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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

防衛白書トップ > 第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段) > 第1章 わが国自身の防衛体制 > 第1節 平時からグレーゾーンの事態への対応 > ➊ わが国周辺における常続監視

第1章 わが国自身の防衛体制

わが国自身の防衛体制の強化について、防衛大綱は、宇宙・サイバー・電磁波を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする、真に実効的な防衛力として多次元統合防衛力を構築するとしている。

防衛力は、わが国の安全保障を確保するための最終的な担保であり、わが国に脅威が及ぶことを抑止するとともに、脅威が及ぶ場合にはこれを排除し、独立国家として国民の生命・身体・財産とわが国の領土・領海・領空を主体的・自主的な努力により守り抜くという、わが国の意思と能力を表すものである。

同時に、防衛力は、平時から有事までのあらゆる段階で、日米同盟におけるわが国自身の役割を主体的に果たすために不可欠のものであり、わが国の安全保障を確保するために防衛力を強化することは、日米同盟を強化することにほかならない。また、防衛力は、諸外国との安全保障協力におけるわが国の取組を推進するためにも不可欠のものである。

このように、防衛力は、これまでに直面したことのない安全保障環境の現実の下で、わが国が独立国家として存立を全うするための最も重要な力であり、主体的・自主的に強化していかなければならない。

また、防衛大綱においては、わが国の防衛力は、わが国にとって望ましい安全保障環境を創出するとともに、脅威を抑止し、これに対処するためとして、以下の6つの防衛力の果たすべき役割が掲げられている。すなわち、①平時からグレーゾーンの事態への対応、②島嶼(とうしょ)部を含むわが国に対する攻撃への対応、③あらゆる段階における宇宙・サイバー・電磁波の領域での対応、④大規模災害などへの対応、⑤日米同盟に基づく米国との共同、⑥安全保障協力の推進であり、これらの役割を、シームレスかつ複合的に果たせるものでなければならない。

特に国民の命と平和な暮らしを守る観点から、平素から様々な役割を果たしていくことがこれまで以上に重要であるとしている。

参照資料10(自衛隊の主な行動の要件(国会承認含む)と武器使用権限等について)

第1節 平時からグレーゾーンの事態への対応

防衛大綱における、防衛力の果たすべき役割のうち、「①平時からグレーゾーンの事態への対応」の考え方は次のとおりである。

平時からグレーゾーンの事態への対応においては、積極的な共同訓練・演習や海外における寄港などを通じて平素からプレゼンスを高め、わが国の意思と能力を示すとともに、こうした自衛隊の部隊による活動を含む戦略的なコミュニケーションを外交と一体となって推進する。

また、全ての領域における能力を活用して、わが国周辺において広域にわたり常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察(ISR:Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance)活動(以下「常続監視」という。)を行うとともに、柔軟に選択される抑止措置などにより事態の発生・深刻化を未然に防止する。これら各種活動による態勢も活用し、領空侵犯や領海侵入といったわが国の主権を侵害する行為に対し、警察機関などとも連携しつつ、即時に適切な措置を講じる。

弾道ミサイルなどの飛来に対しては、常時持続的にわが国を防護し、万が一被害が発生した場合にはこれを局限する。

参照本章2節2項(ミサイル攻撃などへの対応)
3章1節(多角的・多層的な安全保障協力の戦略的な推進に向けて)

➊ わが国周辺における常続監視

1 基本的考え方

わが国は、6,800あまりの島々で構成され、世界第6位1の面積となる領海(内水を含む。)及び排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)を有するなど広大な海域に囲まれており、自衛隊は、各種事態に迅速かつシームレスに対応するため、平素から領海・領空とその周辺の海空域において情報収集及び警戒監視を行っている。

警戒監視を行う陸自隊員

警戒監視を行う陸自隊員

わが国周辺海域において警戒監視にあたる海自P-3C

わが国周辺海域において警戒監視にあたる海自P-3C

2 防衛省・自衛隊の対応

海自は、平素から哨戒機2などにより、北海道周辺や日本海、東シナ海などを航行する船舶などの状況について、空自は、全国28か所のレーダーサイトと早期警戒管制機3などにより、わが国とその周辺の上空の状況について、24時間態勢での警戒監視をそれぞれ実施している。また、主要な海峡では、陸自の沿岸監視隊や海自の警備所などが同じく24時間態勢で警戒監視を行っている4。さらに、必要に応じ、護衛艦・航空機などを柔軟に運用し、わが国周辺における各種事態に即応できる態勢を維持している。このような警戒監視により得られた情報については、海上保安庁を含む関係省庁にも共有し、連携の強化も図っている。

24時間、365日警戒監視にあたる空自レーダーサイト

24時間、365日警戒監視にあたる空自レーダーサイト

自衛隊の警戒監視により確認された主な事象については、例えば、12(平成24)年9月のわが国政府による尖閣三島(魚釣島、南小島及び北小島)の所有権の取得以降、中国公船が尖閣諸島周辺のわが国領海へ断続的に侵入5し、16(平成28)年6月には、中国海軍戦闘艦艇が尖閣諸島北方のわが国の接続水域に初めて入域した。同年12月には、空母「遼寧」を含む中国海軍艦艇6隻が沖縄本島・宮古島間を通過し、同空母の太平洋への進出が初めて確認された。17(平成29)年7月には、中国海軍情報収集艦が小島(こじま)(北海道松前町)南西のわが国領海に入域し、津軽海峡を東航して太平洋へ進出した。18(平成30)年1月には、中国海軍潜水艦と中国海軍艦艇が尖閣諸島周辺のわが国接続水域を同日に航行するのを初めて確認した。さらに、同年4月には、与那国島の南約350kmの海域で、空母「遼寧」からの複数の艦載戦闘機(推定)の飛行が初めて確認された。19(令和元)年6月にも、空母「遼寧」を含む中国海軍艦艇6隻が、沖縄本島・宮古島間を通過し、太平洋に進出したことが確認された。さらに、20(令和2)年4月、空母「遼寧」を含む中国海軍艦艇6隻が、沖縄本島・宮古島間の海域を通過して太平洋に進出するとともに、その後、同艦隊が同月のうちに沖縄本島・宮古島間の海域を通過して東シナ海に向けて航行したことを確認した。この航行においても、太平洋上における艦載戦闘機の発着艦が確認された。このような中国海軍艦艇による沖縄本島・宮古島間の海域の通過を伴う活動を令和元(2019)年度には、12回公表している。

また、北朝鮮が密輸によって国連安保理決議の制裁逃れを図っている可能性が指摘されている中、自衛隊はわが国周辺海域において、平素実施している警戒監視活動の一環として、国連安保理決議違反が疑われる船舶についての情報収集も実施しており、海自哨戒機などが、北朝鮮籍タンカーと外国籍タンカーなどが東シナ海の公海上で接舷(横付け)している様子を、18(平成30)年から20(令和2)年3月末までの間に、計24回確認6し、関係省庁とその都度、情報共有を行った。これらの船舶は、政府として総合的に判断した結果、国連安保理決議で禁止されている北朝鮮籍船舶との洋上での物資の積替え(「瀬取り」)を実施していたことが強く疑われるとの認識に至ったため、わが国として、国連安保理北朝鮮制裁委員会などに通報するとともに、関係国と情報共有を行ったほか、これらのタンカーの関係国などに対して情報提供を行い、対外公表を実施した。

なお、国連安保理決議で禁止されている北朝鮮籍船舶との「瀬取り」を含む違法な海上活動に対し、米国に加え、関係国が、在日米軍嘉手納飛行場を使用して航空機による警戒監視活動7を行っており、18(平成30)年4月以降、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド及びフランスから哨戒機が派遣された。また、米海軍のほか、英国、カナダ8、オーストラリア及びフランスの海軍艦艇がわが国周辺海域において警戒監視活動9を行った。防衛省・自衛隊としても、引き続き関係国と緊密に協力を行い国連安保理決議の実効性を確保していくこととしている。

東シナ海公海上において海自P-1哨戒機が確認した、「瀬取り」を実施していたことが強く疑われる北朝鮮船籍タンカーと船籍不明の小型船舶(19(令和元)年12月)

東シナ海公海上において海自P-1哨戒機が確認した、「瀬取り」を実施していたことが強く疑われる北朝鮮船籍タンカーと船籍不明の小型船舶
(19(令和元)年12月)

参照図表III-1-1-1(わが国周辺海空域での警戒監視のイメージ)、
図表III-1-1-2(中国公船の尖閣諸島周辺の領海への侵入回数・隻数)、
I部2章2節2項(軍事)
I部2章3節1項(北朝鮮)

図表III-1-1-1 わが国周辺海空域での警戒監視のイメージ

図表III-1-1-2 中国公船の尖閣諸島周辺の領海への侵入回数・隻数

動画アイコンQRコード動画:国連安保理決議が禁止する瀬取りへの対応状況
URL:https://youtu.be/eCOduAxZ374(別ウィンドウ)

1 海外領土を除く。海外領土を含める場合は世界第8位

2 敵の奇襲を防ぐ、情報を収集するなどの目的をもって、見回ることを目的とした航空機で、海自は、固定翼哨戒機としてP-3C及びP-1を、回転翼哨戒機としてSH-60J及びSH-60Kを保有している。

3 警戒管制システムや全方向を監視できるレーダーを装備する航空機。速度性能に優れ、航続時間も長いことから遠隔地まで飛行して長時間の警戒が可能。さらに高高度での警戒もできるため、見通し距離が長いなど、優れた飛行性能と警戒監視能力を持つ。空自は、旅客機B-767をベースにしたE-767を運用している。

4 自衛隊による警戒監視活動は、防衛省設置法第4条第1項第18号(所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと)に基づいて行われる。

5 15(平成27)年12月26日以降、機関砲らしきものを搭載した中国公船がわが国領海に侵入してくるようになっている。

6 具体的な確認事例は、防衛省HPを参照。

7 これまでに、オーストラリア及びカナダが18(平成30)年4月下旬から約1か月間、オーストラリア、カナダ及びニュージーランドが同年9月中旬から約1か月半の間、オーストラリアが同年12月上旬から約1週間、フランスが19(平成31)年3月から約3週間、オーストラリアが19(令和元)年5月から約1か月間、カナダが同年6月上旬から約3週間、オーストラリアが同年9月上旬から約1か月間、カナダが同年10月上旬から約1か月間、ニュージーランドが同年10月中旬から約1か月間、オーストラリアが20(令和2)年2月中旬から約1か月間、在日米軍嘉手納飛行場を使用し、航空機による警戒監視活動を実施した。(20(令和2)年3月末現在)

8 19(平成31)年4月28日、日加首脳会談において、トルドー首相から「瀬取り」警戒監視のためのカナダによる航空機及び艦船の派遣を2年延長するとの表明があり、安倍内閣総理大臣から謝意を表した。

9 これまでに、英国海軍艦艇(18(平成30)年5月上旬、同年5月下旬~6月上旬、同年6月中旬、同年12月中旬、19(平成31)年1月上旬、同年2月下旬~3月上旬)、カナダ海軍艦艇(18(平成30)年10月上旬及び下旬、19(令和元)年6月中旬、19(令和元)年8月下旬)、豪海軍艦艇(18(平成30)年10月上旬、19(令和元)年5月上旬、同年10月下旬)並びにフランス海軍艦艇(19(令和元)年春)が、東シナ海を含むわが国周辺海域において警戒監視活動を実施した。(20(令和2)年3月末現在)