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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

防衛白書トップ > 第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段) > 第2章 日米同盟 > 第1節 日米安全保障体制の概要 > ➊ 日米安全保障体制の意義

第2章 日米同盟

本年、締結から60周年を迎えた日米安保条約に基づく日米安保体制について、防衛大綱は、わが国自身の防衛体制とあいまってわが国の安全保障の基軸であるとしている。また、日米安保体制を中核とする日米同盟は、わが国のみならず、インド太平洋地域、さらには国際社会の平和と安定及び繁栄に大きな役割を果たしているとしている。

そして、国家間の競争が顕在化する中、普遍的価値と戦略的利益を共有する米国との一層の関係強化は、わが国の安全保障にとってこれまで以上に重要となっている。また、米国も同盟国との協力がより重要になっているとの認識を示していると説明している。

その上で、日米同盟は、平和安全法制により新たに可能となった活動などを通じて、これまでも強化されてきたが、わが国を取り巻く安全保障環境が格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増す中で、わが国の防衛の目標を達成するためには、「日米防衛協力のための指針」の下で、一層の強化を図ることが必要であるとしている。

また、日米同盟の一層の強化にあたっては、わが国が自らの防衛力を主体的・自主的に強化していくことが不可欠の前提であり、そのうえで、同盟の抑止力・対処力の強化、幅広い分野における協力の強化・拡大及び在日米軍駐留に関する施策の着実な実施のための取組を推進する必要があるとしている。

本章においては、このような防衛大綱の考えも踏まえつつ、日米同盟の強化に関する取組などについて説明する。

第1節 日米安全保障体制の概要

➊ 日米安全保障体制の意義

1 わが国の平和と安全の確保

現在の国際社会において、国の平和、安全及び独立を確保するためには、核兵器の使用をはじめとする様々な態様の侵略から、軍事力による示威や恫喝(どうかつ)に至るまで、あらゆる事態に対応できる隙のない防衛態勢を構築する必要がある。

しかし、米国でさえ一国のみで自国の安全を確保することは困難な状況にある。ましてや、わが国が独力でこのような態勢を保持することは、人口、国土、経済の観点からも容易ではなく、必ずしも地域の安定に寄与するものではない。

このため、わが国は、民主主義、人権の尊重、法の支配、資本主義経済といった基本的な価値観や世界の平和と安全の維持への関心を共有し、経済面においても関係が深く、かつ、強大な軍事力を有する米国との安全保障体制を基調として、わが国の平和と安全を確保してきた。

具体的には、日米安保条約第5条に基づき、わが国に対する武力攻撃があった場合日米両国が共同して対処するとともに、同第6条に基づき、米軍に対してわが国の施設・区域を提供することとしている。この米国の日本防衛義務により、仮にどこかの国がわが国に対して武力攻撃を企図したとしても、自衛隊のみならず、米国の有する強大な軍事力とも直接対決する事態を覚悟しなければならなくなる。この結果、相手国は侵略を行えば耐えがたい損害を被ることを明白に認識し、わが国に対する侵略を思いとどまることになる。すなわち、侵略は抑止されることになる。

わが国としては、このような米国の軍事力による抑止力をわが国の安全保障のために有効に機能させることで、わが国自身の防衛体制とあいまって隙のない態勢を構築し、わが国の平和と安全を確保していく考えである。

日米首脳会談で握手を交わすトランプ大統領と安倍内閣総理大臣(19(令和元)年9月)【首相官邸ホームページ】

日米首脳会談で握手を交わすトランプ大統領と安倍内閣総理大臣
(19(令和元)年9月)【首相官邸ホームページ】

2 わが国の周辺地域の平和と安定の確保

日米安保条約第6条では、米軍に対するわが国の施設・区域の提供の目的として、「日本国の安全」とともに、「極東における国際の平和及び安全の維持」があげられている。これは、わが国の安全が、極東というわが国を含む地域の平和や安全と極めて密接な関係にあるとの認識に基づくものである。

わが国の周辺地域には、大規模な軍事力を有する国家などが集中し、核兵器を保有又は核開発を継続する国家なども存在する。また、パワーバランスの変化に伴い既存の秩序をめぐる不確実性が増しており、いわゆるグレーゾーンの事態は、明確な兆候のないまま、より重大な事態へと急速に発展していくリスクをはらんでいる。

こうした安全保障環境の中で、わが国に駐留する米軍のプレゼンスは、地域における様々な安全保障上の課題や不安定要因に起因する不測の事態の発生に対する抑止力として機能し、わが国や米国の利益を守るのみならず、地域の諸国に大きな安心をもたらすことで、いわば「公共財」としての役割を果たしている。

また、日米安保体制を基調とする日米両国間の緊密な協力関係は、わが国の周辺地域の平和と安定にとって必要な米国の関与を確保する基盤となっている。このような体制は、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピンなどの地域諸国と米国の間で構築された同盟関係や、その他の国々との友好関係とあいまって、地域の平和と安定に不可欠な役割を果たしている。

3 グローバルな課題への対応

日米安保体制は、防衛面のみならず、政治、経済、社会などの幅広い分野における日米の包括的・総合的な友好協力関係の基礎となっている。

日米安保体制を中核とする日米同盟関係は、わが国の外交の基軸であり、多国間の安全保障に関する対話・協力の推進や国連への協力など、国際社会の平和と安定へのわが国の積極的な取組に役立つものである。

現在、海洋・宇宙・サイバー空間の安定的利用に対するリスク、海賊行為、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散、国際テロなど、一国での対応が困難なグローバルな安全保障上の課題が存在しており、関係国が平素から協力することが重要である。日米の緊密な協力関係は、わが国がこのような課題に効果的に対応していくうえでも重要な役割を果たしている。

特に、自衛隊と米軍は、日米安保体制のもと、平素から様々な面での協力の強化に努めている。こうした緊密な連携は、海賊対処など各種の国際的な活動において自衛隊と米軍が協力するうえでの基盤となっており、日米安保体制の実効性を高めることにもつながっている。

国際社会の平和と繁栄は、わが国の平和と繁栄と密接に結びついている。したがって、わが国が、卓越した活動能力を有する米国と協力してグローバルな課題解決のための取組を進めていくことにより、わが国の平和と繁栄はさらに確かなものとなる。