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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

2 島嶼(とうしょ)部を含むわが国に対する攻撃への対応

新防衛大綱における、防衛力の果たすべき役割のうち、「②島嶼部を含むわが国に対する攻撃への対応」の考え方は、次のとおりである。

島嶼部を含むわが国への攻撃に対しては、必要な部隊を迅速に機動・展開させ、海上優勢17、航空優勢18を確保しつつ、侵攻部隊の接近・上陸を阻止する。海上優勢、航空優勢の確保が困難な状況になった場合でも、侵攻部隊の脅威圏の外から、その接近・上陸を阻止する。万が一占拠された場合には、あらゆる措置を講じて奪回する。

また、ミサイル、航空機などの経空攻撃に対しては、最適の手段により機動的かつ持続的に対応するとともに、被害を局限し、自衛隊の各種能力及び能力発揮の基盤を維持する。

ゲリラ・特殊部隊による攻撃に対しては、原子力発電所などの重要施設の防護並びに侵入した部隊の捜索及び撃破を行う。

さらに、こうした攻撃への対応に際しては、宇宙・サイバー・電磁波の領域における能力を有機的に融合した領域横断作戦を実施し、攻撃を阻止・排除する。

この際、国民の生命、身体、財産を守る観点から、国民保護のための措置を実施する。

以下において、この役割に基づく取組について説明する。

1 島嶼(とうしょ)部に対する攻撃への対応
(1)基本的考え方

わが国は多くの島嶼を有するが、これに対する攻撃に対応するためには、安全保障環境に即した部隊などの配置とともに、平素から状況に応じた機動・展開を行うことが必要である。また、自衛隊による常時継続的な情報収集、警戒監視などにより、兆候を早期に察知し、海上優勢・航空優勢を確保することが重要である。

事前に兆候を得たならば、侵攻が予想される地域に、敵に先んじて部隊を機動・展開し、侵攻部隊の接近・上陸を阻止する。また、海上優勢、航空優勢の確保が困難な状況になった場合でも、侵攻部隊の脅威圏の外から、その接近・上陸を阻止する。

万が一占拠された場合には、航空機や艦艇による対地射撃により敵を制圧した後、陸自部隊を着上陸させるなど、あらゆる措置を講じて奪回する。

参照図表III-1-2-6(島嶼防衛のイメージ図)

図表III-1-2-6 島嶼防衛のイメージ図

(2)防衛省・自衛隊の取組

南西地域の防衛態勢強化のため、空自は、16(平成28)年1月の第9航空団の新編に加え、17(平成29)年7月、南西航空方面隊を新編した。陸自は、16(平成28)年3月の与那国沿岸監視隊などの新編に加え、18(平成30)年3月、本格的な水陸両用作戦機能を備えた水陸機動団を新編した。さらに、19(平成31)年3月、奄美大島に警備部隊などを、宮古島には警備部隊を配置した。今後は、石垣島にも初動を担任する警備部隊などを配置する。

岩屋防衛大臣から隊旗を授与される陸自宮古警備隊長(19(平成31)年4月)

岩屋防衛大臣から隊旗を授与される陸自宮古警備隊長
(19(平成31)年4月)

常続監視態勢の強化のため、新型護衛艦(FFM)やE-2D早期警戒機の整備などを行っている。新中期防19においては、新たな固定式警戒管制レーダーの開発や見通し外レーダー機能の強化のほか、空自に1個警戒航空団及び無人機部隊1個飛行隊を新編することとしている。

さらに、自衛隊員の安全を確保しつつ、わが国への侵攻を試みる艦艇などを効果的に阻止するため、相手方の脅威圏の外から対処可能なスタンド・オフ・ミサイルの整備を行うとともに、島嶼防衛に万全を期すため、平成30(2018)年度から島嶼防衛用新対艦誘導弾及び島嶼防衛用高速滑空弾の要素技術の研究に着手している。新中期防においては、極超音速誘導弾の研究開発も行うこととしており、令和元(2019)年度予算に必要な経費を計上した。

部隊の迅速かつ大規模な輸送・展開能力を確保するため、「おおすみ」型輸送艦の改修、V-22オスプレイ及びC-2輸送機などの導入による機動・展開能力の向上を図っている。特にV-22オスプレイの運用については、防衛省はその配備先として、水陸機動団及び統合運用における関連部隊の位置関係や滑走路長、目達原駐屯地の移設先としても活用し得ることなどから、佐賀空港が最適の飛行場と判断しており、18(平成30)年8月、佐賀県知事から受入の表明を頂いたところである。引き続き、佐賀空港配備について、関係地方公共団体などの協力が得られるよう、取組を推進する20。なお、佐賀空港配備には一定期間を要する見込みのため、19(令和元)年5月、木更津市などに対し、木更津駐屯地へのV-22オスプレイの暫定配備を行いたいとの考えを説明した。

さらに、新中期防においては、島嶼部への輸送機能強化のため、中型級船舶(LSV)及び小型級船舶(LCU)の導入、共同の部隊としての海上輸送部隊1個群の新編及び今後の水陸両用作戦などの円滑な実施に必要な新たな艦艇のあり方についての検討などを行うこととしている。

このほか、水陸両用作戦に関する能力向上のため、各種訓練にも取り組んでいる。18(平成30)年6月から8月には、米国における多国間共同訓練「リムパック2018」、同年10月には、統合水陸両用作戦訓練、19(平成31)年1月から2月には、米国における米海兵隊との実動訓練「アイアン・フィスト19」により、能力の向上を図った。

「アイアン・フィスト19」において、着上陸訓練を実施する水陸両用車(19(平成31)年1~2月)

「アイアン・フィスト19」において、着上陸訓練を実施する水陸両用車
(19(平成31)年1~2月)

新中期防においては、1個水陸機動連隊の新編などにより強化された水陸機動団が、艦艇と連携した活動や各種訓練・演習といった平素からの常時継続的な機動を行うこととしている。

参照図表III-1-2-7(南西諸島における主要部隊配備状況(イメージ))

図表III-1-2-7 南西諸島における主要部隊配備状況(イメージ)

2 ミサイル攻撃などへの対応
(1)わが国の総合ミサイル防空能力

ア 基本的考え方

わが国は、弾道ミサイル攻撃などへの対応に万全を期すため、平成16(2004)年度から弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)システムの整備を開始した。05(平成17)年7月には、自衛隊法の改正を行い、同年12月の安全保障会議(当時)及び閣議において、弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発に着手することを決定した。これまでに、イージス艦への弾道ミサイル対処能力の付与やペトリオット(PAC-3:Patriot Advanced Capability-3)21の配備など、弾道ミサイル攻撃に対するわが国独自の体制整備を着実に進めている。

わが国の弾道ミサイル防衛は、イージス艦による上層での迎撃とペトリオットPAC-3による下層での迎撃を、自動警戒管制システム(JADGE:Japan Aerospace Defense Ground Environment)22により連携させて効果的に行う多層防衛を基本としている。今後の陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)の導入により、イージス艦に加え、イージス・アショアも含めた上層での迎撃が可能となる。

現在、多弾頭・機動弾頭を搭載する弾道ミサイル、高速化・長射程化した巡航ミサイル、ステルス化・マルチロール化した航空機など、わが国に向けて飛来する経空脅威は、複雑化・多様化の一途をたどっている。これらの経空脅威に対し、最適な手段による効果的・効率的な対処を行い、被害を局限するためには、ミサイル防衛にかかる各種装備品に加え、従来、各自衛隊で個別に運用してきた防空のための各種装備品も併せ、一体的に運用する体制を確立し、平素から常時持続的にわが国全土を防護するとともに、多数の複合的な経空脅威についても同時対処できる総合ミサイル防空能力を強化していく必要がある。この際、各自衛隊が保有する迎撃手段について、整備・補給体系も含めて共通化、合理化を図っていく。

わが国に武力攻撃として弾道ミサイルなどが飛来する場合には、武力攻撃事態における防衛出動により対処する一方、武力攻撃事態が認定されていないときには、弾道ミサイル等に対する破壊措置により対処することとなる。

弾道ミサイルなどへの対処にあたっては、空自航空総隊司令官を指揮官とする「BMD統合任務部隊」を組織し、JADGEなどを通じた一元的な指揮のもと、効果的に対処するための各種態勢をとる。また、弾道ミサイルの落下などによる被害には、陸自が中心となって対処する。

参照図表III-1-2-8(総合ミサイル防空のイメージ図)、
図表III-1-2-9(BMD整備構想・運用構想(イメージ図))、
II部5章2節3項4(弾道ミサイル等に対する破壊措置)
資料18(わが国のBMD整備への取組の変遷)

図表III-1-2-8 総合ミサイル防空のイメージ図

図表III-1-2-9 BMD整備構想・運用構想(イメージ図)

イ 防衛省・自衛隊の対応

北朝鮮は、16(平成28)年以降、3回の核実験を強行するとともに、40発もの弾道ミサイルの発射を繰り返した。北朝鮮のこうした軍事的な動きは、わが国の安全に対する、重大かつ差し迫った脅威となっている。北朝鮮は、18(平成30)年6月の米朝首脳会談において、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を表明し、核実験場の爆破を公開するなどの動きは見せたものの、19(平成31)年2月の第2回米朝首脳会談は、いかなる合意にも達することなく終了しており、全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルの、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄は行っていない。北朝鮮が、累次の核実験及び弾道ミサイル発射などを通じて、核兵器の小型化・弾頭化を実現しているとみられること、わが国全域を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有・実戦配備していること、さらに、飽和攻撃に必要な運用能力の向上や、奇襲的な攻撃能力の向上を図ってきた状況を踏まえれば、北朝鮮の核・ミサイル能力に本質的な変化は生じていない。

防衛省・自衛隊としては、引き続き、北朝鮮が大量破壊兵器・ミサイルの廃棄に向けて具体的にどのような行動をとるのかをしっかり見極めていくとともに、米国などと緊密に連携しつつ、必要な情報の収集・分析及び警戒監視などを実施している。

また、BMDシステムを効率的・効果的に運用するためには、在日米軍をはじめとする米国との協力が必要不可欠である。このため、これまでの日米安全保障協議委員会(「2+2」)において、BMD運用情報及び関連情報の常時リアルタイムでの共有をはじめとする関連措置や協力の拡大について決定してきた。

さらに、わが国は従来から、弾道ミサイルの対処にあたり、早期警戒情報(SEW:Shared Early Warning)23を米軍から受領するとともに、米軍がわが国に配備しているBMD用移動式レーダー(TPY-2レーダー)やイージス艦などを用いて収集した情報について情報共有を行うなど、緊密に協力している。

訓練などを通じた日米対処能力の維持・向上、検証なども積極的に行っており、平成22(2010)年度以降、海自は、日米の艦艇などをネットワークで連接し、弾道ミサイル対処のシミュレーションを行うBMD特別訓練を行ってきた。18(平成30)年には空自が、19(平成31)年には陸自も本訓練に参加し、日米共同統合防空・ミサイル防衛訓練として行い、戦術技量の向上と連携の強化を図っている。

日米のみならず、日米韓の連携も強化していくことが重要であり、17(平成29)年1月、3月、10月及び同年12月には、わが国周辺海域において日米韓三か国による弾道ミサイル情報共有訓練を実施し、連携強化を図った。

米国をはじめとする関係各国との弾道ミサイルなどに関する機微な情報の共有については、特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)が14(平成26)年12月に施行され、わが国の安全保障に関する秘匿性の高い情報を保護するための基盤が確立されたことで、一層促進されている。また、16(平成28)年11月、日韓秘密軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)24が発効したことから、北朝鮮の核・ミサイルに関する情報を含め、各種事態への実効的かつ効果的な対処に必要となる様々な秘密情報に関し、日韓政府間で共有したものが保護される枠組みが整備された。しかしながら、19(令和元)年8月、韓国政府から、日韓GSOMIAを終了させる旨の書面による通告がなされた。防衛省・自衛隊としては、今後も、わが国の防衛にいささかの遺漏もないよう、情報収集・警戒監視には、引き続き万全を期していく。

なお、平素より、自衛隊は弾道ミサイル対処能力の向上を図るため各種訓練を実施しており、弾道ミサイル対処能力の向上と国民の安全・安心感の醸成を図るため、17(平成29)年6月よりPAC-3機動展開訓練を実施している。19(令和元)年6月末までに、在日米軍施設に展開したものを含め22回の訓練を実施した。

参照I部2章3節1項(北朝鮮)3章1節2項4(韓国)資料18(わが国のBMD整備への取組の変遷)

ウ BMD体制の強化のための取組

現状においては、わが国全域を防護するためのイージス艦及び拠点防護のため全国各地に分散して配備されているPAC-3を、状況に応じて機動・展開して対応している。こうした対応を前提として、BMD対応型イージス艦の増勢に取り組んできたところであり、現在6隻ある海自のイージス艦のうち、BMD能力を有しなかったイージス艦「あたご」及び「あしがら」にBMD能力を付与する事業を実施し、18(平成30)年12月までに2隻の改修を完了した。また、平成27年度及び平成28年度予算でBMD能力を有するイージス艦2隻を追加取得することとした。これらの措置により、令和2(2020)年度には、BMDに対応可能なイージス艦が現行の6隻から8隻に増加する予定である。

また、より高性能化・多様化する将来の弾道ミサイルの脅威に対処するため、イージス艦に搭載するSM-3ブロックIAの後継となるBMD用能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックIIA)を日米共同で開発し、配備に向け事業を推進している。16(平成28)年12月の国家安全保障会議(九大臣会合)において、共同生産・配備段階への移行が決定され、17(平成29)年度以降、SM-3ブロックIIAの取得を継続している。なお、SM-3ブロックIIAの取得・配備は令和3(2021)年度を計画している。SM-3ブロックIIAは、これまでのSM-3ブロックIAと比較して、迎撃可能高度や防護範囲が拡大するとともに、撃破能力が向上し、さらに同時対処能力についても向上すると考えている。また、「おとり」などの迎撃回避手段を備えた弾道ミサイルや通常の軌道よりも高い軌道(ロフテッド軌道25)をとることにより迎撃を回避することを意図して発射された弾道ミサイルなどに対しても、迎撃能力が向上すると考えている。

弾道ミサイル対処能力を付加するための改修を行い、SM-3 BLKIBによる発射試験を行うイージス護衛艦「あたご」(18(平成30)年9月)

弾道ミサイル対処能力を付加するための改修を行い、SM-3 BLKIBによる発射試験を行うイージス護衛艦「あたご」(18(平成30)年9月)

ペトリオットPAC-3についても、能力向上型であるPAC-3MSE(Missile Segment Enhancement)の取得のための経費を、平成28年度及び平成29年度補正予算に計上した。PAC-3MSEの導入により、迎撃高度は十数キロから数十キロへと延伸することとなり、現在のPAC-3と比べ、おおむね2倍以上に防護範囲(面積)が拡大する。

このように、防護体制を強化させるための所要の措置を講じているところであり、引き続き、そのような取組を進めていく予定である26

エ イージス・アショアの導入

これまでのわが国の弾道ミサイル防衛は、ミサイル発射の兆候を早期に察知して、イージス艦などを展開させ、必要な期間、迎撃態勢をとることを基本とし、イージス艦8隻体制であれば、2隻程度は、一定の期間にわたって継続して洋上でBMD任務を行い、わが国全域の防護が可能であると考えてきた。

一方、北朝鮮は、移動式発射台(TEL)による実践的な発射能力を向上させ、また、潜水艦発射型(SLBM)を開発するなど、発射兆候を早期に把握することが困難になってきている。このような状況の変化なども踏まえれば、今後は、24時間・365日の常時継続的な態勢を、1年以上の長期にわたって維持することが必要であり、これまでのわが国の弾道ミサイル防衛のあり方そのものを見直す必要がある。

また、現状のイージス艦の体制において、長期間の洋上勤務が繰り返される乗組員の勤務環境は、いつ発射されるかわからない弾道ミサイルへの対処のため、日夜、高い集中力が求められるなど、極めて厳しいものとなっている。

こうした現状も踏まえ、北朝鮮の核・ミサイル開発が、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている中、平素からわが国を常時・持続的に防護できるよう弾道ミサイル防衛能力の抜本的な向上を図る必要があることから、17(平成29)年12月の国家安全保障会議及び閣議において、イージス・アショア2基を導入し、これを陸自において保持することが決定された。イージス・アショアは、イージス艦と同様に、レーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル垂直発射装置(VLS)などで構成されるミサイル防衛システム(イージス・システム)を、陸上に配備した装備品であり、大気圏外の宇宙空間を飛翔する弾道ミサイルを地上から迎撃するものである。いわば、イージス艦の船体以外の部分を、そのまま陸上に固定的に置いたような装備品である。イージス・アショア2基の導入により、わが国全域を24時間・365日、長期にわたり切れ目なく防護することが可能となり、隊員の負担も大きく軽減される。また、イージス艦8隻体制の下で、2隻程度が洋上においてBMD対応で展開するために、ほぼBMD任務に専従するかたちで運用せざるを得なかったが、そのイージス艦を海洋の安全確保任務に充てることや、そのための練度を維持するための訓練、乗組員の交代を十分に行うことが可能となり、わが国の対処力・抑止力を一層強化することにつながることになる。また、今回、イージス・アショアに搭載するレーダーは、LMSSR(Lockheed Martin Solid State Radar)という最新鋭で高性能のものとなっており、海自のイージス艦に比べ、ロフテッド軌道への対応能力や同時多数攻撃への対処能力など、わが国の弾道ミサイル防衛能力は飛躍的に向上することになる。

イージス・アショア2基の配備候補地として、秋田県の陸自新屋演習場及び山口県の陸自むつみ演習場を選定して以降、地元自治体・住民の皆様に対する説明会を繰り返し実施し、配備の必要性や各種調査などについて説明してきたところ、その説明資料の誤りや住民説明会における職員の緊張感を欠いた行為など、極めて不適切な対応があった。防衛省としては今回の件を真摯に反省している。今後そのようなことのないよう、省内の体制を抜本的に強化するため、19(令和元)年6月に防衛副大臣を本部長とする「イージス・アショア整備推進本部」を設置した。

防衛省としては、イージス・アショアについては、住民の皆様の生活に影響がないよう配備・運用することが大前提であると考えており、今後とも、住民の皆様から頂戴する配備の必要性や安全性などに関する様々な疑問や不安について、一つ一つ具体的に分かりやすく説明することに、誠心誠意、努めてまいりたいと考えている。

(2)米国のミサイル防衛と日米BMD技術協力

ア 米国のミサイル防衛

米国は、弾道ミサイルの飛翔経路上の①ブースト段階、②ミッドコース段階、③ターミナル段階の各段階に適した防衛システムを組み合わせ、相互に補って対応する多層防衛システムを構築している。日米両国は、弾道ミサイル防衛に関して緊密な連携を図ってきており、米国保有のミサイル防衛システムの一部が、わが国に段階的に配備されている27

イ 日米BMD技術協力など

平成11(1999)年度から、海上配備型上層システムの日米共同技術研究に着手した結果、当初の技術的課題を解決する見通しを得たことから、05(平成17)年12月の安全保障会議(当時)及び閣議において、この成果を技術的基盤として活用し、BMD用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発28に着手することを決定した。この共同開発は、防護範囲を拡大し、より高性能化・多様化する将来脅威に対処することを目的として06(平成18)年6月から開始されている。

17(平成29)年2月及び6月、日米両国は、米国ハワイ沖においてSM-3ブロックIIAの海上発射試験を実施するとともに、試験データの解析などを行い、要求性能を満たしていることなどを確認した。現在、米国は開発作業の一環として、イージス・システムとSM-3ブロックIIAやレーダー間のデータ連接の確認を実施しており、わが国としても引き続き必要に応じて協力することとしている。

3 ゲリラや特殊部隊による攻撃などへの対応

高度に都市化・市街化が進んでいるわが国においては、少数の人員による潜入、攻撃であっても、平和と安全に対する重大な脅威となり得る。こうした事案には、潜入した武装工作員29などによる不法行為や、わが国に対する武力攻撃の一形態であるゲリラや特殊部隊による破壊工作など、様々な態様がある。

(1)基本的考え方

侵入者の実態や生起している事案の状況が不明な段階においては、第一義的には警察機関が対処を実施し、防衛省・自衛隊は情報収集、自衛隊施設の警備強化を実施する。状況が明確化し、一般の警察力で対処が可能な場合、必要に応じ警察官の輸送、各種機材の警察への提供などの支援を行い、一般の警察力で対処が不可能な場合は、治安出動により対処する。さらに、わが国に対する武力攻撃と認められる場合には防衛出動により対処する。

(2)ゲリラや特殊部隊による攻撃への対処

ゲリラや特殊部隊による攻撃の態様としては、民間の重要インフラ施設などの破壊や人員に対する襲撃、要人暗殺などがあげられる。

ゲリラや特殊部隊による攻撃への対処にあたっては、速やかに情報収集態勢を確立し、沿岸部での警戒監視、重要施設の防護並びに侵入したゲリラや特殊部隊の捜索及び撃破を重視して対応する。警戒監視による早期発見や兆候の察知に努め、必要に応じ、原子力発電所などの重要施設の防護のために部隊を配置し、早期に防護態勢を確立する。そのうえで、ゲリラや特殊部隊が領土内に潜入した場合、偵察部隊や航空部隊などにより捜索・発見し、速やかに戦闘部隊を展開させたうえで、これを包囲し、捕獲又は撃破する。

なお、新中期防においては、効果的かつ効率的に対処する能力を向上させるため、引き続き、警戒監視態勢の向上、原子力発電所などの重要施設の防護及び侵入部隊の捜索・撃破のための取組を行っていくこととしている。

参照図表III-1-2-10(ゲリラや特殊部隊による攻撃に対処するための作戦の一例)

図表III-1-2-10 ゲリラや特殊部隊による攻撃に対処するための作戦の一例

(3)武装工作員などへの対処

ア 基本的考え方

武装工作員などによる不法行為には、警察機関が第一義的に対処するが、自衛隊は、生起した事案の様相に応じて対応する。その際、警察機関との連携が重要であり、治安出動に関しては自衛隊と警察との連携要領についての基本協定30や陸自の師団などと全都道府県警察との間での現地協定などを締結している31

参照II部5章2節3項1(治安出動)

イ 防衛省・自衛隊の取組

陸自は各都道府県警察との間で、全国各地で共同実動訓練を継続して行っており、12(平成24)年以降は各地の原子力発電所の敷地においても実施32するなど、連携の強化を図っている。さらに、海自と海上保安庁との間でも、継続して不審船対処にかかる共同訓練を実施している。

治安出動下令下における共同要領について訓練を実施する山形県警の警察官と陸自隊員(18(平成30)年2月)

治安出動下令下における共同要領について訓練を実施する
山形県警の警察官と陸自隊員(18(平成30)年2月)

(4)核・生物・化学兵器への対処

近年、大量無差別の殺傷や広範囲な地域の汚染が生じる核・生物・化学(NBC:Nuclear, Biological and Chemical)兵器とその運搬手段及び関連資器材が、テロリストや拡散懸念国などに拡散する危険性が強く認識されている。1995(平成7)年3月の東京での地下鉄サリン事件33などは、こうした兵器が使用された例である。

ア 基本的考え方

わが国でNBC兵器が使用され、これが武力攻撃に該当する場合、防衛出動によりその排除や被災者の救援などを行う。また、武力攻撃に該当しないが一般の警察力で治安を維持することができない場合、治安出動により関係機関と連携して武装勢力などの鎮圧や被災者の救援を行う。さらに、防衛出動や治安出動に該当しない場合であっても、災害派遣や国民保護等派遣により、陸自の化学科部隊や各自衛隊の衛生部隊を中心に被害状況に関する情報収集、除染活動、傷病者の搬送、医療活動などを関係機関と連携して行う。

イ 防衛省・自衛隊の取組

防衛省・自衛隊は、NBC兵器による攻撃への対処能力を向上するため、陸自の中央特殊武器防護隊、対特殊武器衛生隊などを保持しているほか、化学及び衛生科部隊の人的充実を行っている。さらに、特殊な災害に備えて初動対処要員を指定し、約1時間で出動できる態勢を維持している。

海自及び空自においても、艦船や基地などにおける防護器材の整備を行っている。

4 侵略事態への備え

新防衛大綱は、主に冷戦期に想定されていた大規模な陸上兵力を動員した着上陸侵攻のような侵略事態への備えについては、必要な範囲に限り保持することとしている。

わが国に対する武力攻撃があった場合、自衛隊は防衛出動により対処する。その際の対応としては、①防空のための作戦、②周辺海域の防衛のための作戦、③陸上の防衛のための作戦、④海上交通の安全確保のための作戦などに区分される。なお、これらの作戦の遂行に際し、米軍は「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)にあるとおり、自衛隊が行う作戦を支援するとともに、打撃力の使用を伴うような作戦を含め、自衛隊の能力を補完するための作戦を行う。

(1)防空のための作戦

周囲を海に囲まれたわが国の地理的な特性や現代戦の様相34から、わが国に対する本格的な侵攻が行われる場合には、まず航空機やミサイルによる急襲的な航空攻撃が行われ、また、こうした航空攻撃は幾度となく反復されると考えられる。防空のための作戦35においては、敵の航空攻撃に即応して国土からできる限り遠方の空域で迎え撃ち、敵に航空優勢を獲得させず、国民と国土の被害を防ぐとともに、敵に大きな損害を与え、敵の航空攻撃の継続を困難にするよう努める。

(2)周辺海域の防衛のための作戦

島国であるわが国に対する武力攻撃が行われる場合には、航空攻撃に加えて、艦船などによるわが国船舶への攻撃やわが国領土への攻撃などが考えられる。また、大規模な陸上部隊をわが国領土に上陸させるため、輸送艦などの活動も予想される。周辺海域の防衛のための作戦は、洋上における対処、沿岸海域における対処、主要な海峡における対処及び周辺海域の防空からなる。これら各種作戦の成果を積み重ねて敵の侵攻を阻止し、その戦力を撃破、消耗させることにより周辺海域を防衛する。

(3)陸上の防衛のための作戦

わが国を占領するには、侵攻国は海上・航空優勢を得て、海から地上部隊を上陸、空から空挺部隊などを降着陸させることとなる。

侵攻する地上部隊や空挺部隊は、艦船や航空機で移動している間や着上陸前後は、組織的な戦闘力の発揮が困難という弱点があり、この弱点を捉え、できる限り沿岸海域と海岸地域の間や着陸地点において、早期に撃破することが必要である。

(4)海上交通の安全確保のための作戦

わが国は、資源や食料の多くを海外に依存しており、海上交通路はわが国の生存と繁栄の基盤を確保するための生命線である。また、わが国に対する武力攻撃などがあった場合、海上交通路は、継戦能力の維持やわが国防衛のため米軍が来援する際の基盤となる。

海上交通の安全確保のための作戦では、対水上戦、対潜戦、対空戦、対機雷戦などの各種作戦を組み合わせて、哨戒36、船舶の護衛、海峡・港湾の防備を実施するほか、航路帯37を設定してわが国の船舶などを直接護衛する。なお、海上交通路でのわが国の船舶などに対する防空(対空戦)は護衛艦が行い、状況により戦闘機などの支援を受ける。

5 国民保護に関する取組
(1)国民の保護に関する基本指針及び防衛省・自衛隊の役割

05(平成17)年3月、政府は、国民保護法第32条に基づき、国民の保護に関する基本指針(「基本指針」)を策定した。この基本指針においては、武力攻撃事態の想定を、①着上陸侵攻、②ゲリラや特殊部隊による攻撃、③弾道ミサイル攻撃、④航空攻撃の4つの類型に整理し、その類型に応じた国民保護措置の実施にあたっての留意事項を定めている。

防衛省・自衛隊は、国民保護法及び基本指針に基づき、防衛省・防衛装備庁国民保護計画を策定している。この中で自衛隊は、武力攻撃事態においては、主たる任務である武力攻撃の排除を全力で実施するとともに、国民保護措置については、これに支障のない範囲で住民の避難・救難の支援や武力攻撃災害への対処を可能な限り実施するとしている。

愛知県における国民保護訓練において、関係機関と共同して搬送を行う陸自隊員(19(平成31)年1月)

愛知県における国民保護訓練において、
関係機関と共同して搬送を行う陸自隊員(19(平成31)年1月)

参照II部5章2節1項4(国民保護)

(2)国民保護措置を円滑に行うための防衛省・自衛隊の取組

ア 国民保護訓練

国民保護措置の的確かつ迅速な実施のためには、関係省庁や地方公共団体などとの連携要領について、平素から訓練を実施しておくことが重要であり、防衛省・自衛隊は、関係省庁の協力のもと、地方公共団体などの参加も得て訓練を主催しているほか、関係省庁や地方公共団体が実施する国民保護訓練に積極的に参加・協力している。

例えば、19(平成31)年1月には、愛知県豊田市において、国(内閣官房及び消防庁)や地方公共団体(愛知県及び豊田市)の主催により、国際スポーツイベント開催時の事案発生を想定した国民保護訓練が行われ、陸海空自衛隊、自衛隊愛知地方協力本部も訓練に参加した。

参照資料19(国民保護にかかる国と地方公共団体との共同訓練への防衛省・自衛隊の参加状況(平成30年度))

イ 地方公共団体などとの平素からの連携

防衛省・自衛隊では、陸自方面総監部や自衛隊地方協力本部などに連絡調整を担当する部署を設置し、地方公共団体などと平素から緊密な連携を確保している。

また、国民保護措置に関する施策を総合的に推進するため、都道府県や市町村に国民保護協議会が設置されており、各自衛隊に所属する者や地方防衛局に所属する職員が委員に任命されている。

さらに、地方公共団体は、退職自衛官を危機管理監などとして採用し、防衛省・自衛隊との連携や対処計画・訓練の企画・実施などに活用している。

17 海域において相手の海上戦力より優勢であり、相手方から大きな損害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態

18 わが航空部隊が敵から大なる妨害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態

19 II部4章1節脚注2参照

20 佐賀空港の西側に駐機場や格納庫などを整備し、目達原駐屯地から移駐する約50機のヘリコプターと新規に取得する17機のオスプレイとあわせて約70機の航空機を配備することを想定している。

21 ペトリオットPAC-3は、経空脅威に対処するための防空システムの一つであり、主として航空機などを迎撃目標としていた従来型のPAC-2と異なり、主として弾道ミサイルを迎撃目標とするシステム

22 自動警戒管制システムは、全国各地のレーダーが捉えた航空機などの情報を一元的に処理し、対領空侵犯措置や防空戦闘に必要な指示を戦闘機などに提供するほか、弾道ミサイル対処においてペトリオットやレーダーなどを統制し、指揮統制及び通信機能の中核となるシステム

23 わが国の方向へ発射される弾道ミサイルなどに関する発射地域、発射時刻、落下予想地域、落下予想時刻などのデータを、発射直後、短時間のうちに米軍が解析して自衛隊に伝達する情報(1996(平成8)年4月から受領開始)

24 正式名称は、「秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定」であり、16(平成28)年11月23日、韓国・ソウルにおいて、長嶺駐韓大使と韓民求(ハン・ミング)韓国国防部長官(当時)との間で署名された。

25 ミニマムエナジー軌道(効率的に飛翔し、射程を最も大きくする軌道)より高い軌道を取ることにより、最大射程よりも短い射程となるが、落下速度が速くなる軌道

26 令和元年度予算においては、「あたご」型イージス艦について、SM-3ブロックIIAを発射可能とするための能力向上改修などに必要な経費を新たに計上した。

27 具体的には、06(平成18)年、米軍車力通信所にTPY-2レーダー(いわゆる「Xバンド・レーダー」)が、同年10月には沖縄県にペトリオットPAC-3が、07(平成19)年10月には青森県に統合戦術地上ステーション(JTAGS)が配備された。また、14(平成26)年12月には、米軍経ヶ岬通信所に2基目のTPY-2レーダーが配備された。さらに、15(平成27)年10月、16(平成28)年3月及び18(平成30)年5月には、米軍BMD能力搭載イージス艦が横須賀海軍施設(神奈川県横須賀市)に配備された。

28 これらの日米共同開発に関しては、わが国から米国に対して、BMDにかかわる武器を輸出する必要性が生じる。これについて、04(平成16)年12月の内閣官房長官談話において、BMDシステムに関する案件は、厳格な管理を行う前提で武器輸出三原則等によらないとされた。このような経緯を踏まえ、SM-3ブロックIIAの第三国移転は、一定の条件のもと、事前同意を付与できるとわが国として判断し、11(平成23)年6月の日米安全保障協議委員会(「2+2」)の共同発表においてその旨を発表した。なお、14(平成26)年4月、防衛装備移転三原則(移転三原則)が閣議決定されたが、同決定以前の例外化措置については、引き続き移転三原則のもとで海外移転を認め得るものと整理されている。

29 殺傷力の強力な武器を保持し、わが国において破壊活動などの不法行為を行う者

30 防衛庁(当時)と国家公安委員会との間で締結された「治安出動の際における治安の維持に関する協定」(1954(昭和29)年に締結。00(平成12)年に全部改正)

31 04(平成16)年には、治安出動の際における武装工作員等事案への共同対処のための指針を警察庁と共同で作成している。

32 12(平成24)年には伊方発電所(愛媛県)、13(平成25)年には泊発電所(北海道)、美浜発電所(福井県)、14(平成26)年には島根原子力発電所(島根県)、15(平成27)年には東通原子力発電所(青森県)、柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)、16(平成28)年には高浜発電所(福井県)、17(平成29)年には浜岡原子力発電所(静岡県)、志賀原子力発電所(石川県)、19(平成31)年には玄海原子力発電所(佐賀県)の敷地においても訓練を実施している。

33 通勤客で混雑する地下鉄車内にオウム真理教信者が猛毒のサリンを散布し、死者12名(オウム真理教教祖麻原彰晃こと松本智津夫に対する判決で示された死者数)などを出した事件。自衛隊は、車内、駅構内の除染、警察の鑑識支援を行った。

34 現代戦においては、航空作戦は戦いの勝敗を左右する重要な要素となっており、陸上・海上作戦に先行又は並行して航空優勢を獲得することが必要である。

35 防空のための作戦は、初動対応の適否が作戦全般に及ぼす影響が大きいなどの特性を有する。このため、平素から即応態勢を保持し、継続的な情報の入手に努めるとともに、作戦の当初から戦闘力を迅速かつ総合的に発揮することなどが必要である。

36 敵の奇襲を防ぐ、情報を収集するなどの目的をもって、ある特定地域を計画的に見回ること

37 船舶を通航させるために設けられる比較的安全な海域。航路帯の海域、幅などは脅威の様相に応じて変化する。