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<解説>中台軍事バランスの変化

台湾海峡を東西それぞれから臨む台湾軍と人民解放軍は、従来、優れた技術力などを背景に台湾側が軍事的優位性を有していたとされますが、近年、その軍事バランス構造に転換が生じているとみられます。中国は近年の急速な経済成長を背景に継続的に高い水準で国防費を増加させ、これをベースに、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化してきました。その結果、2000年代から中台間の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化し、その差は年々拡大する傾向がみられています。例えば、米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(19(令和元)年5月)は、中国側は台湾側を大幅に上回る数量の海空戦力を保有しているほか、台湾の全部又は一部を射程に収めるとみられる750~1,500発の短距離弾道ミサイルをはじめとするミサイル戦力を保有しているとの分析を示しています。

このような状況のなか、台湾も国防費を増加させつつ自衛能力強化の取組を進めていますが、投入可能なリソースにおいて中国側とギャップがあることを認識しているとみられ、「非対称的」な戦闘概念・戦力の整備を行うこととしてきています。このような取組の一環として、攻撃的・防御的な電子戦能力の強化、迅速な機雷敷設・掃海能力の強化、高速ステルス艦艇の整備などが指摘されています。

また、中台軍事関係における重要なアクターである米国は、台湾海峡をめぐる現状を変更するあらゆる一方的な行動に反対するとした上で、1979年に制定した台湾関係法のもと、台湾が十分な自衛能力を維持することを目的にハードウェア(装備品など)・ソフトウェア(訓練など)を提供してきています。19(令和元)年8月には米国政府がトランプ政権下で5回目となる台湾への武器売却(F-16 C/D Block 70戦闘機など)を議会に通知しました。この売却は米台間の武器売却として最大規模になるとされており、特に戦闘機の売却は1992年以来約27年ぶりとなります。さらに、18(平成30)年12月には、台湾への定期的な武器売却を政府に求める条項を含むアジア再保証イニシアティブ法が成立するなど、米国においては議会を含めて台湾の自衛能力維持への関心が高まっているとみられます。こうした米国の動向は、インド太平洋へのコミットメント強化を示す事例として注目されます。

台湾海峡両岸において「政治的不一致」が維持されているという点では「現状」が維持されている一方、上述の軍事バランス構造の転換といった台湾海峡情勢の歴史的展開をめぐり、「現状」が既に変化しつつあるとの指摘もあるなか、今後の動向が注目されます。

台湾軍のF-16戦闘機(19(令和元)年5月、軍事演習「漢光35号」)【AFP=時事】

台湾軍のF-16戦闘機(19(令和元)年5月、軍事演習「漢光35号」)
【AFP=時事】