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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

防衛白書トップ > 第II部 わが国の安全保障・防衛政策 > 第5章 平和安全法制などの整備と施行後の自衛隊の活動状況など > 第2節 平和安全法制施行後の自衛隊の行動などに関する枠組み > 1 武力攻撃事態等及び存立危機事態における対応

第2節 平和安全法制施行後の自衛隊の行動などに関する枠組み

本節では、平和安全法制の整備によって新たに可能となった事項を含め、各種事態などにおける政府としての対応に関する枠組や主な自衛隊の行動などの全体像について概説する1

参照資料15(自衛隊の主な行動)
資料16(自衛官又は自衛隊の部隊に認められた武力行使及び武器使用に関する規定)

1 武力攻撃事態等及び存立危機事態における対応

事態対処法2は、武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態(「武力攻撃事態等」)並びに存立危機事態への対処に関する基本理念、基本的な方針(対処基本方針)として定めるべき事項、国・地方公共団体の責務などについて規定している。

KEY WORD武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態とは

・「武力攻撃事態」とは
 わが国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は当該武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態
・「武力攻撃予測事態」とは
 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態
(両者を合わせて「武力攻撃事態等」と呼称)

KEY WORD存立危機事態とは

わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

同法は、これまで武力攻撃事態等への対処について定めたものであったが、わが国を取り巻く安全保障環境の変化に伴い、他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様などによってはわが国の存立を脅かすことも起こり得ることから、先般の法改正により、わが国が対処すべき事態として新たに「存立危機事態」を追加した。これに伴い、当該事態への対処をわが国の防衛のためのやむを得ない自衛の措置として自衛隊の主たる任務に位置付けるなどの自衛隊法の改正も行った。

1 武力攻撃事態等及び存立危機事態
(1)対処基本方針など

政府は、武力攻撃事態等又は存立危機事態に至ったときは、次の事項を定めた対処基本方針を閣議決定し、国会の承認を求める。また、対処基本方針が定められたときは、臨時に内閣に事態対策本部を設置して、対処措置の実施を推進する。

ア 対処すべき事態に関する次に掲げる事項

  1. ① 事態の経緯、武力攻撃事態等又は存立危機事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実
  2. ② 事態が武力攻撃事態又は存立危機事態であると認定する場合には、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するため、武力の行使が必要であると認められる理由

イ 当該武力攻撃事態等又は存立危機事態への対処に関する全般的な方針

ウ 対処措置に関する重要事項

参照図表II-5-2-1(武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処のための手続)

図表II-5-2-1 武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処のための手続

(2)国会承認

武力攻撃事態又は存立危機事態に際して、その対処のために自衛隊に防衛出動を命ずる場合には、原則として事前の国会承認が必要となる。

(3)対処措置

対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間に、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関は、武力攻撃事態等又は存立危機事態への対処に当たり、法律の規定に基づき所要の措置を行う。措置の内容については、参照のとおりである。

参照図表II-5-2-2(指定行政機関などが実施する措置)

図表II-5-2-2 指定行政機関などが実施する措置

(4)国、地方公共団体などの責務

事態対処法に定める国、地方公共団体などの責務は、参照のとおりである。

参照図表II-5-2-3(国、地方公共団体などの責務)

図表II-5-2-3 国、地方公共団体などの責務

(5)内閣総理大臣の対処措置における権限

対処基本方針が定められたときは、内閣に、内閣総理大臣を事態対策本部長、国務大臣を事態対策副本部長及び事態対策本部員とする事態対策本部が設置される。

内閣総理大臣は、国民の生命、身体若しくは財産の保護、又は武力攻撃の排除に支障があり、特に必要があると認める場合であって、総合調整に基づく所要の対処措置が行われないときは、関係する地方公共団体の長などに対し、その対処措置を行うべきことを指示することができる。

また、内閣総理大臣は、指示に基づく所要の対処措置が行われないときや、国民の生命、身体、財産の保護や武力攻撃の排除に支障があり、事態に照らし緊急を要する場合は、関係する地方公共団体の長などに通知したうえで、自ら又はその対処措置にかかわる事務を所掌する大臣を指揮し、その地方公共団体又は指定公共機関が行うべき対処措置を行い、又は行わせることができる。

(6)国連安全保障理事会への報告

政府は、国連憲章第51条などに従って、武力攻撃の排除に当たりわが国が講じた措置について、直ちに国連安保理に報告する。

(7)関連法制の改正

ア 米軍等行動関連措置法3

改正前の米軍行動関連措置法は、武力攻撃事態等において、日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な米軍の行動が円滑かつ効果的に実施されるための措置などについて規定していた。先般の法改正では、武力攻撃事態等に対処する米軍に加えて、当該事態における米軍以外の外国軍隊や、存立危機事態における米軍その他の外国軍隊に対する支援活動を追加した。

イ 海上輸送規制法4

海上輸送規制法は、武力攻撃事態に際して、わが国に対して武力攻撃を行っている外国の軍隊等へ向けた武器、弾薬、兵員などの海上輸送を規制するため、海自が実施する停船検査、回航措置の手続などについて規定していた。先般の法改正では、存立危機事態においても海上輸送規制を可能とする規定を追加するとともに、海上輸送規制の実施海域については、わが国領海又はわが国周辺の公海とされていたものをわが国領海、外国の領海(当該外国の同意がある場合に限る。)又は公海とした。

ウ 捕虜取扱い法5

捕虜取扱い法は、捕虜等の取扱いにかかる国際人道法の的確な実施を確保するため、武力攻撃事態における捕虜等の拘束、抑留その他の取扱いに必要な事項を定めていたが、先般の法改正では、存立危機事態も同法の適用対象に追加した。

エ 特定公共施設利用法6

特定公共施設利用法は、自衛隊の行動や米軍の行動、国民の保護のための措置などを的確かつ迅速に行うため、武力攻撃事態等における特定公共施設等(港湾施設、飛行場施設、道路、海域、空域及び電波)の利用に関し、その総合的な調整が図られるための措置などについて規定している。先般の法改正では、武力攻撃事態等における米軍以外の外国軍隊の行動についても特定公共施設等の利用調整の対象に追加した。

2 武力攻撃事態等及び存立危機事態以外の緊急事態

事態対処法において、政府は、わが国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、武力攻撃事態等及び存立危機事態以外の緊急事態7においても、的確かつ迅速に対処する旨規定している。

3 自衛隊による対処
(1)自衛隊の任務としての位置付け

これまで自衛隊の主たる任務は、「直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛すること」であったが、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする存立危機事態における自衛隊の行動についても、わが国の防衛を目的とするものであることから、先般の法改正において、存立危機事態への対処を自衛隊の主たる任務として位置付けることとした。

(2)防衛出動

これまで防衛出動の対象となる事態は武力攻撃事態であったが、先般の法改正により、存立危機事態を防衛出動の対象となる事態として追加した。これにより、内閣総理大臣は、武力攻撃事態及び存立危機事態に際して、わが国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部に出動を命ずることができることとなった。防衛出動の下令に際しては、これまでと同様、原則として国会の事前承認を得なければならない。防衛出動を命じられた自衛隊は、「新三要件」を満たす場合に限り武力の行使8ができる。

(3)その他

防衛出動の際の自衛隊の行動に必要な各種の権限や特例措置などを定める規定のうち、専らわが国に対する直接攻撃や物理的被害を念頭に置いたものは、存立危機事態では適用しない9こととした。

4 国民保護
(1)国民保護法の概要及び国民保護等派遣

国民保護法10には、武力攻撃事態等及び緊急対処事態において、国民の生命、身体及び財産を保護し、国民生活などに及ぼす影響を最小にするための、国・地方公共団体などの責務、避難、救援、武力攻撃災害への対処などの措置を規定している。

防衛大臣は、都道府県知事からの要請を受け、事態やむを得ないと認める場合、又は事態対策本部長11から求めがある場合は、内閣総理大臣の承認を得て、部隊などに国民保護等派遣を命令し、国民保護措置又は緊急対処保護措置(住民の避難支援、避難住民などの救援、応急の復旧など)を実施させることができる。

参照図表II-5-2-4(国民保護等派遣のしくみ)、
III部1章2節2項5(国民保護に関する取組)

図表II-5-2-4 国民保護等派遣のしくみ

(2)存立危機事態と国民保護措置の関係

国民保護法は、わが国への直接攻撃や物理的な被害から、いかにして国民やその生活を守るかという視点に立って、そのために必要となる警報の発令、住民の避難や救援などの措置を定めるものである。存立危機事態であって警報の発令、住民の避難や救援が必要な状況とは、まさにわが国に対する武力攻撃が予測又は切迫している事態と評価される状況にほかならず、この場合は、あわせて武力攻撃事態等と認定して、国民保護法に基づく措置を実施することとなる12

1 武器の使用に際して人への危害が許容される要件については、本節にて解説されているもののほか、資料16を参照

2 存立危機事態の追加に伴い、法律の名称を「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」から「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」に改正

3 存立危機事態の追加に伴い、法律の名称を「武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律」から「武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律」に改正

4 存立危機事態の追加に伴い、法律の名称を「武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律」から「武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律」に改正

5 存立危機事態の追加に伴い、法律の名称を「武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律」から「武力攻撃事態及び存立危機事態における捕虜等の取扱いに関する法律」に改正

6 正式な法律の名称は、「武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律」

7 緊急対処事態(武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生した事態、又は当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態で、国家として緊急に対処することが必要なもの)を含む、武力攻撃事態等及び存立危機事態以外の国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす事態

8 一般に、憲法第9条第1項の「武力の行使」とは、基本的には、わが国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為を指す。これに対し、自衛隊法などにおける「武器の使用」とは、直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械などをその物の本来の用法に従って用いることを指す。憲法第9条第1項の「武力の行使」は、「武器の使用」を含む実力の行使にかかる概念であるが、「武器の使用」が全て憲法第9条の禁ずる「武力の行使」に当たるとはいえない。なお、憲法上「武力の行使」が許容されるのは、新三要件(1章2節参照)が満たされる場合においてのみである。

9 存立危機事態で適用するものの一例は、特別の部隊の編成や予備自衛官・即応予備自衛官の防衛招集などである。適用しないものの一例、すなわち武力攻撃事態等においてのみ適用されるものの一例は、防御施設構築の措置や公共の秩序維持のための権限、緊急通行、物資の収用、業務従事命令などである。

10 正式な法律の名称は、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」

11 対策本部長は内閣総理大臣を充てることとされているが、両者は別人格として規定されている。

12 存立危機事態であって、武力攻撃事態等には該当しない場合においては、国民保護法は適用されないが、生活関連物資の安定的な供給など、現行の様々な法令に基づき、国民生活の安定などのための措置を実施し、国民生活の保護に万全の対応をとることとなる。