Contents

コラム

防衛白書トップ > コラム > <解説>有人機と無人機の協調技術について

<解説>有人機と無人機の協調技術について

現在、主要国は、有人機と協調行動を行う高度に自律化された無人航空機の開発を進めており、こうした技術は、将来の航空戦闘を大きく変化させる可能性があると考えられています。このような自律型無人機は、有人機との役割分担を行い、危険な状況下での情報収集・偵察・監視や戦闘などの任務を担当するほか、戦況から各機が採るべき戦術を策定して有人機のパイロットなどに提案し、人間による処理の負担を軽減するといった先進的な機能や能力が想定されています。また、人命リスクがなく機体が低コストといった特性を有する無人機を活用することで任務をより低リスクで行うことが可能となります。

こうした技術の実現には、例えば、飛行制御技術や群れを成して飛行するスウォーム技術などの機体制御技術、無人機と有人機・他の無人機・地上局などを結合する通信技術のほか、収集した情報を分析処理し、適時に作戦指示を作成・更新・提示するような指揮統制技術などが必要となります。また、米国が開発を進めているXQ-58A「ヴァルキリー」のように戦闘を想定している無人機は、高度な自律性に加えて、戦闘に対応できる機体性能を確保する必要がある一方、危険な任務を担当することから有人機と比較して低価格であることも求められます。このため、3Dプリンターなどの低価格化に貢献するような先端技術も併せて注目されています。

XQ-58A(ヴァルキリー)

XQ-58A(ヴァルキリー)

【米空軍】

概説

20(令和2)年1月、長距離亜音速無人航空機のXQ-58Aのデモ機が4回目の飛行試験を実施

防衛省では、16(平成28)年に、わが国の技術的優越を着実に確保するため、「将来無人装備に関する研究開発ビジョン~航空無人機を中心に~」を公表しており、有人機と無人機の協調技術についても研究開発を進めています。また、この技術の研究を通して、指揮統制の自動化、省人化、最適化の実現や装備品などの自律化範囲の拡大、情報収集・判断能力の高速化・高精度化に寄与できると考えています。

参照IV部2章2節2項(防衛技術戦略など)

米国は、有人機と高度な自律性を有した無人航空機が連携する構想の研究を推進しており、その一環として、米空軍研究所は、XQ-58Aを民間企業のクラトス社と共同開発しています。米空軍は、調達及び維持運用に必要な経費を低く抑えつつ、戦況を劇的に有利に変える戦闘力を獲得することを期待しており、「XQ-58A」1機あたりの価格は数百万ドルと報じられています。この機体の詳細な性能は明らかになっていませんが、クラトス社によると、XQ-58Aは、全長9.4m、全幅8.2mの長距離亜音速無人航空機であり、滑走路によらずに離着陸が可能とされています。

また、ロシアは、19(令和元)年9月、大型攻撃用無人機S-70「オホートニク」と第5世代戦闘機Su-57との協調飛行試験を約30分間実施したと発表しており、飛行試験の状況を動画で公開しています。この試験においてS-70はSu-57の前方に展開し、搭載されたセンサーを使ってパイロットにターゲティング情報を伝達したとされています。

S-70(オホートニク)

S-70(オホートニク)

【ロシア国防省】

概説

第5世代戦闘機「Su-57」(写真下)と共同飛行する大型攻撃用無人機「オホートニク」(写真上)

このほか、オーストラリアは、F-35AやE-7A早期警戒管制機などの有人機との連携を想定して、ボーイング社と共同で「ボーイングATS(Airpower Teaming System)」を開発しています。中国は、18(平成30)年に200機の固定翼無人機のスウォーム飛行を成功させるなど、軍民融合のアプローチのもと、自律型無人機の開発に関して多額の予算や優れた人材などを投入するとともに、軍事分野での利用を行っているとみられます。軍メディアなどにおいては、有人機と無人機の協調の有効性について認識が示されており、将来的に軍の組織形態をも変え得るインパクトがあるとの指摘もみられます。

ボーイングATS

ボーイングATS

【ボーイング】

概説

早期警戒機「E-7A」(写真右)と共同飛行する複数の「ボーイングATS」のイメージ