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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第3節 朝鮮半島

朝鮮半島では、半世紀以上にわたり同一民族の南北分断状態が続いている。現在も、非武装地帯(DMZ:Demilitarized Zone)を挟んで、160万人程度の地上軍が厳しく対峙している。

このような状況にある朝鮮半島の平和と安定は、わが国のみならず、東アジア全域の平和と安定にとって極めて重要な課題である。

参照図表I-2-3-1(朝鮮半島における軍事力の対峙)

図表I-2-3-1 朝鮮半島における軍事力の対峙

1 北朝鮮

1 全般

北朝鮮は、思想、政治、軍事、経済などすべての分野における社会主義的強国1の建設を基本政策として標榜し、その実現に向けて「先軍政治」という政治方式をとってきた。これは、「軍事先行の原則で軍事を全ての事業に優先させ、人民軍隊を核心、主力として革命の主体を強化し、それに依拠して社会主義偉業を勝利のうちに前進させていく社会主義基本政治方式」と説明されている2。実際に、指導者の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長3は軍を掌握する立場にあり、「先軍革命路線を恒久的な戦略的路線として堅持」するとしている。加えて、金正恩委員長は13(平成25)年3月の朝鮮労働党中央委員会総会で、核抑止力さえしっかりしていれば、国防費を増やさなくても戦争抑止力と防衛力の効果を高めながら経済建設と人民生活向上に集中できるとして、経済建設と核武力建設を並行して進めていくという、いわゆる「並進路線」を決定し、16(平成28)年5月の第7回朝鮮労働党大会において、「並進路線」を「先軍政治」と併せて堅持する旨明らかにした。

他方、金正恩委員長は、16(平成28)年5月に36年ぶりに党大会を開催するなど党を中心とした国家運営を行っていると指摘されるほか、18(平成30)年4月の朝鮮労働党中央委員会総会においては、国家核武力が完成し、「並進路線」が貫徹されたとし、朝鮮労働党の「新たな戦略的路線」は「全党、全国が社会主義経済建設に総力を集中すること」であると発表するなど、経済発展に集中する方針を表明している。また、金正恩委員長は19(平成31)年4月の最高人民会議においても、引き続き経済発展に集中する旨表明している。そのうえで、金正恩委員長は同会議において、国家防衛力を絶えず向上させていく旨述べるなど、北朝鮮は「新たな戦略的路線」の下でも戦力・即応態勢の維持・強化に努めていくものと考えられる4。同年4月の最高人民会議における北朝鮮の発表によれば、北朝鮮の同年度予算に占める国防費の割合は、15.8%となっているが、これは、実際の国防費の一部にすぎないとみられている。

北朝鮮は、これまで6回の核実験を実施したほか、近年、前例のない頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、大量破壊兵器や弾道ミサイル開発の推進及び運用能力の向上を図ってきた。また、北朝鮮は、非対称的な軍事能力としてサイバー領域について大規模な部隊を保持するとともに、軍事機密情報の窃取や他国の重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられるほか、大規模な特殊部隊を保持している。加えて、北朝鮮は、わが国を含む関係国に対する挑発的言動を繰り返してきた5

KEY WORD弾道ミサイルとは

弾道ミサイルは、放物線を描いて飛翔する、ロケットエンジン推進のミサイルで、長距離離れた目標を攻撃することが可能である。弾道ミサイルは、一般に下表のように射程で分類されている。

弾道ミサイルとはの表

また、潜水艦から発射する弾道ミサイルは、SLBM(Submarine-Launched Ballistic Missile)と呼称されるほか、空母をはじめとする艦艇への攻撃のために必要となる弾頭部の精密誘導機能を有する弾道ミサイルは対艦弾道ミサイル(ASBM:Anti-Ship Ballistic Missile)と呼称されている。

北朝鮮のこうした軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損なうものとなっている。

北朝鮮の核兵器保有が認められないことは当然であるが、同時に、弾道ミサイルの開発・配備の動きや朝鮮半島における軍事的対峙、北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の動きなどにも注目する必要がある。

北朝鮮が極めて閉鎖的な体制をとっていることなどから、北朝鮮の動向の詳細や意図を明確に把握することは困難であるが、わが国として強い関心を持って注視していく必要がある。

2 軍事態勢
(1)全般

北朝鮮は、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全土の要塞化という四大軍事路線6に基づいて軍事力を増強してきた。

北朝鮮の軍事力は、陸軍中心の構成となっており、総兵力は約128万人である。北朝鮮軍は、現在も、依然として戦力や即応態勢を維持・強化していると考えられるものの、その装備の多くは旧式である。

一方、情報収集や破壊工作からゲリラ戦まで各種の活動に従事する大規模な特殊部隊などを保有している。また、北朝鮮の全土にわたって多くの軍事関連の地下施設が存在するとみられていることも、特徴の一つである。

(2)軍事力

陸上戦力は、約110万人を擁し、兵力の約3分の2をDMZ付近に展開していると考えられる。その戦力は、歩兵が中心であるが、戦車3,500両以上を含む機甲戦力と火砲を有し、また、240mm多連装ロケットや170mm自走砲といった長射程火砲をDMZ沿いに常時配備していると考えられ、首都であるソウルを含む韓国北部の都市・拠点などがその射程に入っている。また、北朝鮮は、現在も限られた資源の中で選択的に通常戦力の増強を図っており、主力戦車や多連装ロケットなどを改良しているとみられる7

海上戦力は、約780隻、約11.1万トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、旧式のロメオ級潜水艦約20隻のほか、特殊部隊の潜入・搬入などに使用されると考えられる小型潜水艦約50隻とエアクッション揚陸艇約140隻を有している。

航空戦力は、約550機の作戦機を有しており、その大部分は、中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG-29戦闘機やSu-25攻撃機といった、いわゆる第4世代機も少数保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されるとみられているAn-2輸送機を多数保有している。

また、北朝鮮は、いわゆる非対称的な軍事能力として、約10万人に達するとみられる特殊部隊8を保有しているほか、近年はサイバー部隊を重視し強化を図っているとみられている9

参照I部3章3節2項3(北朝鮮)

3 大量破壊兵器・弾道ミサイル

北朝鮮は、依然として大規模な軍事力を維持している一方、冷戦構造の崩壊による旧ソ連圏からの軍事援助の減少や経済の不調による国防支出の限界、韓国の防衛力の急速な近代化といった要因により、韓国軍及び在韓米軍に対して通常戦力において著しく劣勢に陥っている。このため北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの増強に集中的に取り組むことにより劣勢を補おうとしていると考えられる。

北朝鮮は、近年、前例のない頻度で弾道ミサイルの発射を行い、同時発射能力や奇襲的攻撃能力などを急速に強化してきた。また、核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、弾道ミサイルに搭載するための核兵器の小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる。

こうした北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損うものとなっている。また、大量破壊兵器などの不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題となっている。

一方、北朝鮮は18(平成30)年4月20日に行われた朝鮮労働党中央委員会総会において、「核実験と大陸間弾道ロケット試験発射」の中止や、北朝鮮北部にある核実験場を廃棄することなどを決定した。また、同月27日に行われた南北首脳会談や同年6月12日に行われた米朝首脳会談において、北朝鮮は非核化に向けた意思を示したほか、同年5月24日に、国際記者団を招待し、北部の核実験場の爆破を公開した。

しかし、全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄は行っておらず、北朝鮮の核・ミサイル能力に本質的な変化は生じていない。

今後、北朝鮮が完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルの廃棄の実現に向けて具体的にどのような行動をとっていくかを含め、北朝鮮の今後の動向を引き続き重大な関心をもって注視していく必要がある。

(1)核兵器

ア 核兵器計画の現状

北朝鮮の核兵器計画の現状は、北朝鮮が極めて閉鎖的な体制をとっていることもあり、その詳細について不明な点が多い。しかしながら、過去の核開発の状況が解明されていないことや、17(平成29)年9月の核実験を含め、これまで既に6回の核実験を行ったことなどを踏まえれば、核兵器計画が相当に進んでいるものと考えられる。

核兵器の原料となり得る核分裂性物質10であるプルトニウムについて、北朝鮮はこれまで製造・抽出を数回にわたり示唆してきたほか11、最近では15(平成27)年9月に、07(平成19)年2月の第5回及び同年9月の第6回六者会合で無能力化が合意されていた原子炉及び再処理工場をはじめとする寧辺(ヨンビョン)のすべての核施設が再整備され、正常稼働を始めている旨言明した12。当該原子炉の再稼働は、北朝鮮によるプルトニウム製造・抽出につながり得ることから、その動向が強く懸念される。

また、同じく核兵器の原料となりうる高濃縮ウランについては、北朝鮮は09(平成21)年6月にウラン濃縮活動への着手を宣言し、10(平成22)年11月には、訪朝した米国人の核専門家に対してウラン濃縮施設を公開し、その後、数千基規模の遠心分離機を備えたウラン濃縮工場の稼動に言及した。このウラン濃縮工場は、13(平成25)年8月に施設拡張が指摘されており、濃縮能力を高めている可能性もある。こうしたウラン濃縮に関する北朝鮮の一連の動きは、北朝鮮が、プルトニウムに加えて、高濃縮ウランを用いた核兵器開発を推進している可能性があることを示すものであると考えられる13

これら核関連活動については、ポンペオ米国務長官が18(平成30)年7月、北朝鮮が核燃料の生産を続けていると上院で証言したほか、天野IAEA事務局長が19(平成31)年3月、IAEA理事会において、北朝鮮が寧辺の核関連施設において濃縮施設の使用の兆候を観察し続けた旨述べるなど、北朝鮮が主張する「朝鮮半島の完全な非核化への意思」とは相容れない動きが指摘されている。

核兵器の開発については、北朝鮮は06(平成18)年10月14、09(平成21)年5月15、13(平成25)年2月16、16(平成28)年1月17、同年9月18及び17(平成29)年9月19に核実験を実施している。北朝鮮は、これらの核実験により、必要なデータの収集を行うなどして核兵器計画を進展させている可能性が高い。

北朝鮮は、その核兵器計画の一環として、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化・弾頭化を追求しているものと考えられる。17(平成29)年9月3日には、金正恩委員長が核兵器研究所を視察し、ICBMに搭載できる水爆を視察した旨公表20したほか、同日に強行された6回目の核実験について、北朝鮮は、「ICBM装着用水爆実験を成功裏に断行した」と発表している。一般に、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化には相当の技術力が必要とされているが、米国、旧ソ連、英国、フランス、中国が1960年代までにこうした技術力を獲得したとみられることや過去6回の核実験を通じた技術的成熟が見込まれることなどを踏まえれば、北朝鮮は核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っているとみられる21

また、6回目となる17(平成29)年の核実験の出力は過去最大規模の約160ktと推定されるところであり、推定出力の大きさを踏まえれば、当該核実験は水爆実験であった可能性も否定できない22

いずれにせよ、北朝鮮による核兵器開発は、大量破壊兵器の運搬手段たる弾道ミサイルの長射程化などの能力増強を行っていることとあわせて考えれば、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損うものとして断じて容認できない。

イ 核兵器計画の背景

北朝鮮による核開発の目的については、北朝鮮の究極的な目標は体制の維持であると指摘23されていること、北朝鮮は米国の核の脅威に対抗する独自の核抑止力が必要と考えており24、かつ、北朝鮮が米国及び韓国に対する通常戦力における劣勢を覆すことは少なくとも短期的には極めて難しい状況にあること、北朝鮮がイラクやリビアでの体制崩壊や17(平成29)年4月の米軍によるシリア攻撃は核抑止力を保有しなかったために引き起こされた事態であると主張していること25、そして核兵器は交渉における取引の対象ではないと繰り返し主張してきたことなどを踏まえれば、北朝鮮は体制を維持するうえでの不可欠な抑止力として核兵器開発を推進しているとみられる。

実際、北朝鮮は、国際社会に対して、自らの「核保有国」としての地位を繰り返し主張26するとともに、13(平成25)年3月には、経済建設と核武力建設を並行して進めていくという、いわゆる「並進路線」を決定し、第7回朝鮮労働党大会や18(平成30)年1月の「新年の辞」においてもかかる方針を堅持する旨明らかにした。18(平成30)年4月には、北朝鮮は朝鮮労働党中央委員会総会において、並進路線が貫徹された旨宣言するとともに、「国家の人的・物的資源を総動員して強力な社会主義経済を建設し、人民生活を画期的に向上させるための闘争に全力を集中する」ことなどを決定した。

北朝鮮による核開発問題については、最近では、18(平成30)年6月12日に実施された史上初の米朝首脳会談において、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を明確にした上で、引き続き米朝間で交渉を行っていくことを確認した。また、北朝鮮は、同年9月19日の南北首脳会談で合意された「9月平壌共同宣言」において、米国が相応の措置をとれば、寧辺の核施設を永久的に閉鎖する旨表明した。さらに、金正恩委員長は19(平成31)年の「新年の辞」において、これ以上核兵器の製造や実験を行わず、使用や拡散もしない旨述べている27。しかし、これらは核保有を前提とした主張であると考えられる。また、北朝鮮は一方的な非核化には応じない旨繰り返し主張している。さらに、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化を表明した後においても核開発を継続しているとの指摘28や、北朝鮮が公表していないウラン濃縮施設が存在するとの指摘もある。

これらのことも踏まえ、今後、北朝鮮が全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄に向けて具体的にどのような行動をとるのかをしっかり見極めていく必要がある。

(2)生物・化学兵器

北朝鮮の生物兵器や化学兵器の開発・保有状況については、北朝鮮の閉鎖的な体制に加え、生物・化学兵器の製造に必要な物資・機材・技術の多くが軍民両用であるため偽装も容易であることから、詳細については不明である。しかし、化学兵器については、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有しているとみられるほか、生物兵器についても一定の生産基盤を有しているとみられる29。化学兵器としては、サリン、VX、マスタードなどの保有が、生物兵器に使用され得る生物剤としては、炭疽菌(たんそきん)、天然痘(てんねんとう)、ペストなどの保有が指摘されている30

また、北朝鮮が弾頭に生物兵器や化学兵器を搭載し得る可能性も否定できないとみられている。

(3)弾道ミサイル

北朝鮮の弾道ミサイルは、北朝鮮が極めて閉鎖的な体制をとっていることもあり、大量破壊兵器同様その詳細については不明な点が多いが、北朝鮮は、軍事能力強化の観点に加え、政治外交的観点や外貨獲得の観点31などからも、弾道ミサイル開発に高い優先度を与えていると考えられる。北朝鮮が保有・開発しているとみられる弾道ミサイルは次のとおりである32

参照図表I-2-3-2(北朝鮮が保有・開発する弾道ミサイル)
図表I-2-3-3(北朝鮮の弾道ミサイルの射程)
図表I-2-3-4(これまでの北朝鮮による弾道ミサイル発射)

図表I-2-3-2 北朝鮮が保有・開発する弾道ミサイル

図表I-2-3-3 北朝鮮の弾道ミサイルの射程

図表I-2-3-4 これまでの北朝鮮による弾道ミサイル発射

ア 北朝鮮が保有・開発する弾道ミサイルの種類

(ア)トクサ

トクサは、射程約120kmと考えられる単段式の短距離弾道ミサイルで、発射台付き車両(TEL, Transporter-Erector-Launcher)に搭載され移動して運用される。北朝鮮が保有・開発している弾道ミサイルとしては初めて固体燃料推進方式を採用したとみられる33

KEY WORDTEL(Transporter-Erector-Launcher:テル)とは

固定式発射台からの発射の兆候は敵に把握されやすく、敵からの攻撃に対し脆弱であることから、発射の兆候把握を困難にし、残存性を高めるため、旧ソ連などを中心に開発が行われた発射台付き車両。18(平成30)年5月に公表された米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」によれば、北朝鮮は、スカッド用のTELを最大100両、ノドン用のTELを最大50両、IRBM(ムスダン)用のTELを最大50両保有しているとされる。
弾道ミサイルの長さや重量に応じてTELの種類も異なり、スカッドは4軸、ノドンは5軸、ムスダンは6軸、17(平成29)年7月4日及び7月28日に発射されたICBM級の新型弾道ミサイル及びKN-08/14は8軸、同年11月29日に発射された新型とみられるICBM級の弾道ミサイルは9軸の装輪式TELに搭載され移動して運用されるとみられる。同年2月12日及び5月21日に発射されたSLBM改良型の新型弾道ミサイル及び同年5月29日に発射されたスカッドミサイル改良型の新型弾道ミサイルについては、装軌式(キャタピラ式)TELから発射されたものとみられる。一般論として、装軌式TELは、装輪式TELと比べ、不整地面での活動に適しているが、長距離移動には適していないとされる。
TEL搭載式ミサイルの発射については、TELに搭載され移動して運用されることに加え、全土にわたって軍事関連の地下施設が存在するとみられていることから、その詳細な発射位置や発射のタイミングなどに関する個別具体的な兆候を事前に把握することは困難であると考えられる。
TELの開発動向は、北朝鮮の弾道ミサイル運用能力に関わるものであることから、弾道ミサイルそのものの開発動向と合わせ、注視していく必要がある。

(イ)スカッド

スカッドは単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、TELに搭載され移動して運用される。

スカッドBは、射程約300km、スカッドCはスカッドBの射程を延長した射程約500kmとみられる短距離弾道ミサイルで、北朝鮮はこれらを生産・配備するとともに、中東諸国などへ輸出してきたとみられている。

スカッドER(Extended Range)は、スカッドの胴体部分の延長や弾頭重量の軽量化などにより射程を延長した弾道ミサイルで、射程は約1,000kmに達するとみられており、わが国の一部がその射程内に入るとみられる。

これらのほか、北朝鮮は、スカッドミサイルを改良したとみられる弾道ミサイルを開発している。当該弾道ミサイルは、17(平成29)年5月29日に1発が発射され、約400km飛翔し、わが国の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと推定される。発射翌日、北朝鮮は、精密操縦誘導システムを導入した弾道ロケットを新たに開発し、試験発射を成功裏に行ったと発表した。また、北朝鮮が公表した画像に基づけば、装軌式(キャタピラ式)TELから発射される様子や弾頭部に小型の翼34とみられるものが確認されるなど、これまでのスカッドとは異なる特徴が確認される一方、弾頭部以外の形状や長さは類似しており、かつ、液体燃料推進方式のエンジンの特徴である直線状の炎が確認できる。当該弾道ミサイルは、終末誘導機動弾頭(MaRV:Maneuverable Re-entry Vehicle)を装備しているとの指摘35もある。北朝鮮は、金正恩委員長が、敵の艦船などの個別目標を精密打撃することが可能な弾道ミサイル開発を指示したと発表していることも踏まえれば、弾道ミサイルによる攻撃の正確性の向上を企図しているとみられる。

(ウ)ノドン

ノドンは、単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、TELに搭載され移動して運用される。射程約1,300kmに達するとみられており、わが国のほぼ全域がその射程内に入るとみられる。

ノドンの性能の詳細は確認されていないが、命中精度については、この弾道ミサイルがスカッドの技術を基にしているとみられていることから、例えば、特定の施設をピンポイントに攻撃できるような精度の高さではないと考えられるものの、精度の向上が図られているとの指摘もある。この点、ノドンについては、弾頭部の改良により精度の向上を図ったタイプ(弾頭重量の軽量化により射程は約1,500kmに達するとみられる)の存在が指摘されていたところ、16(平成28)年7月19日のスカッド1発及びノドン2発の発射翌日に北朝鮮が発表した画像において、同タイプの弾道ミサイルの発射が初めて確認されている。

(エ)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)

北朝鮮は、SLBM及びSLBMの搭載を企図した新型潜水艦の開発を行っていると指摘されてきたが、15(平成27)年5月に、北朝鮮メディアを通じてSLBM(北朝鮮の呼称によれば「北極星」型)の試験発射に成功したと発表して以降、これまでに4回36、SLBMの発射を公表している。これまで北朝鮮が公表した画像及び映像から判断すると、空中にミサイルを射出した後に点火する、いわゆる「コールド・ローンチシステム」の運用に成功している可能性がある。また、16(平成28)年4月及び同年8月の発射においては、ミサイルから噴出する炎の形及び煙の色などから、液体燃料推進方式に比べ、軍事的に優れているとされる固体燃料推進方式が採用されていると考えられる37

これまで、SLBMと推定される弾道ミサイルとして、わが国に向けた飛翔が確認されたのは、16(平成28)年8月24日に北朝鮮東岸の新浦(シンポ)付近から発射された1発で、約500km飛翔した。SLBMとして初めて約500km飛翔したという点を踏まえれば、これまでの発射などを通じて課題の解決に努め、一定の技術的進展を得た可能性も否定できない。さらに、この時発射されたSLBMと推定される弾道ミサイルについては、約500kmを射程とする弾道ミサイルの通常の高度と比べると、通常よりもやや高い軌道で発射されたと推定され、仮に通常の軌道で発射すれば、射程は1,000kmを超えるとみられる38

また、SLBMはコレ級潜水艦(排水量約1,500トン)から発射されているとみられる。北朝鮮は現在、同潜水艦を1隻保有しているが、SLBM発射のためのさらに大きな潜水艦の開発を追求しているとの指摘もある39

こうしたSLBM及びSLBMの搭載を企図した新型潜水艦の開発により、北朝鮮は弾道ミサイルによる打撃能力の多様化と残存性の向上を企図しているものと考えられる。

(オ)SLBM改良型弾道ミサイル

北朝鮮は、SLBMを地上発射型に改良したとみられる弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「北極星2」型)を、17(平成29)年2月12日及び5月21日に1発ずつ発射している。いずれも、約500km飛翔したものと推定されるが、通常よりもやや高い軌道で発射されたと推定され、仮に通常の軌道で発射されたとすれば、その射程は1,000kmを超えるとみられる。同年2月12日の発射翌日、北朝鮮は、発射した弾道ミサイルを「北極星2」型と呼称し、16(平成28)年8月のSLBM発射の成果に基づき地対地弾道弾として開発したと発表している。また、17(平成29)年5月21日の発射翌日、北朝鮮は、「北極星2」型の試験発射を再び成功裏に実施し、金正恩委員長が「部隊実戦配備」を承認したと発表している。さらに、北朝鮮が公表した画像には、いずれにおいても、装軌式(キャタピラ式)TELから発射され、空中にミサイルを射出した後に点火する、いわゆる「コールド・ローンチシステム」により発射される様子や固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認される。「コールド・ローンチシステム」や固体燃料推進方式のエンジンを利用しているとみられる点は、SLBMと共通している。北朝鮮が当該弾道ミサイルの実戦配備に言及していることも踏まえれば、わが国を射程に入れる固体燃料推進方式の弾道ミサイルが新たに配備される可能性が考えられる。

(カ)中距離弾道ミサイル(IRBM)級弾道ミサイル

北朝鮮は、液体燃料方式のIRBM級弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「火星12」型)をこれまでに3発発射している。17(平成29)年5月14日に1発が発射され、2,000kmを超える高度に達し、30分程度、約800km飛翔したと推定される。飛翔形態から、当該弾道ミサイルは、ロフテッド軌道で発射されたと推定されるが、仮に通常の軌道で発射されたとすれば、その射程は、最大で約5,000kmに達するとみられる。また、北朝鮮が発射翌日に公表した画像には、液体燃料推進方式のエンジンの特徴である直線状の炎が確認できることから、当該弾道ミサイルは液体燃料を使用しているとみられる。同年8月29日及び9月15日には、渡島半島(おしまはんとう)付近及び襟裳岬付近のわが国領域の上空を通過する形で当該弾道ミサイルが1発ずつ発射された。8月29日に発射された弾道ミサイルは、わが国領域の上空を約550kmの高度で通過し、約2,700km飛翔したと推定される。9月15日に発射された弾道ミサイルは、わが国領域の上空を約700kmから800kmの高度で通過し、約3,700km飛翔したと推定される。北朝鮮が弾道ミサイルと称するものを発射し、わが国領域の上空を通過させた事例は、これらが初めてである。

当該弾道ミサイルは、飛翔距離などを踏まえれば、IRBMとしての一定の機能を示したと考えられる。また、短期間のうちに立て続けにわが国上空を通過する弾道ミサイルを発射したことは、北朝鮮が弾道ミサイルの能力を着実に向上させていることを示すものである。さらに、同年5月及び8月の発射では、装輪式TELから切り離されたうえで発射された様子が確認されたが、9月の発射時には、装輪式TELに搭載されたまま発射された様子が確認できること及び北朝鮮が同発射について、「実戦的な行動順序を確認する目的」「『火星12』型の戦力化を実現した」と主張していることなどを踏まえれば、実戦的な運用能力を向上させている可能性が考えられる。

なお、北朝鮮は16(平成28)年、IRBM級の弾道ミサイルとみられるムスダン40の発射を繰り返しており、同年6月にはロフテッド軌道により一定の距離を飛翔させたが、同年10月には2回連続で発射に失敗しているとみられることから、ムスダンについては実用化に向けた課題が残されている可能性や、IRBM級の弾道ミサイルとしては、「火星12」型の開発・実用化に集中している可能性が考えられる。

(キ)大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイル

(17(平成29)年7月4日及び28日に発射されたもの)

北朝鮮は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「火星14」型)をこれまでに2発発射している。当該弾道ミサイルは、17(平成29)年7月4日に発射された際は、2,500kmを大きく超える高度に達し、約40分間、約900km飛翔し、わが国の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと推定される。また、同月28日に発射された際は、3,500kmを大きく超える高度に達し、約45分間、約1,000kmを飛翔し、わが国のEEZ内に落下したと推定される。このような飛翔形態から、当該弾道ミサイルは2発ともロフテッド軌道で発射されたと推定され、通常の軌道で発射されたとすれば射程は少なくとも5,500kmを超えるとみられる。7月4日の発射当日、北朝鮮は「特別重大報道41」を行い、新型の大陸間弾道ロケット(ICBM)の試験発射に成功した旨発表した。また、7月28日の発射翌日、北朝鮮は、「核爆弾爆発装置」が正常に作動し、大気圏再突入環境における弾頭部の安全性などが維持された旨主張するなど、長射程の弾道ミサイルの実用化を目指していると考えられる。

北朝鮮の発表した画像に基づけば、7月4日及び同月28日に発射された弾道ミサイルは、5月14日に発射されたIRBM級の弾道ミサイルと、①エンジンがメインエンジン1基と4つの補助エンジンから構成されていること、②推進部の下部の形状がラッパ状であること、③液体燃料推進方式の直線状の炎が確認できること、が共通している。こうした点や、それぞれの弾道ミサイルについて推定される射程も踏まえれば、7月4日及び7月28日に発射されたICBM級の弾道ミサイルは、5月14日に発射されたIRBM級の新型弾道ミサイルを基に開発した可能性が考えられる。

また、北朝鮮が発表した画像に基づけば、7月4日及び同月28日に発射したとみられる弾道ミサイルが、KN-08/14((コ)において後述)と同様の8軸の装輪式TELに搭載された様子が確認できるが、他方、発射の時点の画像では、TELではなく簡易式の発射台から発射されていることが確認できる。さらに、当該弾道ミサイルは2段式であったと考えられる。

(ク)新型のICBM級弾道ミサイル

(17(平成29)年11月29日に発射されたもの)

北朝鮮は、17年(平成29)年11月29日、上記(キ)で述べたものとは異なる新型とみられるICBM級弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「火星15」型)1発を発射した。当該弾道ミサイルは、4,000kmを大きく超える高度に達し、約53分程度、約1,000km飛翔し、わが国の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと推定される。このような飛翔形態から、当該弾道ミサイルはロフテッド軌道で発射されたと推定される。北朝鮮は発射当日の「重大報道」で、新たに開発されたICBM「火星15」型の試験発射が成功裏に行われ、このICBMは米国本土全域を打撃することができ、国家核武力の完成を実現した旨発表した。

当該弾道ミサイルについては、①その飛翔距離及び飛翔高度、②北朝鮮が、新型のICBM「火星15」型の試験発射に成功した旨発表したこと、③これまでに見られたことのない9軸のTELに搭載された様子が確認できること、④弾頭の先端の形状が鈍頭(丸みを帯びた形状)であることなどから、同年7月に2度発射されたICBM級とは異なる、新型のICBM級弾道ミサイルであったと考えられる。また、北朝鮮が公表した画像によれば、当該弾道ミサイルは2段式であること、TELから切り離されたうえで発射された様子及び液体燃料推進方式の特徴である直線状の炎が確認できる。

さらに、当該弾道ミサイルについて、その飛翔高度、距離、公表された映像などを踏まえれば、搭載する弾頭の重量などによっては1万kmを超える射程となり得ると考えられることから、あらためて北朝鮮による弾道ミサイルの長射程化が懸念される。

また、従来、北朝鮮が保有する装輪式のTELについては、ロシア製及び中国製のTELを改良したものとの指摘がある中で、北朝鮮が装輪式TELを自ら開発したと主張している点も注目される。

(ケ)テポドン2

テポドン2は、固定式発射台から発射する長射程の弾道ミサイルである42。テポドン2は、1段目にノドンの技術を利用したエンジン4基を、2段目に同様のエンジン1基をそれぞれ使用していると推定される。射程については、2段式のものは約6,000kmとみられ、3段式である派生型については、ミサイルの弾頭重量を約1トン以下と仮定した場合、約1万km以上におよぶ可能性があると考えられる。テポドン2又はその派生型は、これまで合計5回発射されている。

もっとも最近では、16(平成28)年2月、国際機関に通報を行ったうえで、「人工衛星」を打ち上げるとして、北朝鮮北西部沿岸地域の東倉里(トンチャンリ)地区から、前回12(平成24)年12月の発射の際に使用されたものと同様の仕様のテポドン2派生型を発射した43。この発射により、同様の仕様の弾道ミサイルを2回連続して発射し、おおむね同様の態様で飛翔させ、地球周回軌道に何らかの物体を投入したと推定されることから、北朝鮮の長射程の弾道ミサイルの技術的信頼性は前進したと考えられる44

こうした長射程の弾道ミサイルの発射試験は、射程の短い他の弾道ミサイルの射程の延伸や、弾頭重量の増加、命中精度の向上といった性能の向上にも資するものであるほか、多段階推進装置の分離技術や、姿勢制御・推進制御技術などの関連技術は北朝鮮が新たに開発中の他の中・長距離弾道ミサイルにも応用可能とみられる。このため、ノドンなどの弾道ミサイルの性能向上のほか、新たな弾道ミサイルの開発を含め、北朝鮮による弾道ミサイル開発全体をより一層進展させるとともに、攻撃手段の多様化にもつながるものであると考えられる45

北朝鮮は、18(平成30)年9月の南北首脳会談において合意された「9月平壌共同宣言」において、東倉里地区に所在するエンジン試験場及びミサイル発射台を、関係国の専門家らの立会いの下、恒久的に廃棄する旨発表した。本施設については、衛星発射台の一部などが解体された後、再建されたとの指摘もある。

(コ)KN-08/KN-14

12(平成24)年4月及び13(平成25)年7月に行われた閲兵式(軍事パレード)で登場した新型ミサイル「KN-08」は、詳細は不明ながら、大陸間弾道ミサイルとみられている46。また、15(平成27)年10月の閲兵式には、「KN-08」とみられる新型ミサイルが、これまでと異なる形状の弾頭部で登場した47。この「KN-08」の派生型とみられる新型ミサイルは「KN-14」と呼称されている。KN-08及びKN-14はTEL搭載式であるため、発射兆候の事前の把握を困難にし、残存性を高める意図があると考えられる。

(サ)19(令和元)年に発射された短距離弾道ミサイルなど

北朝鮮は、19(令和元)5月、7月及び8月に計9回、新型と推定される短距離弾道ミサイルなどを日本海に向けて発射した。

①19(令和元)年5月4日、9日、7月25日及び8月6日に発射された短距離弾道ミサイル

 北朝鮮は19(令和元)年5月4日、9日、7月25日及び8月6日に、短距離弾道ミサイル(北朝鮮は「新型戦術誘導兵器」などと呼称)を発射した。これらは同系統で、既存のノドンやスカッドなどとは異なる新型と推定される。各日2発ずつ発射され、約200~600km程度飛翔した。北朝鮮が公表した画像では、装輪式又は装軌式(キャタピラ式)TELから発射され、いずれも固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認できる。また、発射されたミサイルは、通常の弾道ミサイルよりも低空で飛翔し、変則的な軌道で飛翔可能とも言われるロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」と外形上類似点がある。

②19(令和元)年8月24日に発射された短距離弾道ミサイル

 北朝鮮は19(令和元)年8月24日に、短距離弾道ミサイル(北朝鮮の呼称によれば「超大型放射砲」)2発を発射した。これは上記①とは異なる新型で、約350kmないし400km飛翔したと推定される。北朝鮮が公表した画像では、装輪式TELから発射され、固体燃料推進方式のエンジンの特徴である放射状の噴煙が確認できる。

③19(令和元)年8月10日及び16日に発射されたもの

 北朝鮮が19(令和元)年8月10日及び16日に発射したものについては、ミサイルの外形など、それ以前に発射されたものとは異なる特徴を備えており、上記①及び②とは異なる新型の短距離弾道ミサイルの可能性も考慮する必要がある。

北朝鮮は、上記以外にも、19年(令和元)年7月31日及び8月2日に何らかの飛翔体を発射したとみられ、発射を繰り返し行っていることを踏まえれば、北朝鮮は弾道ミサイル関連技術の高度化や能力の向上を図っているものと考えられることから、その動向について重大な関心を持って注視していく必要がある。

イ 弾道ミサイル発射の主な動向

北朝鮮は、これまで各種の弾道ミサイルの発射を繰り返してきているが、特に16(平成28)年来、新型とみられるものを含め、50発もの弾道ミサイルの発射を強行している。

北朝鮮による弾道ミサイル発射の動向については、次のような特徴がある。第一に、弾道ミサイルの長射程化を図っているものとみられる48。16(平成28)年2月に「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイル「テポドン2派生型」を発射したほか、16(平成28)年にグアムが射程に入るとされる「ムスダン」の発射を繰り返した。17(平成29)年に発射されたIRBM級弾道ミサイルについては、その射程は最大で約5,000kmに達すると見込まれる。また、同年7月にはICBM級の弾道ミサイルを発射したほか、11月には、弾頭の重量などによっては1万kmを超える射程となり得る新型とみられるICBM級弾道ミサイルを発射している49。長射程の弾道ミサイルの実用化のためには、弾頭部の大気圏外からの再突入の際に発生する超高温の熱などから再突入体を防護する技術についてさらなる検証が必要になるものと考えられるが、北朝鮮は、16(平成28)年3月、「弾道ロケット大気圏再突入環境模擬試験」を行い、成功した旨公表している50ほか、17(平成29)年7月の発射の際には、弾頭の大気圏再突入技術を実証した旨発表している。さらに、同年11月のICBM級弾道ミサイルの発射当日、弾頭の再突入環境における信頼性を再立証した旨発表する51など、長射程の弾道ミサイルの実用化を追求する姿勢を示している52

第二に、実戦配備済みの弾道ミサイルについて、飽和攻撃のために必要な正確性及び運用能力の向上を企図している可能性がある。実戦配備済みのスカッド及びノドンについては、金正日国防委員会委員長の在任中にも発射が確認されているが、14(平成26)年以降は、スカッド及びノドンを、過去に例の無い地点から、早朝・深夜に、TELを用いて、多くの場合、複数発、北朝鮮西部から東に向けて朝鮮半島を横断する形で発射している。これは、北朝鮮が、スカッド及びノドンについて、任意の地点から、任意のタイミングで発射できることを示しており、北朝鮮は弾道ミサイルの性能や信頼性に自信を深めているものと考えられる。

また、スカッド及びノドンについては、16(平成28)年来、わが国の排他的経済水域(EEZ)内に弾頭が落下したと推定される発射があり、わが国の安全保障に対する重大な脅威となっている。同年8月3日に発射された1発のノドンとみられる弾道ミサイルは、約1,000km飛翔し、その弾頭がわが国の排他的経済水域(EEZ)内に初めて落下したと推定される。同年9月5日に発射された3発のスカッドERとみられる弾道ミサイルは、同時に発射され、いずれも約1,000km飛翔したうえで、わが国のEEZ内のほぼ同じ地点に落下したと推定される。さらに、17(平成29)年3月6日に発射された4発のスカッドERとみられる弾道ミサイルは、同時に発射され、いずれも約1,000km飛翔し、そのうち3発は、わが国のEEZ内に、残り1発もEEZ付近に落下したと推定される。

こうした発射を通じて、北朝鮮は、弾道ミサイルについて、研究開発だけではなく、運用能力の向上を企図している可能性がある。金正恩委員長は、軍部隊に対し、形式主義を排した実戦的訓練を行うよう繰り返し指導していることから、こうした指導が、配備済み弾道ミサイルの発射の背景となっている可能性も考えられる。

また、17(平成29)年5月に発射された、スカッドミサイルを改良したとみられる新型弾道ミサイルについて、北朝鮮は「精密操縦誘導システムを導入した弾道ロケット」であると主張しているところ、当該弾道ミサイルは、終末誘導機動弾頭(MaRV)を装備しているとの指摘もある。北朝鮮は、実戦配備済みの弾道ミサイルの改良により攻撃の正確性の向上を企図しているとみられる。

第三に、発射の兆候把握を困難にするための秘匿性や即時性を高め、奇襲的な攻撃能力の向上を図っているものとみられる。発射台付き車両(TEL)や潜水艦を使用する場合、任意の地点からの発射が可能であり、発射の兆候を事前に把握するのが困難となるが、北朝鮮は、TELからの発射や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射を繰り返している。また、16(平成28)年に発射を繰り返したSLBMや17(平成29)年2月及び5月に発射されたSLBMを地上発射型に改良したとみられる弾道ミサイルは、固体燃料を使用しているものとみられ、北朝鮮は、弾道ミサイルの固体燃料化を進めている可能性がある53。一般的に、固体燃料推進方式のミサイルは、固形の推進薬が前もって充填されており、液体燃料推進方式に比べ、即時発射が可能であり発射の兆候が事前に察知されにくく、ミサイルの再装填もより迅速に行え、かつ、保管や取扱いも比較的容易であることなどから、軍事的に優れているとされる。こうしたことから、北朝鮮は奇襲的な攻撃能力の向上を図っているものとみられる。

第四に、発射形態の多様化を図っている可能性がある。16(平成28)年6月22日のムスダン発射、17(平成29)年5月14日、7月4日、7月28日及び11月29日の弾道ミサイル発射においては、通常よりも高い角度で高い高度まで打ち上げる、いわゆるロフテッド軌道と推定される発射形態が確認されたが、一般論として、ロフテッド軌道で発射された場合、迎撃がより困難になると考えられる。

北朝鮮が弾道ミサイルの開発をさらに進展させ、再突入技術を実証するなどした場合は、北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したとの認識を一方的に持つに至る可能性がある。仮に、北朝鮮がそのような抑止力に対する過信・誤認をすれば、北朝鮮による地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る。

ウ 今後の弾道ミサイル開発の動向

18(平成30)年1月の「新年の辞」で、金正恩委員長は、国家核武力完成という歴史的大業を成就したと宣言したうえで、既にその威力と信頼性が確固として保証された核弾頭と弾道ロケットを大量生産して実戦配備する事業に拍車を掛けていくべきである旨述べている。また、北朝鮮の長射程の弾道ミサイルの開発動向について、例えば、米国は18(平成30)年2月に発表した「核態勢の見直し」(2018NPR(Nuclear Posture Review))において、北朝鮮が核搭載弾道ミサイルで米国を攻撃する能力を数か月で獲得する可能性があると指摘していたが、19(平成31)年1月に発表した「ミサイル防衛見直し」(MDR:Missile Defense Review)においては、今や北朝鮮は米本土をミサイル攻撃で脅かす能力を保有していると指摘している。

金正恩委員長は18(平成30)年4月の朝鮮労働党中央委員会総会で大陸間弾道ミサイルの試験発射中止について言及し、また、同年6月に行われた米朝首脳会談で非核化の意思を明確に示している。他方で、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルの試験発射の中止を宣言していることに留まり、核・弾道ミサイル計画は依然として損われていないと指摘されている54

これらの点も踏まえ、引き続き北朝鮮の弾道ミサイル開発の動向について、重大な関心をもって注視していく必要がある。

4 内政
(1)金正恩体制の動向

北朝鮮においては、11(平成23)年の金正日(キム・ジョンイル)国防委員会委員長死去後、金正恩氏が12(平成24)年4月までに朝鮮人民軍最高司令官、朝鮮労働党第1書記及び国防委員会第1委員長に就任して事実上の軍・党・国家組織のトップとなり、短期間で金正恩体制が整えられた。体制移行後は、党関連会議の開催や決定事項などが多く公表されたほか、16(平成28)年5月には1980(昭和55)年10月以来36年ぶりとなる第7回朝鮮労働党大会を開催するなど、党を中心とした国家運営を行っているとの指摘がある。また、18(平成30)年4月の朝鮮労働党中央委員会総会において、経済建設に総力を集中する方針を表明している。さらに、金正恩委員長は19(平成31)年4月の最高人民会議においても、経済的な自立の重要性を強調し、「全ての力を経済建設に集中して社会主義の物質的基礎をしっかりと固める」と述べるなど、引き続き経済発展に集中する旨表明している。

体制移行後、金正恩委員長は、軍の主要3職である総政治局長、総参謀長及び人民武力部長を含めて頻繁に人事異動を行い、金正恩委員長が引き上げた人物を党・軍・内閣の要職に配置するとともに、13(平成25)年12月には、金正恩委員長の叔父にあたる張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長を「国家転覆陰謀行為」を行ったとして処刑するなど、自身を唯一の指導者とする体制の強化・引き締めを図っているものとみられる55。また、金正恩委員長の実妹とされる金与正(キム・ヨジョン)氏が朝鮮労働党幹部として動静を報じられるようになり56、南北首脳会談などの会議にも出席している。

16(平成28)年5月に開催された党大会においては、金正恩氏が新たなポストである党委員長に推戴されるとともに、金正恩党委員長が党中央委員会活動総括報告の中で、自国を「核保有国」と位置づけ、経済建設と核武力建設の並進路線を恒久的に堅持し、自衛的な核武力を質・量的にさらに強化していくと発言するなど、核・ミサイル開発を継続する姿勢を内外に示した。また、党大会前には弾道ミサイルの発射を含む各種挑発活動を過去に例を見ない内容と頻度で行った。

党大会の開催は、党に軸足を置いた国家運営を重視する金正恩党委員長による統治体制が組織・人事面などにおいて名実ともに本格化したことを示している可能性がある57。また、同年6月に開かれた最高人民会議において、国防委員会を国務委員会に改めることが決定されるとともに、金正恩党委員長が国防委員会第1委員長に代わる国家組織の新たな「最高首位」である国務委員長に推戴されたことも、統治体制の本格化の現れと考えられる58。さらに、金正恩委員長は、経済建設に総力を集中する「新たな戦略的路線」を貫徹するために、党組織の役割を決定的に高めなければならない旨指摘するなど、政治における党の重要性は引き続き高まっているとみられる。しかし、幹部の頻繁な処刑や降格・解任にともなう萎縮効果により、幹部が金正恩委員長の判断に異論を唱え難くなることから、十分な外交的勘案がなされないまま北朝鮮が軍事的挑発行動に走る可能性も含め、不確実性が増しているとも考えられる。また、貧富の差の拡大や外国からの情報の流入などにともなう社会統制の弛緩などに関する指摘もなされており、体制の安定性という点から注目される。

(2)経済事情

経済面では、社会主義計画経済のぜい弱性に加え、冷戦の終結にともなう旧ソ連や東欧諸国などとの経済協力関係の縮小の影響などもあり、北朝鮮は慢性的な経済不振、エネルギーと食糧の不足に直面している。特に、食糧事情については、引き続き海外からの食糧援助に依存せざるを得ない状況にあるとみられている59。また、16(平成28)年1月の核実験や同年2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射などの北朝鮮による各種挑発行為を受け、韓国は南北間の交易額の99パーセント以上を占める開城(ケソン)工業団地の操業を全面的に中断することを決定した。さらに、わが国や米国などによる独自の制裁措置の強化や、核実験や弾道ミサイル発射を受けて採択された関連の国連安保理決議による制裁措置は、北朝鮮の厳しい経済状況と併せて考えた場合、一定の効果を及ぼしてきたと考えられ、今後も制裁措置が最大の貿易相手国である中国を含む関係各国によって厳格に履行されれば、北朝鮮は、さらに厳しい経済状況に置かれる可能性がある。

こうした経済面での様々な困難に対し、北朝鮮ではこれまでにも、限定的な改善策や一部の経済管理システムの変更が試みられてきた60ほか、経済開発区の設置61や、工場などの生産・販売計画に関する裁量の拡大などを進めているとされている62。さらに、18(平成30)年4月、朝鮮労働党中央委員会総会において、並進路線が貫徹された旨宣言するとともに、「国家の人的・物的資源を総動員して強力な社会主義経済を建設し、人民生活を画期的に向上させるための闘争に全力を集中する」ことなどが決定されたことからも、北朝鮮は経済の立て直しを重要視しているとみられる。一方、北朝鮮が現在の統治体制の不安定化につながり得る構造的な改革を行う可能性は低いと考えられることから、経済の現状を根本的に改善することには、様々な困難がともなうと考えられる。

また、北朝鮮は、国連安保理決議で禁止されている、洋上での船舶間の物資の積み替え(いわゆる「瀬取り」)により国連安保理の制裁逃れを図っているとみられ63、19(平成31)年3月に公表された「国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル最終報告書」は、北朝鮮による石油製品や石炭の違法な「瀬取り」が急増していると指摘している。

参照図表I-2-3-5(北朝鮮に対する安保理決議に基づく制裁)

図表I-2-3-5 北朝鮮に対する安保理決議に基づく制裁

5 対外関係
(1)米国との関係

米国のトランプ政権は「全ての選択肢がテーブルの上にある」という考え方に立ち、北朝鮮の核・ミサイル問題に対処することを表明し、経済制裁及び外交的手段の強化を通じ、北朝鮮が核・ミサイル及びその拡散計画を放棄するよう圧力をかける政策をとった。これに対し北朝鮮は、米国による核の脅威に対抗するためには、独自の核抑止力が必要であるとの従来の主張や挑発的言動64を繰り返すとともに、弾道ミサイルの発射など軍事的挑発を行った65

18(平成30)年6月、史上初の米朝首脳会談が実施され、米朝双方が朝鮮半島における永続的で安定した平和体制の構築に向け協力するとともに、金正恩委員長が朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を明確に示したうえで、引き続き米朝間で交渉を行っていくことを確認した。その後、同年7月にポンペオ国務長官が訪朝し、実務者協議を行った。同長官は同年10月にも訪朝して金正恩委員長と会談を行い、2回目の米朝首脳会談について議論したほか、金正恩委員長は同年5月に爆破を公開した核実験場への査察官の訪問を招請するなど、米朝間での協議が続けられた。また、米国は米朝の外交プロセスを後押しするため、18(平成30)年8月に予定されていた「フリーダム・ガーディアン」演習や、例年11月から12月に行われる「ヴィジラント・エース」演習などの定例の米韓合同軍事演習を停止するなどの措置を取った。一方で、北朝鮮は米国の一方的な非核化要求には応じられず、非核化に向けて米国も「相応の措置」をとる必要がある旨繰り返し主張するとともに、安保理決議に基づく制裁の緩和を求めている。

19(平成31)年2月の第2回米朝首脳会談において、米朝双方はいかなる合意にも達することなく終了した。金正恩委員長は、同年4月の最高人民会議において、「米国が正しい姿勢を持ってわが方と共有することのできる方法論」を見つけることを条件に、第3回の米朝首脳会談を行う用意があり、「米国の勇断を年末まで待つ」などと述べるなど、当面は米国との対話を継続する姿勢を示している。

さらに、同年6月、トランプ大統領による訪韓の機会に、米朝首脳が板門店で面会し、実務レベルで対話を進めることで合意した。

いずれにせよ、現時点で北朝鮮の大量破壊兵器・ミサイルの廃棄に具体的な進展は見られない。

(2)韓国との関係

17(平成29)年5月に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権は、対北朝鮮政策について、対話による南北関係の改善を重視する一方、挑発には制裁や圧力により強力な対応をとっていくとの立場を表明し、実際、同年12月には新たな独自の北朝鮮制裁措置を発表するなどした。北朝鮮側も、同年10月、朝鮮半島で戦争が起こった場合は韓国全域が廃墟になると主張するなど、韓国に対して挑発的な言動を繰り返し、南北間の緊張が高まった。

他方、18(平成30)年1月の「新年の辞」において、北朝鮮は平昌オリンピックへの参加を示唆し、南北関係の改善に積極的な姿勢を示したことで、平昌オリンピックへの北朝鮮参加に向けた調整が進められた。また、平昌オリンピック期間中の金与正氏の訪韓や、同年3月に行われた韓国の特別使節団と金正恩委員長との会談66などを通じ、南北首脳会談への準備が行われた。同年4月の南北首脳会談では、南北の敵対行為を全面的に中止すること、朝鮮半島の非核化の実現を共通の目標として確認することなどを盛り込んだ「板門店宣言文」を発出した。また同年5月には再度南北首脳会談が行われ、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化の意思を改めて明らかにした。さらに、同年9月に行われた南北首脳会談においては、軍事的な敵対関係の終息などを盛り込んだ「9月平壌共同宣言」を発出したほか、南北の軍事的な緊張緩和のための具体的な措置について盛り込んだ「「板門店宣言文」履行のための軍事分野合意書」に署名した。同年中、南北間では、これらの文書に基づく措置67の履行に関する取組が行われた。「板門店宣言文」では朝鮮戦争の終戦の宣言を目指す旨68について言及され、また、「9月平壌共同宣言」では金正恩委員長が近くソウルを訪問することについて言及されており、今後の南北関係の動向が注目される。

(3)中国との関係

中国との関係では、1961(昭和36)年に締結された「中朝友好協力及び相互援助条約」が現在も継続している69。また、中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、17(平成29)年の北朝鮮の対外貿易(南北交易を除く)に占める中国との貿易額の割合は約9割70と極めて高水準で、北朝鮮の中国への依存が指摘されている。

北朝鮮情勢や核問題に関して、中国は、①朝鮮半島の非核化、②朝鮮半島の平和と安定、③対話と協議を通じた問題解決を原則としており、北朝鮮に対する制裁を強化する累次の国連安保理決議に賛成71する一方、制裁だけでは核問題を根本的に解決することはできず、対話と協議を通じた問題解決が重要であるとしている。この点、中国は、米朝首脳会談など、米朝間の対話への支持を表明しているほか、北朝鮮及びロシアと共に、朝鮮半島の非核化は、段階的かつ同時進行的なものであり、関係国の相応の措置を伴うものでなければならないと主張している。

北朝鮮にとって中国は極めて重要な政治的・経済的パートナーであり、北朝鮮に対して一定の影響力を維持していると考えられる。北朝鮮が、中国を含む国際社会が反対する中で核実験及び弾道ミサイル発射を繰り返すなど、必ずしも中国の立場と一致した行動を採らない事例が見られたことなどから、中朝関係の悪化も指摘されていたが、18(平成30)年3月に、金正恩体制として初となる中朝首脳会談72が行われ、中朝関係の発展のほか、習近平国家主席の訪朝について合意したとされている。また、同年5月及び6月にも金正恩委員長は訪中して習近平主席と会談し、それぞれ朝鮮半島の非核化や米朝首脳会談の結果などについて意見交換を行ったとされるほか、19(平成31)年1月にも金正恩委員長は訪中して習近平主席と会談し、朝鮮半島の非核化の方針などについて意見交換を行ったとされる。さらに習近平主席は19(令和元)年6月、国家主席就任以降初めて訪朝して金正恩委員長と会談し、中朝関係の発展や朝鮮半島の非核化などについて話し合ったとされる。

(4)ロシアとの関係

北朝鮮の核問題について、ロシアは、中国と同様、朝鮮半島の非核化や六者会合の早期再開の支持を表明している。17(平成29)年9月の北朝鮮による6回目の核実験後には、ロシアは、国連安保理決議違反であると北朝鮮の核実験を非難しつつも、緊張を高める措置は避けるべきとの姿勢を示したが、同年9月の国連安保理決議2375号には同意した。また、同年12月に採択された国連安保理決議2397号に賛成する一方で、北朝鮮に対する圧力は対話と交渉へと席を譲らなければならないと主張している。

18(平成30)年6月の米朝首脳会談を受け、ロシアは、朝鮮半島周辺における政治・外交的プロセスの支援に向けて、引き続き積極的に尽力する姿勢を示すとともに、関係各国に対して、多国間協議の様式についての検討に着手することを呼び掛けている。最近では、19(平成31)年4月、金正恩委員長がウラジオストクを訪問してプーチン大統領と会談し、関係発展及び朝鮮半島情勢などについて意見交換したほか、プーチン大統領は金正恩委員長からの訪朝要請を快諾したとされる。

(5)その他の国との関係

北朝鮮は、1999(平成11)年以降、相次いで西欧諸国などとの関係構築を試み、欧州諸国などとの国交の樹立73やARF(ASEAN Regional Forum)閣僚会合への参加などを行ってきた。また、イラン、シリア、パキスタン、ミャンマー、キューバといった国々との間では、武器取引や武器技術移転を含む軍事分野での協力関係が伝えられている。

また、近年では、北朝鮮はアフリカ諸国との関係を強化しているものとみられ、北朝鮮高官がアフリカ諸国を訪問している74。これらの関係強化の背景には、通常の政治・経済上の協力強化といった目的のほか、国連安保理決議に基づく制裁や中東の政治的混乱などにより困難になりつつある武器取引や軍事協力をアフリカ諸国で拡大し、外貨を獲得しようとする狙いも含まれるとみられる。実際、国連安保理決議に違反する取引などの事例も指摘75されており、これらの北朝鮮の違法な活動が核・弾道ミサイル開発の資金源となる可能性が懸念される。

17(平成29)年の累次にわたる国連安保理決議を受け、欧州、アフリカ、中東、南アジア、東南アジアなどにおいても、北朝鮮との外交関係の見直しや経済関係の見直しが行われている76。他方で、最近では北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相が18(平成30)年11月から12月にかけてベトナム、シリア、中国、モンゴルを訪問したほか、同年11月から12月にかけて金永南最高人民会議常任委員会委員長がキューバ、ベネズエラ、メキシコを訪問するなど、外交関係の強化を図っている。

1 北朝鮮はこれまで、故金日成(キム・イルソン)国家主席の生誕100周年にあたる12(平成24)年に「強盛大国」の扉を開くとしてきたが、最近では「強盛国家」との表現が主に用いられている。

2 第7回朝鮮労働党大会決定書「朝鮮労働党中央委員会事業総括について」(16(平成28)年5月8日)

3 16(平成28)年6月に開催された最高人民会議において、国防委員会を国務委員会に改め、金正恩氏が「国務委員長」に推戴されたことを受け、金正恩氏の役職は国務委員長に統一している。

4 金正恩委員長は、19(平成31)年1月の「新年の辞」においても、国防力を世界の先進国家の水準へと引き続き向上させる旨述べている。

5 例えば、「日本のすべての罪悪を総決算するもの」として「我が軍隊の無慈悲な報復打撃を免れない」(10(平成22年)7月)と主張したほか、「横須賀、三沢、沖縄、グアムはもちろん、米本土もわれわれの射程圏内にある」(13(平成25)年3月31日付「労働新聞」)、「日本の全領土は、われわれの報復攻撃の対象となることを免れられない(その文脈で、東京、大阪、横浜、名古屋、京都の地名を列挙)」(09(平成21)年5月29日「朝鮮中央通信」及び13(平成25)年4月10日付「労働新聞」)など。最近では、17(平成29)年9月13日の朝鮮中央放送が、「日本列島を核爆弾で海中に沈める」旨述べているほか、同年10月9日付「労働新聞」は、「ひとたび朝鮮半島で戦争の火の手が上がれば、日本は絶対に無事ではいられない。日本にある米国の侵略基地(複数)はもとより、戦争に動員される日本のあらゆるものが粉々になりかねない」などと述べている。

6 1962(昭和37)年に朝鮮労働党中央委員会第4期第5回総会で採択された。

7 北朝鮮は、改良型戦車(爆風(ポップン)号、天馬(チョンマ)号、先軍(ソングン)号)を開発・生産し続けているとされる。また、韓国国防部が15(平成27)年1月に公表した「2014国防白書」では、北朝鮮による新型の300mm多連装ロケットの開発や戦車・装甲車・多連装ロケットの保有数の大幅増加などが指摘されている。さらに、「2018国防白書」では、北朝鮮による新型戦車の追加生産のほか、精密誘導弾などの特殊弾の開発が指摘されている。なお、16(平成28)年3月には、300mm多連装ロケットを3回にわたり多数発射し、同年4月には新型の短距離地対空ミサイルを発射したとされている。また、北朝鮮は、17(平成29)年5月28日に新型の対空迎撃ミサイルの試験発射を、同年6月9日に新型の地対艦巡航ミサイルの試験発射を行い、それぞれ成功した旨発表している。

8 北朝鮮の特殊部隊には軍関係のものと朝鮮労働党関係のものがあるとされていたが、09(平成21)年にこれらの組織が統合され、軍の下に「偵察総局」が設置されたと伝えられており、13(平成25)年3月には、北朝鮮の朝鮮中央放送が、金英哲(キム・ヨンチョル)大将を偵察総局長として報じたことから、同組織の存在が公式に確認された。なお、サーマン在韓米軍司令官(当時)は、12(平成24)年10月の米陸軍協会における講演で「北朝鮮は、世界最大の特殊部隊を保有しており、その兵力は6万人以上に上る」と述べているほか、韓国の「2018国防白書」は、「北朝鮮軍の特殊戦兵力は現在、約20万人に達するものと評価される」と指摘している。なお、同白書は北朝鮮の特殊部隊が「特殊作戦軍」として独立軍種化された旨指摘している。

9 16(平成28)年2月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「北朝鮮は、おそらく、政治目標の達成を支援するために、妨害又は破壊を伴うサイバー攻撃を実施する能力及び意志を有している」と指摘しているほか、18(平成30)年5月に公表された米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」は、「北朝鮮はサイバー戦能力を、情報収集ならびに韓国、日本及び米国を含む他国の混乱を招くための高効率、魅力的かつ否認可能な手段としてみている」と指摘している。また、韓国の「2018国防白書」によれば、北朝鮮は約6,800人のサイバー戦要員を運用しており、専門的な人材の育成等、サイバー戦力増強のための取組を継続している。北朝鮮によるサイバー攻撃事案については、3章3節参照

10 プルトニウムは、原子炉でウランに中性子を照射することで人工的に作り出され、その後、再処理施設において使用済の燃料から抽出し、核兵器の原料として使用される。一方、ウランを核兵器に使用する場合は、自然界に存在する天然ウランから核分裂を起こしやすいウラン235を抽出する作業(濃縮)が必要となり、一般的に、数千の遠心分離機を連結した大規模な濃縮施設を用いてウラン235の濃度を兵器級(90%以上)に高める作業が行われる。

11 北朝鮮は03(平成15)年10月に、プルトニウムが含まれる8,000本の使用済み燃料棒の再処理を完了したことを、05(平成17)年5月には、新たに8,000本の使用済み燃料棒の抜き取りを完了したことをそれぞれ発表している。なお、韓国の「2018国防白書」は、北朝鮮が50kg余りのプルトニウムを保有していると推定しており、「2016国防白書」における評価を維持している。

12 16(平成28)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、北朝鮮は「ウラン濃縮施設を拡張し、以前プルトニウム製造に使用していた原子炉を再稼働させ、自身が表明したことを実行した」と指摘。北朝鮮は13(平成25)年8月末には原子炉を再稼働したと指摘され、原子炉が再稼働すれば、1年あたり核爆弾約1個を製造できる量のプルトニウム(約6kg)を製造できる能力を有することになるとの指摘がある。

13 韓国の「2018国防白書」は、(北朝鮮の)高濃縮ウラン(HEU:Highly Enriched Uranium)を相当量保有していると評価している。なお、寧辺所在のウラン濃縮施設とは異なるウラン濃縮施設が「カンソン」に存在するとの指摘もある。

14 06(平成18)年10月27日、わが国が収集した情報とその分析並びに米国や韓国の分析などをわが国独自で慎重に検討・分析した結果、政府として、北朝鮮が核実験を行った蓋然性が極めて高いものと判断するに至った。

15 政府としては、09(平成21)年5月25日に北朝鮮が朝鮮中央通信を通じて地下核実験を実施し成功させた旨を公表したこと及び気象庁が、自然地震ではない可能性のある地震波を探知したことから、北朝鮮が同日に核実験を行ったものと考えている。

16 13(平成25)年2月12日午前11時59分頃、北朝鮮付近を震源とする、自然地震ではない可能性のある地震波を気象庁が観測し、また、同日、朝鮮中央通信を通じ北朝鮮が核実験を実施し成功させた旨公表があった。これらを踏まえ、政府において、米国や韓国などと連絡をとりつつ、事実関係の確認を行った。政府としては、以上の諸情報を総合的に勘案した結果、北朝鮮が核実験を実施したものと判断した。なお、北朝鮮は、「第3回地下核実験を成功裏に行った」「以前とは異なり、爆発力が大きいながらも小型化・軽量化された原子爆弾を使用し、高い水準で安全かつ完璧に行われた」「多種化されたわれわれの核抑止力の優秀な性能が物理的に誇示された」などと発表している。

17 16(平成28)年1月6日午前10時30分頃、北朝鮮付近を震源とする、自然地震ではない可能性のある地震波を気象庁が観測し、また、同日、北朝鮮は朝鮮中央通信を通じ、水爆実験を実施し成功させた旨の声明を公表した。政府としては、これらの情報を含め、諸情報を総合的に勘案した結果、北朝鮮が核実験を実施したものと判断した。

18 16(平成28)年9月9日午前9時30分頃、気象庁が北朝鮮付近を震源とする、自然地震ではない可能性のある地震波を探知した。これを含む諸情報を総合的に勘案した結果、政府としては、北朝鮮が核実験を実施したものと考えている。

19 17(平成29)年9月3日午後0時31分頃、気象庁が北朝鮮付近を震源とする、自然地震ではない可能性のある地震波を探知した。これを含む諸情報を総合的に勘案した結果、政府としては、北朝鮮が核実験を実施したものと判断している。

20 17年(平成29)年9月3日の朝鮮中央通信は、金正恩委員長による核兵器研究所視察に関する報道で、北朝鮮は「広大な地域に対する超強力EMP(電磁パルス)攻撃」を加えることができる旨発表している。

21 北朝鮮が06(平成18)年10月に初めて核実験を実施してから既に10年以上が経過し、また北朝鮮はこれまでに6回の核実験を実施している。このような技術開発期間及び実験回数は、米国、旧ソ連、英国、フランス、中国における小型化・軽量化技術の開発プロセスと比較しても不十分とは言えないレベルに到達しつつある。韓国の「2018国防白書」においては「北朝鮮の核兵器の小型化能力は相当なレベルに達している」との評価が示されている。

22 韓国の「2018国防白書」では、6回目の核実験について、「核爆発威力は約50ktでこれは過去核実験に比べて著しく大きく、水素弾試験を実行したと評価された」としている。なお、北朝鮮は4回目となる16(平成28)年1月の核実験についても、水爆実験であった旨主張しているが、当該核実験の出力は6~7ktと推定されることから、一般的な水爆実験を行ったとは考えにくい。

23 16(平成28)年2月の米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」

24 例えば、14(平成26)年3月14日に発表された朝鮮民主主義人民共和国国防委員会声明では、米国が北朝鮮に対して核の威嚇と恐喝を行っており、北朝鮮は国と民族の自主権を守護するためにやむを得ず核抑止力を持つことになったと主張している。

25 例えば、13(平成25)年12月2日付の「労働新聞」論評は、「イラク・リビア事態は、米国の核先制攻撃の脅威を恒常的に受けている国が強力な戦争抑止力を持たなければ、米国の国家テロの犠牲、被害者になるしかないという深刻な教訓を与えている」と主張している。また、17(平成29)年4月8日付の「朝鮮民主主義人民共和国外務省スポークスマン談話」は、同月6日に行われた米軍によるシリア攻撃について「超大国だと自任しつつ、奇妙にも核兵器を持っていない国ばかり選んで横暴に殴りつけてきたのが歴代の米行政府であり、トランプ行政府もやはり少しも異なるところがない」と述べている。

26 北朝鮮は、05(平成17)年に核兵器製造を公言し、12(平成24)年に改正された憲法において、自らを「核保有国」である旨明記するとともに、13(平成25)年2月の3回目の核実験を実施後の同年4月には、「自衛的核保有国の地位をさらに強固にすることについての法」を定め、自らの「核保有国」としての地位を国際社会に認めさせようとする動きを見せた。また、16(平成28)年5月に開催された第7回朝鮮労働党大会において、金正恩党委員長は党中央委員会事業総括報告の中で、自国を「核保有国」と位置づけた上で、「並進の戦略的路線を恒久的に堅持し、自衛的な核武力を質・量的にさらに強化していく」旨述べている。

27 こうした主張については、核保有を当面続けることを前提とする主張であるといった指摘がある。

28 例えば、19(平成31)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「引き続き、完全な非核化と矛盾する行動を確認している」と指摘しているほか、19(平成31)年3月に公表された「国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル最終報告書」は、寧辺の核施設が稼働し続けている旨指摘している。

29 例えば、韓国の「2018国防白書」は、「(北朝鮮は)1980年代から化学兵器を生産し始め、約2,500~5,000トンの様々な化学兵器を貯蔵していると推定される。また、炭疽菌(たんそきん)、天然痘(てんねんとう)、ペストなど様々な種類の生物兵器を独自に培養し、生産しうる能力を保有していると推定される」と指摘している。また、18(平成30)年5月に公表された米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」は、「北朝鮮は、火砲や弾道ミサイルを含む様々な通常兵器を改良することにより、化学兵器を使用できる可能性がある」と指摘している。北朝鮮は、1987(昭和62)年に生物兵器禁止条約を批准しているが、化学兵器禁止条約には加入していない。

30 生物兵器又は化学兵器が搭載された弾道ミサイルについても、弾道ミサイル防衛システムにより対処することを基本としている。生物兵器又は化学兵器を搭載した弾道ミサイルをペトリオット・ミサイルPAC-3などにより破壊した場合のわが国の領土における被害については、弾頭の種類・性能、迎撃高度・速度、気象条件など様々な条件により異なることから、一概には言えないものの、一般論としては、弾道ミサイルに搭載された生物兵器又は化学兵器については、弾道ミサイルの破壊時の熱などにより、無力化される可能性が高く、仮に、その効力が残ったとしても、落下過程で拡散し、所定の効果を発揮することは困難であると考えられる。

31 北朝鮮は自ら、「外貨稼ぎを目的」に弾道ミサイルを輸出していると認めている。(1998(平成10)年6月16日「朝鮮中央通信」論評、02(平成14)年12月13日北朝鮮外務省報道官談話)一方、国際社会からの圧力の強化によって、北朝鮮の弾道ミサイル輸出が打撃を受けているとの指摘もある。

32 「Jane's Sentinel Security Assessment China and Northeast Asia(18(平成30)年5月アクセス)」によれば、北朝鮮は弾道ミサイルを合計700~1,000発保有しており、そのうち45%がスカッド級、45%がノドン級、残り10%がその他の中・長距離弾道ミサイルであると推定されている。

33 なお、18(平成30)年2月に行われた軍事パレードに登場した小型の車載式ミサイルについて、新型の固体燃料推進方式の短距離弾道ミサイルであるとの指摘がある。

34 一般論として、弾道ミサイルの弾頭部の小型の翼については、空力安定、飛翔中の操縦、精度向上の機能があるとされている。

35 例えば、「Jane's Sentinel Security Assessment China and Northeast Asia(18(平成30)年5月アクセス)」は、17(平成29)年5月29日の試験発射は、MaRVを装備した、スカッドをベースとする短距離弾道ミサイルの初めての発射であるとみられ、北朝鮮による精密誘導システムの進歩を示すものであると指摘している。

36 北朝鮮は、15(平成27)年5月9日にSLBMの試験発射に成功した旨発表したほか、16(平成28)年1月8日に、15(平成27)年5月に公開したものとは異なるSLBMの射出試験とみられる映像を公表、16(平成28)年4月24日及び8月25日にもSLBMの試験発射に成功した旨発表している。また、北朝鮮は発射の事実を公表していないが、防衛省としては、同年7月9日にも北朝鮮がSLBMと推定される弾道ミサイル1発を発射したと推定している。

37 北朝鮮のSLBMは、ムスダン同様、液体燃料推進方式の旧ソ連製SLBM「SS-N-6」を改良したものであると指摘されている。

38 16(平成28)年8月25日朝の朝鮮中央放送によれば、北朝鮮は、今回の試験発射が、いわゆる「ロフテッド軌道」による発射を意味すると考えられる「高角発射態勢」に基づいて「周辺諸国の安全にいかなる否定的影響も与えず、成功裏に実施された」と発表している。

39 「Jane's Fighting Ships 2018-2019」による。

40 ムスダンの射程については約2,500~4,000kmに達するとの指摘があり、わが国全域に加え、グアムがその射程に入る可能性が指摘されている。スカッドやノドンと同様に、液体燃料推進方式で、TELに搭載され移動して運用される。ムスダンは北朝鮮が1990年代初期に入手した旧ソ連製潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)SS-N-6を改良したものであると指摘されている。

41 今回の発表のほか、初の水爆実験に成功した旨の発表(16(平成28)年1月6日)及び地球観測衛星「光明星」4号打ち上げが成功した旨の発表(同年2月7日)が、「特別重大報道」として行われている。

42 テポドン2を開発するための過渡的なものであった可能性がある弾道ミサイルとして、テポドン1がある。テポドン1は、ノドンを1段目、スカッドを2段目に利用した2段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、射程は約1,500km以上と考えられる。テポドン1については、1998(平成10)年に、北朝鮮北東部沿岸地域のテポドン地区から発射され、その一部がわが国上空を越え三陸沖に落下したと推定される。

43 防衛省としては、16(平成28)年6月、鳥取県の海岸にて発見された漂着物は、北朝鮮が同年2月に発射したテポドン2派生型の先端部の「外郭覆い」(フェアリング)の一部と評価し、同フェアリングは、欧米などのロケット開発国が一般的に使用するものとは異なる部分があり、大気圏突破に必要な強度や熱防護性を有しているとみられるものの、軽量化が徹底されていないことなどを確認した。

44 米国ジョンズホプキンス大学米韓研究所ウェブサイト(38North)が14(平成26)年10月1日及び同年7月29日付で公表した記事は、東倉里(トンチャンリ)地区を撮影した衛星画像を分析した結果、発射タワーが高さ55mに延伸されており、12(平成24)年12月に使用されたテポドン2派生型(全長約30m)よりも大型の全長50mまでのロケットが発射可能となると指摘している。

45 なお、固定式発射台からの発射は外部からの攻撃に対し脆弱であることから、北朝鮮は今後発射施設の地下化・サイロ化や長射程の弾道ミサイルのTELからの発射といった抗たん性及び残存性の追求を図っていく可能性がある。

46 15(平成27)年2月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「北朝鮮は移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)KN-08を2度公開した。このミサイルは未だ試験はなされていないものの、北朝鮮はこのミサイルシステムの配備に向けた初期段階の措置を既にとった」と評価している。

47 15(平成27)年10月13日付の「Jane's Defence Weekly」は、同年10月10日の軍事パレードに登場した「KN-08」について、3段目が以前より大きくなっていることから射程が延伸されている可能性、質の低い先端部の素材では再突入時の高温に耐えられないため、速度を落とし弾頭部を保護するために鈍頭化した可能性などを指摘している。

48 北朝鮮は、1990年代までに、ノドンなど、より長射程の弾道ミサイル開発に着手したと考えられる。

49 17(平成29)年1月1日の「新年の辞」では、大陸間弾道ロケット試験発射準備事業が最終段階に至った旨発表していた。

50 北朝鮮が公表した画像によれば、当該試験は、固定した台の上に設置した試験体に弾道ミサイルのエンジンを噴射することにより、弾頭部の大気圏外からの再突入の際に生じる高温を模した試験の実施を企図したものと考えられる。一般的に、弾道ミサイルのエンジンの噴射のみでは弾頭部の大気圏外からの再突入の状況を再現することは困難であり、大気の流れによる影響なども含めた正確な実証を行うためには、飛翔試験による技術検証を行うことが必要である。

51 北朝鮮が、17(平成29)年11月29日の発射により、長射程の弾道ミサイルの実用化に必要な大気圏再突入時の弾頭保護技術を実証し得たのかについては、引き続き分析が必要である。いずれにせよ、北朝鮮は弾道ミサイルの発射を繰り返すことにより、関連技術は蓄積していると考えられる。

52 北朝鮮は、16(平成28)年4月に「新型大陸間弾道ロケット(ICBM)大出力発動機(エンジン)」の地上燃焼実験の実施を、同年9月に「新型衛星運搬ロケット用大出力発動機(エンジン)」の地上燃焼実験の実施を、17(平成29)年3月に、新型の「大出力エンジン」の地上燃焼実験の実施を発表している。

53 さらに、北朝鮮メディアが17(平成29)年8月23日、金正恩委員長による国防科学院化学材料研究所の視察を報じた際の写真に「北極星3」と書かれたパネルが写っており、「北極星」との呼称から、固体燃料を使った新型の弾道ミサイルの開発が行われているとの指摘もある。

54 19(平成31)年3月に公表された「国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル最終報告書」。同報告書は北朝鮮の弾道ミサイルについて、北朝鮮が弾道ミサイルの組立・保管・実験施設を分散させる一貫した傾向があると指摘をしている。

55 張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長の処刑後には、北朝鮮メディアは「唯一的領導体系」の強化や「一心団結」を繰り返し呼び掛けており、例えば、14(平成26)年1月10日付「労働新聞」社説では「一心団結を損なう些細な現象や要素に対しても警戒心を持つ」ことを求めている。また、15(平成27)年5月には玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長が反逆罪に問われ処刑された可能性が指摘され、北朝鮮メディアは同年7月、朴永植(パク・ヨンシク)前軍総政治局副局長を人民武力部長の肩書きで紹介している。

56 朝鮮中央放送によれば、金与正氏は16(平成28)年5月に開催された党大会において党中央委員に選出され、17(平成29)年10月に開催された第7回朝鮮労働党大会第2回会議において、金与正氏は、党中央委員会政治局候補委員に選出された。

57 党大会においては、党中央指導機関(党中央委員会、党政治局など)の委員・候補委員の選挙が実施され、党政治局常務委員に朴奉珠(パク・ポンジュ)首相、崔竜海(チェ・リョンヘ)党書記(同大会において肩書きが党書記から党中央委員会副委員長に変更)が新たに選出され、党政治局常務委員は金正恩委員長、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委委員長及び黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長とあわせ、5人体制となった。党政治局常務委員の5人はいずれも生粋の軍人ではないこと、党政治局内での軍人の序列が押し下げられていること、党中央軍事委員会の構成員に朴奉珠首相が加わったことなどは、党中心の統治体制の本格化の表れであるとの指摘がある。

58 また、16(平成28)年6月の最高人民会議後、メディアにおいて、国防相に当たると考えられる「人民武力部長」が「人民武力相」の肩書きで紹介されたことから、国防委員会の国務委員会への改編に伴い、人民武力部が人民武力省に改編された可能性がある。

59 国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)は、18(平成30)年12月に公表した報告書において、北朝鮮を外部からの食糧支援が必要な食糧不足国に分類するともに、北朝鮮が慢性的な食糧不足を解決できない要因として、農業機械及び肥料が不足していることなどを挙げている。

60 例えば、09(平成21)年末にはデノミネーション(貨幣の呼称単位切下げ)などが行われたが、物資の供給不足などのため物価が高騰するなど経済が混乱し、これに伴い社会不安が増大した。

61 13(平成25)年3月31日の党中央委員会総会において金正恩委員長は、各道に経済開発区を設置するよう指示し、これに基づき同年5月には経済開発区法が制定された。これまでに21か所の経済開発区が設置されている。

62 政策の細部については必ずしも明らかでないが、工業部門については、国家計画外の生産を独自に決定・販売し、従業員の報酬、福利厚生なども独自の実情に合わせて実施するものとされる。農業部門については、家族単位の自律経営制を導入し、土地を1人あたり1,000坪支給したうえで、生産物は国家が40%、個人が60%の割合で分配すると指摘されている。

63 18(平成30)年に入ってから19(令和元)年5月末までの間に、北朝鮮籍タンカーと外国籍タンカーが公海上で接舷(横付け)している様子を海自哨戒機などが計14回確認している。これらの船舶は、政府として総合的に判断した結果、「瀬取り」を実施していたことが強く疑われる。これらの事案の詳細や、わが国の対応については、III部1章2節参照。

64 例えば、17(平成29)年8月8日の朝鮮人民軍戦略軍スポークスマン声明において、北朝鮮は、「中長距離戦略弾道ロケット『火星12』型でグアム島周辺への包囲射撃を断行するための作戦方案を慎重に検討している」などと述べたほか、同年9月22日の国務委員会委員長声明において、金正恩委員長は、米国に対し、「史上最高の超強硬対応措置断行を慎重に考慮する」などと述べている。

65 この点、17(平成29)年3月24日付の労働新聞は、米韓合同軍事演習に対応して「わが戦略軍も弾道ロケット発射訓練を定例化している」と述べている。

66 韓国側の発表によれば、北朝鮮は会談において、18(平成30)年4月末の南北首脳会談の開催及び南北首脳間のホットラインの設置で韓国と合意したほか、北朝鮮に対する軍事的脅威が解消され、体制の安全が保障されれば核を保有する必要はないこと、非核化及び米朝関係正常化に向け米朝対話の用意があること、対話継続中は核実験、ミサイル発射などの挑発は再開しないことなどを表明し、また、定例の米韓合同軍事演習に理解を示したとされる。

67 韓国政府の発表によれば、18(平成30)年10月には、「「板門店宣言文」履行のための軍事分野合意書」に基づき板門店の共同警備区域の非武装化が完了し、同年11月1日からは軍事境界線一帯における(双方を対象とした)各種の軍事演習の中止、軍事境界線上空における飛行禁止区域の設置などが履行されている。また、大規模軍事訓練及び武力増強問題などについて協議する「南北軍事共同委員会」の稼働についても協議が進められている。

68 朝鮮戦争は1950(昭和25)年6月に始まり、1953(昭和28)年7月に休戦協定が成立した。「板門店宣言文」において南北は、休戦協定締結65周年となる今年中に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換するための協議を行っていく旨表明している。

69 締約国(中国、北朝鮮)の一方が軍事攻撃を受け、戦争状態に陥った際には、他方の締約国は、直ちに全力をあげて軍事及びその他の支援を与える旨の規定が含まれている。

70 大韓貿易投資振興公社の発表による。

71 中国商務部は18(平成30)年1月5日、国連安保理決議2397号に基づき、北朝鮮に対する原油や石油製品の輸出を制限するなどの措置を同月6日から実施する旨発表した。

72 中国側の発表によれば、中朝首脳会談において、金正恩委員長は、韓国と米国が和平実現のために、段階的かつ同じ歩調の措置を採れば、朝鮮半島の非核化問題は解決に至る旨述べたとされる。なお、今回の中朝首脳会談に伴う訪中は、金正恩体制における金正恩委員長の初の外遊とされる。

73 例えば、英国は00(平成12)年、ドイツは01(平成13)年にそれぞれ北朝鮮と国交を樹立した。

74 例えば、16(平成28)年5月、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委委員長が赤道ギニア大統領就任式に出席し、同国大統領と会談したほか、同就任式に出席していたチャド共和国、ガボン共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、ギニア共和国、マリ共和国の首脳とも会談を行った。

75 19(平成31)年3月に公表された「国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル最終報告書」は、小型武器やその他の軍事装備品をイエメンの反体制派であるホーシー派やリビア、スーダンに対し、仲介者を通じて供給を企図したと指摘している。

76 例えば、17(平成29)年9月にスペイン、同年10月にはイタリアがそれぞれ北朝鮮「大使」を国外へ退去させる旨発表し、フィリピンは同年9月に北朝鮮との貿易を停止する旨発表した。また、スーダンが同年11月に北朝鮮とのすべての取引を停止した旨表明したほか、同年10月にウガンダは北朝鮮軍人及び武器関連会社などの関係者を国外退去させた旨表明している。