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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

6 対外関係

1 全般

ロシアは、国際関係の多極化、グローバルパワーのアジア太平洋地域へのシフトのほか、国際関係において力がますます重要になってきているとの認識のもと、国益を実現していくことを対外政策の基本方針としている32。また、外交は国家安全保障戦略に基づき、国益の擁護のため、オープンで合理的かつ実利的に行うこととしており、無駄な対立は避け、世界各地にパートナー国をできる限り多数獲得するなど、多角的な外交を目指している33

このため、ロシアは、独立国家共同体(CIS:Commonwealth of Independent States)諸国との間で経済的な連携の強化を図っている34。また、ロシアは、世界経済の牽引役と認識するアジア太平洋諸国とも関係を強化すべきとしており、昨今、中国とインドを関係強化を図るべき国として重視している。

一方、欧米諸国との間での協力関係の強化のための取組については、ウクライナ危機を受け、引き続き試練に直面しているが、シリア情勢をめぐっては、シリアの安定やISILをはじめとする国際テロ組織への対応の観点から、協力の可能性を模索している。

今後ロシアが各国との関係を進展させるため、経済面を中心とした実利重視の対外姿勢と、安全保障面を含む政治・外交的側面とのバランスをどのようにとるか注目される。

2 アジア諸国との関係

ロシアは、多方面にわたる対外政策の中で、アジア太平洋地域の意義が増大していると認識し、シベリア及び極東の社会・経済発展や安全保障の観点からも同地域における地位の強化が戦略的に重要としている35。また、戦略的安定性及び対等な戦略的パートナーシップの実現のため、特に、中国との包括的パートナーシップ関係及び戦略的協力関係をグローバルかつ地域的な安定性維持のための重要な要素とみなし発展させるとともに、インドとの優先的な戦略的パートナーシップ関係に重要な役割を付与することとしている36

中国との関係では、15(平成27)年にS-400地対空ミサイルやSu-35戦闘機といった新型装備の輸出契約を締結したほか、2012年以降、中露海軍共同演習「海上協力」を実施するなど、緊密な軍事協力を進めている。19(令和元)年7月には、ロシアのTu-95長距離爆撃機2機が中国のH-6爆撃機2機とともに、日本海から東シナ海にかけて飛行した。中露はともに、今回の共同飛行について、両国の年次軍事協力計画に基づく「初の中露共同哨戒飛行」としており37、中露の軍事協力が進展していることが窺われる。

インドとの関係では、18(平成30)年に地対空ミサイル・システム「S-400」やアドミラル・グリゴロヴィチ級フリゲートといった新型装備の対印供給契約を結んでおり、超音速巡航ミサイル「ブラモス」の共同開発を完了し、現在極超音速巡航ミサイル「ブラモスII」の共同開発が行われている38。また、03(平成15)年以降、陸軍及び海軍のほか、近年は空軍も加わる形で露印共同演習「インドラ」を行うなど、幅広い軍事協力を継続させている。

わが国との関係では、互恵的協力を発展させるとしており、近年、政治、経済、安全保障など、多方面において働きかけを強めている。

3 ウクライナをめぐる情勢

14(平成26)年以降、ウクライナはロシアとの対立が続く中、それまでの非同盟主義を転換させ、NATO加盟に向けた取り組みを進めており、18(平成30)年3月、ポロシェンコ大統領(当時)はウクライナがNATO加盟に向けた行動計画(MAP)39に参加する意向である旨改めて述べた。ウクライナ東部においては、ウクライナ軍と分離派勢力との間で散発的な戦闘が続いており、14年(平成26)年4月以降、死亡者が1万人を超えたとされる。ミンスク合意に定めれられた分離派支配地域における地方選挙の実施や自治権拡大などの政治プロセスも滞っており、クリミア「併合」や不安定化したウクライナ東部の状況は固定化の様相を呈している。

黒海とアゾフ海を結ぶ水路であるとともに、ロシアが本土とクリミア半島を陸路で結ぶための橋を開通させたケルチ海峡付近において、18(平成30)年11月、ロシア国境局警備艇がウクライナの海軍艦艇3隻を拿捕(だほ)する事件が発生し、これを受けてウクライナは戒厳令を発動した。ポロシェンコ大統領(当時)は、ロシアがクリミア、ウクライナ東部に続き、アゾフ海を手に入れようとしているなどと非難する一方、プーチン大統領はウクライナ大統領選挙直前に国民の支持を上げるための挑発だと反論するなど両国間の緊張が高まった。

4 シリアをめぐる情勢

15(平成27)年9月以降、ロシア軍は、シリア国内のタルトゥース海軍基地及びフメイミム航空基地を拠点として確保しつつ、戦闘爆撃機や長距離爆撃機による空爆のほか、カスピ海や地中海に展開した水上艦艇や潜水艦からの巡航ミサイル攻撃を実施している。16(平成28)年12月には、シリア全土でロシア及びトルコ主導によるアサド政権と反体制派との間の停戦合意が発効し、17(平成29)年1月以降、ロシアはISIL及び「ハヤート・タハリール・シャム」(HTS)(旧ヌスラ戦線)との闘いを継続しつつ、トルコ及びイランとともにシリア和平協議をカザフスタンのアスタナで開催するなど、将来的な政治的解決を見据えた取組もみせながら、中東での存在感を増してきている。

同年12月には、プーチン大統領がシリアの基地を訪問し、シリアにおけるテロとの戦いがおおむね解決されたこと、シリア内の2つの基地を今後も恒常的に運用していくこと、シリアのロシア軍部隊の大半をロシアへ再配置させることを決定したことなどを発表した40

18(同30)年9月、ロシアは地中海東部のシリア沖に北洋艦隊、バルト艦隊、黒海艦隊及びカスピ小艦隊の海軍艦艇26隻を集結させ、戦術爆撃機を含む航空機34隻も参加する大規模な合同演習を初めて実施するなど、シリアにおける海上戦力の増強や航空戦力との連携強化を図っている。

参照3章7節(国際テロリズム・地域紛争などの動向)

ロシアによる軍事介入の目的は、①ロシアと友好的なアサド政権の存続、②シリアにおけるロシア軍基地などの権益の防衛、③ISILをはじめとする国際テロ組織による脅威への対応及び④中東地域での影響力確保などが考えられ、これまでのところ、アサド政権による支配地域の回復とロシアの権益擁護に資してきているとみられる。また、巡航ミサイルや戦略爆撃機を用いたシリアでの作戦は、ロシアの長距離精密打撃能力を誇示する格好の場となった。ロシアの軍事介入がアサド政権の帰趨に重大な影響を与えていることや、ロシアとトルコやイランなど周辺国との連携拡大を考慮すると、今後のシリアの安定や、政治的解決プロセスにおけるロシアの影響力は無視できないものとなっている。

5 独立国家共同体との関係

ロシアは、CISとの二国間・多国間協力の発展を外交政策の最も重要な方向性の一つとしている。また、自国の死活的利益がCISの領内に集中しているとし、ウクライナ(クリミア)、モルドバ(トランスニストリア41)、アルメニア、タジキスタン及びキルギスのほか、09(平成21)年8月にCISを脱退したジョージア(南オセチア、アブハジア)42にロシア軍を駐留させ、14(平成26)年11月には、アブハジアと同盟及び戦略的パートナーシップに関する条約を、15(平成27)年には、南オセチアと同盟と統合に関する条約を締結するなど43、軍事的影響力の確保に努めている44

中央アジア・コーカサス地域においては、イスラム武装勢力の活動の活発化に伴い、テロ対策を中心とした軍事協力を進め、01(平成13)年5月、CISの集団安全保障条約機構(CSTO:Collective Security Treaty Organization)45の枠組みにおいて合同緊急展開部隊を創設した。また、09(平成21)年6月には、CISの合同緊急展開部隊の機能を強化した常設の合同作戦対応部隊を創設している46

かつて「ソ連崩壊は20世紀の最大の地政学的悲劇だった」とプーチン大統領は述べたが、CISやCSTOに加えて、15(平成27)年にはユーラシア経済同盟も創設されるなど、旧ソ連圏の結束・強化を図っている。

このほか、ロシア及び中央アジア各国は、アフガニスタンの治安悪化が中央アジア地域の不安定化を招くことを懸念して、同国の支援を行うとともに、国境の警備強化対策を検討している47

6 米国との関係

プーチン大統領は、米国との経済面での協力関係の強化を目指しつつ、一方で、ロシアが「米国によるロシアの戦略的利益侵害の試み」と認識するものについては、米国に対抗してきた。

ロシアは、米国が欧州やアジア太平洋地域を含む国内外にMDシステムを構築していることについて、地域・グローバルな安定性を損い、戦略的均衡を崩すものと反発してきており、MDシステムを確実に突破できるとする戦略的な新型兵器の開発などを進めている。

19(平成31)年1月に米国が発表したミサイル防衛見直し(MDR:Missile Defense Review)に関しては、先制的なミサイル防衛手段や宇宙配備型ミサイル防衛に対する懸念を示す一方、米露間の対話を再開する必要性を表明した。

ウクライナ情勢をめぐるロシアの動きを受けて、米国は14(平成26)年3月、ロシアとの軍事交流の中断を発表し48、ミサイル駆逐艦を黒海に派遣したほか、ウクライナ政府に対し非殺傷兵器などの提供を行った49

シリア情勢をめぐっては、17(平成29)年11月に発表された米露首脳の共同声明では、ISIL掃討に向けた米露の協力、国連主導による紛争の政治的解決、暫定的な安全地帯の重要性などを確認するなど、前向きな動きも一部で見られた。しかし、アサド政権が化学兵器を使用したとして、17(平成29)年4月に米国が、また、18(平成30)年4月にも米英仏がシリアへのミサイル攻撃を実施すると、米露は相互に非難し合うなど、対立が続いてきた。18(平成30)年7月に開催された米露首脳会談においては、悪化した米露関係の改善を図るとの認識の下、軍縮問題のほか、北朝鮮やシリアをはじめとする国際情勢について協議が行われた。米露両国は、19(令和元)年5月に行われた米露外相会談において軍備管理及び両国の広範な戦略的安全保障問題についてより集中的に議論する機会を設けることに関心を表明したほか、同年6月の米露首脳会談において、「21世紀の軍備管理のモデル」について協議を継続することで一致した。同年7月には次官級の米露戦略対話が実施されたが、具体的な成果は確認されていない。

参照3章7節(国際テロリズム・地域紛争などの動向)

7 欧州・NATOとの関係

NATOとの関係については、NATO・ロシア理事会(NRC:NATO-Russia Council)の枠組みを通じ、ロシアは、一定の意思決定に参加するなど、共通の関心分野において対等なパートナーとして行動してきたが、ウクライナ危機を受けて、NATOや欧州各国は、NRCの大使級会合を除き、軍事面を含むロシアとの実務協力を停止するとともに50、ウクライナ政府と連携しながら、ロシアに対し厳しい外交姿勢を継続している。

実務協力の停止以前の10(平成22)年11月、リスボンで開催されたNRC首脳会合は、ロシアとNATOは真の現代化された戦略的パートナーシップの構築に向けて協力を進めていくとし、両者の間で、ミサイル防衛(MD)、アフガニスタン、対テロ協力、海賊対策といった分野で対話や協力の模索が続けられてきた。しかし、MD協力については、11(平成23)年6月のNRC国防相会合における協議の中で、NATOとロシアがそれぞれ保有する独立した二つのシステムのもと、情報・データの交換のみを内容とするMD協力を主張するNATOと、ロシアとNATOによる統一的なシステムのもと、各国の担当空域を設定して一体的運用を行う「セクターMD」を目指すロシアの立場の違いが浮き彫りとなるなど、両者の協力には進展がみられなかった。

また、ロシアとNATOとの間では、欧州通常戦力(CFE:Conventional Armed Forces in Europe)適合条約をめぐる問題も未解決である51

さらに、ウクライナ危機により、冷戦後初めて、NATOの東部国境に脅威が存在する状況となり、東欧及びバルト諸国のNATO加盟国の一部が自国の安全に懸念を覚えていることもあり、NATOは、集団防衛の実効性の確保に向けた取組などを続けている52

ロシアはウクライナとの国境付近に2個師団、ベラルーシとの国境付近に1個師団を配置していることを明らかにしているほか、17(平成29)年9月に戦略指揮参謀部演習「ザーパド2017」を西部軍管区及びベラルーシで実施した53。同年10月、NATO側は同演習についてNATO・ロシア理事会でも取り上げ、ロシアの事前発表よりも、実際の参加兵士の人数が大きく上回り、また、実施領域が広かった点などを指摘したが、懸念されたロシアによる隣国への侵攻やベラルーシにおける部隊残置はみられなかった。

16(平成28)年11月に発表されたロシアの対外政策構想では、米国及びその同盟国による封じ込め政策が地域及びグローバルな安定性を損ねるものであり、ロシアはNATO拡大に対して否定的な見解を維持するとしている。ショイグ国防相は、18(平成30)年12月、NATOの新司令部設置によって米国から欧州、また、欧州域内からロシアとの国境付近への迅速な部隊展開が可能になるほか、NATO加盟国が国防費の対GDP比2%を達成しつつあるなど軍事力を強化していると言及したうえで、ロシア軍は近代的で機動力を持ち、かつ、コンパクトで実効力があり、現在及び将来の脅威に対抗する用意が整っている旨強調した。

8 武器輸出

ロシアは、軍事産業基盤の維持、経済的利益のほかに、外交政策への寄与といった観点から武器輸出を積極的に推進しているとみられ、輸出額も近年増加傾向にある54。また、07(平成19)年1月、武器輸出権限を国営企業「ロスオボロンエクスポルト」に独占的に付与し、引き続き、輸出体制の整備に努めている。さらにロシアは、軍事産業を国家の軍事組織の一部と位置づけ、スホーイ、ミグ、ツポレフといった航空機企業の統合を図るなど、その充実・発展に取り組んでいる。

ロシアは、インド、中国、アルジェリア、ASEAN諸国、ベネズエラなどに戦闘機や艦艇などを輸出している55。中国との間では、新型のSu-35戦闘機や地対空ミサイル・システム「S-400」を売却する契約を締結しており、Su-35戦闘機56については18(平成30)年までに契約分の全24機が納入され、S-400については同年に初回分の納入が行われたとされる。この取引が成立した背景として、中国は兵器の国産化を進めているものの、最先端の装備についてはロシアからの技術導入を引き続き必要としている一方、ロシアはウクライナ危機に起因する外交的孤立化の回避や、武器輸出による経済的利益の獲得を目指していたため、中露双方の利害が一致したとの指摘がなされている57。また、近年ロシアは、従来の武器輸出先に加え、トルコやサウジアラビア等の米国の同盟国や友好国に対しても積極的な売り込みを図っている。特にNATO加盟国のトルコへのS-400の輸出58をめぐっては米国の反発を招いている。

空母「アドミラル・クズネツォフ」

空母「アドミラル・クズネツォフ」

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

満載排水量:5万9,439トン

最大速力:30ノット(時速約56km)

搭載機:戦闘機・攻撃機最大20機

主要兵装:艦対艦ミサイル(最大射程550km)

〈概説〉

1990(平成2)年に就役し、ロシア海軍が現在保有する唯一の空母であり、艦載機はスキージャンプ方式により発艦。現在改修中とされ、21(令和3)年に復帰予定

KEY WORD第5世代戦闘機とは

戦闘機の世代区分に明確な基準はないが、「第5世代戦闘機」は、各種電子機器やステルスなどの最新の技術を結合させることにより、「第5世代」以前の戦闘機よりも高い能力を持つとされている。

32 「ロシア連邦対外政策構想」(16(平成28)年11月)

33 「ロシア連邦国家安全保障戦略」(15(平成27)年12月)で「ロシアは国益を擁護するためオープンで合理的かつ実利的な外交政策を実施、無駄な対立(新たな軍拡競争を含む。)を回避する。(中略)ロシア連邦の目標は世界の様々な地域において対等なパートナー国をできる限り多数獲得することである」と述べている。

34 11(平成23)年10月、CIS8か国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウクライナ、モルドバ及びアルメニア)がCIS自由貿易圏創設条約に調印した。

35 「ロシア連邦対外政策構想」(16(平成28)年11月発表)。このような方針のもと、ロシアは、各種のアジア太平洋地域の枠組みに参加しているほか、15(平成27)年以降、ロシア極東の経済発展の加速を促すとともに、太平洋地域の国際協力を拡大するための「東方経済フォーラム」をウラジオストクで開催している。このほかロシアはアジア太平洋経済協力(APEC)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)、上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization)、東アジア首脳会議(EAS:East Asia Summit)などの地域的な枠組みにも参加している。

36 「ロシア連邦国家安全保障戦略」(15(平成27)年12月)で「ロシア連邦は、中華人民共和国との包括的パートナーシップ関係及び戦略的協力関係をグローバルな及び地域的安定性を維持する重要な要素と見なし、それを発展させる。ロシア連邦は、インド共和国との優先的な戦略的パートナーシップに重要な役割を与える」と述べている。

37 ロシア側報道によれば、ロシア航空宇宙軍遠距離航空部隊のコブィラシ司令官が7月23日、同日の哨戒飛行についてブリーフィングを実施し、ロシア航空宇宙軍の戦略爆撃機Tu-95MS×2機及び中国の戦略爆撃機H-6×2機の航空団が日本海と東シナ海の公海上の事前に予定されていたルートを飛行した旨、またこの飛行が2019年のロシア軍国際軍事協力計画に従って遂行された旨述べた。

38 このほか、12(平成24)年にロシアからリース方式により導入したアクラ級攻撃型原子力潜水艦(1隻)に代わる次の原子力潜水艦のリースに向けて検討中との指摘もある。

39 NATO加盟に向けた行動計画(MAP)とは、加盟を希望する国に対して助言や支援を行うNATOのプログラム。ただし、同計画への参加は将来的なNATOへの加盟を前もって決定するものではない。

40 ロシアはシリアでの作戦開始以降、航空部隊を約3万4,000回出撃させ、装甲車両など8,000両、兵器・弾薬生産工場718箇所、戦闘員6万318人を破壊又は排除した旨、17(平成29)年12月のロシア国防省評議会拡大会合で発表している。18(平成30)年12月のロシア国防省評議会拡大会合では、フメイミム及びタルトゥースの基地の編成に含まれない装備は搬出され、人数を縮小したほか、航空部隊の飛行は主に偵察のために実施しているなどと発表している。

41 ドニエストル川の東岸地域のトランスニストリアでは、90(平成2)年、ロシア系住民がモルドバからの分離・独立を宣言したが、国際社会はこれを承認していない。ロシアによるクリミア「併合」を受けて14(平成26)年3月、トランスニストリア「議会」は、トランスニストリアの編入を認めるようロシアに要請した。また、プーチン大統領は同年3月、オバマ大統領(当時)との電話会談でトランスニストリアが封鎖状態にあると非難している。なお、トランスニストリアには約1,500人のロシア軍部隊が駐留している。

42 ジョージアは08(平成20)年8月のジョージア紛争を経て、09(平成21)年8月、CISから脱退したが、ロシアはジョージア領内の南オセチアとアブハジアの独立を一方的に承認したほか、これらの地域に引き続き軍を駐留させている。

43 14(平成26)年12月に改訂された「軍事ドクトリン」には、共通の防衛及び安全保障を目的とするアブハジア共和国及び南オセチア共和国との協力を促進すると記されている。

44 CIS諸国の中には、ベラルーシやカザフスタンなどロシアとの関係を重視する国がある一方、ロシアとの関係に距離を置こうとする動きもみられ、既にCISを脱退したジョージア、CIS脱退を表明しているウクライナのほか、アゼルバイジャン、モルドバなどの国々は、安全保障や経済面でロシアへの依存度低下を目指し、おおむね欧米志向の政策をとってきた。なお、12(平成24)年9月、キルギスとロシアは、17(平成29)年に期限を迎えるキルギス国内のロシア軍基地の使用期間を、さらに15年間延長することに合意している。12(平成24)年10月、タジキスタンとロシアは、タジキスタン国内の第201ロシア軍基地の使用期限を42(令和24)年まで延長することに合意した。13(平成25)年12月には、ベラルーシにロシア空軍のSu-27戦闘機が初めて配備された。

45 1992(平成4)年5月にウズベキスタンのタシケントにおいてアルメニア、カザフスタン、キルギスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの6か国首脳が集団安全保障条約(CST:Collective Security Treaty)に署名した。1993(平成5)年にはアゼルバイジャン、ジョージア、ベラルーシの3か国が加わり、同条約は94(平成6)年4月に発効した。しかし、1999(平成11)年にアゼルバイジャン、ジョージア、ウズベキスタンは同条約を更新することなく脱退した。02(平成14)年5月にCSTは集団安全保障条約機構に改編された。なお、06(平成18)年8月にウズベキスタンはCSTOに復帰したが、12(平成24)年6月にCSTOへの参加停止を通告、事実上、同機構を脱退した。

46 CSTOは、10(平成22)年6月のキルギス南部における民族衝突に際してキルギスからの平和維持の要請に十分に対応できなかったことを教訓として、危機対応の体制の効率化について議論している。また、11(平成23)年12月のCSTO首脳会議は、加盟国が自国に第三国の基地を設置する場合、全ての加盟国の了承を要するとして、外国軍隊の加盟国への駐留を牽制した。なお、CSTO共同演習「ヴザイモディストヴィエ(協同作戦)」が09(平成21)年以降、毎年実施されている。

47 18(平成30)年2月、ラヴロフ外相はアフガニスタン北部及び東部でISILのプレゼンスが深刻化しており、何千人もの戦闘員が活動していると述べたが、アフガニスタン保安部隊の訓練等の任務にあたっているNATO駐留部隊の米軍司令を官は、ロシアがタリバーンに対する軍事支援を正当化するためISILの脅威を誇張しているとの認識を示した。

48 14(平成26)年3月、米国防省のカービー報道官(当時)は、ロシアによるクリミア半島占拠を受け、ロシア軍との合同演習や当局者協議、軍艦の寄港など、一切の軍事交流を中断すると発表した。

49 米国はウクライナに、防弾チョッキ、ヘルメット、車両、暗視・熱源監視装置、重工兵資材、高性能ラジオ、巡視艇、食料、テント、対迫撃砲レーダー、制服、救急処置装置などを提供している。また、18(平成30)年3月、米国務省がウクライナへの対戦車ミサイル売却を承認し、議会に通知したことに対し、ロシア外務省は同ミサイルの売却はウクライナでの紛争に解決をもたらさないなどと反発した。

50 ウクライナ情勢をめぐり、NATOはロシアへの非難声明を発出し、東欧・バルト諸国に軍事力を追加的に展開しているが、加盟国内部ではロシアへの対応に温度差がある。

51 1999(平成11)年の欧州安全保障協力機構(OSCE:Organization for Security and Co-operation in Europe)イスタンブール首脳会議において、従来のブロック別保有上限の国別・領域別保有制限への変更、CFE適合条約発効までの現行CFE条約の遵守などが合意された。ロシアは、自国がCFE適合条約に批准したにもかかわらず、NATO諸国がジョージアとモルドバからロシア軍が撤退しないことなどを理由としてCFE適合条約を批准しないことを不満とし、07(平成19)年12月、CFE条約の履行停止を行い、同条約に基づく査察などが停止された。現時点では、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの4か国のみが批准しており、CFE適合条約は未発効である。このほか、ロシアは、NATOを中心とする既存の安全保障の枠組みを脱却し、新たな欧州・大西洋地域における安全保障の基本原則を定める新たな欧州安全保障条約を提案している。

52 NATOの取組については2章8節参照

53 ロシア国防省発表によれば、約1万2,700人の人員、艦艇10隻、航空機・ヘリ70機、戦車250両などが参加したとされる。

54 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)によれば、14(平成26)年から18(平成30)年の間のロシアの武器輸出は、09(平成21)年から13(平成25)年の間に比べて17%減少している。また、ロシアは武器輸出の世界シェアで米国に次ぐ2位(21%)となっている。

55 インドネシアとの間ではこれまでSu-27戦闘機を5機、Su-30戦闘機を11機引き渡したほか、16(平成28)年にはSu-35戦闘機11機の売却契約が行われたと報道された。マレーシアとの間ではこれまでSu-30戦闘機を18機、ベトナムとの間ではこれまでSu-27戦闘機を12機及びSu-30戦闘機を36機引き渡している。ベトナムについては、キロ級潜水艦の売却契約が行われたと伝えられており、17(平成29)年1月までに同潜水艦6隻すべてを引き渡した。インドについては、13(平成25)年11月、ロシアで改修を終えた空母「アドミラル・ゴルシコフ」がインド側に引き渡され、「ヴィクラマディチャ」と改称された。なお、同艦は14(平成26)年1月にインドに到着している。また、これまでアルジェリアとの間でSu-30戦闘機を52機(推定)、ベネズエラとの間でSu-30戦闘機を24機引き渡している。中国については、Su-27戦闘機、Su-30戦闘機、ソブレメンヌイ級駆逐艦、キロ級潜水艦などが輸出されているが、中国の武器国産化の進展などを背景に近年取引額が低下傾向にあるとの指摘もあるものの、補修用の航空機エンジンなどの輸出は継続している。イランについては、16(平成28)年4月より、地対空ミサイル・システム「S-300」の輸出が開始された。S-400をめぐっては中国やトルコに加え、インドに供給予定であるほか、サウジアラビアへの供給契約に関する協議を継続中とされる。

56 報道によれば、Su-35戦闘機24機を約20億ドル、S-400発射機32基を約30億ドルで輸出する契約が締結された。

57 15(平成27)年9月、プーチン大統領は通信社のインタビューに答え、「露中関係は現在、その歴史の中で最高水準に達しており、かつ活発に発展している」と述べた。

58 2017(平成29)年、ロシアとトルコはS-400の輸出契約を締結。19(令和元)年7月に納入の第1段階が完了したとされる。特にNATO加盟国のトルコへのS-400の輸出をめぐっては、米国は、F-35に関する情報がS-400を介してロシア側に漏えいするとして、トルコがF-35プログラムに関与することが不可能となった旨表明している。