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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

➋ 生物・化学兵器

生物・化学兵器は、比較的安価で製造が容易であるほか、製造に必要な物資・機材・技術の多くが軍民両用であるため偽装が容易である。生物・化学兵器は、非対称的な攻撃手段2を求める国家やテロリストなどの非国家主体にとって魅力のある兵器となっている。

生物兵器は、①製造が容易で安価、②暴露から発症までに通常数日間の潜伏期間が存在、③使用されたことの認知が困難、④実際に使用しなくても強い心理的効果を与える、⑤種類及び使用される状況によっては、膨大な死傷者を生じさせるといった特性を有している。生物兵器については、生命科学の進歩が誤用又は悪用される可能性なども指摘されている。

化学兵器について、最近では、18(平成30)年4月、シリアのアサド政権が東グータ地区で化学兵器を使用したとされ、米英仏3か国はシリアの化学兵器関連施設に対して攻撃を行った3。また、化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention)に加盟せず、現在もこうした化学兵器を保有しているとされる主体として、例えば、北朝鮮がある。また、95(平成7)年のわが国における地下鉄サリン事件などは、テロリストによる大量破壊兵器の使用の脅威が現実のものであり、都市における大量破壊兵器によるテロが深刻な影響をもたらすことを示した。18(平成30)年3月に起きた英国での元ロシア情報機関員襲撃事件をめぐっては、ロシアが開発した軍用の化学兵器「ノビチョク」が使用されたとして、英国はロシアが関わった可能性が極めて高いなどと非難したほか、対抗措置として欧米諸国がロシア外交官を追放した。18(平成30)年9月、英国は米仏独との共同声明を発表し、特定された容疑者2名が露軍参謀本部情報総局の職員であると確信しており、露政府上層部による承認を得て行われた可能性が高いなどとして、ロシアによる関与をあらためて強調した。

2 相手の弱点をつくための攻撃手段であって、在来型の手段以外のもの。大量破壊兵器、弾道ミサイル、テロ、サイバー攻撃など

3 シリア情勢全般については、2章9節4項参照