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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第3節 朝鮮半島

朝鮮半島では、半世紀以上にわたり同一民族の南北分断状態が続いている。現在も、非武装地帯(DMZ:Demilitarized Zone)を挟んで、160万人程度の地上軍が厳しく対峙している。

このような状況にある朝鮮半島の平和と安定は、わが国のみならず、東アジア全域の平和と安定にとって極めて重要な課題である。

参照図表I-2-3-1(朝鮮半島における軍事力の対峙)

図表I-2-3-1 朝鮮半島における軍事力の対峙

➊ 北朝鮮

1 全般

北朝鮮は、思想、政治、軍事、経済などすべての分野における社会主義的強国の建設を基本政策として標榜し、その実現に向けて「先軍政治」という政治方式をとってきた。これは、「軍事先行の原則で軍事を全ての事業に優先させ、人民軍隊を核心、主力として革命の主体を強化し、それに依拠して社会主義偉業を勝利のうちに前進させていく社会主義基本政治方式」と説明されている1。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長2は13(平成25)年3月の朝鮮労働党中央委員会総会で、経済建設と核武力建設を並行して進めていくという、いわゆる「並進路線」を決定し、16(平成28)年5月の第7回朝鮮労働党大会において、「並進路線」を「先軍政治」と併せて堅持する旨明らかにした。北朝鮮は16(平成28)年から17(平成29)年にかけ、3回の核実験のほか、40発もの弾道ミサイルの発射を強行した。これを受けて、関連の国連安保理決議により制裁措置がとられたほか、わが国や米国などは独自の制裁措置を強化した。

他方、金正恩委員長は、18(平成30)年4月の朝鮮労働党中央委員会総会において、国家核武力が完成し、「並進路線」が貫徹されたとし、朝鮮労働党の「新たな戦略的路線」は「全党、全国が社会主義経済建設に総力を集中すること」であると発表するなど、経済発展に集中する方針を表明している。また、「核実験と大陸間弾道ロケット試験発射」の中止や、北朝鮮北部にある核実験場を廃棄することなどを決定し、同年5月に、北部の核実験場の爆破を公開した。同年6月の米朝首脳会談で金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化の意思を表明した。しかし、19(平成31)年2月の米朝首脳会談は、米朝双方がいかなる合意にも達することなく終了した。金正恩委員長は19(令和元)年12月の朝鮮労働党中央委員会総会において、米国による米韓合同軍事演習の実施などを理由に、守る相手もいない公約に一方的に縛られている根拠が消失した旨述べるとともに、米国の対北朝鮮敵視が撤回されるまで、戦略兵器開発を続ける旨表明した。また、敵対勢力の制裁・圧迫を無力化させ、社会主義建設の新たな活路を切り開くための正面突破戦を強行すべきとし、その基本は経済である旨表明している。そのうえで、金正恩委員長は同会議において、強力な政治外交的・軍事的保証がなければならない旨述べるなど、北朝鮮は引き続き戦力・即応態勢の維持・強化に努めていくものと考えられる。20(令和2)年4月の最高人民会議における北朝鮮の発表によれば、北朝鮮の同年度予算に占める国防費の割合は、15.9%となっているが、これは、実際の国防費の一部にすぎないとみられている。

北朝鮮は、これまで6回の核実験を実施したほか、近年、前例のない頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、大量破壊兵器や弾道ミサイル開発の推進及び運用能力の向上を図ってきた。また、北朝鮮は、非対称的な軍事能力としてサイバー領域について大規模な部隊を保持するとともに、軍事機密情報の窃取や他国の重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられるほか、大規模な特殊部隊を保持している。加えて、北朝鮮は、わが国を含む関係国に対する挑発的言動を繰り返してきた。

北朝鮮のこうした軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損うものとなっている。

北朝鮮の核兵器保有が認められないことは当然であるが、同時に、弾道ミサイルの開発・配備の動きや朝鮮半島における軍事的対峙、北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の動きなどにも注目する必要がある。

北朝鮮が極めて閉鎖的な体制をとっていることなどから、北朝鮮の動向の詳細や意図を明確に把握することは困難であるが、わが国として強い関心を持って注視していく必要がある。また、拉致問題については、引き続き、米国をはじめとする関係国と緊密に連携し、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現すべく、全力を尽くしていく。

2 軍事態勢
(1)全般

北朝鮮は、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全土の要塞化という四大軍事路線3に基づいて軍事力を増強してきた。

北朝鮮の軍事力は、陸軍中心の構成となっており、総兵力は約128万人である。北朝鮮軍は、依然として大規模な軍事力を維持している一方、冷戦構造の崩壊による旧ソ連圏からの軍事援助の減少や経済の不調による国防支出の限界、韓国の防衛力の急速な近代化といった要因により、韓国軍及び在韓米軍に対して通常戦力において著しく劣勢に陥っており、その装備の多くは旧式である。

このため北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの増強に集中的に取り組むことにより劣勢を補おうとしていると考えられる。また、情報収集や破壊工作からゲリラ戦まで各種の活動に従事する大規模な特殊部隊などを保有している。さらに、北朝鮮の全土にわたって多くの軍事関連の地下施設が存在するとみられていることも、特徴の一つである。

(2)軍事力

陸上戦力は、約110万人を擁し、兵力の約3分の2をDMZ付近に展開していると考えられる。その戦力は、歩兵が中心であるが、戦車3,500両以上を含む機甲戦力と火砲を有し、また、240mm多連装ロケットや170mm自走砲といった長射程火砲をDMZ沿いに常時配備していると考えられ、首都であるソウルを含む韓国北部の都市・拠点などがその射程に入っている。

海上戦力は、約800隻、約11.1万トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、旧式のロメオ級潜水艦約20隻のほか、特殊部隊の潜入・搬入などに使用されると考えられる小型潜水艦約50隻とエアクッション揚陸艇約140隻を有している。

航空戦力は、約550機の作戦機を有しており、その大部分は、中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG-29戦闘機やSu-25攻撃機といった、いわゆる第4世代機も少数保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されるとみられているAn-2輸送機を多数保有している。

また、北朝鮮は、いわゆる非対称的な軍事能力として、約10万人に達するとみられる特殊部隊4を保有しているほか、近年はサイバー部隊を重視し強化を図っているとみられている5

参照3章3節2項3(北朝鮮)

3 大量破壊兵器・弾道ミサイル

北朝鮮は、近年、前例のない頻度で弾道ミサイルの発射を行い、同時発射能力や奇襲的攻撃能力などを急速に強化してきた。また、核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、弾道ミサイルに搭載するための核兵器の小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる。

こうした北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損うものとなっている。また、大量破壊兵器などの不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題となっている。

一方、北朝鮮は18(平成30)年4月20日に行われた朝鮮労働党中央委員会総会において、「核実験と大陸間弾道ロケット試験発射」の中止や、北朝鮮北部にある核実験場を廃棄することなどを決定した。また、同月27日に行われた南北首脳会談や同年6月12日に行われた米朝首脳会談において、北朝鮮は非核化に向けた意思を示したほか、同年5月24日に、国際記者団を招待し、北部の核実験場の爆破を公開した。

しかし、現在に至るまで全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄は行っていない。19(令和元)年5月以降、累次にわたり関連安保理決議に違反する弾道ミサイルの発射を繰り返しており、関連技術や運用能力の向上を図っているものとみられる。こうした一連の発射は、わが国にとって断じて看過できるものではなく、国際社会にとっても深刻な課題である。また、同年12月の朝鮮労働党中央委員会総会において、金正恩委員長は米国による米韓合同軍事演習の実施などを理由に、守る相手もいない公約に一方的に縛られている根拠が消失した旨述べるとともに、米国の対北朝鮮敵視が撤回されるまで、戦略兵器開発を続ける旨表明した。さらに、20(令和2)年5月に北朝鮮は、金正恩委員長が指導した同党中央軍事委員会拡大会議において、核戦争抑止力をより一層強化し、戦略武力を攻撃可能な態勢で運用するための新たな方針が提示されるとともに、朝鮮人民軍砲兵の火力打撃能力を決定的に高める重大な諸措置が講じられた旨発表した。

今後、北朝鮮が完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの廃棄の実現に向けて具体的にどのような行動をとっていくかを含め、北朝鮮の今後の動向を引き続き重大な関心をもって注視していく必要がある。

(1)核兵器

ア 核兵器計画の現状

北朝鮮の核兵器計画の現状は、北朝鮮が極めて閉鎖的な体制をとっていることもあり、その詳細について不明な点が多い。しかしながら、過去の核開発の状況が解明されていないことや、17(平成29)年9月の核実験を含め、これまで既に6回の核実験を行ったことなどを踏まえれば、核兵器計画が相当に進んでいるものと考えられる。

核兵器の原料となり得る核分裂性物質6であるプルトニウムについて、北朝鮮はこれまで製造・抽出を数回にわたり示唆してきたほか7、最近では15(平成27)年9月に、07(平成19)年2月の第5回及び同年9月の第6回六者会合で無能力化が合意されていた原子炉及び再処理工場をはじめとする寧辺(ヨンビョン)のすべての核施設が再整備され、正常稼働を始めている旨言明した8。当該原子炉の再稼働は、北朝鮮によるプルトニウム製造・抽出につながり得ることから、その動向が強く懸念される。

また、同じく核兵器の原料となりうる高濃縮ウランについては、北朝鮮は09(平成21)年6月にウラン濃縮活動への着手を宣言し、10(平成22)年11月には、訪朝した米国人の核専門家に対してウラン濃縮施設を公開し、その後、数千基規模の遠心分離機を備えたウラン濃縮工場の稼動に言及した。このウラン濃縮工場は、13(平成25)年8月に施設拡張が指摘されており、濃縮能力を高めている可能性もある。こうしたウラン濃縮に関する北朝鮮の一連の動きは、北朝鮮が、プルトニウムに加えて、高濃縮ウランを用いた核兵器開発を推進している可能性があることを示すものであると考えられる9

これら核関連活動については、ポンペオ米国務長官が18(平成30)年7月、北朝鮮が核燃料の生産を続けていると上院で証言したほか、天野IAEA事務局長(当時)が19(平成31)年3月、IAEA理事会において、北朝鮮が寧辺の核関連施設において濃縮施設の使用の兆候を観察し続けた旨述べるなど、北朝鮮が主張する「朝鮮半島の完全な非核化への意思」とは相容れない動きが指摘されている。

核兵器の開発については、北朝鮮は06(平成18)年10月9日、09(平成21)年5月25日、13(平成25)年2月12日、16(平成28)年1月6日、同年9月9日及び17(平成29)年9月3日に核実験を実施している。北朝鮮は、これらの核実験により、必要なデータの収集を行うなどして核兵器計画を進展させている可能性が高い。

北朝鮮は、その核兵器計画の一環として、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化・弾頭化を追求しているものと考えられる。17(平成29)年9月3日には、金正恩委員長が核兵器研究所を視察し、ICBMに搭載できる水爆を視察した旨公表10したほか、同日に強行された6回目の核実験について、北朝鮮は、「ICBM装着用水爆実験を成功裏に断行した」と発表している。一般に、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化には相当の技術力が必要とされているが、米国、旧ソ連、英国、フランス、中国が1960年代までにこうした技術力を獲得したとみられることや過去6回の核実験を通じた技術的成熟が見込まれることなどを踏まえれば、北朝鮮は核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っているとみられる11

また、6回目となる17(平成29)年の核実験の出力は過去最大規模の約160ktと推定されるところであり、推定出力の大きさを踏まえれば、当該核実験は水爆実験であった可能性も否定できない12

いずれにせよ、北朝鮮による核兵器開発は、大量破壊兵器の運搬手段たる弾道ミサイルの長射程化などの能力増強を行っていることとあわせて考えれば、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損うものとして断じて容認できない。

イ 核兵器計画の背景

北朝鮮による核開発の目的については、北朝鮮の究極的な目標は体制の維持であると指摘13されていること、北朝鮮は米国の核の脅威に対抗する独自の核抑止力が必要と考えており、かつ、北朝鮮が米国及び韓国に対する通常戦力における劣勢を覆すことは少なくとも短期的には極めて難しい状況にあること、北朝鮮がイラクやリビアでの体制崩壊や17(平成29)年4月の米軍によるシリア攻撃は核抑止力を保有しなかったために引き起こされた事態であると主張していること14、そして核兵器は交渉における取引の対象ではないと繰り返し主張してきたことなどを踏まえれば、北朝鮮は体制を維持するうえでの不可欠な抑止力として核兵器開発を推進しているとみられる。

北朝鮮による核開発問題については、18(平成30)年6月12日の米朝首脳会談などにおいて、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を表明している。しかし、これらは核保有を前提とした主張であると考えられる。実際、北朝鮮は、国際社会に対して、自らの「核保有国」としての地位を繰り返し主張するとともに、金正恩委員長は19(令和元)年12月の朝鮮労働党中央委員会総会において、米国が敵視政策を追求するなら朝鮮半島の非核化は永遠にないであろう、また、長期的な安全を保証することができる強力な核抑止力を維持するであろうと述べるなど、北朝鮮は一方的な非核化には応じない旨繰り返し主張している。さらに、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化を表明した後においても核開発を継続しているとの指摘15や、北朝鮮が公表していないウラン濃縮施設が存在するとの指摘もある。

これらのことも踏まえ、今後、北朝鮮が全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄に向けて具体的にどのような行動をとるのかをしっかり見極めていく必要がある。

(2)生物・化学兵器

北朝鮮の生物兵器や化学兵器の開発・保有状況については、北朝鮮の閉鎖的な体制に加え、生物・化学兵器の製造に必要な物資・機材・技術の多くが軍民両用であるため偽装も容易であることから、詳細については不明である。しかし、化学兵器については、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有しているとみられるほか、生物兵器についても一定の生産基盤を有しているとみられる16。化学兵器としては、サリン、VX、マスタードなどの保有が、生物兵器に使用され得る生物剤としては、炭疽菌(たんそきん)、天然痘(てんねんとう)、ペストなどの保有が指摘されている。

また、北朝鮮が弾頭に生物兵器や化学兵器を搭載し得る可能性も否定できないとみられている。

(3)弾道ミサイル

北朝鮮の弾道ミサイルは、北朝鮮が極めて閉鎖的な体制をとっていることもあり、大量破壊兵器同様その詳細については不明な点が多いが、北朝鮮は、軍事能力強化の観点に加え、政治外交的観点や外貨獲得の観点などからも、弾道ミサイル開発に高い優先度を与えていると考えられる。北朝鮮が保有・開発しているとみられる弾道ミサイルは次のとおりである17

参照図表I-2-3-2(北朝鮮が保有・開発してきた弾道ミサイル)
図表I-2-3-3(北朝鮮の弾道ミサイルの射程)
図表I-2-3-4(北朝鮮の弾道ミサイル発射の主な動向)
図表I-2-3-5(北朝鮮の弾道ミサイルがわが国上空を通過した事例)
図表I-2-3-6(北朝鮮が弾道ミサイルをロフテッド軌道で発射した事例)

図表I-2-3-2 北朝鮮が保有・開発してきた弾道ミサイル

図表I-2-3-3 北朝鮮の弾道ミサイルの射程

図表I-2-3-4 北朝鮮の弾道ミサイル発射の主な動向

図表I-2-3-5 北朝鮮の弾道ミサイルがわが国上空を通過した事例

図表I-2-3-6 北朝鮮が弾道ミサイルをロフテッド軌道で発射した事例

ア 北朝鮮が保有・開発する弾道ミサイルの種類

(ア)トクサ

トクサは、射程約120kmと考えられる単段式の短距離弾道ミサイルで、発射台付き車両(TEL, Transporter-Erector-Launcher)18に搭載され移動して運用される。北朝鮮が保有・開発している弾道ミサイルとしては初めて固体燃料推進方式を採用したとみられる。

(イ)2019(令和元)年以降に発射された新型短距離弾道ミサイル(SRBM)

北朝鮮は19(令和元)年以降、少なくとも3種類の新型と推定される短距離弾道ミサイルを発射した。北朝鮮が公表した画像では、これら3種類の短距離弾道ミサイルは装輪式又は装軌式(キャタピラ式)TELから発射され、いずれの画像でも固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認できる。

短距離弾道ミサイル発射の発表時(19(令和元)年7月)に北朝鮮が公表した画像【JANES】

短距離弾道ミサイル発射の発表時(19(令和元)年7月)に北朝鮮が
公表した画像【JANES】

短距離弾道ミサイル発射の発表時(19(令和元)年8月)に北朝鮮が公表した画像【JANES】

短距離弾道ミサイル発射の発表時(19(令和元)年8月)に北朝鮮が
公表した画像【JANES】

短距離弾道ミサイル発射の発表時(19(令和元)年9月)に北朝鮮が公表した画像【JANES】

短距離弾道ミサイル発射の発表時(19(令和元)年9月)に北朝鮮が
公表した画像【JANES】

①短距離弾道ミサイルA

19(令和元)年5月4日、9日、7月25日及び8月6日に発射された短距離弾道ミサイル(北朝鮮は「新型戦術誘導兵器」などと呼称)は同系統で、既存のノドンやスカッドなどとは異なる新型と推定される。各日2発ずつ発射され、200~600km程度飛翔した。発射されたミサイルは、通常の弾道ミサイルよりも低空で飛翔し、かつ変則的な軌道で飛翔可能とも言われるロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」と外形上類似点がある。

②短距離弾道ミサイルB

19(令和元)年8月10日、16日及び20(令和2)年3月21日に発射された短距離弾道ミサイル(北朝鮮は「新兵器」や「戦術誘導兵器」などと呼称)は同系統で、上記Aとは異なる新型と推定される。各日2発ずつ発射され、250~400km程度飛翔した。

③短距離弾道ミサイルC

19(令和元)年8月24日、9月10日、10月31日、11月28日、20(令和2)年3月2日及び9日に発射された短距離弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「超大型放射砲」)は上記A及びBとは異なる新型と推定される。各日2発ずつ発射され、300km~400km程度飛翔した。発射の間隔は、19(令和元)年10月31日が約3分、同年11月28日及び20(令和2)年3月2日が1分未満と推定され、飽和攻撃などに必要な連続射撃能力の向上を企図していると考えられる。

このほか、北朝鮮は19(令和元)年7月31日及び8月2日に、短距離弾道ミサイルの可能性があるものを各日2発発射している。また、20(令和2)年3月29日に、短距離弾道ミサイルを2発発射しており、詳細な弾種は分析中である。

こうした発射を通じ、北朝鮮は、発射の兆候把握を困難にするための秘匿性・即時性や、奇襲的な攻撃能力、連続射撃能力の向上など、関連技術や運用能力の向上を図っているものとみられる。また、飛翔距離にかんがみれば、発射された短距離弾道ミサイルの一部は、韓国のみならずわが国の一部を射程に収めるとみられる。さらに、今後短距離弾道ミサイルの技術がより射程の長いミサイルに応用されることも懸念される。

(ウ)スカッド

スカッドは単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、TELに搭載され移動して運用される。

スカッドBは、射程約300km、スカッドCはスカッドBの射程を延長した射程約500kmとみられる短距離弾道ミサイルで、北朝鮮はこれらを生産・配備するとともに、中東諸国などへ輸出してきたとみられている。

スカッドER(Extended Range)は、スカッドの胴体部分の延長や弾頭重量の軽量化などにより射程を延長した弾道ミサイルで、射程は約1,000kmに達するとみられており、わが国の一部がその射程内に入るとみられる。

これらのほか、北朝鮮は、スカッドミサイルを改良したとみられる弾道ミサイルを開発している。当該弾道ミサイルは、17(平成29)年5月29日に1発が発射された。発射翌日、北朝鮮は、精密操縦誘導システムを導入した弾道ロケットを新たに開発し、試験発射を成功裏に行ったと発表した。また、北朝鮮が公表した画像に基づけば、装軌式(キャタピラ式)TELから発射される様子や弾頭部に小型の翼とみられるものが確認されるなど、これまでのスカッドとは異なる特徴が確認される一方、弾頭部以外の形状や長さは類似しており、かつ、液体燃料推進方式のエンジンの特徴である直線状の炎が確認できる。当該弾道ミサイルは、終末誘導機動弾頭(MaRV:Maneuverable Re-entry Vehicle)を装備しているとの指摘19もある。北朝鮮は、金正恩委員長が、敵の艦船などの個別目標を精密打撃することが可能な弾道ミサイル開発を指示したと発表していることも踏まえれば、弾道ミサイルによる攻撃の正確性の向上を企図しているとみられる。

スカッドER4発発射の発表時(17(平成29)年3月)に北朝鮮が公表した画像【JANES】

スカッドER4発発射の発表時(17(平成29)年3月)に北朝鮮が公表した画像
【JANES】

(エ)ノドン

ノドンは、単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、TELに搭載され移動して運用される。射程約1,300kmに達するとみられており、わが国のほぼ全域がその射程内に入るとみられる。

ノドンの性能の詳細は確認されていないが、命中精度については、この弾道ミサイルがスカッドの技術を基にしているとみられていることから、例えば、特定の施設をピンポイントに攻撃できるような精度の高さではないと考えられるものの、精度の向上が図られているとの指摘もある。この点、ノドンについては、弾頭部の改良により精度の向上を図ったタイプ(弾頭重量の軽量化により射程は約1,500kmに達するとみられる)の存在が指摘されていたところ、16(平成28)年7月19日のスカッド1発及びノドン2発の発射翌日に北朝鮮が発表した画像において、同タイプの弾道ミサイルの発射が初めて確認されている。

(オ)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)

①「北極星」型潜水艦発射弾道ミサイル

北朝鮮は、SLBM及びSLBMの搭載を企図した新型潜水艦の開発を行っていると指摘されてきたが、15(平成27)年5月に、北朝鮮メディアを通じてSLBM(北朝鮮の呼称によれば「北極星」型)の試験発射に成功したと発表して以降、これまでに4回20、「北極星」型SLBMの発射を公表している。これまで北朝鮮が公表した画像及び映像から判断すると、空中にミサイルを射出した後に点火する、いわゆる「コールド・ローンチシステム」の運用に成功している可能性がある。また、16(平成28)年4月及び同年8月の発射においては、ミサイルから噴出する炎の形及び煙の色などから、固体燃料推進方式が採用されていると考えられる。

これまで、「北極星」型SLBMと推定される弾道ミサイルとして、わが国に向けた飛翔が確認されたのは、16(平成28)年8月24日に北朝鮮東岸の新浦(シンポ)付近から発射された1発で、約500km飛翔した。SLBMとして初めて約500km飛翔したという点を踏まえれば、これまでの発射などを通じて課題の解決に努め、一定の技術的進展を得た可能性も否定できない。さらに、この時発射された弾道ミサイルについては、約500kmを射程とする弾道ミサイルの通常の高度と比べると、通常よりもやや高い軌道で発射されたと推定され、仮に通常の軌道で発射すれば、射程は1,000kmを超えるとみられる。

また、「北極星」型SLBMはコレ級潜水艦(排水量約1,500トン)から発射されているとみられる。北朝鮮は現在、同潜水艦を1隻保有しているが、SLBM発射のためのさらに大きな潜水艦の開発を追求しているとの指摘もある21

②「北極星3」型潜水艦発射弾道ミサイル

北朝鮮は、19(令和元)年10月2日に、「北極星」型SLBMとは異なる、新型と推定されるSLBM(北朝鮮の呼称によれば「北極星3」型)1発を発射し、当該ミサイルは、450km程度飛翔して、わが国の排他的経済水域(EEZ)内に落下したものと推定される。この時発射された弾道ミサイルについては、最高高度が約900kmに達し、ロフテッド軌道で発射されたと推定され、仮に通常の軌道で発射されれば、射程は約2,000kmとなる可能性がある。北朝鮮が公表した画像では、固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認できる。なお、当該弾道ミサイルは、水中発射試験装置から発射された可能性がある。

こうしたSLBM及びSLBMの搭載を企図した新型潜水艦の開発により、北朝鮮は弾道ミサイルによる打撃能力の多様化と残存性の向上を企図しているものと考えられる。

「北極星3」型SLBM発射の発表時(19(令和元)年10月)に北朝鮮が公表した画像【JANES】

「北極星3」型SLBM発射の発表時(19(令和元)年10月)に
北朝鮮が公表した画像【JANES】

(カ)SLBM改良型弾道ミサイル

北朝鮮は、「北極星」型SLBMを地上発射型に改良したとみられる弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「北極星2」型)を、17(平成29)年2月12日及び5月21日に1発ずつ発射している。いずれも、約500km飛翔したものと推定されるが、通常よりもやや高い軌道で発射されたと推定され、仮に通常の軌道で発射されたとすれば、その射程は1,000kmを超えるとみられる。同年2月12日の発射翌日、16(平成28)年8月のSLBM発射の成果に基づき地対地弾道弾として開発したと発表している。また、17(平成29)年5月21日の発射翌日、北朝鮮は、「北極星2」型の試験発射を再び成功裏に実施し、金正恩委員長が「部隊実戦配備」を承認したと発表している。さらに、北朝鮮が公表した画像には、いずれにおいても、装軌式(キャタピラ式)TELから発射され、空中にミサイルを射出した後に点火する、いわゆる「コールド・ローンチシステム」により発射される様子や固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認される。「コールド・ローンチシステム」や固体燃料推進方式のエンジンを利用しているとみられる点は、「北極星」型SLBMと共通している。北朝鮮が当該弾道ミサイルの実戦配備に言及していることも踏まえれば、わが国を射程に入れる固体燃料推進方式の弾道ミサイルが新たに配備される可能性が考えられる。

(キ)中距離弾道ミサイル(IRBM)級弾道ミサイル

北朝鮮は、液体燃料方式のIRBM級弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「火星12」型)をこれまでに3発発射している。17(平成29)年5月14日には、飛翔形態から、当該弾道ミサイルは、ロフテッド軌道で発射されたと推定されるが、仮に通常の軌道で発射されたとすれば、その射程は、最大で約5,000kmに達するとみられる。また、北朝鮮が発射翌日に公表した画像には、液体燃料推進方式のエンジンの特徴である直線状の炎が確認できることから、当該弾道ミサイルは液体燃料を使用しているとみられる。同年8月29日及び9月15日には、渡島半島(おしまはんとう)付近及び襟裳岬付近のわが国領域の上空を通過する形で当該弾道ミサイルが1発ずつ発射された。北朝鮮が弾道ミサイルと称するものを発射し、わが国領域の上空を通過させた事例は、これらが初めてである。

当該弾道ミサイルは、飛翔距離などを踏まえれば、IRBMとしての一定の機能を示したと考えられる。また、短期間のうちに立て続けにわが国上空を通過する弾道ミサイルを発射したことは、北朝鮮が弾道ミサイルの能力を着実に向上させていることを示すものである。さらに、同年5月及び8月の発射では、装輪式TELから切り離されたうえで発射された様子が確認されたが、9月の発射時には、装輪式TELに搭載されたまま発射された様子が確認できること及び北朝鮮が同発射について、「実戦的な行動順序を確認する目的」「『火星12』型の戦力化を実現した」と主張していることなどを踏まえれば、実戦的な運用能力を向上させている可能性が考えられる。

なお、北朝鮮は16(平成28)年、IRBM級の弾道ミサイルとみられるムスダン22の発射を繰り返しており、同年6月にはロフテッド軌道により一定の距離を飛翔させたが、同年10月には2回連続で発射に失敗しているとみられることから、ムスダンについては実用化に向けた課題が残されている可能性や、IRBM級の弾道ミサイルとしては、「火星12」型の開発・実用化に集中している可能性が考えられる。

(ク)大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイル

①「火星14」型ICBM級弾道ミサイル

北朝鮮は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「火星14」型)を17(平成29)年7月4日及び28日にそれぞれ1発発射している。飛翔形態から、当該弾道ミサイルは2発ともロフテッド軌道で発射されたと推定され、通常の軌道で発射されたとすれば射程は少なくとも5,500kmを超えるとみられる。7月4日の発射当日、北朝鮮は「特別重大報道」を行い、新型の大陸間弾道ロケット(ICBM)の試験発射に成功した旨発表した。また、7月28日の発射翌日、北朝鮮は、「核爆弾爆発装置」が正常に作動し、大気圏再突入環境における弾頭部の安全性などが維持された旨主張するなど、長射程の弾道ミサイルの実用化を目指していると考えられる。

北朝鮮の発表した画像に基づけば、7月4日及び同月28日に発射された弾道ミサイルは、5月14日に発射されたIRBM級の弾道ミサイルと、①エンジンがメインエンジン1基と4つの補助エンジンから構成されていること、②推進部の下部の形状がラッパ状であること、③液体燃料推進方式の直線状の炎が確認できること、が共通している。こうした点や、それぞれの弾道ミサイルについて推定される射程も踏まえれば、7月4日及び7月28日に発射されたICBM級の弾道ミサイルは、5月14日に発射されたIRBM級の新型弾道ミサイルを基に開発した可能性が考えられる。

また、北朝鮮が発表した画像に基づけば、7月4日及び同月28日に発射したとみられる弾道ミサイルが、KN-08/14((コ)において後述)と同様の8軸の装輪式TELに搭載された様子が確認できるが、他方、発射の時点の画像では、TELではなく簡易式の発射台から発射されていることが確認できる。さらに、当該弾道ミサイルは2段式であったと考えられる。

②「火星15」型ICBM級弾道ミサイル

北朝鮮は、17(平成29)年11月29日、上記「火星14」型とは異なるICBM級弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「火星15」型)1発を発射した。飛翔形態から、当該弾道ミサイルはロフテッド軌道で発射されたと推定される。北朝鮮は発射当日の「重大報道」で、新たに開発されたICBM「火星15」型の試験発射が成功裏に行われ、このICBMは米国本土全域を打撃することができ、国家核武力の完成を実現した旨発表した。

「火星15」型ICBM級弾道ミサイル発射の発表時(17(平成29)年11月)に北朝鮮が公表した画像【JANES】

「火星15」型ICBM級弾道ミサイル発射の発表時(17(平成29)年11月)に北朝鮮が公表した画像【JANES】

当該弾道ミサイルについては、①その飛翔距離及び飛翔高度、②北朝鮮が、新型のICBM「火星15」型の試験発射に成功した旨発表したこと、③これまでに見られたことのない9軸のTELに搭載された様子が確認できること、④弾頭の先端の形状が鈍頭(丸みを帯びた形状)であることなどから、同年7月に2度発射されたICBM級とは異なる、ICBM級弾道ミサイルであったと考えられる。また、北朝鮮が公表した画像によれば、当該弾道ミサイルは2段式であること、TELから切り離されたうえで発射された様子及び液体燃料推進方式の特徴である直線状の炎が確認できる。

さらに、当該弾道ミサイルについて、その飛翔高度、距離、公表された映像などを踏まえれば、搭載する弾頭の重量などによっては1万kmを超える射程となり得ると考えられることから、あらためて北朝鮮による弾道ミサイルの長射程化が懸念される。

また、従来、北朝鮮が保有する装輪式のTELについては、ロシア製及び中国製のTELを改良したものとの指摘がある中で、北朝鮮が装輪式TELを自ら開発したと主張している点も注目される。

(ケ)テポドン2

テポドン2は、固定式発射台から発射する長射程の弾道ミサイルである23。テポドン2は、1段目にノドンの技術を利用したエンジン4基を、2段目に同様のエンジン1基をそれぞれ使用していると推定される。射程については、2段式のものは約6,000kmとみられ、3段式である派生型については、ミサイルの弾頭重量を約1トン以下と仮定した場合、約1万km以上におよぶ可能性があると考えられる。テポドン2又はその派生型は、これまで合計5回発射されている。

もっとも最近では、16(平成28)年2月、国際機関に通報を行ったうえで、「人工衛星」を打ち上げるとして、北朝鮮北西部沿岸地域の東倉里(トンチャンリ)地区から、テポドン2派生型を発射した。この発射により、同様の仕様の弾道ミサイルを2回連続して発射し、おおむね同様の態様で飛翔させ、地球周回軌道に何らかの物体を投入したと推定されることから、北朝鮮の長射程の弾道ミサイルの技術的信頼性は前進したと考えられる。

こうした長射程の弾道ミサイルの発射試験は、射程の短い他の弾道ミサイルの射程の延伸や、弾頭重量の増加、命中精度の向上といった性能の向上にも資するものであるほか、多段階推進装置の分離技術や、姿勢制御・推進制御技術などの関連技術は北朝鮮が新たに開発中の他の中・長距離弾道ミサイルにも応用可能とみられる。このため、ノドンなどの弾道ミサイルの性能向上のほか、新たな弾道ミサイルの開発を含め、北朝鮮による弾道ミサイル開発全体をより一層進展させるとともに、攻撃手段の多様化にもつながるものであると考えられる。

また、北朝鮮は、19(令和元)年12月に2回、東倉里地区の西海(ソヘ)衛星発射場で「重大な実験」を行った旨発表しており、これは、ICBM級弾道ミサイルのエンジンの試験であった可能性が指摘されている。

(コ)KN-08/KN-14

12(平成24)年4月及び13(平成25)年7月に行われた閲兵式(軍事パレード)で登場した新型ミサイル「KN-08」は、詳細は不明ながら、大陸間弾道ミサイルとみられている。また、15(平成27)年10月の閲兵式には、「KN-08」とみられる新型ミサイルが、これまでと異なる形状の弾頭部で登場した。この「KN-08」の派生型とみられる新型ミサイルは「KN-14」と呼称されている。

イ 弾道ミサイル発射の主な動向

北朝鮮は、これまで各種の弾道ミサイルの発射を繰り返してきているが、特に16(平成28)年来、新型とみられるものを含め、70発を超える弾道ミサイルなどの発射を強行している。

北朝鮮による弾道ミサイル発射の動向については、次のような特徴がある。第一に、弾道ミサイルの長射程化を図っているものとみられる。17(平成29)年11月には、弾頭の重量などによっては1万kmを超える射程となり得るICBM級弾道ミサイルを発射している。長射程の弾道ミサイルの実用化のためには、弾頭部の大気圏外からの再突入の際に発生する超高温の熱などから再突入体を防護する技術についてさらなる検証が必要になるものと考えられるが、北朝鮮は、同年11月のICBM級弾道ミサイルの発射当日、弾頭の再突入環境における信頼性を再立証した旨発表するなど、長射程の弾道ミサイルの実用化を追求する姿勢を示している。北朝鮮が弾道ミサイルの開発をさらに進展させ、長射程の弾道ミサイルについて再突入技術を獲得するなどした場合は、北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したとの認識を一方的に持つに至る可能性がある。仮に、北朝鮮がそのような抑止力に対する過信・誤認をすれば、北朝鮮による地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る。なお、北朝鮮は、わが国を射程に収めるノドンやスカッドERといった弾道ミサイルについては、実用化に必要な大気圏再突入技術を獲得しており、これらの弾道ミサイルに核兵器を搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有しているとみられる。

第二に、飽和攻撃などのために必要な正確性、連続射撃能力及び運用能力の向上を企図している可能性がある。実戦配備済みのスカッド及びノドンについて、14(平成26)年以降、過去に例の無い地点から、早朝・深夜に、TELを用いて、多くの場合、複数発、朝鮮半島を横断する形で発射している。これは、スカッド及びノドンについて、任意の地点から、任意のタイミングで発射できることを示しており、北朝鮮は弾道ミサイルの性能や信頼性に自信を深めているものと考えられる。

スカッド及びノドンについては、16(平成28)年8月のノドン発射以来、わが国の排他的経済水域(EEZ)内に弾頭が落下したと推定される発射があり、わが国の安全保障に対する重大な脅威となっている。17(平成29)年3月6日に発射された4発のスカッドERとみられる弾道ミサイルは、同時に発射されたと推定される。

こうした発射を通じて、北朝鮮は、弾道ミサイルについて、研究開発だけではなく、運用能力の向上を企図している可能性がある。金正恩委員長は、軍部隊に対し、形式主義を排した実戦的訓練を行うよう繰り返し指導していることから、こうした指導が、配備済み弾道ミサイルの発射の背景となっている可能性も考えられる。

また、17(平成29)年5月に発射された、スカッドミサイルを改良したとみられる弾道ミサイルについて、終末誘導機動弾頭(MaRV)を装備しているとの指摘もある。さらに、19(令和元)年の弾道ミサイルなどの発射において、北朝鮮が公表した画像では、異なる場所から発射し、特定の目標に命中させていることが確認できる。

こうしたことから、北朝鮮は、実戦配備済みの弾道ミサイルの改良や新たな弾道ミサイル開発により攻撃の正確性の向上を企図しているとみられる。

さらに、19(令和元)年11月28日及び20(令和2)年3月2日にそれぞれ2発発射された短距離弾道ミサイルの発射間隔は1分未満と推定され、飽和攻撃等に必要な連続射撃能力の向上を企図していると考えられる。

また、近年、新たな短距離弾道ミサイルと様々な火砲を組み合わせた射撃訓練などを実施し、実戦的な運用能力の向上を図っているとみられる。

第三に、発射の兆候把握を困難にするための秘匿性や即時性を高め、奇襲的な攻撃能力の向上を図っているものとみられる。発射台付き車両(TEL)や潜水艦を使用する場合、任意の地点からの発射が可能であり、発射の兆候を事前に把握するのが困難となるが、北朝鮮は、TELからの発射や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射を繰り返している。また、19(令和元)年に発射された弾道ミサイルは、いずれも固体燃料を使用しているものとみられ、北朝鮮は、弾道ミサイルの固体燃料化を進めているとみられる。一般的に、固体燃料推進方式のミサイルは、固形の推進薬が前もって充填されており、液体燃料推進方式に比べ、即時発射が可能であり発射の兆候が事前に察知されにくく、ミサイルの再装填もより迅速に行え、かつ、保管や取扱いも比較的容易であることなどから、軍事的に優れているとされる。こうしたことから、北朝鮮は奇襲的な攻撃能力の向上を図っているものとみられる。

第四に、他国のミサイル防衛網を突破することを企図し、低高度を変則的な軌道で飛翔する弾道ミサイルを開発している可能性がある。19(令和元)年5月4日、9日、7月25日及び8月6日に発射された短距離弾道ミサイルは、通常の弾道ミサイルよりも低空で飛翔し、かつ変則的な軌道で飛翔可能とも言われるロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」と外形上類似点がある。一般論として、「イスカンデル」のように通常の弾道ミサイルよりも低高度で飛翔し、かつ変則的な軌道で飛翔するものは、ミサイル防衛網を突破することを企図していると指摘されている。

第五に、発射形態の多様化を図っている可能性がある。16(平成28)年6月22日、17(平成29)年5月14日、7月4日、7月28日、11月29日及び19(令和元)年10月2日の弾道ミサイル発射においては、通常よりも高い角度で高い高度まで打ち上げる、いわゆるロフテッド軌道と推定される発射形態が確認されたが、一般論として、ロフテッド軌道で発射された場合、迎撃がより困難になると考えられる。

北朝鮮は、極めて速いスピードで弾道ミサイル開発を継続的に進めてきており、わが国を射程に収めるノドンやスカッドERといった弾道ミサイルに核兵器を搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有しているとみられる。さらに、近年、北朝鮮はミサイル関連技術の高度化を図ってきており、19(令和元)年5月以降、発射を繰り返している新型と推定される3種類の短距離弾道ミサイルは、固体燃料を使用して通常の弾道ミサイルよりも低空で飛翔するといった特徴があり、発射の兆候把握や早期探知を困難にさせることなどを通じて、ミサイル防衛網を突破することを企図していると考えられる。このような高度化された技術がより射程の長いミサイルに応用されることも懸念される。

このように、北朝鮮は攻撃態様の複雑化・多様化を執拗に追求し、攻撃能力の強化・向上を着実に図っており、このような能力の強化・向上は、発射兆候の早期の把握や迎撃をより困難にするなど、わが国を含む関係国の情報収集・警戒、迎撃態勢への新たな課題となっている。

ウ 今後の弾道ミサイル開発の動向

金正恩委員長は18(平成30)年4月の朝鮮労働党中央委員会総会で大陸間弾道ミサイルの試験発射中止について言及し、また、同年6月に行われた米朝首脳会談で非核化の意思を明確に示した。しかし、19(令和元)年12月の朝鮮労働党中央委員会総会において、金正恩委員長は米国による米韓合同軍事演習の実施などを理由に、守る相手もいない公約に一方的に縛られている根拠が消失した旨述べるとともに、米国の対北朝鮮敵視が撤回されるまで、戦略兵器開発を続ける旨表明した。

これらの点も踏まえ、引き続き北朝鮮の弾道ミサイル開発の動向について、重大な関心をもって注視していく必要がある。

4 内政
(1)金正恩体制の動向

北朝鮮では、金正恩委員長を中心とする権力基盤の強化が進んでいる。19(平成31)年4月及び19(令和元)年8月に憲法が改正され、国務委員長は「国家を代表する朝鮮民主主義人民共和国の最高領導者」であると規定されるなど、金正恩委員長の権限の強化が進められた。また、金正恩体制への移行後は、党関連会議の開催や決定事項などが多く公表されたほか、16(平成28)年5月には1980(昭和55)年10月以来36年ぶりとなる第7回朝鮮労働党大会を開催するなど、党を中心とした国家運営を行っているとの指摘がある。

他方、幹部の頻繁な処刑や降格・解任にともなう萎縮効果により、幹部が金正恩委員長の判断に異論を唱え難くなることから、十分な外交的勘案がなされないまま北朝鮮が軍事的挑発行動に走る可能性も含め、不確実性が増しているとも考えられる。また、貧富の差の拡大や外国からの情報の流入などにともなう社会統制の弛緩などに関する指摘もなされており、体制の安定性という点から注目される。

(2)経済事情

経済面では、社会主義計画経済のぜい弱性に加え、冷戦の終結にともなう旧ソ連や東欧諸国などとの経済協力関係の縮小の影響などもあり、北朝鮮は慢性的な経済不振、エネルギーと食糧の不足に直面している。特に、食糧事情については、引き続き海外からの食糧援助に依存せざるを得ない状況にあるとみられている。また、わが国や米国などによる独自の制裁措置の強化や、核実験や弾道ミサイル発射を受けて採択された関連の国連安保理決議による制裁措置は、北朝鮮の厳しい経済状況と併せて考えた場合、一定の効果を及ぼしてきたと考えられ、今後も制裁措置が最大の貿易相手国である中国を含む関係各国によって厳格に履行されれば、北朝鮮は、さらに厳しい経済状況に置かれる可能性がある。20(令和2)年には、国際列車・国際航路の運営や観光を中止するなど、新型コロナウイルスの感染防止の措置を取っており、経済的な損失を被っている可能性がある24

経済面での様々な困難に対し、北朝鮮ではこれまでにも、限定的な改善策や一部の経済管理システムの変更が試みられてきたほか、経済開発区の設置や、工場などの生産・販売計画に関する裁量の拡大などを進めているとされている。さらに、19(令和元)年12月、朝鮮労働党中央委員会総会において、金正恩委員長が敵対勢力の制裁・圧迫を無力化させ、社会主義建設の新たな活路を切り開くための正面突破戦を強行すべきとし、その基本は経済である旨表明していることなどからも、北朝鮮は経済の立て直しを重要視しているとみられる。一方、北朝鮮が現在の統治体制の不安定化につながり得る構造的な改革を行う可能性は低いと考えられることから、経済の現状を根本的に改善することには、様々な困難がともなうと考えられる。

また、北朝鮮は、国連安保理決議で禁止されている、洋上での船舶間の物資の積み替え(いわゆる「瀬取り」)などにより国連安保理の制裁逃れを図っているとみられ25、20(令和2)年4月に公表された「国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル最終報告書」は、19(平成31・令和元)年、北朝鮮は国連安保理決議が定める上限を大きく上回る量の石油製品を不正に輸入したなどと指摘している。

参照図表I-2-3-7(北朝鮮に対する安保理決議に基づく制裁)

図表I-2-3-7 北朝鮮に対する安保理決議に基づく制裁

5 対外関係
(1)米国との関係

米国のトランプ政権は「全ての選択肢がテーブルの上にある」という考え方に立ち、北朝鮮の核・ミサイル問題に対処することを表明し、経済制裁及び外交的手段の強化を通じ、北朝鮮が核・ミサイル及びその拡散計画を放棄するよう圧力をかける政策をとった。これに対し北朝鮮は、米国による核の脅威に対抗するためには、独自の核抑止力が必要であるとの従来の主張や挑発的言動を繰り返すとともに、弾道ミサイルの発射など軍事的挑発を行った。

18(平成30)年6月、史上初の米朝首脳会談が実施され、米朝双方が朝鮮半島における永続的で安定した平和体制の構築に向け協力するとともに、金正恩委員長が朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を明確に示したうえで、引き続き米朝間で交渉を行っていくことを確認した。

しかし、19(平成31)年2月の第2回米朝首脳会談において、米朝双方はいかなる合意にも達することなく終了した。金正恩委員長は、同年4月の最高人民会議において、「米国が正しい姿勢を持ってわが方と共有することのできる方法論」を見つけることを条件に、第3回の米朝首脳会談を行う用意があり、「米国の勇断を年末まで待つ」などと述べた。

19(令和元)年6月、トランプ大統領による訪韓の機会に、米朝首脳が板門店で面会し、実務レベルで対話を進めることで合意し、同年10月に実務者協議が行われたが、その後北朝鮮は交渉が決裂した旨発表した。

19(令和元)年12月の朝鮮労働党中央委員会総会において、金正恩委員長は米国による米韓合同軍事演習の実施などを理由に、守る相手もいない公約に一方的に縛られている根拠が消失した旨述べた。また、米国の対北朝鮮敵視が撤回されるまで、朝鮮半島の非核化は永遠にないであろうこと、戦略兵器開発を続けることを表明した。さらに、金正恩委員長は米国の核の威嚇に対する核抑止力を維持するとともに、北朝鮮の抑止力強化の幅と深度は米国の今後の立場に応じて調整される旨言及した。

いずれにせよ、現時点で北朝鮮の大量破壊兵器・ミサイルの廃棄に具体的な進展は見られない。

(2)韓国との関係

金正恩委員長が18(平成30)年1月の「新年の辞」で南北対話の必要性に言及したことが契機となり、同年、南北関係は大幅に進展した。同年4月の南北首脳会談では、南北の敵対行為を全面的に中止すること、朝鮮半島の非核化の実現を共通の目標として確認することなどを盛り込んだ「板門店宣言文」を発出した。また同年5月には再度南北首脳会談が行われ、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化の意思を改めて明らかにした。さらに、同年9月に行われた南北首脳会談においては、軍事的な敵対関係の終息などを盛り込んだ「9月平壌共同宣言」を発出したほか、南北の軍事的な緊張緩和のための具体的な措置について盛り込んだ「「板門店宣言文」履行のための軍事分野合意書」に署名した。同年中、南北間では、これらの文書に基づく措置の履行に関する取組が行われた。「板門店宣言文」では朝鮮戦争の終戦の宣言を目指す旨について言及され、また、「9月平壌共同宣言」では金正恩委員長が近くソウルを訪問することについて言及されている。20(令和2)年3月には、韓国大統領府は金正恩委員長と文在寅(ムン・ジェイン)大統領が親書のやり取りをしたと発表した。一方、18(平成30)年と比較し、19(平成31・令和元)年は、南北間の対話や協力事業に大きな進展はなかった。また、最近では、北朝鮮は、韓国をたびたび非難する言動を繰り返している。例えば、外務省報道官声明などを通じて、19(平成31)年3月及び19(令和元)年8月に行われた米韓合同軍事演習や韓国の防衛力整備を非難した。また、北朝鮮メディアは、同年11月の韓国・ASEAN特別首脳会議への金正恩委員長の出席を文在寅大統領から求められたが、形式ばかりの北南首脳対面はむしろ行わないよりも悪いとして応じなかった旨報じるなど、北朝鮮は韓国と対話しない姿勢をたびたび示している。今後の南北関係の動向が注目される。

(3)中国との関係

中国との関係では、1961(昭和36)年に締結された「中朝友好協力及び相互援助条約」が現在も継続している。また、中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、18(平成30)年の北朝鮮の対外貿易(南北交易を除く)に占める中国との貿易額の割合は約9割26と極めて高水準で、北朝鮮の中国への依存が指摘されている。

北朝鮮情勢や核問題に関して、中国は、①朝鮮半島の非核化、②朝鮮半島の平和と安定、③対話と協議を通じた問題解決を原則としており、北朝鮮に対する制裁を強化する累次の国連安保理決議に賛成する一方、制裁だけでは核問題を根本的に解決することはできず、対話と協議を通じた問題解決が重要であるとしている。この点、中国は、米朝首脳会談など、米朝間の対話への支持を表明しているほか、北朝鮮及びロシアと共に、朝鮮半島の非核化は、段階的かつ同時進行的なものであり、関係国の相応の措置を伴うものでなければならないと主張している。19(令和元)年12月には、ロシアとともに国連安保理決議に基づく制裁措置の調整を提案する決議案を国連安保理理事国に配布した。

北朝鮮にとって中国は極めて重要な政治的・経済的パートナーであり、北朝鮮に対して一定の影響力を維持していると考えられる。北朝鮮が、中国を含む国際社会が反対する中で核実験及び弾道ミサイル発射を繰り返すなど、必ずしも中国の立場と一致した行動を採らない事例が見られたことなどから、中朝関係の悪化も指摘されていたが、18(平成30)年3月に、金正恩体制として初となる中朝首脳会談が行われた。当該会談に伴う訪中は、金正恩体制における金正恩委員長の初の外遊とされる。また、同年5月、6月及び19(平成31)年1月にも金正恩委員長は訪中して習近平主席と会談した。さらに習近平主席は19(令和元)年6月、国家主席就任以降初めて訪朝して金正恩委員長と会談し、中朝関係の発展や朝鮮半島の非核化などについて話し合ったとされる。

(4)ロシアとの関係

北朝鮮の核問題について、ロシアは、中国と同様、朝鮮半島の非核化や六者会合の早期再開の支持を表明している。17(平成29)年12月に採択された国連安保理決議2397号に賛成する一方で、北朝鮮に対する圧力は対話と交渉へと席を譲らなければならないと主張している。19(令和元)年12月には、中国とともに国連安保理決議に基づく制裁措置の調整を提案する決議案を国連安保理理事国に配布した。

18(平成30)年6月の米朝首脳会談を受け、ロシアは、朝鮮半島周辺における政治・外交的プロセスの支援に向けて、引き続き積極的に尽力する姿勢を示すとともに、関係各国に対して、多国間協議の様式についての検討に着手することを呼び掛けている。19(平成31)年4月、金正恩委員長がウラジオストクを訪問してプーチン大統領と会談し、関係発展及び朝鮮半島情勢などについて意見交換したほか、プーチン大統領は金正恩委員長からの訪朝要請を快諾したとされる。

(5)その他の国との関係

北朝鮮は、99(平成11)年以降、相次いで西欧諸国などとの関係構築を試み、欧州諸国などとの国交の樹立やARF(ASEAN Regional Forum)閣僚会合への参加などを行ってきた。また、イラン、シリア、パキスタン、ミャンマー、キューバといった国々との間では、武器取引や武器技術移転を含む軍事分野での協力関係が伝えられている。

また、近年では、北朝鮮はアフリカ諸国との関係を強化しているものとみられる。これらの関係強化の背景には、通常の政治・経済上の協力強化といった目的のほか、国連安保理決議に基づく制裁や中東の政治的混乱などにより困難になりつつある武器取引や軍事協力をアフリカ諸国で拡大し、外貨を獲得しようとする狙いも含まれるとみられる。実際、国連安保理決議に違反する取引などの事例も指摘27されており、これらの北朝鮮の違法な活動が核・弾道ミサイル開発の資金源となる可能性が懸念される。

1 第7回朝鮮労働党大会決定書「朝鮮労働党中央委員会事業総括について」(16(平成28)年5月8日)による。

2 13(平成25)年当時は国防委員会第1委員長。16(平成28)年6月に開催された最高人民会議において、国防委員会を国務委員会に改め、金正恩氏が「国務委員長」に推戴されたことを受け、金正恩氏の役職は国務委員長に統一している。

3 1962(昭和37)年に朝鮮労働党中央委員会第4期第5回総会で採択された。

4 サーマン在韓米軍司令官(当時)は、12(平成24)年10月の米陸軍協会における講演で「北朝鮮は、世界最大の特殊部隊を保有しており、その兵力は6万人以上に上る」と述べているほか、韓国の「2018国防白書」は、「北朝鮮軍の特殊戦兵力は現在、約20万人に達するものと評価される」と指摘している。なお、同白書は北朝鮮の特殊部隊が「特殊作戦軍」として独立軍種化された旨指摘している。

5 北朝鮮によるサイバー攻撃事案については、3章3節参照

6 プルトニウムは、原子炉でウランに中性子を照射することで人工的に作り出され、その後、再処理施設において使用済みの燃料から抽出し、核兵器の原料として使用される。一方、ウランを核兵器に使用する場合は、自然界に存在する天然ウランから核分裂を起こしやすいウラン235を抽出する作業(濃縮)が必要となり、一般的に、数千の遠心分離機を連結した大規模な濃縮施設を用いてウラン235の濃度を兵器級(90%以上)に高める作業が行われる。

7 北朝鮮は03(平成15)年10月に、プルトニウムが含まれる8,000本の使用済み燃料棒の再処理を完了したことを、05(平成17)年5月には、新たに8,000本の使用済み燃料棒の抜き取りを完了したことをそれぞれ発表している。なお、韓国の「2018国防白書」は、北朝鮮が50kg余りのプルトニウムを保有していると推定しており、「2016国防白書」における評価を維持している。

8 16(平成28)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、北朝鮮は「ウラン濃縮施設を拡張し、以前プルトニウム製造に使用していた原子炉を再稼働させ、自身が表明したことを実行した」と指摘。北朝鮮は13(平成25)年8月末には原子炉を再稼働したと指摘され、原子炉が再稼働すれば、1年あたり核爆弾約1個を製造できる量のプルトニウム(約6kg)を製造できる能力を有することになるとの指摘がある。

9 韓国の「2018国防白書」は、(北朝鮮の)高濃縮ウラン(HEU:Highly Enriched Uranium)を相当量保有していると評価している。なお、寧辺所在のウラン濃縮施設とは異なるウラン濃縮施設が「カンソン」に存在するとの指摘もある。

10 17(平成29)年9月3日の朝鮮中央通信は、金正恩委員長による核兵器研究所視察に関する報道で、北朝鮮は「広大な地域に対する超強力EMP(電磁パルス)攻撃」を加えることができる旨発表している。

11 北朝鮮が06(平成18)年10月に初めて核実験を実施してから既に10年以上が経過し、また北朝鮮はこれまでに6回の核実験を実施している。このような技術開発期間及び実験回数は、米国、旧ソ連、英国、フランス、中国における小型化・軽量化技術の開発プロセスと比較しても不十分とは言えないレベルに到達しつつある。韓国の「2018国防白書」においては「北朝鮮の核兵器の小型化能力は相当なレベルに達している」との評価が示されている。

12 韓国の「2018国防白書」では、6回目の核実験について、「核爆発威力は約50ktでこれは過去核実験に比べて著しく大きく、水素弾試験を実行したと評価された」としている。なお、北朝鮮は4回目となる16(平成28)年1月の核実験についても、水爆実験であった旨主張しているが、当該核実験の出力は6~7ktと推定されることから、一般的な水爆実験を行ったとは考えにくい。

13 米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」(16(平成28)年2月)による。

14 例えば、13(平成25)年12月2日付の「労働新聞」論評は、「イラク・リビア事態は、米国の核先制攻撃の脅威を恒常的に受けている国が強力な戦争抑止力を持たなければ、米国の国家テロの犠牲、被害者になるしかないという深刻な教訓を与えている」と主張している。また、17(平成29)年4月8日付の「朝鮮民主主義人民共和国外務省スポークスマン談話」は、同月6日に行われた米軍によるシリア攻撃について「超大国だと自任しつつ、奇妙にも核兵器を持っていない国ばかり選んで横暴に殴りつけてきたのが歴代の米行政府であり、トランプ行政府もやはり少しも異なるところがない」と述べている。

15 例えば、19(平成31)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」。

16 例えば、韓国の「2018国防白書」は、「(北朝鮮は)1980年代から化学兵器を生産し始め、約2,500~5,000トンの様々な化学兵器を貯蔵していると推定される。また、炭疽菌(たんそきん)、天然痘(てんねんとう)、ペストなど様々な種類の生物兵器を独自に培養し、生産しうる能力を保有していると推定される」と指摘している。また、18(平成30)年5月に公表された米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」は、「北朝鮮は、火砲や弾道ミサイルを含む様々な通常兵器を改良することにより、化学兵器を使用できる可能性がある」と指摘している。北朝鮮は、1987(昭和62)年に生物兵器禁止条約を批准しているが、化学兵器禁止条約には加入していない。

17 「Jane's Sentinel Security Assessment China and Northeast Asia(20(令和2)年3月アクセス)」によれば、北朝鮮は弾道ミサイルを合計700~1,000発保有しており、そのうち45%がスカッド級、45%がノドン級、残り10%がその他の中・長距離弾道ミサイルであると推定されている。

18 固定式発射台からの発射の兆候は敵に把握されやすく、敵からの攻撃に対し脆弱であることから、発射の兆候把握を困難にし、残存性を高めるため、旧ソ連などを中心に開発が行われた発射台付き車両。18(平成30)年5月に公表された米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」によれば、北朝鮮は、スカッド用のTELを最大100両、ノドン用のTELを最大50両、IRBM(ムスダン)用のTELを最大50両保有しているとされる。
TEL搭載式ミサイルの発射については、TELに搭載され移動して運用されることに加え、全土にわたって軍事関連の地下施設が存在するとみられていることから、その詳細な発射位置や発射のタイミングなどに関する個別具体的な兆候を事前に把握することは困難であると考えられる。
TELの開発動向は、北朝鮮の弾道ミサイル運用能力にかかわるものであることから、弾道ミサイルそのものの開発動向と合わせ、注視していく必要がある。

19 例えば、「Jane's Sentinel Security Assessment China and Northeast Asia(20(令和2)年3月アクセス)」は、17(平成29)年5月29日の試験発射は、MaRVを装備した、スカッドをベースとする短距離弾道ミサイルの初めての発射であるとみられ、北朝鮮による精密誘導システムの進歩を示すものであると指摘している。

20 北朝鮮は、15(平成27)年5月9日にSLBMの試験発射に成功した旨発表したほか、16(平成28)年1月8日に、15(平成27)年5月に公開したものとは異なるSLBMの射出試験とみられる映像を公表、16(平成28)年4月24日及び8月25日にもSLBMの試験発射に成功した旨発表している。また、北朝鮮は発射の事実を公表していないが、防衛省としては、同年7月9日にも北朝鮮がSLBMと推定される弾道ミサイル1発を発射したと推定している。

21 「Jane's Fighting Ships 2019-2020」などによる。

22 ムスダンの射程については約2,500~4,000kmに達するとの指摘があり、わが国全域に加え、グアムがその射程に入る可能性が指摘されている。スカッドやノドンと同様に、液体燃料推進方式で、TELに搭載され移動して運用される。ムスダンは北朝鮮が1990年代初期に入手した旧ソ連製潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)SS-N-6を改良したものであると指摘されている。

23 テポドン2を開発するための過渡的なものであった可能性がある弾道ミサイルとして、テポドン1がある。

24 北朝鮮自身、祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」において莫大な経済的損失を甘受している旨言及している(20(令和2)年3月10日付)。

25 18(平成30)年に入ってから20(令和2)年3月末までの間に、北朝鮮籍タンカーと外国籍タンカーが公海上で接舷(横付け)している様子を海自哨戒機などが計24回確認している。これらの船舶は、政府として総合的に判断した結果、「瀬取り」を実施していたことが強く疑われる。これらの事案の詳細や、わが国の対応については、III部1章1節参照。

26 大韓貿易投資振興公社の発表による。

27 「国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル最終報告書」(20(令和2)年4月)による。