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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 電子戦に関する各国の取組

1 米国及び欧州

米国は、電磁波領域における優勢の獲得を積極的に達成するという構想の下、電子戦に関する訓練や装備品の充実を図るとともに、同盟国との連携を強化するとしている。主な電子戦部隊として海軍の電子戦機EA-18Gを主軸とする13の電子攻撃中隊を有するほか、海兵隊及び空軍も電子戦機を配備する飛行中隊を有している。また、陸軍は今後電子戦部隊を配備する計画がある。

米軍は2011年のリビアにおけるEA-18Gを活用した軍事作戦において、リビア政府軍の地上レーダーを妨害し、NATO軍航空機に対する攻撃を阻止したとの評価がある。

EA-18Gグラウラー【Jane's by IHS Markit】

EA-18Gグラウラー【Jane's by IHS Markit】

NATO加盟国の多くも、ロシア軍の電子戦装備を念頭に、厳しい電子戦環境下での使用を前提とする装備品を開発しているほか、電子戦を主眼においた訓練を行っているとされる1

2 中国

中国は、サイバー戦を含む電子的要素と物理的破壊などの非電子的要素を統合指揮のもとにおくという構想を掲げている2。そのうえで、複雑な電磁環境下において効果的に任務を遂行できるよう演習を実施しており、実戦的な能力を向上させている。なお、軍全体の作戦遂行能力の向上のために新設された「戦略支援部隊」が電子戦・サイバー・宇宙などの分野を担当するとみられる。

中国軍の電子戦部隊は、通信システム、レーダーシステム、GPS衛星システムに対する電子妨害作戦を演練しているとされる3。わが国周辺においては、TU-154情報収集機やY-8電子戦機などが南西諸島周辺や日本海上空を飛行したことが確認されている。また、J-15戦闘機やH-6爆撃機なども電子戦ポッドを搭載し、電子妨害の任務が可能と指摘されているほか、南沙諸島ミスチーフ礁に電波妨害装置を展開していると指摘されている4

3 ロシア

ロシアは、「連邦軍事ドクトリン」において、電子戦装備を現代の軍事紛争における重要な装備の一つと位置付けている。また、ロシア軍では電子戦を攻撃手段の一環と位置付けており、近年ではその実戦的な能力の向上が指摘されている5

ロシアの電子戦部隊は、陸軍を主力とし、軍全体で5個電子戦旅団が存在しているとされる6。ロシアは、ウクライナ東部において、多種類の電子戦装備を使用し、ウクライナ軍の指揮統制を遮断したほか、GPS波などを遮断しウクライナ軍の無人航空機の活動を妨害するなど、ウクライナ側の戦力発揮を妨害したとされる7。さらに、シリアにおいてクラスハ-4をはじめとする複数の電子戦装備を使用し、NATO軍の指揮統制、レーダーを妨害したとされる8。わが国周辺においては、電子偵察機などが日本海上空で長距離飛行したことが確認されている。

クラスハ-4【Jane's by IHS Markit】

クラスハ-4【Jane's by IHS Markit】

1 「Jane's International Defense Review」2018年4月号「All quiet on the eastern front:EW in Russia's new-generation warfare」による。

2 英国国際戦略研究所「ミリタリー・バランス2019」による。

3 米国防省「中国の軍事及び安全保障の発展に関する年次報告書」(2018)による。

4 18(平成30)年5月の戦略国際問題研究所「An Accounting of China's Deployments to the Spratly Islands」による。

5 エストニア国防省「Russia's Electronic Warfare Capabilities to 2025」による。

6 「Jane's International Defence Review」2018年4月号「All quiet on the eastern front:EW in Russia's new-generation warfare」による。

7 エストニア国防省「Russia's Electronic Warfare Capabilities to 2025」には、ロシアがウクライナで使用した電子戦装備として「RB-341V Leer-3」など10種類が掲載されている。

8 「Jane's International Defence Review」2018年4月号「All quiet on the eastern front:EW in Russia's new-generation warfare」による。