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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

➋ 各国の安全保障・国防政策

1 インドネシア

インドネシアは世界最大のイスラム人口を抱える東南アジア地域の大国であり、広大な領海及び海上交通の要衝を擁する世界最大の群島国家である。

14(平成26)年10月に就任したジョコ大統領は「海洋国家構想」を掲げ、海洋文化の復興や海洋外交を通じた領有権問題などへの対処、衛星技術及びドローンシステムに支えられた海上防衛力の構築などを目指している。ジョコ大統領は19(平成31)年4月の大統領選挙で再選し、19(令和元)年10月、第2期政権の組閣時に対立候補であったプラボウォ氏を国防大臣に登用した。プラボウォ国防大臣は同年11月、最初の訪問国として隣国マレーシアを訪問したほか、同年12月には豪州、中国、韓国等を訪問して2国間の防衛協力の強化について議論を交わした。

インドネシアは国軍改革として、「最小必須戦力(MEF:Minimum Essential Force)」と称する最低限の国防要件を達成することを目標としているが、特に海上防衛力が著しく不十分であるとの認識が示され、国防費の増額とともに、南シナ海のナツナ諸島などへの戦力配備を強化する方針を表明している。同諸島では18(平成30)年12月、陸軍混成大隊、空軍防空コマンド所属レーダー中隊、海兵隊混成大隊が展開し、潜水艦が寄港可能な桟橋、無人機格納庫などを有する軍事基地の開所式を実施したと報じられている。また、インドネシア軍は19(令和元)年9月、国内に3つの統合防衛地域コマンドを設立した。同コマンドは、インドネシア軍にとり優先課題となっている国軍の統合作戦能力構想を具現化したものであり、軍事・非軍事問わず、地域での紛争発生時の初動対処を担い、外的脅威への抑止力としての役割を有するものとされる。

インドネシアは中国の主張するいわゆる「九段線」がナツナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)と重複していることを懸念しており、同諸島周辺海域における哨戒活動を強化している。19(令和元)年12月、インドネシアはナツナ諸島周辺のインドネシアのEEZ内で中国海警局所属の公船が漁船団を護衛する形で違法操業をしたことを確認したとし、インドネシア外務省は抗議声明を発表した。インドネシア軍は周辺海空域の監視を強化する旨発表し、同月、ジョコ大統領がナツナ諸島の島を訪問した。

インドネシアは、東南アジア諸国との連携を重視し、自由かつ能動的な外交を展開するとしている。これに関連し、ジョコ政権は、19(令和元)年6月、ASEAN首脳会議において、ASEANの中心性に焦点を当てた「ASEANインド太平洋アウトルック(AOIP)」の採択に主導的な役割を果たした。米国との関係においては、軍事教育訓練や装備品調達の分野で協力関係を強化しており、「CARAT(Cooperation Afloat Readiness and Training)」1や「SEACAT(Southeast Asia Cooperation Against Terrorism)」2などの合同演習を行っている。

2 マレーシア

マレーシアは、19(令和元)年12月に公表した初の国防白書の中で、国土が半島部とボルネオ島にあるサバ・サラワクに二分されており、広大な太平洋とインド洋の間に位置していることから、両洋の橋渡し役としての可能性を自国に見出している。また、国防白書の中で、マレーシアの戦略的位置及び天然資源は恩恵であると同時に安全保障上の課題でもあるとの認識を示している。このような特性から、マレーシアは歴史的に大国の政治力学の影響を受けてきており、今日においても、不透明な米中関係を最も重要な戦略的課題と位置づけている。また、これに加え、複雑な東南アジア地域情勢のほか、テロ、サイバー、海賊及び自然災害という非伝統的な安全保障上の脅威の増加に直面しているとの認識を示している。

このような安全保障環境の認識のもと、国防政策においては、領土・領海を含む核心地域、周辺海空域を含む拡大地域、国益に影響する遠隔地である前方地域の3つの同心円地域ごとの国益を防衛するため、①国軍の能力向上を通じて侵略や紛争の抑止を目指す「同心円抑止」、②国民を含む社会全体で国家としての坑たん性を高める「包括的防衛」、③信頼性の高いパートナーとして、他国との防衛協力を拡大・強化することを通じて地域の安定を促進する「信頼できるパートナーシップ」の3本柱を掲げている。

また、昨今、マレーシアが領有権を主張する南ルコニア礁周辺において中国の公船が錨泊(びょうはく)などを続けていることに関連して、マレーシア側は、海軍及び海洋法執行機関により24時間態勢で監視を行い、主権を防衛する意思を表明している。このような海上防衛力の強化に加えて、17(平成29)年4月、ジェームズ礁や南ルコニア礁に近いビントゥルに海軍基地を新設し、また、19(令和元)年7月、空軍が東マレーシア(ボルネオ島)のサバ州でミサイル発射を伴う演習を実施するなど、東マレーシアの防衛態勢の強化にも努めている。さらに、マレーシアは19(令和元)年12月、200海里を超える大陸棚の限界を設定するための申請を大陸棚限界委員会に提出した。

米国との間では、「CARAT」や「SEACAT」などの合同演習を行うとともに、海洋安全保障分野での能力構築を含めた軍事協力を進めている。

18(平成30)年5月に誕生したマハティール政権は、財政再建のために大型インフラ事業の見直しを推進しており、中国の協力により17(平成29)年8月に着工した長距離鉄道建設事業などの中止を中国側に伝えたが、19(平成31)年4月、両国は長距離鉄道建設事業の費用を削減して再開することに合意し、両国の関連企業が補完契約に署名した。

20(令和2)年2月、マハティール首相が国王に辞表を提出したことを受け、国王はムヒディン氏を次期首相に任命した。同年3月、ムヒディン氏は新首相に就任した。

3 ミャンマー

ミャンマーは、中国及びインドと国境を接し、ASEAN諸国の一部及び中国にとってインド洋への玄関口ともなることなどから、その戦略的な重要性が指摘されている。ミャンマーは、1988(昭和63)年の社会主義政権の崩壊以降、国軍が政権を掌握してきたが、欧米諸国による経済制裁を背景に、民主化へのロードマップを踏まえた民政移管が行われた3

ミャンマー政府は、政治犯の釈放、少数民族との停戦合意など、民主化への取組を活発に行っており、これらの取組に対し、国際社会も一定の評価を見せ、米国をはじめとする欧米各国は、ミャンマーに対する制裁措置を緩和した。

一方、ラカイン州では、17(平成29)年8月に「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA:Arakan Rohingya Salvation Army)」が警察署を襲撃したことを受け、国軍などが掃討作戦を開始し、2か月間で60万人を超えるムスリムを中心とする避難民が隣国バングラデシュに流入した。また、国際社会は、国軍などによる虐殺や人権侵害などがあったとしてこれを非難した。この情勢をめぐっては欧米各国から批判を受けており、19(令和元)年8月、米国はミャンマー国軍の司令官などに対する経済制裁を強化することを発表したほか、ガンビアがミャンマーのジェノサイド条約違反を理由として、ジェノサイド条約第2条に定められた行為の実行を防止するために国際司法裁判所(ICJ:International Court of Justice)に提訴し、ICJは20(令和2)年1月、迫害を防ぐあらゆる手段を講じるようミャンマーに指示する暫定措置命令を出した4

外交政策においては、従来の「非同盟中立」を継承するとともに、国防政策は、「3つの国家目標(連邦の分裂阻止、民族の団結維持及び国家主権の堅持)に対する侵害行為の阻止」、「外部からの侵略、内政干渉の断固拒否」を引き続き重視している。

中国とは、1950(昭和25)年に国交を樹立して以来良好な関係を維持しており、ミャンマーにとって、主要な装備品の調達先とみられるほか、パイプライン建設やチャオピュー港湾開発の援助などを受けている。20(令和2)年1月、中国の習近平主席が国家主席として19年ぶりにミャンマーを訪問し、「一帯一路」構想を通じて経済協力を推進する方針を確認した。

ロシアとは、軍政期を含め軍事分野において協力関係を維持しており、留学生の派遣や主要な装備品の調達先となっている。インドとは、民政移管以降、経済及び軍事分野において協力関係を進展させており、各種セミナーの実施受入れやインド海軍艦艇によるミャンマー親善訪問など、防衛協力・交流が行われている。

ミャンマーの軍事政権下では、武器取引を含む北朝鮮との協力関係が維持されていた。民政移管後の政府は、北朝鮮との軍事的なつながりを否定しているものの、18(平成30)年3月に公表された国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル最終報告書では、弾道ミサイルシステムなどを北朝鮮から受領していることが指摘されている。

4 フィリピン

フィリピンは、自国の群島としての属性と地理的位置は強さと脆弱性の両面を併せ持つ要因であり、戦略的位置と豊富な天然資源が拡張主義勢力に強い誘惑をもたらしているとの認識を示している。こうした認識のもと、国内の武力紛争を解決することが依然として安全保障上の最大の懸案と位置づける一方で、南シナ海における緊張の高まりに伴い、領土防衛にも同様の注意を向けているとしている。

歴史的に米国との関係が深いフィリピンは、92(平成4)年に駐留米軍が撤退した後も、相互防衛条約及び軍事援助協定のもと、両国の協力関係を継続してきた。近年の関係としては、両国は米比共同演習「バリカタン」、米比共同演習「カマンダグ」、米比共同演習「サマサマ」などの共同演習を行っている。また、両国が14(平成26)年4月に署名したフィリピン軍の能力向上、災害救援などでの協力強化を目的とした、「防衛協力強化に関する協定(EDCA:Enhanced Defense Cooperation Agreement)」に基づき、16(平成28)年3月、防衛協力を進める拠点としてアントニオ・バウチスタ空軍基地、バサ空軍基地、フォート・マグセイセイ地区、ルンビア空軍基地、マクタン・ベニト・エブエン空軍基地の5か所に合意している。さらに、19(平成31)年3月、フィリピンを訪問したポンペオ米国務長官は、南シナ海は太平洋の一部であり、南シナ海におけるフィリピン軍、航空機、公船への攻撃があれば、相互防衛条約に基づく相互防衛義務が発動されることを明確にしている。19(令和元)年9月、米比両国は相互防衛・安全保障協議会(MDB-SEB:Mutual Defense Board-Security Engagement Board)を開催し、防衛協力の重要性を確認した。一方で、20(令和2)年1月、ドゥテルテ大統領は米軍がフィリピン国内で合同軍事演習などを行う際の米軍人の法的地位などを規定した「米軍との訪問軍協定」(VFA:Visiting Forces Agreement)を破棄する考えを示し、2月に米側に破棄を通告しており、今後の動向が注目されている。

中国とは、南シナ海の南沙諸島やスカーボロ礁の領有権などをめぐり主張が対立しており、フィリピンは国際法による解決を追求するため、13(平成25)年1月、中国を相手に国連海洋法条約に基づく仲裁手続を開始し、仲裁裁判所は16(平成28)年7月にフィリピンの申立て内容をほぼ認める最終的な判断を下した。フィリピン政府は比中仲裁判断を歓迎し、この決定を尊重することを強く確認する旨の声明を発表するとともに、ドゥテルテ大統領は同月の施政方針演説において、比中仲裁判断を強く確認し、尊重すると述べている。フィリピン大統領府は、19(令和元)年9月中国政府から、フィリピンが仲裁判断を棚上げすれば、南シナ海共同資源開発においてフィリピンが有利になる60対40の割合で資源を共有する計画を承認するとの約束の申し出があったことを明らかにしたうえで、仲裁判断は破棄しないことを明言している。

解説比中仲裁判断とは

16(平成28)年7月12日に決定された、南シナ海をめぐるフィリピンと中国との間の紛争に関する国際仲裁裁判所の判断。中国は、95(平成7)年にミスチーフ礁を占拠したほか、12(平成24)年にはスカーボロ礁を事実上支配し、これら岩礁について領有権を主張するフィリピンとの間に緊張関係が生じた。国連海洋法条約第15部付属書VIIにおいて仲裁手続が規定されており、条約の解釈または適用に関する紛争について、一方の紛争当事国の要請に基づいて、管轄権を有する裁判所に紛争を付託し、法的拘束力を有する決定を求めることができる。13(平成25)年1月、フィリピンは、中国を相手取り、国連海洋法条約に規定される仲裁手続に基づいて国際仲裁裁判所に提訴した。16(平成28)年7月、国際仲裁裁判所は最終的な判断を示した。具体的には、中国の主張するいわゆる「九段線」に法的根拠がないこと、スカーボロ礁及びスプラトリー諸島には排他的経済水域及び大陸棚を有する地形はないこと、中国の法執行船がフィリピン漁船のスカーボロ礁へのアクセスを妨害したことは海上衝突予防条約及び国連海洋法条約違反であること等が示された。フィリピンはこの判断を歓迎し、尊重する旨の声明を発表したが、中国は仲裁判断の翌日に「南シナ海白書」を公表し、自国の主張の正当性と仲裁判断の不当性を改めて訴えている。

19(平成31)年4月には、フィリピンが実効支配する南沙諸島ティトゥ島(フィリピン呼称:パグアサ島)近くで200隻以上の中国船の航行が確認されたとして、中国側に抗議した。また、19(令和元)年6月、中国の空母「遼寧」を含む艦艇がシブツ海峡を航行したと主張したことに対し、ロレンザーナ国防長官は無害通航ではなかったとの見方を示した。

参照3章6節1項(「公海自由の原則」をめぐる動向)

5 シンガポール

国土、人口、資源が限定的なシンガポールは、グローバル化した経済の中で、その存続と発展を地域の平和と安定に依存しており、国家予算のうち国防予算が約5分の1を占めるなど、国防に高い優先度を与えている。

シンガポールは、国防政策として「抑止」と「外交」を二本柱に掲げている。また、シンガポールの国土は狭小なため、国軍は米国やオーストラリアなど諸外国の訓練施設も利用し、訓練のために部隊を継続的に派遣している。

シンガポールは、ASEANや五か国防衛取極(FPDA:Five Power Defence Arrangements)5の協力関係を重視しているほか、域内外の各国とも防衛協力協定を締結している。地域の平和と安定のため、米国のアジア太平洋におけるプレゼンスを支持しており、米国がシンガポール国内の軍事施設を利用することを認めている。13(平成25)年以降、米国の沿海域戦闘艦(LCS:Littoral Combat Ship)のローテーション展開が開始されたほか、15(平成27)年12月、米軍のP-8哨戒機が初めて約1週間にわたり同国へ展開され、今後も定期的に同様の展開が継続されるとしている。このほか、米国と「CARAT」や「SEACAT」などの合同演習を行っている。19(令和元)年9月、両国はシンガポールにおける米軍の施設利用に関する90(平成2)年11月の覚書を延長する修正議定書に署名した。

中国とは、経済的に強い結びつきがあるほか、二国間の海軍演習も実施している。19(令和元)年10月、両国は防衛交流・安全保障協力協定(ADESC:Agreement on Defence Exchanges and Security Cooperation)の改訂に署名した。一方、南シナ海問題について仲裁判断に基づく解決を主張していることや、台湾と軍事協力を行っていることでは摩擦が生じている。

インドとは、17(平成29)年11月に二国間海軍協力協定を締結しており、陸上演習「ボールド・クルシュトラ」や海上演習「SIMBEX(Singapore India Maritime Bilateral Exercise)」を行っているほか、19(令和元)年9月、シンガポール、インド及びタイの3か国が初の共同演習をアンダマン諸島付近で実施した。

2019年9月6日、シンガポール・インド・タイによる3か国海上演習の開幕式に出席した各国海軍代表【シンガポール国防省】

2019年9月6日、シンガポール・インド・タイによる3か国海上演習の
開幕式に出席した各国海軍代表【シンガポール国防省】

参照本章5節1項3(4)(東南アジア及び太平洋島嶼国との関係)

6 タイ

タイは、国防政策として、ASEAN・国際機関などを通じた防衛協力の強化、政治・経済など国力を総合的に活用した防衛、軍の即応性増進や防衛産業の発展などを目指した実効的な防衛などを掲げている。

国内では、13(平成25)年、与党によるタクシン元首相の恩赦・帰国に道を開く「大赦法案」の議会提出をめぐり、混乱が拡大したのち、14(平成26)年5月、プラユット陸軍司令官(当時)は戒厳令を発出し、軍部を中心とする国家平和秩序維持評議会による統治権の掌握を宣言した。その後、暫定首相に選出されたプラユット氏が率いる暫定政権のもと、民政移管に向けたロードマップに基づく新政権への移行が進められた結果、17(平成29)年4月、新憲法が公布・施行され、19(平成31)年3月、約8年ぶりとなる下院総選挙が実施された。19(令和元)年6月には、ワチラロンコン国王がプラユット氏の首相就任を承認した後、19(令和元)年7月には新内閣の閣僚を承認し、プラユット首相は国防相を兼任した。

タイは、柔軟な全方位外交政策を維持しており、東南アジア諸国との連携や、主要国との協調を図っている。1982(昭和57)年から実施している米タイ合同演習「コブラ・ゴールド」は、現在、東南アジア最大級の多国間共同訓練となっている。

同盟国である米国とは、1950(昭和25)年に軍事援助協定を締結して以降、協力関係を維持してきたが、14(平成26)年の政変の結果、米国による軍事援助の一部は凍結されている。

「コブラ・ゴールド」については、政変後、米軍の参加規模が縮小されていたが、トランプ政権では回復されているほか、米タイの海兵隊による「CARAT」や海賊・密売対処を想定した「SEACAT」などの合同演習も引き続き実施している。

中国とは、両国海兵隊による「藍色突撃」や、両国空軍による「鷹撃」などの共同訓練を行っている。また、政変後、米国の軍事援助の一部が凍結されたことを受けて、両国の軍事関係は緊密化しているとの指摘がある。

韓国とは、19(令和元)年9月、韓タイ軍事秘密情報保護協定(GSOMIA:General Security of Military Information Agreement)を締結した。

7 ベトナム

ベトナムは、アジア太平洋地域は躍動的な経済発展の中心地であり続け、地経学的、地政学的、戦略的に一層重要な位置を占めるようになっている一方、依然として、大国が激しい影響力競争を展開する場所であり、多くの不安定要因が存在するとの認識を示している。ベトナムは、海洋は国家建設・国防に密接にかかわるとの認識のもと、海洋強国となる目標を掲げ、海上における軍及び法執行機関の近代化に重点を置くとともに、海洋状況把握能力を確保し、海上における独立、主権、管轄権、国益を維持する姿勢を示している。

ベトナムは全方位外交を展開し、全ての国家と友好関係を築くべく、積極的に国際・地域協力に参加するとしている。16(平成28)年3月には、戦略的要衝であるカムラン湾に国際港が開港し、わが国を含む各国の海軍艦艇がカムラン国際港に寄港している。

米国とは、近年、米海軍との合同訓練や米海軍艦艇のベトナム寄港などを通じ、軍事面における関係を強化している。17(平成29)年には、両国首脳が相互訪問を行い、防衛協力関係の深化について合意したほか、18(平成30)年3月には、ベトナム戦争後、米空母としては初となるベトナム寄港が行われた。また、20(令和2)年3月にも米空母と巡洋艦がダナンに寄港した。

ロシアとは、国防分野での協力を引き続き強化しているほか、装備品の大半を依存している。18(平成30)年4月、ベトナムとロシアは軍事・技術協力に係るロードマップに署名しており、19(令和元)年7月、ベトナム海軍艦艇が初めてウラジオストク港へ寄港するとともに、19(令和元)年12月、ロシア太平洋艦隊の救難艦がカムラン港へ寄港し、初の二国間潜水艦救難共同演習を実施した。

参照本章4節6項5(2)(アジア諸国との関係)

中国とは、包括的な戦略的協力パートナーシップ関係のもと、政府高官の交流も活発であるが、南シナ海における領有権問題などをめぐり主張が対立している。両国は、首脳会談などを通じ、海上における意見の相違を適切に処理することや、問題を複雑化させる行動を自制することなどを繰り返し確認しているが、資源開発や漁船操業をめぐって摩擦や衝突が生じている。19(令和元)年11月に公表した国防白書では、南シナ海の領有権問題について、ベトナムと中国は、両国の平和、友好、協力関係の大局に悪影響を及ぼさないよう、極めて用心深く、慎重に処理する必要があり、両国は国際法に基づく平和的解決のため継続的に協議すべきとの認識を示している。なお、19(令和元)年7月から10月の間、5月以降のベトナム沖の石油開発をめぐって、ベトナム及び中国の公船などが対峙する状況が見られた。

インドとは、安全保障や経済など広範な分野において協力関係を深化させている。防衛協力については、ベトナム海軍潜水艦要員や空軍パイロットに対する訓練をインド軍が支援していると指摘されているほか、インド海軍艦艇によるベトナムへの親善訪問も行われている。16(平成28)年9月には、インド首相として15年ぶりにモディ首相が訪越し、二国間関係を包括的戦略パートナーシップへ格上げすることに合意したほか、防衛協力深化のための5億ドルの融資などを表明している。

参照3章6節1項(「公海自由の原則」をめぐる動向)

1 米国が、バングラデシュ、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ及び東ティモールとの間で行っている一連の二国間演習の総称である。

2 米国が、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール及びタイとの間で行っている対テロ合同演習である。

3 15(平成27)年11月の総選挙では、アウン・サン・スー・チー議長率いる国民民主連盟(NLD:National League for Democracy)が勝利した。外国籍親族を持つアウン・サン・スー・チー氏は憲法の規定により大統領に就任できないため、新設の国家顧問や外相などに就任し、政権を主導している。20(令和2)年には民政復帰後2回目となる総選挙が予定されている。

4 Application of the Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide (The Gambia v. Myanmar), 2020 I.C.J.

5 1971(昭和46)年発効。マレーシアあるいはシンガポールに対する攻撃や脅威が発生した場合、オーストラリア、ニュージーランド、英国がその対応を協議するという内容。五か国はこの取極に基づいて各種演習を行っている。