自衛隊は、自然災害をはじめとする災害の発生時には、地方公共団体などと連携・協力し、被災者や遭難した船舶・航空機の捜索・救助、水防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送などの様々な活動を行っている。
新防衛大綱における、防衛力の果たすべき役割のうち、「④大規模災害等への対応」の考え方は、次のとおりである。
大規模災害などの発生に際しては、所要の部隊を迅速に輸送・展開し、初動対応に万全を期すとともに、必要に応じ、対処態勢を長期間にわたり持続する。また、被災住民や被災した地方公共団体のニーズに丁寧に対応するとともに、関係機関、地方公共団体、民間部門と適切に連携・協力し、人命救助、応急復旧、生活支援などを行う。
また、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うための初動対処態勢を整えており、この部隊を「FAST-Force(ファスト・フォース)」と呼んでいる。
参照図表III-1-2-15(大規模災害などに備えた待機態勢(基準))、
II部5章2節4項(災害派遣など)
ア 自然災害などへの対応
(ア)平成30年7月豪雨にかかる災害派遣
18(平成30)年7月、東日本から西日本の広い範囲で記録的な大雨により、各地で河川の氾濫、大規模な浸水、土砂災害が多数発生した。このため、自衛隊は、京都府、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、高知県、愛媛県及び福岡県の各府県知事からの災害派遣要請を受け、最大74か所の地方公共団体に連絡員約300名を派遣して緊密な連携を図りながら、人命救助、孤立者救助、給水支援、入浴支援、給食支援、物資輸送、水防活動、道路啓開、がれき処理などを実施した。また、支援の一環として、防衛省が契約する民間船舶「はくおう」を活用し、広島県及び岡山県において入浴支援などを実施した。さらに、即応予備自衛官の招集を行い、最大で311名の即応予備自衛官が支援活動に従事した。本派遣の規模は、人員最大約3万3,100名、艦船最大28隻(民間船舶「はくおう」1隻を含む)、航空機最大38機、人命救助・孤立者救助者数2,284名、給水量約1万8,973t、入浴支援者数9万4,119名、給食支援約2万590食に上った。
平成30年7月豪雨において、人命救助活動を行う陸自隊員(18(平成30)年7月)
(イ)平成30年北海道胆振東部地震にかかる災害派遣
18(平成30)年9月、北海道胆振地方中東部を震源とする地震(マグニチュード6.7)が発生し、北海道安平町、厚真町、むかわ町などで、土砂崩れや大規模な停電などが発生した。このため、自衛隊は、北海道知事からの災害派遣要請を受け、最大29か所の地方公共団体に連絡員を派遣して緊密な連携を図りながら、人命救助、道路啓開、給水支援、入浴支援、給食支援を行うとともに、停電復旧のための機材輸送を含む物資輸送や、降雨や土砂などによる厚真ダム崩壊防止のため、水位計の設置や流木などの除去などを実施した。また、防衛省が契約する民間船舶「はくおう」を活用し、北海道苫小牧市において入浴支援などを実施した。さらに、即応予備自衛官の招集を行い、最大で251名の即応予備自衛官が支援活動に従事した。本派遣の規模は、人員最大約2万5,100名、艦船最大9隻(民間船舶「はくおう」1隻を含む)、航空機最大46機、人命救助・孤立者救助者数46名、給水量約1,186t、入浴支援者数2万4,091名、給食支援16万6,963食に上った。
平成30年北海道胆振東部地震において、行方不明者の捜索にあたる
空自隊員及び空自警備犬(18(平成30)年9月)
また、本災害派遣において、初めて災害用ドローンを運用し、人員の進入困難な箇所・方向から、災害派遣部隊が人命救助活動などに資する情報を迅速に収集するために活用した。
さらに、多くの病院が大規模停電などにより機能発揮ができない中、災害に強い病院を企図して建て替えを行った自衛隊札幌病院(平成27年開院)は、発災直後より被災者などに対する診療を実施した。
(ウ)給水支援にかかる災害派遣
18(平成30)年10月、山口県周防大島町において、大島大橋に外国船が接触し、送水管が脱落したため断水が発生した。このため、自衛隊は、山口県知事からの災害派遣要請を受け、浄水・給水支援を実施した。本派遣の規模は、人員延べ約500名、車両延べ約170両、造水量約94t、給水量約490tに上った。
(エ)豚コレラにかかる災害派遣
18(平成30)年12月から19(令和元)年6月末までの間に豚コレラの発生が確認された岐阜県、愛知県及び長野県において、速やかに豚の殺処分などの防疫措置を行う必要が生じたため、自衛隊は、各県知事からの災害派遣要請を受け、豚の殺処分などの支援を実施した。これらに対する派遣の規模は、人員延べ約8,000名、車両延べ約1,200両に上った。
(オ)山林火災にかかる災害派遣
18(平成30)年7月から19(令和元)年6月末までに発生した山林火災のうち、長野県、群馬県、埼玉県、和歌山県、栃木県、広島県、静岡県、福島県、青森県、山形県、北海道、東京都、高知県において、自治体により消火活動を実施するも鎮火に至らなかった。このため自衛隊は、各都県知事からの災害派遣要請を受け、空中消火活動などを実施した。本派遣の規模は合計21件で、人員延べ約9,400名、車両延べ約700両、航空機延べ230機、散水量約4,300t、散水回数1,000回に上った。
参照図表III-1-2-16(災害派遣の実績(平成30年度))、
資料21(災害派遣の実績(過去5年間))
イ 救急患者の輸送など
自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送(急患輸送)している。平成30(2018)年度の災害派遣総数443件のうち、334件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)、長崎県の離島などへの派遣が大半を占めている。
また、他機関の航空機では航続距離が短いなどの理由で対応できない、本土から遠く離れた海域で航行している船舶からの急患輸送や、火災、浸水、転覆など緊急を要する船舶での災害の場合については、海上保安庁からの要請に基づき海難救助を実施しているほか、状況に応じ、機動衛生ユニットを用いて重症患者を空自C-130H輸送機にて搬送する広域医療搬送も行っている。
本土から遠く離れた海域で、急患の発生した船舶の近傍に着水し
急患輸送を行う海自US-2(18(平成30)年10月)
さらに、平成30(2018)年度には、49件の消火支援を実施しており、そのうち、37件が自衛隊の施設近傍の火災への対応であった。
ウ 原子力災害への対応
防衛省・自衛隊では、原子力災害に対処するため、「自衛隊原子力災害対処計画」を策定している。また、国、地方公共団体、原子力事業者が合同で実施する原子力総合防災訓練に参加し、地方公共団体の避難計画の実効性の確認や原子力災害緊急事態における関係機関との連携強化を図っている。さらに、14(平成26)年10月以降、内閣府(原子力防災担当)に自衛官(19(平成31)年4月1日現在5人)を出向させ、原子力災害対処能力の実効性の向上に努めている。
エ 各種対処計画の策定
防衛省・自衛隊は、各種の災害に際し十分な規模の部隊を迅速に輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、統合運用を基本としつつ、要員のローテーション態勢を整備することで、長期間にわたる対処態勢の持続を可能とする態勢を整備している。その際、東日本大震災などの教訓を十分に踏まえることとしている。
また、防衛省・自衛隊は、中央防災会議で検討されている大規模地震に対応するため、防衛省防災業務計画に基づき、各種の大規模地震対処計画を策定している。
オ 自衛隊が実施・参加する訓練
自衛隊は、大規模災害など各種の災害に迅速かつ的確に対応するため、各種の防災訓練を実施しているほか、国や地方公共団体などが行う防災訓練にも積極的に参加し、各省庁や地方公共団体などの関係機関との連携強化を図っている。
(ア) 自衛隊統合防災演習(JXR:Joint Exercise for Rescue)
18(平成30)年6月には、首都直下地震を想定して一部実動訓練を含む総合的な防災訓練を、また、19(令和元)年5月には、東京オリンピック・パラリンピック開催中に首都直下地震が発生した場合における自衛隊の指揮幕僚活動並びに関係機関、米軍などとの連携に関する防災訓練を行い、災害対処能力の維持・向上を図った。
(イ) 日米共同統合防災訓練(TREX:Tomodachi Rescue Exercise)
18(平成30)年10月、南海トラフ地震発生時における在日米軍との共同対処を実動により実施し、自衛隊と在日米軍との連携による震災対処能力の維持・向上や関係地方公共団体などとの連携の強化を図った。
(ウ) 離島統合防災訓練(RIDEX:Remote Island Disaster Relief Exercise)
18(平成30)年9月、沖縄県が計画する沖縄県総合防災訓練に参加して、離島における突発的な大規模災害への対処について実動により訓練し、自衛隊の離島災害対処能力の維持・向上や関係地方公共団体などとの連携の強化を図った。
離島統合防災訓練(RIDEX)における海自輸送艦「おおすみ」への空自
CH-47JによるDMAT(災害派遣医療チーム)の輸送(18(平成30)年9月)
(エ) その他
18(平成30)年11月には、陸自東北方面隊が三陸沖地震等発生時における災害対処を実動により訓練する「みちのくALERT2018」を実施し、自治体、関係省庁などとの連携による東北地区の災害対処能力の向上を図った。
さらに、防衛省災害対策本部運営訓練の実施や、「防災の日」総合防災訓練などへも参加している51。
カ 地方公共団体などとの連携
災害派遣活動を円滑に行うためには、平素から地方公共団体などと連携を強化することが重要である。このため、①自衛隊地方協力本部に国民保護・災害対策連絡担当官(事務官)を設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)及び事務官による相互交流(陸自中部方面隊と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。19(平成31)年3月末現在、全国46都道府県・348市区町村に495人の退職自衛官が、地方公共団体の防災担当部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化するうえで極めて効果的であり、東日本大震災などにおいてその有効性が確認された。特に、陸自各方面隊は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報共有・意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。
また、災害の発生に際しては、各種調整を円滑にするため、部隊などから地方公共団体に対し、迅速かつ効果的な連絡員の派遣を行っている52。
参照資料61(退職自衛官の地方公共団体防災関係部局における在職状況)
キ 防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策に基づく措置
18(平成30)年12月、防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策53が閣議決定された。本対策において、防衛省としては、防災のための重要インフラ等の機能維持の観点から、自衛隊施設のブロック塀等に対する緊急対策、自衛隊施設に関する緊急対策及び自衛隊の防災関係資機材等に関する緊急対策について、集中的に取り組んでいる。
参照図表III-1-2-17(防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策一覧【防衛省】)
防衛大臣は、外国での災害、騒乱、その他の緊急事態に際し、外務大臣から在外邦人等の警護、救出など、又は輸送の依頼があった場合、外務大臣と協議をしたうえで、自衛隊法第84条の3(在外邦人等の保護措置)又は同法第84条の4(在外邦人等の輸送)に基づき、当該在外邦人等の保護措置又は輸送を行うことができる。
在外邦人等の保護措置又は輸送を迅速かつ適確に実施するため、自衛隊は、部隊を速やかに派遣する態勢をとっている。具体的には、陸自ではヘリコプター部隊と誘導輸送隊の要員を、海自では輸送艦などの艦艇(搭載航空機を含む)を、空自では輸送機部隊と派遣要員をそれぞれ指定するなどの待機態勢を維持している。
また、これらの行動においては、陸・海・空自の緊密な連携が必要となるため、平素から統合訓練などを行っている。18(平成30)年9月には、ジブチにおいて国外展開及び活動能力の向上並びに米軍との連携強化などを目的とした在外邦人等保護措置訓練を実施した。同年12月には、国内において在外邦人等の保護措置における一連の行動及び関係機関との連携要領を訓練し、統合運用能力の向上及び関係機関との連携強化を図った。さらに、毎年タイで行われている多国間共同訓練「コブラ・ゴールド」の機会を活用し、19(平成31)年1月から2月には、外務省や在タイ日本国大使館などの協力のもと、在留邦人などの参加も得つつ、在外邦人等の保護措置における一連の活動を訓練し、防衛省・自衛隊と外務省との連携を強化した。
「コブラ・ゴールド」における在外邦人等の保護措置訓練において空自C-130Hに移動する在外邦人を警護する陸自隊員(19(平成31年2月)
防衛省・自衛隊は、これまで、次の4件の在外邦人等の輸送を実施している。04(平成16)年4月のイラクにおける邦人を含む外国人拘束事件に際し、空自C-130H輸送機により、邦人10名をイラクからクウェートまで輸送した。13(平成25)年1月のアルジェリアにおける邦人拘束事件において、政府専用機により、邦人7名及び被害邦人の御遺体(9人)を本邦に輸送した。16(平成28)年7月のバングラデシュにおけるダッカ襲撃テロ事件において、政府専用機により、被害邦人の御遺体(7人)と御家族などを本邦に輸送した。同年7月の南スーダンにおける情勢悪化に際しては、空自C-130H輸送機により、大使館職員4名をジュバからジブチまで輸送した。
51 記載のほか、平成30(2018)年度の訓練の実施及び参加として、①政府図上訓練、②原子力総合防災訓練、③大規模津波防災総合訓練、④大規模地震時医療活動訓練、⑤九都県市合同防災訓練(連携)、⑥近畿府県合同防災訓練(連携)、⑦地方公共団体などにおける総合防災訓練への参加がある。
52 「平成30年7月豪雨に係る初動対応検証レポート」(平成30年11月)を踏まえ、防衛省・自衛隊としては、大規模な災害が発生した際には、地方公共団体が混乱している場合もあることを前提に、より多くの被災者を救助・支援するため、自治体からの要請を待つだけではなく、自衛隊の具体的な活動内容を示す「提案型」の支援を積極的に行っていく考えである。
53 平成30年7月豪雨、平成30年台風第21号、平成30年北海道胆振東部地震をはじめとする近年の自然災害により、ブラックアウトの発生、空港ターミナルの閉鎖など、国民の生活・経済に欠かせない重要なインフラがその機能を喪失し、国民の生活や経済活動に大きな影響を及ぼす事態が発生したことなどを踏まえ、防災のための重要インフラ等の機能維持及び国民経済・生活を支える重要インフラなどの機能維持の観点から、各府省庁が3年間で集中的に実施すべきハード・ソフト対策について定めている。