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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

➌ 対外関係など

1 全般

中国は、特に海洋において利害が対立する問題をめぐり、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試みやその既成事実化など高圧的とも言える対応を推し進めつつ、自らの一方的主張を妥協なく実現しようとする姿勢を継続的に示している。また、国家戦略として「一帯一路」構想を推進しているが、近年一部の「一帯一路」構想の協力国において、財政状況の悪化などからプロジェクト見直しの動きもみられている。さらに、安全保障や金融を含む分野における中国主導の多国間メカニズムの構築など、独自の国際秩序形成への動きや、他国の政治家の取り込みなどを通じて他国の政策決定に影響力を及ぼそうとする動きなども指摘されている19

同時に、中国は、持続的な経済発展を維持し、総合国力を向上させるためには、平和で安定した国際環境が必要であるとの認識に基づき、「人類運命共同体」の構築を提唱しつつ、「相互尊重、公平正義、協力、ウィン・ウィンの新型国際関係」の建設推進について言及している。軍事面においては、諸外国との間で軍事交流を積極的に展開している。近年では、米国やロシアをはじめとする大国や東南アジアを含む周辺諸国に加えて、アフリカや中南米諸国などとの軍事交流も活発に行っている。中国が軍事交流を推進する目的としては、関係強化を通じて中国に対する懸念の払拭に努めつつ、自国に有利な安全保障環境の構築や国際社会における影響力の強化、海外兵器市場の開拓、資源の安定的な確保や海外拠点の確保などがあるものと考えられる。

2 台湾との関係

参照本節4項1(中国との関係)

3 米国との関係

米中間には、貿易問題、南シナ海をめぐる問題、台湾問題、香港問題、ウイグル・チベットをめぐる中国の人権問題など、種々の懸案が存在している。中国は、米中関係は世界で最も重要な二国間関係の一つであるとしており、安定的な米中関係が経済建設など自国の発展を図るうえで必須であると認識しているとみられる。このため、中国は、相互尊重及び「ウィン・ウィン」の協力などに基づく米中関係をさらに発展させていくとしてきている。しかし同時に、中国は自国の「核心的利益と重大な関心事」については妥協しない姿勢を示していることに留意する必要がある。最近では、米中両国において相互に牽制する動きが見られることに強い関心が集まっている。

米国は、トランプ政権発足後、北朝鮮問題などにおける米中間の協力の必要性にたびたび言及する一方、国際貿易や海洋安全保障などの国際的課題について、国際ルール・規範を遵守するよう中国に求めてきた。そのような状況のなかトランプ政権は、中国による長年の不公平な貿易慣行を理由に、18(平成30)年6月以降、段階的な輸入関税引上げなどを通じて中国に対する厳しい対応を行ってきている。これに対し、中国側も、対抗措置として段階的な輸入関税の引上げなどを図ってきていたが、米中両国は20(令和2)年1月、中国による対米輸入拡大を柱とする第一段階の合意に至り、同年2月14日に発効した。さらに同日、両国は関税の一部引き下げも行った。このほか米国は、補助金などによる中国のハイテク産業振興政策「中国製造2025」を、米国その他の国の経済を不当に害する不公正な経済慣行であるとし、非難を表明してきている。

米国は、中国を含む修正主義勢力による長期的な戦略的競争の再出現を米国の繁栄及び安全保障に対する中心的な課題であるとしたうえで、中国が軍近代化などを通じ、近い将来に向け、インド太平洋における地域覇権を追求しているとの認識を示している20。さらに、19(平成31)年1月に米国防省が発表したミサイル防衛見直し(MDR:Missile Defense Review)においては、中国などのミサイル戦力が米国や同盟国の軍に対する脅威となっているという認識も示されている。このような米国の認識に対し、中国は強い反発を示している。

また、米国は日米安全保障条約が尖閣諸島に適用される旨繰り返し表明しており、17(平成29)年2月、トランプ政権となって初の日米首脳会談の共同声明においては、尖閣諸島への同条約5条の適用に明示的に言及する形で、日米首脳間の文書として初めて確認した。これらに対し中国は、強く反発している。また、南シナ海をめぐる問題について、米国は、海上交通路の航行の自由の阻害、米軍の活動に対する制約、地域全体の安全保障環境の悪化などの観点から懸念を有しており、中国に対し国際的な規範の遵守を求めるとともに、中国の一方的かつ高圧的な行動を累次にわたり批判している。また、中国などによる行き過ぎた海洋権益の主張に対抗するため、南シナ海などにおいて「航行の自由作戦」を実施しているほか、南シナ海の非軍事化を求めている。

このような相違点を抱えつつも、米中両国は、軍事交流を比較的安定的に継続してきたとみられる。例えば、米国防省が台湾への武器売却を議会に通知した際の対応にみられるように、近年中国は従来に比して抑制的な対応をとっているとみられる。08(平成20)年4月には両国の国防当局間にホットラインが開設され、14(平成26)年11月及び15(平成27)年9月には米中間で意図せぬ衝突のリスクを低減することを目的とした信頼醸成措置についての合意が発表されている。また、米軍の演習へのオブザーバーの派遣、海軍艦艇の相互訪問の機会における共同訓練が行われているほか、13(平成25)年11月以降、年に一度のペースで米中両軍による人道支援・災害救助演習が実施されている。トランプ政権発足以降は、両国ともに二国間軍事交流の重要性にたびたび言及しており、「外交・安全保障対話」や「米中統合参謀部対話メカニズム」といった新たな対話枠組みの立ち上げが相次いだ。

しかし、近年比較的安定して推移してきた軍事交流について、変化を窺わせる動きも確認されている。18(平成30)年9月に予定されていた米中統合参謀部対話メカニズムの第2回対話については、延期が報じられた。さらに米国においては、南シナ海の非軍事化などが達成されるまで環太平洋合同演習(リムパック)への中国の招待を禁じる条項を含む19会計年度国防授権法が成立したほか、19(平成31)年4月に中国が開催した国際観艦式への艦艇の派遣を見送った。

米国は中国との関係改善を望みつつも、米国の安全保障のために妥協しない姿勢を示している。米中関係の動向については、引き続き重大な関心を持って注視する必要がある。

なお、米国は中国を含む形でミサイル戦力を管理する枠組みの必要性にも言及しているが、中国はこれに応じる姿勢を見せていない。

4 ロシアとの関係

1989(平成元)年にいわゆる中ソ対立に終止符が打たれて以来、中露双方は継続して両国関係重視の姿勢を見せている。90年代半ばに両国間で「戦略的パートナーシップ」を確立して以来、同パートナーシップの深化が強調されており、01(平成13)年には、中露善隣友好協力条約が締結された。04(平成16)年には、長年の懸案であった中露国境画定問題も解決されるに至った。両国は、世界の多極化と国際新秩序の構築を推進するとの認識を共有し、関係を一層深めている。

軍事面では、中国は90年代以降、ロシアから戦闘機や駆逐艦、潜水艦など近代的な武器を購入しており、中国にとってロシアは最大の武器供給国である21。近年、中露間の武器取引額は一時期に比べ低い水準で推移しているものの、中国は引き続きロシアが保有する先進装備の輸入や共同開発に強い関心を示しているとみられる。例えば、中国はロシアから最新型の第4世代戦闘機とされるSu-35戦闘機やS-400対空ミサイルシステムを導入している。なお、ロシアがS-400対空ミサイルシステムを輸出したのは、中国が初めてであるとされる。その上でロシアは、中国によるリバースエンジニアリングへの警戒により、また、陸上で国境を接する中国に対して自国に脅威が及ぶような特定の高性能武器は供与しないといった方針により、対中輸出兵器の性能を差別化している例もあるとの指摘がある。また、中国の技術力向上により、武器輸出における中国との競合を懸念しつつあるとの指摘もある。

中露間の軍事交流としては、定期的な軍高官などの往来に加え、共同訓練などを実施している。例えば中国軍は、18(平成30)年にはロシア軍による演習として冷戦後最大規模とされる「ヴォストーク2018」演習に、19(令和元)年には「ツェントル2019」演習に参加した。また、中露両国は、海軍による大規模な共同演習「海上協力」を、12(平成24)年以降実施しており、16(平成28)年には初めて南シナ海で、17(平成29)年には初めてバルト海及びオホーツク海で実施した。16(平成28)年及び17(平成29)年には、共同ミサイル防衛コンピュータ演習「航空宇宙安全」も実施した。また、中国は、中露二国間もしくは中露を含む上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization。01(平成13)年6月に設立。)加盟国間で、対テロ合同演習「平和の使命」を実施している。中国としては、これらの交流を通じて、ロシア製兵器の運用方法や実戦経験を有するロシア軍の作戦教義などを学習することも見込んでいるものと考えられる。

こうした動向に加え、最近、中露関係の深化が窺われる動きも確認されている。19(令和元)年7月には「初の共同空中戦略巡航」と称して、中露両国は日本海で合流した爆撃機を東シナ海に向けて飛行させた。また、同年9月には、両国間で新たな軍事及び軍事技術協力に関する一連の文書への署名が行われている22

5 北朝鮮との関係

中国は、1961(昭和36)年の「中朝友好協力相互援助条約」のもとで北朝鮮との緊密な関係を維持してきた。北朝鮮が金正恩体制に移行してからは、中朝の主要指導者の相互往来の頻度が低下してきているとされていたが、習近平国家主席は19(令和元)年6月、中国国家主席として14年ぶりに北朝鮮を訪問し、同主席と金正恩委員長との間で5回目となる首脳会談を行っている。

中国は朝鮮半島問題に関して「3つの堅持」(①朝鮮半島の非核化実現、②朝鮮半島の平和と安定の維持、③対話と協議を通じた問題解決)と呼ばれる基本原則を掲げているとされ、非核化のみならず従来の安定維持や対話も同等に重要との立場を採っていると考えられる。こうした状況のもと、中国は北朝鮮に対する制裁を強化する累次の国連安保理決議に賛成してきた一方、19(令和元)年12月には、ロシアとともに国連安保理の制裁を一部解除する提案などを含む決議案を国連安保理で配布するなどの動きも見せている。

なお、国連安保理決議で禁止されている、洋上での船舶間の物資の積替え(いわゆる「瀬取り」)に関し、中国側は終始自身の国際義務を真剣に履行しているとしているが、中国籍船舶の関与が指摘されている。

6 その他の諸国との関係
(1)東南アジア諸国との関係

東南アジア諸国との関係では、引き続き首脳クラスなどの往来が活発である。また、ASEAN+1(中国)やASEAN+3(日本、中国及び韓国)、EAS(East Asia Summit)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)といった多国間枠組みにも中国は積極的に関与している。さらに、中国は「一帯一路」構想のもと、インフラ整備支援などを通じて各国との二国間関係の発展を図ってきている。

軍事面では、18(平成30)年10月に中国とASEANの実動演習「海上連演2018」が初めて実施されるなど、信頼醸成に向けた動きも見られる。また、最近、当事国は事実関係を否定しているものの、カンボジアにおいて中国軍が活動拠点の確保を試みる動きも報じられている。

フィリピンとの間においては16(平成28)年7月、南シナ海をめぐる中国との紛争に関し、国連海洋法条約(UNCLOS:United Nations Convention on the Law of the Sea)に基づく仲裁判断が下され、フィリピンの申立て内容がほぼ認められる結果となった。その後、中国からの巨額の経済支援・圧力などを背景に、フィリピンは仲裁判断への言及を控えているとされていたが、19(令和元)年9月にはフィリピン大統領府報道官が「仲裁判断は現在においても両国間の協議の議題である」旨述べている。また、19(平成31)年4月には、フィリピンは、同国が実効支配する南沙諸島ティトゥ島近くで大量の中国漁船が確認されたことについて、中国政府へ抗議声明を発表した23

ベトナムとの間では、17(平成29)年7月及び18(平成30)年3月、外国企業がベトナム政府の許可を得て南シナ海で実施していた石油掘削を、中国の圧力を受け、ベトナム政府が中止させたと報じられている。また、19(令和元)年7月以降は、ベトナムの排他的経済水域内における石油・天然ガス掘削活動をめぐり、中国及びベトナム双方の公船などが対峙する事態が見られたが、同年10月に採掘リグ(「HAKURYU-5」)が撤収した後、双方が対峙する事態は解消された。

インドネシアとの間では、従来からインドネシアの排他的経済水域内における中国漁船の操業がたびたび問題となっており、インドネシア側は違法操業と判断される外国漁船を爆破処理するなど断固とした対応を行ってきた。最近では19(令和元)年12月から20(令和2)年1月にかけて、インドネシアのナツナ諸島周辺海域において中国漁船が違法操業したことに対し、インドネシア政府は強く抗議し、中国が主張する「九段線」を認めないと改めて表明した。

なお、中国とASEANは「南シナ海行動規範(COC:Code of Conduct of Parties in the South China Sea)」の策定に向けた協議を続けており、18(平成30)年11月、李総理が3年以内の交渉妥結を望む旨表明している。19(令和元)年7月、中国は、中国・ASEAN外相会議において、COCの「単一の交渉草案」の一読が完了したことを発表した。

(2)中央アジア諸国との関係

中国西部の新疆ウイグル自治区は、中央アジア地域と隣接していることから、中国にとって中央アジア諸国の政治的安定やイスラム過激派によるテロなどの治安情勢は大きな関心事項であり、国境管理の強化、SCOやアフガニスタン情勢安定化などへの関与はこのような関心の表れとみられる。また、資源の供給源や調達手段の多様化などを図るため、中央アジアに強い関心を有しており、中国・中央アジア間に石油や天然ガスのパイプラインを建設するなど、中央アジア諸国とエネルギー分野での協力を進めている。

(3)南アジア諸国との関係

中国は、パキスタンと従来から特に密接な関係を有し、首脳級の訪問が活発であるほか、共同訓練、武器輸出や武器技術移転を含む軍事分野での協力も進展しているとみられている。海上輸送路の重要性が増す中、パキスタンがインド洋に面しているという地政学上の特性もあり、中国にとってパキスタンの重要性は高まっていると考えられる。海軍種間の共同捜索・救難訓練や対テロ訓練をはじめ、各種の共同訓練が両国間で行われている。中国が建設を支援している中パ経済回廊は、グワダル港から新疆ウイグル自治区カシュガルまでの地域における電力施設や輸送インフラなどの開発計画として「一帯一路」構想の旗艦プロジェクトと位置づけられている。パキスタンの財務状況の悪化に伴い、同プロジェクトは遅れや撤回が見られるなど難しい局面に差し掛かっているとの指摘もあるが、同プロジェクトの進展は、パキスタンにおける中国の影響力をますます高めるものと考えられる。

中国は、インドとの間でカシミールやアルナーチャル・プラデシュなどの国境未画定地域を抱えている。また、ブータンとの間では、互いにドクラム高原の領有権を主張しており、同高原において、ブータンとインドが密接な関係にあることから、17(平成29)年6月から8月にかけて中印両軍が対峙する事案も発生した。一方、近年中国は、パキスタンとのバランスに配慮しつつも、インドとの関係改善にも努めているとされ、インドとの関係を戦略的パートナーシップの関係にあるとして積極的な首脳往来を行っている。また、18(平成30)年12月には、ドクラム対峙後中断されていた中印「携手」対テロ共同訓練が再開された。インドとの関係進展の背景には、中印両国における経済成長の重視や米印関係の強化の動きへの対応があるものと考えられる。

近年中国は、スリランカとの関係構築も進めている。15(平成27)年1月の選挙において勝利したシリセーナ大統領は、就任当初、中国資金によるコロンボ港湾都市事業を差し止めたが、16(平成28)年1月にはその再開を表明し、その後、中国との新規開発事業も進展をみせている。17(平成29)年7月には、中国の融資で建設されているハンバントタ港の中国企業への権益貸与が合意された。これらの動きに対しては、いわゆる「債務の罠」であるとの指摘もある。また、中国は、バングラデシュとの間でも、海軍基地のあるチッタゴンにおける港湾開発や、武器輸出などを通じて関係を深めている。

(4)欧州諸国との関係

近年、中国にとってEU(European Union)諸国は、特に経済面において重要なパートナーとなっている。

欧州諸国は、情報通信技術、航空機用エンジン・電子機器、潜水艦の大気非依存型推進システムなどにおいて中国やロシアよりも進んだ軍事技術を保有している。EU諸国は89(平成元)年の天安門事件以来、対中武器禁輸措置を継続してきているが、中国は同措置の解除を求めている24。仮にEUによる対中武器禁輸措置が解除された場合、優れた軍事技術が中国に移転されるのみならず、中国からさらに第三国などへ移転される可能性があるなど、インド太平洋地域をはじめとする地域の安全保障環境を大きく変化させる可能性がある。

また、中国は空母「遼寧」の元となった未完成のクズネツォフ級空母「ワリャーグ」をウクライナから購入しているように、武器調達の面でウクライナとの関係が深く、今後のウクライナとの関係も注目される。

近年の中国による台頭は、北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)においても注目されている。19(令和元)年12月のNATO首脳会議において採択された「ロンドン宣言」は、中国の台頭が「機会と挑戦の両方」をもたらすとし、同盟として対処する必要性に言及している。また、ストルテンベルグNATO事務総長は同首脳会議後、中国による多数の中距離ミサイル配備に触れた上で、将来の軍備管理に中国を含めることができるかの検討をしている旨述べている。

対中武器禁輸措置に関するEU内の議論や将来の軍備管理に関連するNATOの対中政策を含め、中国と欧州諸国との関係については、引き続き注目する必要がある。

(5)中東・アフリカ諸国、太平洋島嶼国及び中南米諸国との関係

中国は従来から、経済面において中東・アフリカ諸国との関係強化に努めており、近年では、軍事面における関係も強化している。首脳クラスのみならず軍高官の往来も活発であるほか、武器輸出や部隊間の交流なども積極的に行われている。また、中国はアフリカにおける国連PKOへ要員を積極的に派遣している。このような動きの背景には、資源の安定供給を確保するねらいのほか、将来的には海外拠点の確保も念頭においているとの見方がある。16(平成28)年12月にはサントメ・プリンシペが、18(平成30)年5月にはブルキナファソが、それぞれ台湾と断交し、中国と国交を回復した。

オーストラリアは中国に対し、経済面では関係重視を継続しつつも、情報通信分野を含む安全保障面では懸念を有しているとみられる。中国企業がオーストラリア北部準州政府との間でダーウィン港にかかるリース契約を締結したことは、安全保障上の議論を生起させている。また、中国は、太平洋島嶼国との関係も強化しており、積極的かつ継続的な経済援助を行っているほか、軍病院船を派遣して医療サービスの提供などを行っている。さらに、パプアニューギニアについては、資源開発などを進めているほか、軍事協力に関する協定を締結している。バヌアツやフィジー、トンガとの間でも、軍事的な関係強化の動きがみられる。このように中国が太平洋島嶼国との関係を強化しつつある中、オーストラリアなどの各国からは、中国によるこれらの動きに対する懸念の表明もみられる。19(令和元)年9月には、ソロモン諸島及びキリバスが台湾と断交し、中国と国交を樹立した。

中南米諸国との関係では、15(平成27)年以降は、中国とラテンアメリカカリブ諸国共同体(CELAC:Comunidad de Estados Latinoamericanos y Caribeños)の閣僚級会議を開催するなど、一層の関係強化に努めている。軍事面においては、軍高官による訪問や武器売却に加え、医療サービス、対テロなどの分野での関係強化がみられるほか、アルゼンチンにおいては宇宙観測施設を運用している。17(平成29)年6月にはパナマが、18(平成30)年5月にはドミニカ共和国が、同年8月にはエルサルバドルがそれぞれ台湾と断交し、中国と国交を樹立した。

7 武器の国際的な移転

中国は、13(平成25)年以降、武器輸出総額が輸入総額を上回っており、小型武器、戦車、無人機を含む航空機、艦船などの輸出を拡大している。具体的には、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマーが主要な輸出先とされているほか、アルジェリア、タンザニア、ナイジェリア、スーダンなどのアフリカ諸国や、ベネズエラなどの中南米諸国、イラン、サウジアラビアなどの中東諸国にも武器を輸出しているとされ、最近では欧州諸国の中では初めてセルビアが中国製UAVを導入する見込みである旨報じられている。中国による武器移転については、友好国との間での戦略的な関係の強化や影響力拡大による国際社会における発言力の拡大のほか、資源の獲得にも関係しているとの指摘がある。中国は、国際的な武器輸出管理の枠組みの一部には未参加であり、ミサイル関連技術などの中国からの拡散が指摘されるなどしている。

19 17(平成29)年12月のターンブル豪首相(当時)発言による。

20 米国「国家防衛戦略」(18(平成30)年1月)による。

21 SIPRI Arms Transfers Databaseによる。

22 19(令和元)年9月6日付のロシア軍機関紙「赤星」による。

23 19(平成31)年4月4日付のフィリピン外務省HPによる。

24 中国が18(平成30)年12月に発表した対EU政策文書による。