Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第7節 大量破壊兵器の移転・拡散

核・生物・化学(NBC:Nuclear, Biological and Chemical)兵器などの大量破壊兵器やその運搬手段である弾道ミサイルの移転・拡散は、冷戦後の大きな脅威の一つとして認識され続けてきた。特に、従来の抑止が有効に機能しにくいテロリストなどの非国家主体が大量破壊兵器などを取得・使用する懸念は、依然として強い。

➊ 核兵器

米ソ冷戦の最中、1962(昭和37)年のキューバ危機を経て、米ソ間の全面核戦争の危険性が認識されるなどし、1970(昭和45)年に発効した核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)のもと、1966(昭和41)年以前に核爆発を行った国(米ソ英仏中(当時)。仏中のNPT加入は92(平成4)年)以外の国の核兵器保有が禁じられるとともに、相互交渉による核戦力の軍備管理・軍縮が行われることとなった。

20(令和2)年1月現在、NPTは191の国と地域が締結しているが、かつて核を保有していてもこれを放棄して非核兵器国として加入する国がある一方で、インド、イスラエル及びパキスタンは依然として非核兵器国としての加入を拒んでいる。また、北朝鮮はこれまで6回の核実験の実施を発表し、核兵器の開発・保有を自ら宣言してきた。

米露間の核戦略については、新戦略兵器削減条約が21(令和3)年2月に期限を迎えることになっている。同条約は、両国が合意すれば最大5年間の延長が可能とされており、ロシアは、条約の早期延長を提案している一方、米国は、態度を明らかにしておらず、同条約の延長を含め今後の見通しは不透明な状況にある。また、米国は、中国も含む形での軍備管理枠組みを追求する意向を示している。一方、中国は、保有する核弾頭数を増加させるとともに、多様な運搬手段の開発・配備を行い1、核戦力の能力の向上を継続しているとされるが、中国は、米露間の軍備管理枠組みに参加する意思はない旨を繰り返し主張している。今後、米露だけでなく、中国なども含む形での国際的な軍備管理・軍縮の取組が重要であると考えられ、引き続き、核戦力の軍備管理・軍縮をめぐる動向に注視していく必要がある。

解説新戦略兵器削減条約(新START(Strategic Arms Reduction Treaty))とは

条約発効後7年までに双方とも配備戦略弾頭を1,550発まで、配備運搬手段を700基・機まで削減することなどを内容とするもの。米露とも18(平成30)年2月をもって削減目標を達成しており、直近で公表された20(令和2)年3月現在の数値については、米国の配備戦略弾頭が1,373発、配備運搬手段が655基・機であり、ロシアの配備戦略弾頭が1,326発、配備運搬手段が485基・機となっている。

参照図表I-3-7-1(各国の核弾頭保有数とその主要な運搬手段)

図表I-3-7-1 各国の核弾頭保有数とその主要な運搬手段

1 中国の弾道ミサイル開発については、2章2節2項参照