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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第2節 中国

➊ 全般

中国は長い国境線と海岸線に囲まれた広大な国土に世界最大の人口を擁し、国内に多くの異なる民族、宗教、言語を抱えている。固有の文化、文明を形成してきた中国特有の歴史に対する誇りと19世紀以降の半植民地化の経験は、中国国民の国力強化への強い願いとナショナリズムを生んでいる。

近年、経済分野をはじめ国際社会における中国の存在感は高まっている。安全保障分野においても積極的な姿勢をとっており、国連PKO、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処、各種人道支援・災害救援活動などに貢献している。中国には、国際社会における自らの責任を認識し、国際規範を共有・遵守するとともに、地域やグローバルな課題に対して、より協調的な形で積極的な役割を果たすことが引き続き強く期待されている。

中国国内には、人権問題を含む様々な問題が存在している。共産党幹部などの腐敗・汚職の蔓延や、都市部と農村部、沿岸部と内陸部の間の経済格差のほか、都市内部における格差、環境汚染などの問題も顕在化している。さらに、最近では経済の成長が鈍化傾向にあるほか、将来的には、人口構成の急速な高齢化に伴う年金などの社会保障制度の問題も予想されており、このような政権運営を不安定化させかねない要因は拡大・多様化の傾向にある。さらに、チベット自治区や新疆(しんきょう)ウイグル自治区などの少数民族に対する人権侵害に関する抗議活動や分離・独立を目的とした活動も行われている。新疆ウイグル自治区の人権状況については、国際社会からの関心が高まっている。また、19(平成31・令和元)年には、香港において犯罪者の中国本土などへの引渡しを可能とするための条例改正案などをめぐる大規模な抗議活動が発生しており、一連の抗議活動を念頭においた中央政府及び香港政府による治安維持のための施策に対する民衆の懸念もあいまって、事態の流動化傾向が収束する目処は立っていない。このような状況のもと、中国は社会の管理を強化しているが、インターネットをはじめとする情報通信分野の発展は、民衆の行動の統制を困難にする側面も指摘されている一方、近年急速に発達する情報通信分野の技術が社会の管理手段として利用される側面も指摘されている。14(平成26)年以降、対外的な脅威以外にも、文化や社会なども安全保障の領域に含めるという「総体的国家安全観」に基づき、中国は、国内防諜体制を強化するための「反スパイ法」(14年11月)、新たな「国家安全法」(15年7月)、国家統制の強化を図る「反テロリズム法」(16年1月)、海外NGOの取り締まりを強化する「域外NGO域内活動管理法」(17年1月)や「国家情報法」(17年6月)などを制定してきている。

「反腐敗」の動きは、習近平(しゅう・きんぺい)指導部発足以後、「虎もハエも叩く」という方針のもと大物幹部も下級官僚も対象に推進され、党・軍の最高指導部経験者も含め「腐敗」が厳しく摘発されている。習総書記が「腐敗は我々の党が直面する最大の脅威である」としていることからも、「反腐敗」の動きは今後も継続するとみられる。

こうした活動などを通じて、習総書記の中国共産党における権力基盤をより一層強固なものにする姿勢が近年強まっている。例えば、17(平成29)年10月に開催された中国共産党第19回全国代表大会(第19回党大会)において、習総書記の名前を冠した政治理念である「思想」を行動指針として党規約に盛り込むことが決定されたが、現役指導者の名を冠した行動指針が明記されたことは、毛沢東国家主席(当時)以来である。さらに、18(平成30)年3月に開催された第13期全国人民代表大会第1回会議においては、国家主席などの任期撤廃を含む憲法改正案が採択され、習氏の国家主席としての権力もより強化されているものと考えられる。

中国建国70周年祝賀軍事パレードで閲兵する習近平主席(19(令和元)年10月)【EPA=時事】

中国建国70周年祝賀軍事パレードで閲兵する習近平主席(19(令和元)年10月)
【EPA=時事】