中国の軍事力の増大は、戦略上の意図の明確化を伴わなければならない。米国は、条約による義務及び国際法にのっとった活動を自由に行うための、地域へのアクセスと能力の維持を確保するために、必要な投資を継続する。我々の同盟国及び協力国によるネットワークと緊密に努力し、我々は、基礎となる安定を確保し、新興国の平和的台頭、経済的力強さ、建設的な防衛協力を促す、ルールを基盤とした国際秩序の促進を継続する。

(訳註:以下のパラグラフは抄訳)
 中東における我々の防衛上の努力は、同盟国及び協力国への関与の維持と同様、暴力的な過激派及び不安定化を招く脅威に対抗することを目的としている。中でも、弾道ミサイル及び大量破壊兵器の拡散が、特に懸念となっている。これらの目的を支えるため、米国は、地域内及び周辺の協力国の支持を得て、地域における米国及び同盟国の軍事的プレゼンスを奨励し続ける。

(訳註:以下のパラグラフは抄訳)
 ヨーロッパは、現在及び予見し得る将来において、世界規模及び経済的安全保障を追求する上での、我々の主要なパートナーである。米国は、ヨーロッパ及びヨーロッパ以外の地域にとって重要な、NATOの強さ及び活力を支えることと同様、ヨーロッパにおける平和と繁栄を支えることに、永続的な利益を保持し続ける。現在の紛争から、将来の能力へと焦点を転ずる中で、ヨーロッパが安全保障の消費者から製造者になったことは、イラクとアフガニスタンにおける戦闘の終結とともに、ヨーロッパにおける米国の軍事上の投資を再配分するための戦略的機会を作り出した。このように進化した戦略状況を維持するにあたり、ヨーロッパにおける我々の態勢もまた、進化しなければならない。

(訳註:以下のパラグラフは抄訳)
 世界中の他の地域において、パートナーシップ能力を構築することは、世界的な指導者のコストと責任を共有するために、依然重要である。必要な時はいつでも、訓練、ローテーションによるプレゼンス、助言を通じ、我々は安全保障上の目的を達成するための、革新的で、低予算、そして小規模のアプローチを発展させるであろう。

(訳註:以下のパラグラフは抄訳)
 経済発展と通商を可能にするために、米国は、世界中の同盟国及び協力国と共に、国際公共財の隅々までに至るアクセスの自由に関する保護を追求する。国家及び非国家主体は、国際公共財におけるアクセスに対する潜在的脅威となっている。国家及び非国家主体は、サイバーを通じたスパイ、そして潜在的には米国に対するサイバー攻撃を実行する能力及び意図を持っている。責任ある態度という国際規範を強化し、互いに関連した、相互運用性を有する軍事力を維持することにより、米国は、有能な同盟国及び協力国と共に、国際公共財へのアクセス及び使用を確保するための世界規模での努力を率先して行っていく。

(訳註:以下のパラグラフは全訳)
 核、生物、科学兵器技術の拡散は、地域国家による脅威を拡大させ、米国の利益に挑戦する行動の自由を与える可能性がある。単純な核装置でさえテロリストが入手したならば、米国にとって破壊的な結果が予測される。従って、国防省は、国内外の協力者と共に働き、WMDの拡散に対抗するために効果的な作戦を実行する能力の促進を継続する。


米軍の主要任務

 前述のような状況で、米国の安全保障上の利益を守り、2010年の国家安全保障戦略の目的を達成するために、統合部隊は、以下の任務の成功を目的として、再度能力を調整し、追加投資を選択的に実施する必要がある。

・テロ及び非正規戦への対抗 (訳註:本項目は抄訳)
 アルカイダを崩壊させ、解体し、打ち負かすという我々の中核的目標を達成し、アフガニスタンがかつてのような(テロリストにとっての)避難場所とならないようにすることが、我々の努力の中心である。

・攻撃の抑止及び撃破 (訳註:本項目は全訳)
 米軍は、どのような潜在的な敵からの攻撃であっても、抑止し、撃破することができるであろう。信頼に足る抑止は、侵略者による目的達成の見込みを否定するための能力と、侵略者に受け入れがたいコストを与える能力が互いに補い合うことにより、達成される。複数の地域に重要な権益を抱える国家として、我々の軍隊は、どこか他の場所で大規模作戦に従事しているときでさえ、ひとつの地域において、敵による攻撃を抑止し、撃破できなくてはならない。我々の計画は、陸上、空、海上、宇宙、そしてサイバー空間のすべての領域を結合した軍事作戦を実施することにより、ひとつの地域において、軍事的能力の高い国家の攻撃的な目的を完全に否定することができる軍隊を想定している。これは、領土と人々の安全を確保するとともに、限定された期間で、小規模な常設の軍隊を用い、もし必要であれば、延長された期間で、その目的のために動員された軍隊を用い、安定した統治への移行を促進する能力を含んでいる。米軍は、ひとつの地域において、大規模作戦に従事しているときでさえ、第2の地域における侵略者の目的を否定、もしくは受け入れがたいコストを課すことができる。米軍は、可能なときはいつでも同盟国もしくはコアリションの軍隊とともに作戦を実施する計画を立案する。我々の地上軍は、上記のような紛争が生起し得るいくつかの地域のための備えとして、必要な迅速さを維持するために、均衡のとれた輸送力、プレゼンス、事前配備を提供するであろう。

・アクセス拒否/エリア拒否という挑戦の下での、軍事力の投射(訳註:本項目は全訳)
 潜在的な敵を確実に抑止し、彼らの目的達成を妨げるために、米国は、部隊を運用するためのアクセスと自由が挑戦を受ける地域においても、軍事力を投射する能力を維持しなければならない。これらの地域において、有能な敵は、我々の作戦上の計算を複雑にするために、電子、サイバー戦、弾道・巡航ミサイル、進化した防空、機雷、その他の手段を含めた、非対称的な能力を使用するであろう。中国、イランといった国家は、我々の軍事力投射能力に対抗する手段として、非対称的手段を追求するであろう。その一方、洗練された武器及び技術は非国家主体にも拡散するであろう。従って、米軍は、アクセス拒否/エリア拒否(A2/AD)環境で、効果的な運用能力を確保するために、必要な投資を行う。これは、海中における能力を維持し、新たなステルス爆撃機を開発し、ミサイル防衛を改良し、宇宙を基盤とした重要な能力の、障害許容力及び有効性を促進する努力を継続する、Joint Operational Access Conceptの実行を含んでいる。

・大量破壊兵器への対抗 (訳註:本項目は抄訳)
 米軍は、核、生物、科学兵器の拡散及び使用を防ぐ目的の活動を実施する。

・サイバー空間及び宇宙での効果的な運用 (訳註:本項目は抄訳)
 今日の宇宙システムと、それを支援するインフラは、アセットの質を低下させ、妨害し、破壊する恐れがある脅威に直面している。従って、国防省は、国内外の同盟国及びパートナーと協力し、ネットワーク、運用能力、サイバー空間及び宇宙での障害許容力を保護するための能力を高める投資を継続する。

・安全、確実、効果的な核抑止の維持 (訳註:本項目は抄訳)
 抑止という我々の目標は、核兵器の数を削減し、米国の国家安全保障戦略において核が果たす役割が縮小された、より少ない核兵力のもとでも達成され得る。 

・国土防衛及び民間機関に対する援助の提供 (訳註:本項目は抄訳)
 米軍は、米本土を国家及び非国家主体による直接攻撃から守り続ける。我々はまた、防衛に失敗し、米本土が攻撃された際、もしくは自然災害時、国内の民間組織への支援を実施する。

・安定装置としてのプレゼンスの提供 (訳註:本項目は全訳)
 米軍は、ローテーションによる配備及び二国間・多国間訓練を含めた、持続可能なペースでの、海外におけるプレゼンスを示すための作戦を実施する。これらの活動は抑止力を強化し、国内外での米国、同盟国、協力国の軍隊の能力構築を助け、同盟の結束力を強化し、米国の影響力を増強する。同盟国及び協力国との相互運用性及び協力国の能力を構築するための支援を維持するために、国防予算の削減は、革新的で独創的な解決法を必要とするとあろう。しかしながら、予算削減のもとで、配置及び作戦の頻度に関し、思慮深い選択が必要となる。

・安定化及び暴動鎮圧作戦の実施 (訳註:本項目は抄訳)
 イラク及びアフガニスタンでの戦争の結果、不安定な情勢に取り組み、安定化作戦への米軍の関与に関する要求を減少させるため、米国は非軍事的手段と軍隊間の協力を重視する。米軍は、もはや大規模な、長期間の安定化作戦を実施するような規模ではなくなるであろう。

・人道支援、災害救助、及び他の作戦の実施 (訳註:本項目は抄訳)
 国防省は、大規模な残虐行為を予防し、必要とあれば対応するための、統合ドクトリン及び軍事的な選択肢を進展させ続ける。

 上記の任務は、主に、将来の統合部隊のあり方を決定するものである。しかしながら、米軍の全般的能力は、下記の任務が必要とする要求に基づくであろう。その任務とは、テロ及び非正規戦への対抗、攻撃の阻止及び撃破、安全、確実、効果的な核抑止の維持、国土防衛及び民間機関に対する援助の提供、である。


2020年における統合部隊に向けて (訳註:本項目は抄訳)

 前述の任務における成功を確実にするため、いくつかの原則が我々の軍事力及び計画の発展を導くであろう。

1 我々は、将来の戦略環境を完全に正確に予言できない以上、全体として、上記の任務の多方面に融通のきく、幅広い軍事力を維持するであろう。

2 我々は、今日なされなければならない投資と、延期することができる投資を区別しようと努めた。

3 全般的な能力を減少させなければならないときでさえ、我々は即応性を備えた、有能な部隊を維持する決意をした。

4 国防省は、「ビジネスを行う上でのコスト」を減少させ続けなければならない。それには、人件費の抑制も含まれるが、国防省が人件費を減少させる中にあっても、我々は、軍で勤務する人々に対する信義を守る。

5 この戦略が、現在の戦闘及び不測事態への対処計画にどのような影響を与えるのかを調査する必要がある。それにより、限られた予算が、この戦略の要求とよりよく適合するようになるであろう。

6 国防省は、この戦略に最適な、現役と予備役の組み合わせを調査する必要がある。

7 我々は、統合部隊が最終的には真に相互依存する、ネットワーク化された戦争における、重要な進展を保持、構築するさらなる手段を講じるであろう。

8 最後に、我々の戦略と、それに付随する規模の軍隊を適合させるにあたり、国防省は、適切な産業基盤及び、科学・技術への投資を維持するために、可能な限りの努力を行うであろう。


結 論 (訳註:「結論」は全訳)

 米国は、精強、敏捷、有能な軍隊を必要としているが、それと同時に、軍隊の活動は米国の国力の他の要素と調和したものでなければならないという深刻な課題に直面している。

 我々の世界的な責任は、非常に重要である。我々には、失敗が許されるような余裕はない。利用可能な(国防)予算と、我々に求められる安全保障上の要請の間でバランスをとることが、これほど困難であったことはない。国防省によってなされた軍事力及び計画に関する決定は、本文書に記された戦略アプローチと一致するであろう。この戦略アプローチは、受容可能なリスクで、我々の軍隊が米国の安全保障戦略の要求を確実に満たすように立案されている。