Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 軍事

1 全般

中国は、過去30年以上にわたり、透明性を欠いたまま、継続的に高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している。その際、軍全体の作戦遂行能力を向上させるため、また、全般的な能力において優勢にある敵の戦力発揮を効果的に阻害する非対称的な能力を獲得するため、情報優越を確実に獲得するための作戦遂行能力の強化も重視している。具体的には、敵の通信ネットワークの混乱などを可能とするサイバー領域や、敵のレーダーなどを無効化して戦力発揮を妨げることなどを可能とする電磁波領域における能力を急速に発展させるとともに、敵の宇宙利用を制限することなどを可能とする宇宙領域における能力強化も継続するなど、新たな領域における優勢の確保を重視してきている。このような能力の強化は、いわゆる「A2/AD」能力の強化や、より遠方での作戦遂行能力の構築につながるものである。さらに、軍改革などを通じた統合作戦遂行能力の向上も重視している。加えて、技術開発などの様々な分野において軍隊資源と民間資源の双方向での結合を目指す軍民融合政策を全面的に推進しつつ、軍事利用が可能な先端技術の開発・獲得にも積極的に取り組んでいる。

このような作戦遂行能力を強化する取組に加え、中国は、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張2に基づき、力を背景とした一方的な現状変更を試みるとともに、東シナ海をはじめとする海空域において、軍事活動を拡大・活発化させている。特に海洋における利害が対立する問題をめぐっては、高圧的とも言える対応を継続させており、その中には不測の事態を招きかねない危険な行為もみられる。加えて、力を背景とした現状変更の既成事実化を着実に進めるなど、自らの一方的な主張を妥協なく実現しようとする姿勢を継続的に示している。

中国軍指導部は、わが国固有の領土である尖閣諸島に対する「闘争」の実施、「東シナ海防空識別区」の設定や、海・空軍による「常態的な巡航」などを軍の活動の成果として例示したうえで、今後とも軍の作戦遂行能力の向上に努める旨強調している3。これらの例示内容が具体的にどのような活動を指すのかは必ずしも明らかではないが、近年、中国軍が東シナ海や太平洋、日本海といったわが国周辺などでの活動を急速に拡大・活発化させてきたことを踏まえると、これまでの活動の定例化を企図しているのみならず質・量ともにさらなる活動の拡大・活発化を推進する可能性が高い。同時に、中国は近年、海空域における不測の事態を回避・防止するための取組にも関心を示している。

実戦的な作戦遂行能力の強化を目的とした軍近代化の一環として、15(平成27)年12月末以降、中国は軍改革に取り組んできており、着実かつ急速な進展がみられる。併せて、法に基づく軍の統治の貫徹に努めるとともに、実戦に即した訓練の実施や人材育成などを通じた統合作戦遂行能力の向上を図っている。第19回党大会(17(平成29)年10月)において、従来表明していた「三段階発展戦略」の第三段階の目標実現の時期を15年前倒しする方針が示されたが、これは、軍近代化に関し、中国自らの想定以上の発展がみられたことを踏まえた決定と考えられる。習総書記の中国共産党における権力基盤の強化に加え、中央軍事委員会主席としての権限のより一層の掌握を背景に、実戦的な作戦遂行能力の強化を目的とした軍近代化の動きは今後さらに加速する可能性がある。

KEY WORD中央軍事委員会とは

中国軍の指導・指揮機関。形式上は中国共産党と国家の二つの中央軍事委員会があるが、党と国家の中央軍事委員会の構成メンバーは基本的には同一であり、いずれも実質的には中国共産党が軍事力を掌握するための機関とみなされている。

そのうえで、前述の急速な作戦遂行能力の強化やわが国周辺での活動を拡大・活発化させてきていることなどは、国防政策や軍事力の不透明性とあいまって、わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある。

2 国防政策

中国は、強固な国防と強大な軍隊の建設を、国家の近代化建設のための戦略的な任務であると同時に、「平和的発展」下にある国家の安全を保障するものと位置づけている。国防政策の目標と任務は、主に、新たな安全保障環境の変化に適応すること、中国共産党の強軍目標の実現に向け積極防御4の戦略方針を貫徹すること、国防と軍隊の近代化を加速すること、国家の主権、安全、発展の利益を断固として擁護すること、並びに中華民族の偉大なる復興という「中国の夢」を実現するため、強固な保障を提供することであるとしている。中国は、このような自国の国防政策を防御的であるとしている5。また、中国は、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視しているとみられ、「三戦」と呼ばれる「輿論(よろん)戦」、「心理戦」及び「法律戦」を軍の政治工作の項目としているほか、軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させるとの方針も掲げている。

KEY WORD三戦とは

中国は03(平成15)年12月に改正した「中国人民解放軍政治工作条例」に輿論戦(よろんせん)・心理戦・法律戦の展開を政治工作に追加。これらをまとめて「三戦」と呼ぶ。米国防省によると、①輿論戦:中国の軍事行動に対する大衆及び国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反するとみられる政策を追求することのないよう、国内及び国際世論に影響を及ぼすことを目的とするもの、②心理戦:敵の軍人及びそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするもの、③法律戦:国際法および国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する予想される反発に対処するもの。

中国は、湾岸戦争やコソボ紛争、イラク戦争などにおいて見られた世界の軍事発展の動向に対応し、情報化局地戦に勝利するとの軍事戦略に基づいて、軍事力の情報化を主な内容とする「中国の特色ある近代軍事力の体系を構築する」ことに努めるとの方針をとっている。中国の軍事力強化においては、台湾問題への対処、具体的には台湾の独立及び外国軍隊による台湾の独立支援を阻止する能力の向上が、最優先の課題として念頭に置かれていると考えられる。さらに、近年では、拡大する海外権益の保護などのため、より遠方の海域での作戦遂行能力などについても着実に向上させている。

軍近代化の今後の指標については、第19回党大会(17(平成29)年10月)の習総書記の報告において、2020年までに機械化・情報化建設の重大な進展・戦略能力の大幅な向上を基本的に実現できるよう保証すること、2035年までに国防・軍近代化を基本的に実現すること、21世紀中葉までに中国軍を世界一流の軍隊にすることという目標が掲げられた。これらは、従来掲げていた「21世紀中葉に国防と軍隊の近代化の目標を基本的に実現する」という「三段階発展戦略」の第三段階の目標時期の前倒しであるとされており、国力の向上に伴い作戦遂行能力もますます急速に発展させていく考えであるとみられる。

3 国防政策や軍事力に関する透明性

中国は、従来から、軍事力の強化の具体的な将来像を明確にしておらず、軍事や安全保障に関する意思決定プロセスの透明性も十分確保されていない。また、具体的な装備の保有状況、調達目標及び調達実績、主要な部隊の編成や配置、軍の主要な運用や訓練実績、国防費の内訳などについて明らかにしていない6

中国は、1998(平成10)年以降ほぼ2年ごとに「中国の国防」などの国防白書を公表していた。15(平成27)年5月の国防白書「中国の軍事戦略」以降、国防白書を公表していなかったが、19(令和元)年7月、約4年ぶりに「新時代における中国の国防」と題する国防白書が公表された。なお、13(平成25)年及び15(平成27)年に公表された国防白書においては、記述を特定のテーマに限定し、それまでの国防白書にはあった国防費に関する記述が一切なくなり、全体の記述量も減少した。19(令和元)年に公表された国防白書においては、再び国防費に関して記述されたものの、国際社会の責任ある国家として望まれる透明性は依然として確保されていない。

中国の軍事に関する意思決定や行動に懸念を生じさせる事案も発生している7。例えば、中国原子力潜水艦によるわが国領海内潜没航行事案(04(平成16)年11月)については、国際法違反にもかかわらずその詳細な原因は明らかにされていない。また、18(平成30)年1月には、中国海軍潜水艦によるわが国尖閣諸島周辺の接続水域内の潜没航行が確認されたが、中国は、その事実を認めていない8。近年、作戦遂行能力の強化に伴う軍の専門化の進展や任務の多様化など軍を取り巻く環境が大きく変化してきている中で、共産党指導部と軍との関係が複雑化しているとの見方や、対外政策決定における軍の影響力が変化しているとの見方もあり、こうした状況は危機管理上の課題としても注目される。

中国の軍事に関する意思決定や行動に懸念を生じさせるような説明は、中国が一方的な現状変更とその既成事実化を進める南シナ海9に関してもみられる。習国家主席は15(平成27)年9月、米中首脳会談後の会見で、南シナ海で「軍事化を追求する意図はない」と述べていたが、その後16(平成28)年2月、王毅(おう・き)外交部長は、南シナ海における施設は中国が国際法に基づき「必要な防衛施設」を整備しているものと説明した。また、17(平成29)年には、公式メディアにおいて、中国は「必要な軍事防衛を強化」するために南シナ海の島・岩礁の面積を合理的に拡大したとの主張もみられた。

一方で、中国は、外国の国防当局との対話を数多く行っている10。さらに、中国国防部は11(平成23)年4月から毎月定例で報道官による記者会見を行っているほか、13(平成25)年11月には海軍、空軍、第二砲兵(当時)などに報道官が新設された。中国による国防白書の公表や外国の国防当局との対話の取組などは、国防政策や軍事力に関する透明性向上に資する面もある一方、「輿論戦」を強化するための動きとも考えられる。

中国は、政治面、経済面に加え、軍事面においても国際社会で大きな影響力を有するに至っている。中国に対する懸念を払拭するためにも、中国が自らの軍事活動に関して事実に即した説明を行うとともに、国防政策や軍事力の透明性を向上させていくことがますます重要になっており、今後、具体的かつ正確な情報開示などを通じて透明性を高めていくことが強く望まれる。

4 国防費

中国は、2019年度の国防予算を約1兆1,899億元と発表した11。これを前年度の当初予算額と比較すると約7.5%(約829億元)の伸び12となる。中国の公表国防費は、1989年度から毎年速いペースで増加しており13、公表国防費の名目上の規模は、1989年度から30年間で約48倍、2009年度から10年間で約2.5倍となっている。中国は、国防建設を経済建設と並ぶ重要課題と位置づけており、経済の発展に合わせて、国防力の向上のための資源投入を継続しているものと考えられるが、中国経済の成長の鈍化が今後の国防費にどのような影響を及ぼすか注目される。

また、中国が国防費として公表している額は、実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎないとみられている14。例えば、外国からの装備購入費や研究開発費などは公表国防費に含まれていないとみられる。

参照図表I-2-2-1(中国の公表国防費の推移)

図表I-2-2-1 中国の公表国防費の推移

5 軍事態勢

中国の軍事力は、人民解放軍、人民武装警察部隊(武警)15と民兵16から構成され、中央軍事委員会の指導及び指揮を受けるものとされている。人民解放軍は、陸・海・空軍とロケット軍などからなり、中国共産党が創建、指導する人民軍隊とされている。

(1)軍改革

中国は、現在、建国以来最大規模とも評される軍改革に取り組んでいる。

15(平成27)年11月、習国家主席は軍改革の具体的方向性について初めて公式の立場を表明し、「戦区」の設置及び統合作戦指揮機構の創設や軍の人員30万人の削減などからなる軍改革を20(令和2)年までに推進する旨発表した。

軍改革は急速に具体化しており、16(平成28)年末までに、「首から上」と呼ばれる軍中央レベルの改革は概成したとされる。具体的には、これまでの「七大軍区」17が廃止され、作戦指揮を主導的に担当する「五大戦区」、すなわち東部、南部、西部、北部及び中部戦区が新編された。また、陸軍指導機構18、ロケット軍19、戦略支援部隊20、聯勤(れんきん)保障部隊21が成立した。さらに、中国軍全体の指導機構が、統合参謀部、政治工作部、後勤保障部、装備発展部など、中央軍事委員会隷下の15の職能部門へと改編された。17(平成29)年以降、「首から下」と呼ばれる現場レベルでの改革にも本格的に着手しながら、軍改革は着実に進展していると考えられる。例えば、着上陸作戦などを任務とするとされる海軍陸戦隊の編制拡大や、武警の指導・指揮系統の中央軍事委員会への一元化、陸軍集団軍の18個から13個への改編などが確認された。18(平成30)年3月には、軍の人員30万人削減が基本的に完了した旨、中国国防部が公表している。

これら一連の改革は、統合作戦遂行能力の向上とともに、平素からの軍事力整備や組織管理を含めた軍事態勢の強化を図ることにより、より実戦的な軍の建設を目的としていると考えられる22。また、指導機構の改編は、中央軍事委員会及び同主席の直接的な指導の強化や、指導機構の分権を通じての軍中央での腐敗問題への対応がねらいであるとの指摘もある。なお、第19回党大会(17(平成29)年10月)において新たに選出された中央軍事委員会の委員の人数は、習主席を含めて計7人であり、近年続いていた体制からの削減となった23。また、習主席と関係が深いと指摘される人物が多く登用されていることから、中央軍事委員会、ひいては軍に対する習主席の指導力のさらなる強化が図られていると考えられる。

今後、これらの改革が引き続き進められることが予想されるが、急速な軍改革によって軍内部に不満が募っているとの見方もある24。軍改革を20(令和2)年までに推進することとされていることを踏まえ、改革の成果が注目される。

(2)核戦力及びミサイル戦力

中国は、核戦力及び弾道ミサイル戦力について、1950年代半ば頃から独自の開発努力を続けており、抑止力の確保、通常戦力の補完及び国際社会における発言力の確保を企図しているものとみられている。核戦略に関して、中国は、核攻撃を受けた場合に、相手国の都市などの少数の目標に対して核による報復攻撃を行える能力を維持することにより、自国への核攻撃を抑止するとの戦略をとっているとみられている25。また、現在進められている軍改革において、陸海空軍と同格のロケット軍が新設されたことなどから、中国は核・ミサイル戦力を今後も引き続き重視していくものと考えられる。

中国は、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)、中距離弾道ミサイル(IRBM/MRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile/Medium-Range Ballistic Missile)、短距離弾道ミサイル(SRBM:Short-Range Ballistic Missile)といった各種類・各射程の弾道ミサイルを保有している。これらの弾道ミサイル戦力は、液体燃料推進方式から固体燃料推進方式への更新による残存性及び即応性の向上が行われているほか、射程の延伸、命中精度の向上、終末誘導機動弾頭(MaRV:Maneuverable Reentry Vehicle)化や個別目標誘導複数弾頭(MIRV:Multiple Independently targetable Reentry Vehicle)化などの性能向上が図られているとみられている。

戦略核戦力であるICBMについては、これまでその主力は固定式の液体燃料推進方式のミサイルDF-5であった。近年、中国は、固体燃料推進方式で、発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)に搭載される移動型のDF-31及びその射程延伸型であるDF-31Aを配備しており、特にDF-31Aの数を今後増加させていくとの指摘もある。また、中国はDF-41として知られる新型ICBMを開発しているとみられている。SLBMについては、射程約8,000kmとみられているJL-2を搭載するためのジン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)が運用中とみられ、ジン級SSBNの核抑止パトロールにより、戦略核戦力は大幅に向上するものと考えられる26。加えて、中国はJL-3とも呼称される射程延伸型のSLBM及びそれを搭載するための新型SSBNの開発も行っているとの指摘もある。

わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収めるIRBM/MRBMについては、TELに搭載される移動型で固体燃料推進方式のDF-21やDF-26があり、これらは、通常・核両方の弾頭を搭載することが可能である。中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃するための通常弾頭の対艦弾道ミサイル(ASBM:Anti-Ship Ballistic Missile)DF-21Dを配備している27。また、グアムを射程に収めるDF-2628は、DF-21Dを基に開発された「第2世代ASBM」とされており、18(平成30)年4月、「戦闘序列に正式に加わった」として部隊配備が公表された。さらに、中国は、射程1,500km以上の長射程の対地巡航ミサイルであるCJ-20(CJ-10)及びこの巡航ミサイルを搭載可能なH-6爆撃機を保有している。これらは、弾道ミサイル戦力を補完し、わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収める戦力とみられている。中国は、これらASBM及び長射程の巡航ミサイルの戦力化を通じて、「A2/AD」能力の強化を目指していると考えられる。SRBMについては、固体燃料推進方式のDF-16、DF-15及びDF-11を多数台湾正面に配備しており、わが国固有の領土である尖閣諸島を含む南西諸島の一部もその射程に入っているとみられる。

H-6爆撃機

H-6爆撃機

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

最大速度:時速1,015km

主要兵装(H-6K):空対地巡航ミサイル(最大射程1,500km)

〈概説〉

国産戦略爆撃機。新型のH-6K爆撃機は、核弾頭を搭載できる巡航ミサイル(CJ-20)を搭載することが可能

また、中国は、ミサイル防衛の突破が可能となる打撃力を獲得するため、弾道ミサイルに搭載して打ち上げる「WU-14」と呼ばれるモデルを含む複数モデルの極超音速滑空兵器の開発を急速に推進しているとみられている29。18(平成30)年8月には、「ウェーブライダー」と呼ばれる形状の極超音速滑空兵器の実験を行ったとされる。このほかにも、極超音速滑空兵器を搭載しうるミサイルDF-17の開発が進展していると指摘されている30。これらの兵器は、超高速で低高度を飛行し、高い機動性を有することから、ミサイルによる迎撃がより困難とされている。

中国は、ミサイル防衛技術の開発にも力を入れているとみられる。10(平成22)年以降、ミッドコース段階におけるミサイル迎撃実験を行ってきているとされている31。弾道ミサイル防衛技術は、衛星破壊用ミサイルへの応用可能性を有することからも、中国による弾道ミサイル防衛の今後の動向が注目される。

参照図表I-2-2-2(中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程)

図表I-2-2-2 中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程)

(3)陸上戦力

陸上戦力は、約98万人とインド、北朝鮮に次いで世界第3位である。中国は、1985(昭和60)年以降行ってきた人員の削減や組織・機構の簡素化・効率化を、現在取り組んでいる軍改革においても実施しており、部隊の小型化、多機能化、モジュール化を進めながら、作戦遂行能力に重点を置いた軍隊を目指している。具体的には、これまでの地域防御型から全域機動型への転換を図り、歩兵部隊の自動車化、機械化を進めるなど機動力の向上を図っているほか、空挺部隊(空軍所属)、水陸両用部隊32、特殊部隊及びヘリコプター部隊の強化を図っているものと考えられる。また、統合作戦遂行能力の向上と効率的な運用に向けた指揮システムの構築に努力し、後方支援能力を向上させるための改革にも取り組んでいる。

中国は、「跨越(こえつ)」、「火力」及び「利刃(りじん)」といった、複数の区域に跨がる機動演習を毎年実施している。これは、陸軍の長距離機動能力、民兵や公共交通機関の動員を含む後方支援能力など、陸軍部隊を遠隔地に展開するために必要な能力の検証・向上などを目的とするものである。また、14(平成26)年以降は「統合(聯合)行動」で兵種合同・軍種統合演習が実施されているほか、18(平成30)年10月には、中部戦区陸軍と戦略支援部隊との協同訓練も実施したとされる。これらのことなどから、統合作戦遂行能力の向上も企図しているものと考えられる。

参照図表I-2-2-3(中国軍の配置と戦力)

図表I-2-2-3 中国軍の配置と戦力

(4)海上戦力

海上戦力は、北海、東海及び南海艦隊の3個の艦隊からなり、艦艇約760隻(うち潜水艦約60隻)、約190万トンを保有している。海上戦力の近代化は急速に進められており、海軍は、静粛性に優れるとされる国産のユアン級潜水艦や、艦隊防空能力や対艦攻撃能力の高い水上戦闘艦艇の量産を進めている。中国海軍最大規模のレンハイ級駆逐艦の開発を進めており、長射程の対地巡航ミサイルや超音速で着弾するYJ-18対艦巡航ミサイルを発射可能な垂直ミサイル発射システム(VLS:Vertical Launch System)などを搭載するとされている33。また、対地巡航ミサイルを搭載可能な潜水艦の開発に関する指摘もある。さらに、大型の揚陸艦や補給艦の増強などを行っている。17(平成29)年9月以降、空母群への補給を任務とすると指摘される高速戦闘支援艦(総合補給艦)が就役している。

ユアン級潜水艦

ユアン級潜水艦

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

水中排水量:3,600トン

速力:不明

主要兵装:艦対艦ミサイル(最大射程40km)、魚雷

〈概説〉

水中航走距離が長く、静粛性にも優れたAIP(Air Independent Propulsion)技術を採用している新型国産潜水艦。現在も増産中

レンハイ級駆逐艦

レンハイ級駆逐艦

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

満載排水量:1万2,000トン

速力:30ノット(時速約56km)

主要兵装:艦対地巡航ミサイル、艦対艦ミサイル(最大射程約540km)、艦対空ミサイル(最大射程150km)

〈概説〉

中国海軍最大規模の1万トン級駆逐艦であることから、巡洋艦と呼称されることも。現在も開発・増産中。

空母に関しては、初の空母「遼寧(りょうねい)」は12(平成24)年9月に就役後、国産のJ-15艦載機を用いた発着艦試験や訓練を、主に渤海や黄海で継続しているとみられていた34。そのような中、16(平成28)年12月には、渤海において、艦載戦闘機の実弾発射を含む実弾演習が、「遼寧」が参加する初の総合的実動演習として実施された。さらに、同月下旬には、複数の艦艇とともに同空母の太平洋及び南シナ海への進出が確認された。18(平成30)年3月から4月にかけては、「遼寧」が南シナ海で海上閲兵式に参加した後、太平洋に進出し、艦載戦闘機の活動を含む対抗訓練を行ったと発表されている。これらの活動は、海軍の遠方展開能力のさらなる拡大を示すものであると考えられる。また、「遼寧」の改良型とされるスキージャンプ式の国産空母が17(平成29)年4月に進水し、就役に向け、18(平成30)年5月以降、海上試験が行われている。さらに、国産空母2隻目を建造中であり、当該空母は電磁式カタパルトを装備する可能性があるとの指摘がある35

J-15艦載機

J-15艦載機

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

速度:不明

主要兵装:空対空ミサイル、対地・対艦ミサイル(推定)

〈概説〉

空母「遼寧」搭載の艦載機。J-11戦闘機及びSu-33戦闘機との類似点が数多く存在している。

このような海上戦力強化の状況などから、中国は近海における防御に加え、より遠方の海域における作戦遂行能力を着実に構築していると考えられる36

また、軍以外の武装力である民兵の中でも、いわゆる海上民兵が中国の海洋権益擁護のための尖兵的役割を果たしているとの指摘がある37。海上民兵については、南シナ海での活動などが指摘され38、漁民や離島住民などにより組織されているとされているが、その実態は明らかにされていない。海上において中国の「軍・警・民の全体的な力を十全に発揮」39する必要性が強調されていることも踏まえ、こうした非対称的戦力にも注目する必要がある40

(5)航空戦力

航空戦力は、海軍、空軍を合わせて作戦機を約2,890機保有している。第4世代の近代的戦闘機としては、ロシアからSu-27戦闘機及び対地・対艦攻撃能力を有するSu-30戦闘機の導入などを行っているほか、15(平成27)年11月、ロシアの国営軍事企業と、最新型の第4世代戦闘機とされるSu-35戦闘機24機の購入契約を締結し、すでに全機を受領したとみられている。また、国産の近代的戦闘機の開発も進めている。Su-27戦闘機を模倣したとされるJ-11B戦闘機や国産のJ-10戦闘機を量産しているほか、Su-30戦闘機を模倣したとされるJ-16戦闘機の実戦配備も開始している。ロシアのSu-33艦載機をモデルにしたとされる国産のJ-15艦載機は、空母「遼寧」に搭載されている。さらに、第5世代戦闘機との指摘もあるJ-20戦闘機の作戦部隊への配備を開始したとされており、J-31戦闘機の開発も進めている41

J-10戦闘機

J-10戦闘機

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

最大速度:マッハ1.8

主要兵装:空対空ミサイル(最大射程70km)、空対艦ミサイル(最大射程120km)

〈概説〉

国産の主力戦闘機。03(平成15)年の初就役以降、量産態勢にあるとの指摘

J-20戦闘機

J-20戦闘機

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

最大速度:時速3,063km

〈概説〉

ステルス性を有する第5世代戦闘機。18(平成30)年2月、作戦部隊へのJ-20の引き渡しが開始された旨、中国国防部が発表。

対地攻撃能力などを有する爆撃機の近代化も継続しており、中国空軍は、核弾頭対応とされる対地巡航ミサイルを搭載可能とされるH-6K爆撃機の保有数を増加させている。さらに、H-20とも呼称される新型の長距離ステルス爆撃機などを開発中とされている。

このほか、H-6U及びIL-78M空中給油機やKJ-500及びKJ-2000早期警戒管制機などの導入により、近代的な航空戦力の運用に必要な能力を向上させる努力も継続している。加えて、輸送能力向上のため、独自開発したY-20大型輸送機の配備を16(平成28)年7月に開始している42。さらに、偵察などを目的に高高度において長時間滞空可能な機体(HALE:High Altitude Long Endurance)や、ミサイルなどを搭載可能な機体を含む多種多様な無人機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)43の自国開発も急速に進めており、その一部については配備や積極的な輸出も行っている。実際に、空軍には攻撃を任務とする無人機部隊の創設が指摘されている。また、周辺海空域などで偵察などの目的のためにUAVを頻繁に投入しているほか、中国国内では低コストのUAVを多数使用して運用する「スウォーム(群れ)」技術44の向上も指摘されている。

KJ-2000早期警戒管制機

KJ-2000早期警戒管制機

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

詳細不明

〈概説〉

ロシア製のIL-76輸送機にドーム型レーダーを搭載した早期警戒管制機

Y-20大型輸送機

Y-20大型輸送機

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

最大巡航速度:時速796km

最大積載量:66,000kg(推定)

〈概説〉

中国が独自に研究開発した大型多用途輸送機。

16(平成28)年7月に部隊配備された。

空中給油機などの開発ベースとしての指摘も。

「スウォーム(群れ)」技術を利用した小型無人機【Jane's by IHS Markit】

「スウォーム(群れ)」技術を利用した小型無人機【Jane's by IHS Markit】

このような航空戦力の近代化状況などから、中国は、国土の防空能力の向上に加えて、より遠方での制空戦闘及び対地・対艦攻撃が可能な能力の構築や長距離輸送能力の向上を着実に進めていると考えられる45

参照図表I-2-2-4(中国の主な海上・航空戦力)

図表I-2-2-4 中国の主な海上・航空戦力

(6)宇宙・サイバー・電磁波の領域に関する能力

迅速で効率的な戦力発揮に欠くことのできない軍事分野での情報収集、指揮通信などは、近年、人工衛星やコンピュータ・ネットワークへの依存を高めている。そのような中、中国は、「宇宙空間及びネットワーク空間は各方面の戦略的競争の新たな要害の高地(攻略ポイント)」であると表明しており、紛争時に自身の情報システムやネットワークなどを防護する一方、敵の情報システムやネットワークなどを無力化し、情報優勢を獲得することが重要であると認識しているとみられ、そのための情報作戦46に資する能力を重視していると考えられる。実際に、15(平成27)年末に設立された戦略支援部隊は、宇宙・サイバー・電子戦に関する任務を負うと指摘されている。

中国の宇宙プログラムは、世界で最も短期間で発達したとされる。16(平成28)年12月に発表された「中国の宇宙」白書は、宇宙空間の平和利用を強調しているが、軍事利用を否定していない47。また、中国の宇宙利用に関わる行政組織や国有企業は、軍と密接な協力関係にあると指摘されており、中国は宇宙における軍事作戦遂行能力の向上も企図していると考えられる48。中国の推進するプロジェクトの例としては、18(平成30)年末に全世界での運用が開始したとされ、中国版GPSとも呼ばれるグローバル衛星測位システムを形成する測位衛星「北斗」や、軍用の偵察衛星としての役割を担う可能性が指摘されている地球観測衛星の打ち上げなどがある。さらに、紛争時に敵の宇宙利用を制限・妨害するため、ミサイルやレーザーを用いた対衛星兵器を開発しているほか、衛星攻撃衛星などの開発を進めているとも指摘されている49

中国は「サイバー空間における状況に対する認識、サイバー防御、国家のサイバー空間戦争を支援する能力を向上させる」とも表明している。現在の主要な軍事訓練には、指揮システムの攻撃・防御両面を含むサイバー作戦などの要素が必ず含まれているとの指摘がある。また、敵のネットワークに対するサイバー攻撃は、中国の「A2/AD」能力を強化するものであると考えられる。

さらに、中国軍は、電子戦環境下での各種対抗訓練を日常的に行っているとの指摘もある。これに加えて、わが国周辺にたびたび飛来しているY-8電子戦機のみならず、J-15艦載機やH-6爆撃機の中にも、電子戦ポッドを備え、電子戦能力を有するとみられるものの存在が指摘されている。宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力の強化は、中国軍全体の作戦遂行能力の向上とともに、敵の戦力発揮を効果的に阻害する非対称的な能力の向上にもにつながることから、引き続き動向を注視する必要がある。

参照3章2節(宇宙領域をめぐる動向)
3章3節(サイバー領域をめぐる動向)
3章4節(電磁波領域をめぐる動向)

(7)統合作戦遂行能力構築に向けた動き

中国は、近年、統合作戦遂行能力を向上させる取組を進めている。中国共産党が最高戦略レベルにおける意思決定を行うための「中央軍事委員会統合作戦指揮センター」は、この一環として設立されたと考えられる。現在進められている軍改革の中でもこのような動きは継続しており、16(平成28)年2月には、常設の統合作戦司令部とされる5つの戦区が新編された。さらに、17(平成29)年1月、袁誉柏(えん・よはく)海軍中将が陸軍種以外で初めて戦区司令員に任命されたことから、人事面においても統合に向けた動きが進展していると考えられる。同年10月の第19回党大会において、習総書記が「強靭かつ効果的な戦区統合作戦指揮機構」の創設や統合作戦遂行能力の向上について述べていることからも、この動きは今後とも進展していくと考えられる。そのうえで、近年、中国は、実戦を強く意識し、17(平成29)年に続き18(平成30)年にも行われている三軍統合演習など、統合作戦遂行能力の向上を目指した訓練の実施も進めている。

6 海空域における活動
(1)全般

近年、中国は、より遠方の海空域における作戦遂行能力の構築を目指していると考えられ、海上・航空戦力による海空域における活動を急速に拡大・活発化させている。特に、わが国周辺海空域においては、訓練や情報収集を行っていると考えられる海軍艦艇や海・空軍機、インド洋などの遠方へと進出する海軍艦艇、海洋権益の保護などのための監視活動を行う海上法執行機関所属の公船や航空機が多数確認されている。このような活動には、わが国領海への中国公船による断続的侵入や領空侵犯のほか、火器管制レーダーの照射や戦闘機による自衛隊機への異常な接近、「東シナ海防空識別区」の設定といった上空における飛行の自由を妨げるような動きを含め、不測の事態を招きかねない危険な行為を伴うものもみられ、極めて遺憾である。また、南シナ海においては、軍事拠点化を進めるとともに、海空域における活動も拡大・活発化させている。中国は法の支配の原則に基づき行動し、地域や国際社会において、より協調的な形で積極的な役割を果たすことが強く期待される。

KEY WORD海上法執行機関所属の公船とは

中国国務院(わが国の内閣に相当)隷下の公安部「海警」、国土資源部国家海洋局「海監」、農業部漁業局「漁政」、交通運輸部海事局「海巡」、海関総署海上密輸取締警察などが海上における監視活動などを行ってきたが、13(平成25)年3月、「海巡」を除くこれら4つの機関などを統合し、新たな「国家海洋局」として再編したうえで、同局が公安部の指導のもと、「中国海警局」(「海警」)の名称により監視活動などを実施する方針などが決定された。18(平成30)年7月から、これら海警部隊は「武警海警総隊」として、中央軍事委員会による一元的な指揮を受ける武警に編入されたが、「中国海警局」の名称はそのまま用いられる。

参照3章5節(海洋をめぐる動向)

(2)わが国周辺海空域における軍の動向

近年、尖閣諸島に関する独自の主張に基づくとみられる活動をはじめ、中国海上・航空戦力は、尖閣諸島周辺を含むわが国周辺海空域における活動を拡大・活発化させており、行動を一方的にエスカレートさせる事案もみられるなど、強く懸念される状況となっている。空自による中国機に対する緊急発進の回数は、平成28(2016)年度には851回と過去最多を更新し、以降も引き続き高水準にある。また、インド洋などの遠方へと進出する海軍艦艇によるわが国近海の航行や、太平洋などへの進出を伴う海上・航空戦力の訓練とみられる活動の定例化を企図している50と考えられる一方、活動内容は引き続き質的な向上をみせており、中には実戦的な統合作戦遂行能力の構築に向けた動きもみられている。

ア 東シナ海(尖閣諸島周辺を含む)での活動

東シナ海においては、継続的かつ活発に中国海軍艦艇が活動しており51、中国側は尖閣諸島に関する独自の立場に言及したうえで、管轄海域における海軍艦艇によるパトロールの実施は完全に正当かつ合法的である旨発言している。中国海軍艦艇は、近年、平素からの活動海域を南方向に拡大させており、わが国尖閣諸島に近い海域で恒常的に活動している。16(平成28)年6月には、ジャンカイI級フリゲート1隻が、中国海軍戦闘艦艇としては初めて、尖閣諸島周辺の接続水域内に入域した。18(平成30)年1月には、潜没航行していたシャン級潜水艦及びジャンカイII級フリゲートそれぞれ1隻が同日に尖閣諸島周辺の接続水域内に入域した。潜没潜水艦による同接続水域内航行は、この時初めて確認・公表された52

シャン級潜水艦

シャン級潜水艦

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

水中排水量:6,096トン

最大速力:30ノット(時速約56km)

主要兵装:艦対艦ミサイル(最大射程:40km)、魚雷

〈概説〉

新型の攻撃型原子力潜水艦。18(平成30)年1月、宮古島及び尖閣諸島のわが国接続水域内を潜没航行。

さらに、近年、海軍情報収集艦の活動も複数確認されている。15(平成27)年11月、尖閣諸島南方の接続水域の外側の海域でドンディアオ級情報収集艦1隻が往復航行を実施した。また、16(平成28)年6月には、同型情報収集艦1隻が、口永良部島(くちのえらぶじま)及び屋久島付近のわが国領海内を航行した後、北大東島北方の接続水域内を航行し、その後、尖閣諸島南方の接続水域の外側を東西に往復航行した。中国海軍艦艇による領海内航行は約12年ぶりであった53

ドンディアオ級情報収集艦

ドンディアオ級情報収集艦

【Jane's by IHS Markit】

〈諸元、性能〉

満載排水量:6,096トン

速力:20ノット(時速約37km)

主要兵装:37mm機関砲、14.5mm機関銃

〈概説〉

16(平成28)年6月、口永良部島及び屋久島付近のわが国領海内を航行した後、北大東島北方の接続水域内を航行し、その後、尖閣諸島南方の接続水域の外側を東西に往復航行した。同年2月などには、房総半島南東の接続水域の外側の海域を往復航行

中国航空戦力も、平素から東シナ海で活発に活動を行っている。その活動の中には、通常の警戒監視や空中警戒待機(CAP:Combat Air Patrol)、訓練が含まれていると考えられる。近年、中国軍用機は、活動範囲を東及び南方向に拡大させているが、そのような漸進的拡大の結果、近年は、沖縄本島をはじめとするわが国南西諸島により近接した空域において軍用機の活発な活動が確認されるようになっている。この活動の拡大は、「東シナ海防空識別区」の運用を企図してのものである可能性がある54

14(平成26)年5月及び6月には、東シナ海において通常の警戒監視活動を行っていた海自機及び空自機に対して、中国軍のSu-27戦闘機2機が異常に接近する事案が発生している55。また、17(平成29)年7月には、中国軍のJ-10戦闘機2機が米海軍電子偵察機EP-3の飛行を妨害する事案が発生したとされており、これらは、不測の事態を招きかねない危険な行為である。さらに、18(平成30)年4月には、偵察用無人機BZK-005と推定される無人機が東シナ海を飛行していることが確認されている。

尖閣諸島及びその周辺のわが国領空においては、12(平成24)年12月に、国家海洋局所属の固定翼機が中国機として初めて当該領空を侵犯する事案が発生し、その後も14(平成26)年3月までの間、同局所属の航空機の当該領空への接近飛行がたびたび確認された56。また、最近では、中国軍用機は尖閣諸島近傍での活動範囲を南方向に拡大させている。16(平成28)年6月、空自戦闘機が尖閣諸島方向に南下飛行した中国軍用機に対して行った対領空侵犯措置に関し、中国国防部は、空自戦闘機が中国機に対して挑発を行ったなどと事実に反する発表をした。しかし、空自戦闘機は国際法及び自衛隊法に基づいて対領空侵犯措置を実施しており、中国軍用機に対して挑発的な行為をとったという事実は一切ない。

イ 太平洋への進出

中国海軍の戦闘艦艇部隊によるわが国近海を航行しての太平洋への進出及び帰投は、高い頻度で継続している57。進出経路は多様化の傾向にあり、沖縄本島・宮古島間の海域のほか、大隅海峡や、与那国島と西表島近傍の仲ノ神島の間の海域、奄美大島と横当島(よこあてじま)の間の海域、津軽海峡や宗谷海峡を中国海軍艦艇が通過する事例が確認されている。このような経路の多様化を通じ、中国は外洋への展開能力の向上を図っているものと考えられるが、政府高官の発言なども踏まえれば、わが国近海の航行を伴う太平洋への進出行動の定例化も企図していると考えられる58。さらに、遠方での活動内容を踏まえると、外洋での作戦遂行能力の向上も目指しているものと考えられる。16(平成28)年12月には、複数の艦艇とともに空母「遼寧」が東シナ海を航行し、沖縄本島・宮古島間の海域を通過して初めて太平洋へ進出した。18(平成30)年4月には、南シナ海において海上閲兵式や訓練に参加していた「遼寧」及び複数の艦艇が、バシー海峡を通過して太平洋に進出し、艦載戦闘機の活動を含む対抗訓練を実施した旨、中国国防部が発表している。その際、警戒監視にあたった海上自衛隊が、初めて太平洋上における推定艦載戦闘機の発着艦を確認している。また、19(令和元)年6月にも「遼寧」は、空母群への補給を任務とすると指摘される高速戦闘支援艦などとともに、沖縄本島、宮古島間の海域を通過して太平洋へ進出した。これらの活動は、空母をはじめとする海上戦力の能力向上や、より遠方への戦力投射能力の向上を示すものとして注目される。18(平成30)年1月、シャン級潜水艦が宮古島北東のわが国接続水域内を太平洋方面から東シナ海に向けて潜没航行したことからは、潜水艦も太平洋において何らかの活動を行っているものと考えられる。また、17(平成29)年7月には、ドンディアオ級情報収集艦1隻が、小島(松前小島)(北海道松前町)南西のわが国領海内を航行し、その後、津軽海峡を東航して太平洋に進出している。

航空戦力の太平洋への進出については、13(平成25)年7月に海軍航空部隊のY-8早期警戒機1機が沖縄本島・宮古島間を通過して太平洋に進出したことが初めて確認された。15(平成27)年には空軍の太平洋進出も確認された。17(平成29)年以降、同空域の通過を伴う太平洋進出は一層活発になり、同年は年間で計18回、18(平成30)年は年間で計10回の通過飛行が確認された。これは、16(平成28)年に確認された通過回数(5回)からの大幅な増加である59。同空域を通過する軍用機の種類も年々多様化の傾向にある。16(平成28)年までにはH-6K爆撃機やSu-30戦闘機、17(平成29)年7月には初めてY-8電子戦機が確認された。16(平成28)年9月に飛行したH-6K爆撃機は、ミサイル形状の物体を搭載していたことが視認されている60。さらに、飛行形態も変化してきている。沖縄本島・宮古島間を経由し東シナ海から太平洋へ進出した後に再び同じルートで引き返す飛行やバシー海峡方面から太平洋へ進出した後に再び同じルートで引き返す飛行に加え、16(平成28)年11月以降、H-6K爆撃機などが先島諸島の南方から飛来した後に沖縄本島・宮古島間を通過して東シナ海へ向かう飛行や、沖縄本島・宮古島間を経由し東シナ海から太平洋へ進出した後にバシー海峡方面へ向かう飛行が頻繁に確認されている61。17(平成29)年8月には、H-6K爆撃機が沖縄本島・宮古島間を通過して太平洋に進出した後、紀伊半島沖まで進出した。このように、爆撃機などによる長距離飛行の高い頻度での実施や、飛行経路及び部隊構成の高度化などを通じ、航空戦力は、わが国周辺などでのプレゼンス誇示や、実戦的な作戦遂行能力のさらなる向上を企図しているとみられる。なお、16(平成28)年10月及び12月、このように太平洋へ進出する中国軍用機に対して自衛隊が行った対領空侵犯措置に関し、中国国防部は、自衛隊機が妨害弾を発射して中国機の安全を脅かしたなどと事実に反する発表を行った62。しかし、自衛隊機は国際法及び自衛隊法に基づいて対領空侵犯措置を実施しており、そのような事実は一切ない。

また、太平洋進出の際、空対艦攻撃訓練と思われる活動など、海上・航空戦力の協同での作戦遂行能力の向上を企図したと考えられる活動も近年見られるようになってきている63。太平洋における中国の海上・航空戦力による活動は、今後一層の拡大・活発化が見込まれ、関連動向に引き続き注目が必要である。

ウ 日本海での活動

日本海での活動については、従来から訓練などの機会に活動していたとみられる海上戦力に加え、近年では、航空戦力の活動も活発化している。16(平成28)年8月に中国海軍艦隊による日本海での「対抗訓練」の実施が初めて発表され、その際、対馬海峡を通過して日本海に進出したH-6爆撃機2機を含む計3機が同演習に参加したと考えられる。17(平成29)年1月にも、同海域で、海軍艦艇・航空機が協同対抗訓練を実施したとされており、その際は、H-6爆撃機6機を含む計8機が対馬海峡を通過して日本海に進出している。

中国空軍は17(平成29)年12月に初めて対馬海峡を通過飛行し、日本海へ進出した。その際、H-6 K爆撃機に加え、Su-30戦闘機などが同時進出したが、中国軍の戦闘機が日本海へ進出したのは初めてである。また、18(平成30)年2月に日本海へ進出したY-9情報収集機は、対馬海峡の西水道(長崎県対馬と朝鮮半島の間の海峡)を通過飛行したが、西水道の通過飛行はこれが初めてであった64

18(平成30)年の対馬海峡の通過を伴う日本海での活動は一層活発になり、年間で海上戦力の通過は計17回、航空戦力の通過飛行は計8回確認された。これは、17(平成29)年に確認された通過回数(4回)及び通過飛行回数(2回)からの大幅な増加である65。日本海での中国軍の活動は、今後とも拡大・活発化すると考えられる。

(3)尖閣諸島周辺などでの中国公船の動向

08(平成20)年12月に「海監」船が、尖閣諸島周辺のわが国領海において、徘徊(はいかい)・漂泊といった国際法上認められない活動を行った。その後も、「海監」船及び「漁政」船は、徐々に当該領海における活動を活発化させてきた。12(平成24)年9月のわが国政府による尖閣三島(魚釣島、北小島及び南小島)の所有権の取得・保有以降、このような活動は著しく活発化している。13(平成25)年10月以降は当該領海への侵入を繰り返し行っており、また、その態様は強化されてきている66

尖閣諸島周辺において領海侵入を繰り返す中国海警局の公船【海上保安庁提供】

尖閣諸島周辺において領海侵入を繰り返す中国海警局の公船
【海上保安庁提供】

中国公船によるわが国領海への侵入を企図した運用態勢の強化は着実に進んでいると考えられる。例えば、15(平成27)年12月以降、機関砲とみられる武器を搭載した公船がわが国領海に繰り返し侵入するようになっている。また、尖閣諸島近海に派遣される公船は大型化が図られ、14(平成26)年8月以降、わが国領海に侵入してくる公船のうち、少なくとも1隻は3,000トン級以上の公船である。さらに、15(平成27)年2月以降、3,000トン級以上の公船が3隻同時にわが国領海に侵入する事案も複数回確認されている。また、中国は世界最大級となる1万トン級の巡視船を2隻67運用しているとみられる。

中国公船の運用能力も向上しているものと考えられる。16(平成28)年8月上旬、約200~300隻の中国漁船が尖閣諸島周辺の接続水域に進出したが、この際、最大15隻もの中国公船が同時に接続水域内で確認され、さらに、5日間にわたり多数の公船及び漁船が領海侵入を繰り返す事案が発生した。同海域に進出した公船の中には、武装公船も多数含まれていたことが確認されている68。この事案は、中国が必要に応じて、武装公船を含む多数の公船を尖閣諸島周辺海域に同時に投入する能力があることを示すものと考えられる。

このような中国公船による尖閣諸島周辺海域における活動は、力を背景とした一方的な現状変更の試みである。事態をエスカレートさせる中国の行動は、わが国として全く容認できるものではない。

また、17(平成29)年5月には、尖閣諸島周辺のわが国領海侵入中の中国公船の上空において小型無人機らしき物体が飛行していることが確認された。このような小型無人機らしき物体の飛行も領空侵犯に当たるものであり、一方的な事態のエスカレーションである。

尖閣諸島周辺以外においては、17(平成29)年7月、中国公船が対馬(長崎県)、沖ノ島(福岡県)及び津軽海峡付近のわが国領海内を航行したことが確認された。同公船は、同年8月、佐多岬から草垣群島(いずれも鹿児島県)にかけてのわが国領海内も航行したことが確認されている。

なお、海軍の退役艦艇が13(平成25)年7月に正式に発足した中国海警局に引き渡されている69とみられるほか、海軍と海警による共同訓練が行われていると報じられるなど、海軍は、運用面及び装備面の両面から海上法執行機関を支援しているとみられる。また、18(平成30)年7月には、海警部隊が中央軍事委員会の一元的な指導及び指揮を受ける武警へと編入され、今後の軍と海警の連携のあり方が注目される70

参照図表I-2-2-5(わが国周辺海空域における最近の主な中国軍の活動)
図表I-2-2-6(中国機に対する緊急発進回数の推移)

図表I-2-2-5 わが国周辺海空域における最近の主な中国軍の活動

図表I-2-2-6 中国機に対する緊急発進回数の推移

(4)南シナ海における動向

中国は、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)諸国などと領有権について争いのある南沙(スプラトリー)・西沙(パラセル)諸島などを含む南シナ海においても活動を活発化させている。

中国は、南沙諸島にある7つの地形71において、14(平成26)年以降、大規模かつ急速な埋立活動72を強行してきた。16(平成28)年7月には比中仲裁判断において、中国が主張する「九段線」の根拠としての「歴史的権利」が否定され、中国の埋立てなどの活動の違法性が認定された。しかし、中国はこの判断に従う意思のないことを明確にしており、砲台といった軍事施設のほか、滑走路や港湾、格納庫、レーダー施設などをはじめとする軍事目的に利用し得る各種インフラ整備を推進し、現在も同地形の軍事拠点化を進めている73。17(平成29)年10月の第19回党大会において、習総書記は、南シナ海における地形開発活動の進展を、経済建設における成果の一つとして報告した。

ファイアリークロス礁においては、水上戦闘艦艇の入港が可能とみられる大型港湾が造成された。また、16(平成28)年1月には、戦闘機や爆撃機などが離発着可能な3,000m級の滑走路の完成が宣言され、周辺国から抗議がある中で、航空機による試験飛行が強行された74。さらに、同年4月には、南シナ海哨戒任務中の海軍哨戒機がファイアリークロス礁に急患輸送を目的として着陸した。スビ礁及びミスチーフ礁においても、同年7月、大型機の離着陸が可能な滑走路において、航空機による試験飛行が2日連続で強行された75。18(平成30)年1月には、ミスチーフ礁上にY-7輸送機が、同年4月にはスビ礁上にY-8特殊任務機がそれぞれ確認されたと報じられている。これらの地形においては、対空砲などを設置可能な砲台やミサイルシェルター、弾薬庫とも指摘される地下貯蔵施設が整備されており、既にこれらのインフラ整備が完了したとも指摘されている。また、18(平成30)年4月、対艦巡航ミサイル及び地対空ミサイルが軍事訓練の一環としてファイアリークロス礁、スビ礁及びミスチーフ礁に展開したと報じられたほか、レーダー妨害装置がミスチーフ礁上に展開したと報じられている。その他の4つの地形でも、港湾、ヘリパッド、レーダーなどの施設建設の進展に加え、大型対空砲や近接防空システムとみられる装備がすでに配備された可能性が指摘されている。これらの地形が本格的に軍事目的で利用された場合、アジア太平洋地域の安全保障環境を大きく変化させる可能性がある。

また、中国は南沙諸島に先がけて、西沙諸島についても軍事拠点化を推進している。ウッディー島においては、13(平成25)年以降、滑走路の延長工事を実施したほか、15(平成27)年10月や17(平成29)年10月にはJ-11などの戦闘機の展開が、16(平成28)年2月や17(平成29)年1月には、地対空ミサイルとみられる装備の所在が確認されている。18(平成30)年5月に中国国防部が発表した南シナ海でのH-6K爆撃機の離発着訓練は、ウッディー島で実施されたと指摘されている。

また、12(平成24)年4月に中比公船が対峙する事案が発生したスカーボロ礁においても、近年、中国の艦船による測量とみられる活動が確認されたといわれているほか、今後、新たな埋立てが行われる可能性も指摘されている76。仮に、スカーボロ礁において埋立てが実施されレーダー施設や滑走路などの設置が行われた場合、周辺海域における中国の状況把握能力や戦力投射能力が高まり、ひいては南シナ海全域での作戦遂行能力の向上につながる可能性も指摘されている。こうした点も踏まえ、今後とも状況を注視していく必要がある。

海空域における活動も拡大・活発化している。09(平成21)年3月、13(平成25)年12月及び18(平成30)年9月には、南シナ海を航行していた米海軍艦船に対し中国海軍艦艇などが接近・妨害する事案が発生した。16(平成28)年5月や17(平成29)年2月及び5月には、中国軍の戦闘機が米軍機に対し接近したとされる事案などが発生している。比中仲裁判断後の16(平成28)年7月及び8月には、中国空軍のH-6K爆撃機がスカーボロ礁付近の空域において「戦闘パトロール飛行」を実施し、今後このパトロールを「常態化」する旨、中国国防部が発表した77。また、同年9月には中露海軍共同演習「海上協力2016」が初めて南シナ海で実施された。18(平成30)年3月下旬から4月にかけては、空母「遼寧」を含む海軍艦艇などによる実動演習及び中国建国後最大規模と評される海上閲兵式が、同海域で実施された。さらに、中国海軍艦艇が常時活動している海域があるとも伝えられている78ほか、中国公船が周辺諸国の漁船に対して威嚇射撃を行う事案も生起している。このように中国は、南シナ海において、軍事をはじめとするプレゼンスの拡大及び作戦遂行能力の向上を企図しているものと考えられる79

中国によるこのような活動は、一方的な現状変更及びその既成事実化を一層進展させる行為であり、わが国として深刻な懸念を有しているほか、米国をはじめとした国際社会からも同様の懸念が示されている80。中国は、地形開発に対する国際的な懸念が高まっているとの指摘に対し、フィリピンやベトナムなど幾つかのASEAN諸国が、南沙諸島の地形を不当に占拠し、飛行場など固定施設の大規模工事を実施していると主張している81。しかし、中国の地形開発はその他の国々が行っている活動とは比較にならないほどに大規模かつ急速である82

いずれにせよ、南シナ海をめぐる問題は、アジア太平洋地域の平和と安定に直結する国際社会全体の関心事項であり、中国を含む各国が緊張を高める一方的な行動を慎み、法の支配の原則に基づき行動することが強く求められる。

参照図表I-2-2-7(中国による南沙諸島の地形開発)、
2章6節(東南アジア)
3章5節(海洋をめぐる動向)

図表I-2-2-7 中国による南沙諸島の地形開発

(5)インド洋などにおける動向

中国海軍は、自らの海上戦力を「遠海防衛」型へとシフトしているとされており、近年、インド洋などのより遠方の海域における作戦遂行能力を着々と向上させている。例えば、08(平成20)年12月以降、海賊に対処するための国際的な取組に参加するため、中国海軍艦艇は、インド洋を航行し、ソマリア沖・アデン湾に進出している。海軍潜水艦の活動もインド洋方面において継続的に確認されるようになってきている。14(平成26)年には、ソン級潜水艦がスリランカ・コロンボに2度寄港したとされており、中国潜水艦として初めて国外の港湾に入港した。15(平成27)年5月及び翌年5月にはユアン級及びシャン級潜水艦がそれぞれパキスタン・カラチに、17(平成29)年1月及び同9月にはソン級潜水艦及びユアン級との指摘もある潜水艦がそれぞれマレーシア・コタキナバルに寄港したとされている。このほか、インド洋以外においても、15(平成27)年9月、中国艦艇5隻がベーリング海の公海上を航行し、アリューシャン列島で米国の領海を航行したとされている。また中国は、18(平成30)年1月に北極政策に関する白書「中国の北極政策」を発出し、そのなかで、北極海航路の開発を通じて「氷上シルクロード」の建設を進めることとしているなど、北極事業への積極的な関与も打ち出している。

また、中国が遠方の海域における作戦に資する海外における港湾などの活動拠点を確保しようとする動きも顕著になっている。例えば、17(平成29)年8月には、アデン湾に面する東アフリカの戦略的要衝であるジブチにおいて、中国軍の活動の後方支援を目的とするとされる「保障基地」の運用が開始され、18(平成30)年4月以降、「保障基地」沿岸において埠頭の建設が確認された。当該埠頭は4万8,000トンの中国軍最大級の補給艦も停泊可能と指摘されており、これにより軍の後方支援能力が大幅に向上する可能性がある。また、近年中国は、ユーラシア大陸をはじめとする地域の経済圏創出を主な目的とするとされる「一帯一路」構想を推進している83が、中国軍が、海賊対処活動による地域の安定化や共同訓練による沿線国のテロ対処能力の向上などを通じ、同構想の後ろ盾としての役割を担っている可能性がある。さらに、同構想には中国の地域における影響力を拡大するという戦略的意図が含まれているとも考えられる中、同構想によるインフラ建設が中国軍のインド洋、太平洋などでの活動をさらに促進する可能性がある。例えば、パキスタンやスリランカといったインド洋諸国で港湾インフラ建設を支援することにより、寄港地を確保し、中国海軍のインド洋などにおける作戦遂行能力のより一層の向上を図っている可能性がある。

KEY WORD「一帯一路」構想とは

習近平国家主席が提唱した経済圏構想。13(平成25)年9月に「シルクロード経済ベルト」構想(一帯)が、同年10月に「21世紀海上シルクロード」構想(一路)が提唱され、以降、両構想をあわせて「一帯一路」構想と呼称。

(6)海空域における活動の目標

中国による海上・航空戦力の整備状況及び活動状況、国防白書における記述、中国の置かれた地理的条件、グローバル化する経済などを考慮すれば、海・空軍などの海空域における活動には、次のような目標があるものと考えられる。

第一に、中国の領土、領海及び領空を防衛するために、可能な限り遠方の海空域で敵の作戦を阻止することである。これは、近年の科学技術の発展により、遠距離からの攻撃の有効性が増していることが背景にある。

第二に、台湾の独立を抑止・阻止するための能力を整備することである。中国は、台湾問題を解決し、中国統一を実現することにはいかなる外国勢力の干渉も受けないとしており、中国が、四方を海に囲まれた台湾への外国からの介入を実力で阻止することを企図すれば、海空域における作戦遂行能力を充実させる必要がある。

第三に、中国が独自に領有権を主張している島嶼(しょ)の周辺海空域において、各種の監視活動や実力行使などにより、当該島嶼に対する他国の支配を弱め、自国の領有権に関する主張を強めることである。

第四に、海洋権益を獲得し、維持及び保護することである。中国は、東シナ海や南シナ海において、石油や天然ガスの採掘及びそのための施設建設や探査を行っているが、13(平成25)年6月以降には、東シナ海の日中中間線の中国側において、既存の4基に加え、新たに12基の海洋プラットフォームの建設作業などを進めていることが確認されている84。また、16(平成28)年6月下旬には、1基のプラットフォーム上に対水上レーダー及び監視カメラの設置が確認されるなど、これらの機材の利用目的も含め、プラットフォームにかかる中国の今後の動向が注目される。中国側が一方的な開発を進めていることに対しては、わが国から繰り返し抗議をすると同時に、作業の中止などを求めている85

第五に、自国の海上輸送路を保護することである。この背景には、中東からの原油の輸送ルートなどの海上輸送路が、グローバル化する中国の経済活動にとって、生命線ともいうべき重要性を有していることがある。将来的に、中国軍が、どこまでの海上輸送路を自ら保護すべき対象とするかは、そのときの国際情勢などにも左右されるものであるが、近年の海・空軍の強化を考慮すれば、その能力の及ぶ範囲は、中国の近海を越えてより遠方の海域へと拡大していると考えられる。

こうした中国の海空域における活動の目標や近年の動向を踏まえれば、今後とも中国は、東シナ海や太平洋といったわが国近海及び南シナ海、インド洋などにおいて、活動領域をより一層拡大するとともに活動の活発化をさらに進めていくものと考えられる。

一方、近年、中国は、海空域における不測の事態を回避・防止するための取組にも関心を示している。例えば、14(平成26)年4月、中国は、西太平洋海軍シンポジウム(WPNS:Western Pacific Naval Symposium)参加国海軍の艦艇及び航空機が予期せず遭遇した際の行動基準を定めた「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES:Code for Unplanned Encounters at Sea)」につき、日米などとともに一致した。また、18(平成30)年6月、自衛隊と中国軍の艦船・航空機による不測の衝突を回避することなどを目的とする「日中防衛当局間の海空連絡メカニズム」の運用を開始した86

7 軍の国際的な活動

中国軍は近年、平和維持、人道支援・災害救援、海賊対処といった非伝統的安全保障分野における任務を重視しており、これらの任務のために積極的に海外にも部隊を派遣するようになってきている。このような国際的な活動に対する姿勢の背景には、中国の国益が国境を越えて拡大していることに伴い、国外において国益の保護及び促進を図る必要性が高まっていることや、国際社会に対する責任を果たす意思を示すことにより自国の地位を向上させる意図があるとみられている。

中国は、国連PKOを一貫して支持するとともに積極的に参加するとしており、中国国防部によれば、これまでに国連PKOに延べ3万7,000人あまりの軍人が派遣されている87。国連によれば、中国は、19(平成31)年4月末時点で、国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA:United Nations Multidimensional Integrated Stabilization Mission in Mali)などの国連PKOに国連安全保障理事会の常任理事国中最多である計2,497人の部隊要員、文民警察要員及び軍事監視要員を派遣しているほか、予算の分担率も大幅に増加している88。中国の国連PKOにおける存在感が高まっている一方、その積極姿勢の背景には、同活動を通じて当該PKO実施地域、特にアフリカ諸国との関係強化を図るねらいもあるとみられている。

さらに、中国は、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処活動や、人道支援・災害救援活動にも積極的に参加している。また、リビア情勢の悪化を受け、中国は11(平成23)年、初めて軍による在留中国人の退避活動を行った。15(平成27)年には、イエメン情勢の悪化を受け、中国海軍海賊対処部隊が日本人1名を含む外国人の退避活動に従事した。最近では、18(平成30)年7月、ラオスにおけるダム決壊事故に際し、ラオス軍と共同医療活動・訓練を実施していた中国軍が、ラオス側の要請に応じて救援活動に従事した。これらの活動については、国際的にも評価されているが、軍の平和的・人道的なイメージや、戦争以外の軍事作戦を重視する意図を内外に示すとともに、戦力を遠方に迅速に展開させる能力を検証するねらいもあるとの指摘がなされている。

8 教育・訓練などの状況

中国軍は、近年、作戦遂行能力の強化を図ることなどを目的として実戦的な訓練を推進しており、戦区主導の統合演習、対抗演習、上陸演習、区域をまたいだ演習などを含む大規模演習、さらには夜間演習、諸外国との共同演習なども行っている。習国家主席の発言などにおいて、「戦いができる。勝つ戦いをする」との目標が繰り返し言及されていることは、軍がより実戦的な訓練を推進している証左と考えられる。18(平成30)年1月から施行された新たな「軍事訓練条例」においても、実戦化訓練の確実な実施を原則とする旨言及されているほか、ネットワーク情報システムに基づいた統合作戦や全域作戦などの遂行についても言及されている。また、19年(平成31)年3月から施行された「軍事訓練監察条例(試行)」は、実戦の要求に沿わない訓練を修正する手順や、軍事訓練における悪習・規律違反を特定する基準などについて定めた制度であり、このような制度の整備は中国にとって初めての試みであるとされる。

中国軍は、教育面でも、統合作戦遂行能力を有する軍人の育成を目指している。03(平成15)年から、統合作戦・情報化作戦に対応した軍の指揮や建設などを担う高い能力を持つ人材育成のための人材戦略プロジェクトが推進されている。17(平成29)年には、統合作戦指揮人材を養成するための訓練が中国国防大学で開始されたと伝えられている。一方、近年では、給与を含む各種処遇、人材育成制度などをめぐる問題も指摘されている。

中国は、14(平成26)年の第18期四中全会で「法治」の推進を示し、軍においても「法治」の貫徹が求められていると考えられる。例えば、17(平成29)年8月に開催された建軍90周年記念大会において、習中央軍事委員会主席が「法に基づく軍の管理」に言及した。また、同年10月の一中全会において、軍における最高意思決定機関である第19期中央軍事委員会の委員として、苗華(びょう・か)政治工作部主任に加えて張升民(ちょう・しょうみん)中央軍事委員会規律検査委員会書記が選出された。

また、中国は、戦争などの非常事態において民間資源を有効に活用するため、動員体制の整備を進めてきており、10(平成22)年、戦時動員についての基本法となる「国防動員法」を施行した。現在推進されている軍民融合政策では、平素からの民間資源の軍事活用も念頭に置かれているものと考えられる。例えば、最近、民間船舶による軍用装備の輸送活動などが見られるが、こうした活動は今後とも積極的に実施される可能性がある。

9 国防産業部門の状況

中国は、自国で生産できない高性能の装備や部品をロシアなど外国から輸入しているが、軍近代化のため装備の国産化を含む国防産業部門の強化を重視していると考えられる。技術の研究開発や対外直接投資などによる取得に意欲的に取り組んでいるほか、サイバー窃取といった不法手段による取得も指摘されている89

習近平指導部が国家戦略として重視する軍民融合政策は国防技術分野においても推進され90、中国の国防産業の改革が進められている。国務院機構である工業・情報化部の国防科学技術工業局の隷下に、核兵器、ミサイル、ロケット、航空機、艦艇、その他の通常兵器を開発、生産する12個の集団公司を編成することで、特に、軍用技術を国民経済建設に役立てるとともに、民生技術を国防建設に吸収するという双方向の技術交流を促している。これにより、具体的には、国防産業の技術が、宇宙開発や航空機工業、船舶工業の発展に寄与してきたとされている。

また、軍民両用産業分野における国際協力及び競争を奨励、支持するとしており、軍民両用の分野を通じて外国の技術を吸収することにも関心を有しているとみられる。このように海外の先進技術を積極的に導入することで、中国軍の近代化はさらに促進される可能性がある。

2 例えば、南シナ海において中国が主張するいわゆる「九段線」については、比中仲裁判断(16(平成28)年7月)においても中国が主張する「歴史的権利」が否定されている。また、中国は近年、国連海洋法条約(UNCLOS:United Nations Convention on the Law of the Sea)などの独自の解釈を利用しつつ、南シナ海においてUNCLOSと整合的でない基線を引いているなどとの指摘がある。

3 17(平成29)年11月14日付「人民日報」に掲載された許其亮(きょ・きりょう)・中央軍事委員会副主席の論文

4 積極防御戦略思想は、中国共産党の軍事戦略思想の基本であるとされ、防御、自衛及び「後発制人」(後から打って出て相手を制する)の原則を堅持し、「人不犯我、我不犯人、人若犯我、我必犯人」(相手が攻撃しなければ攻撃しないが、相手が攻撃するのであれば必ず攻撃する)ということを堅持するものとされる。

5 国防白書「新時代における中国の国防」(19(令和元)年7月)による。

6 国防白書「2008年中国の国防」、「2010年中国の国防」及び「新時代における中国の国防(2019年)」では、それぞれ2007年度、2009年度及び2010~2017年度の国防費の支出に限り、人員生活費、訓練維持費、装備費それぞれの内訳(2007年度及び2009年度の国防費の支出については、さらに現役部隊、予備役部隊、民兵別)が明らかにされた。

7 例えば、中国海軍艦艇による海自護衛艦に対する火器管制レーダー照射事案(13(平成25)年1月)については、中国国防部及び外交部が同レーダーの使用そのものを否定するなど事実に反する説明を行った。また、中国軍の戦闘機が海自機及び空自機に対して異常に接近した事案(14(平成26)年5月及び6月)についても、中国国防部は日本側が「演習空域に無断で押し入り、危険な行為を行った」などと事実に反する説明を行った。さらに、16(平成28)年には、自衛隊機による中国機に対する対領空侵犯措置に関し、自衛隊機が「近距離での妨害を行うとともに妨害弾を発射し中国側航空機と人員の安全を脅かした」などと事実に反する主張を行った。

8 18(平成30)年1月16日、潜水艦の潜没航行について問われた外交部報道官は「潜水艦の状況について私は掌握していない」と回答している。

9 本節2項6(4)3章5節1項(2)参照

10 わが国との間の対話の例として、III部3章1節2項6参照

11 2019年度の中国の国防予算を1元=17円(令和元(2019)年度の出納官吏レート)を用いて機械的に換算すると、約20兆2,279億円となる。

12 2019年度についても、2018年度と同様に中央本級支出(中央財政支出から地方移転支出などを除いたもの)における国防予算額のみ公表された。

13 中国の公表国防費は、中央財政支出における当初予算比で、1989年度から2015年度までの間、2010年度を除き、毎年二桁の伸び率を記録した。

14 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(19(令和元)年5月)は、中国の18(平成30)年の軍事関連支出を2,000億ドル以上と見積っている。

15 武警は、国防白書「2002年中国の国防」において、「国の安全と社会の安定を維持し、戦時は人民解放軍の防衛作戦に協力する」とされ、党・政府機関や国境地域の警備、治安維持のほか、民生協力事業や消防などの任務を負うとされていた。18(平成30)年3月に発表された「党及び国家機構改革案」において、同年末を目途として、「軍は軍、警察は警察、民は民の原則」に基づいて武警が改編されることとなり、改編後の武警は、「主にパトロール、突発事態対処、対テロ、海上における権益擁護・法執行、緊急救援及び防衛作戦」などに従事するものとされている。

16 平時においては経済建設などに従事するが、有事には戦時後方支援任務を負う。国防白書「2002年中国の国防」では、「軍事機関の指揮のもとで、戦時は常備軍との合同作戦、独自作戦、常備軍の作戦に対する後方勤務保障提供及び兵員補充などの任務を担い、平時は戦備勤務、災害救助、社会秩序維持などの任務を担当する」とされる。12(平成24)年10月9日付解放軍報によれば2010年時点の基幹民兵数は600万人とされている。

17 「瀋陽軍区」、「北京軍区」、「済南軍区」、「南京軍区」、「広州軍区」、「成都軍区」及び「蘭州軍区」

18 人民解放軍は大きな陸軍の組織とされてきたため、これまで「陸軍指導機構」が存在しなかった。しかし、本改革により、陸軍は、他の軍種、すなわち海・空軍及びロケット軍と同格とされることとなった。

19 ロケット軍の新編は、第二砲兵からの事実上の昇格と考えられる。

20 戦略支援部隊は国家の安全を維持するための新型戦力とされ、サイバー・宇宙・電子戦などを担当するとの指摘がある。

21 聯勤保障部隊は、軍の統合後方支援を専門とする中国初の部隊であると考えられる。

22 米中経済安全保障再検討委員会及び米ランド研究所による報告書「中国の不完全な軍改革」(15(平成27)年2月)は、人民解放軍の弱点として①組織構造(党軍関係など)、②組織文化(腐敗など)、③軍事体制(軍の規模、採用制度、退役軍人の処遇など)、④指揮命令構造(軍区制など)、⑤人材(一人っ子政策などに起因する新兵の質・意識の低下など)を指摘していた。

23 第17期(2007~12年)及び第18期(2012~17年)の中央軍事委員会の人数はいずれも11人であった。

24 退役軍人らによるデモは、16(平成28)年10月に中国国防部前で、17(平成29)年2月に中国共産党中央規律検査委員会が入る建物の近くで行われたほか、18(平成30)年6月以降、複数都市で発生している。同年4月には、退役軍人の処遇改善のため、退役軍人事務部が国務院隷下に新設されたが、これらのデモと軍改革による不満を結びつける見方もある。

25 18(平成30)年2月、米「核態勢見直し」の発表を受けて、中国国防部は、「如何なる時、如何なる状況下においても核兵器を先制使用しないとの政策を終始厳守しており、非核兵器国及び非核兵器地帯に対し核兵器を使用若しくは使用を威嚇することはないとの無条件の承諾を明確にしている」と発表した。一方、米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(19(令和元)年5月)は、中国の核兵器先制不使用政策の適用条件については不明瞭な点がある旨指摘している。

26 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(19(令和元)年5月)は、「現在4隻のジン級SSBNが就役済みで2隻が艤装中」であり、JL-2を搭載した同SSBNが、「中国にとって初となる、信頼性のある海上における核抑止力である」と指摘している。

27 DF-21Dは「空母キラー」と呼ばれている(米中経済安全保障再検討委員会の年次報告書(15(平成27)年11月))。

28 DF-26は「グアム・キラー」と呼ばれている(米中経済安全保障再検討委員会の年次報告書(15(平成27)年11月))。

29 14(平成26)年1月から16(平成28)年4月にかけて計7回、WU-14の飛翔試験を実施したと報じられている。なお報道では、DF-ZFとの呼称もある。

30 17(平成29)年11月1日及び15日にDF-17の飛翔試験を実施したと報じられている。

31 中国は、これらの実験はミサイル迎撃技術の実験だったと主張しているが、実際には対衛星兵器(ASAT:Anti Satellite Weapon)実験を行ったとも指摘されている(3章2節2項2参照)。

32 強襲揚陸や南シナ海の拠点防衛などを担うとみられる海軍陸戦隊も増強されている。米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(19(令和元)年5月)は、2020年までに、海軍陸戦隊が人員3万人以上に増強され、国外での遠征作戦も担うこととなる見込みであるとしている。

33 17(平成29)年6月、レンハイ級駆逐艦の1番艦が進水し、その後、18(平成30)年7月までに計4隻が進水したと報じられている。1番艦「南昌」は、19(平成31)年4月の国際観艦式に登場した。

34 13(平成25)年11月、「遼寧」は初めて南シナ海に進出し、その海域で試験航行を実施した。17(平成29)年6~7月及び18(平成30)年1月にも、南シナ海へ進出したと言われる。

35 中国は、艦載機に搭載出来る武器や燃料が少なくなる、固定翼の早期警戒機などを運用できないといった、スキージャンプ式の制約を克服すべく、電磁式カタパルトを研究中であるとの指摘がある。また、18(平成30)年2月には、大手国有企業である中国船舶重工集団のウェブサイトに掲載された同社の発展戦略綱要の中で、原子力空母の建造が初めて表明されたが、その後、同記述は削除された。

36 国防白書「新時代における中国の国防」(19(令和元)年7月)は、「海軍は国家安全保障の発展の全体の局面において非常に重要な地位を有する」とし、「近海防御型から遠海防衛型への転換の推進を加速」し、「強大な近代化海軍の建設に努める」としている。

37 13(平成25)年4月、習主席が海南省の海上民兵を激励した際、海上民兵に対し、遠洋の情報を集め、島嶼建設支援作業を積極的に行うよう指示し、「君たちは海洋権益を守るために先陣の役割を果たしている」と語ったと言われている。

38 例えば、09(平成21)年3月、南シナ海の公海上で中国海軍艦艇などが米海軍調査船「インペッカブル」を妨害した際、同船のソナーを取り外そうとした漁船には海上民兵が乗船していたと指摘されている。また、14(平成26)年5月から7月にかけて大水深掘削リグ「海洋石油981」が西沙諸島南方で試掘活動を行った際、同リグの護衛船団として、海上民兵が乗船する鋼鉄製漁船も進出していたとの指摘がある。

39 16(平成28)年8月、常万全国防部長(当時)が浙江省の海上民兵装備などを視察した際の訓示。

40 中国の海上民兵については、国際法上の地位が不明確であるとの指摘がある。一方で、18(平成30)年11月、シュライバー米国防次官補は、海上民兵への対応を問われ「我々は船の色によって区別しない。区別するのは、活動内容によってである」と発言したとされる。

41 J-31戦闘機については、将来的に艦載機とするとの指摘や輸出されるとの指摘もある。

42 中国が独自開発する世界最大の水陸両用機AG-600は、18(平成30)年1月に初飛行し、同年10月に初の離着水試験を実施したとされる。資源調査などの民間利用に使われるとされているが、軍事転用の可能性についても指摘されており、南シナ海への人員や物資の迅速な輸送に資するものとの見方もある。また、中国とウクライナは、An-225大型輸送機の輸出・中国国内での生産に関する協議を行うための合意に署名したと報じられている。

43 中国が開発を進めるUAVとしては、「中国版グローバルホーク」とされるHALE型UAV「翔竜(しょうりゅう)」、偵察、通信中継、シギントなど多目的に用いられるUAVであるBZK-005、攻撃型UAVであるGJ-1(「翼竜(よくりゅう)」)やCH-4(「彩虹(さいこう)-4」)、CH-7(「彩虹(さいこう)-7」)などがある。

44 「スウォーム」技術については、3章1節参照

45 国防白書「新時代における中国の国防」(19(令和元)年7月)において、中国は空軍の軍事力発展戦略として「航空・宇宙一体、攻防兼備」を挙げている。

46 情報作戦の定義は国などによって異なるが、中国軍内では、「電子戦、コンピュータ・ネットワーク作戦、心理作戦等を総合的に運用して、敵の行動に対して攻撃、あるいは抵抗して反撃する行動」という定義の使用が見られる。

47 「2016年中国の宇宙」において、宇宙開発の目的として、宇宙空間を平和目的で利用し人類の文明と社会の進歩を促進し、全人類に利益を供与する旨記述している一方、国家安全保障のニーズにかかる記述もみられる。

48 米国家情報長官「世界脅威評価書」(19(平成31)年1月)は、中国が宇宙配備の軍事及びインテリジェンス能力の向上を継続している旨指摘している。

49 米国家情報長官「世界脅威評価書」(19(平成31)年1月)は、「中国は、宇宙における軍事能力を訓練、保有しており、米国と同盟国の宇宙利用を危険にさらすために新たな対宇宙兵器を配備している」と指摘している。

50 中国軍は、平時と戦時の兵力配備を同一化し、従来の活動領域を超えた領域での活動を行うなどして、例外的行為を慣例化・常態化させることにより、相手方の警戒意識の麻痺や国際社会に状況の変化を黙認・受容させることなどを企図している、との見方(2009年版台湾「国防報告書」)がある。

51 例えば、15(平成27)年10月21日付中国軍網は、近年、中国海軍東海艦隊の全主力戦闘艦艇の年平均活動日数が150日を超えている旨報じている。

52 18(平成30)年6月には、アンウェイ級病院船による尖閣諸島周辺の接続水域内航行を海上保安庁巡視船が確認した。

53 04(平成16)年11月、中国の原子力潜水艦が、わが国の領海内で国際法違反となる「他国の領海内での潜没航行」を行っている。

54 16(平成28)年11月、中国空軍報道官は、「東シナ海防空識別区」において、中国空軍が継続的にパトロールを実施している旨発言している。3章5節1項(「公海自由の原則」をめぐる動向)参照

55 3章5節1項(「公海自由の原則」をめぐる動向)参照

56 例えば、11(平成23)年3月7日、中国国家海洋局所属とみられるZ-9ヘリコプターが、東シナ海中部海域において警戒監視中の護衛艦「さみだれ」に対して、水平約70m、高度約40mの距離に接近し周回したほか、12(同24)年4月12日には、護衛艦「あさゆき」に対し、同局所属とみられるY-12が水平約50m、高度約50mの距離に接近し周回するという事案が発生した。

57 08(平成20)年以降の中国海軍戦闘艦艇の南西諸島・宗谷・津軽海峡周辺での活動回数(防衛省からのお知らせを基準)は、それぞれ、3回(08年)、2回(09年)、4回(10年)、5回(11年)、13回(12年)、21回(13年)、14回(14年)、12回(15年)、15回(16年)、12回(17年)、15回(18年)、8回(19年6月末時点)となっている。

58 17(平成29)年3月、わが国が中国海軍艦艇の沖縄本島・宮古島間の通過を公表した際、中国国防部報道官は「今後われわれが多く通過することに日本側が慣れればよいだけ」と述べた。

59 13(平成25)年以降、航空戦力が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に進出した回数は、それぞれ5回(13年)、5回(14年)、6回(15年)、5回(16年)である。

60 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(18(平成30)年8月)などは、H-6K爆撃機に搭載されることでより遠方を攻撃することが可能となるCJ-20(CJ-10)対地攻撃巡航ミサイルが、グアムを含む第二列島線を標的にすることができると指摘した上で、中国軍が実際に米国及び同盟国を目標とした訓練などを実施しているとみられると指摘している。

61 17(平成29)年12月にこのような飛行が確認された際、中国空軍報道官は「『島(台湾)を回る』巡航を演練」した旨発言した。

62 本節2項6(4)3章5節1項(2)参照

63 例えば、18(平成30)年12月、H-6爆撃機やSu-30戦闘機がバシー海峡を通過し太平洋に進出した際には、戦闘艦艇2隻も近傍海域を航行しており、協同での活動が行われていたとの見方がある。

64 この際、韓国軍合同参謀本部は、中国軍用機が韓国の防空識別圏内で「異例な偵察活動を実施した」と発表した。

65 16(平成28)年、航空戦力が対馬海峡を通過飛行して日本海に進出した回数は、3回であり、8(平成20)年以降、海上戦力が対馬海峡を通過して日本海に進出した回数は、それぞれ1回(8年)、0回(9年及び10年)、2回(11年)、0回(12年)、2(13年)、1(14年)、2(15年)、6回(16年)である。

66 例外はあるものの中国公船は、月に2~3回の頻度で、午前10時くらいから2時間程度、わが国領海へ侵入することが多い。その際の隻数は16(平成28)年8月までは2~3隻程度であったが、それ以降は4隻で領海侵入することが多くなってきている。

67 「海警2901」及び「海警3901」。これらの公船は76mm砲を搭載しているとされる。

68 その後、8月中旬以降、尖閣諸島周辺海域で確認された中国公船による領海侵入などの活動状況は、8月上旬以前と同程度となった。

69 中国海軍から、2015年にはジャンウェイI級フリゲートが、2012年にはルダ級駆逐艦が「中国海警局」に引き渡されたとの指摘がある。

70 18(平成30)年12月、空席となっていた海警局長に、海軍少将である王仲才(おう・ちゅうさい)氏の就任が報じられた。これは、軍・警の連携強化につながるものとみられる。

71 ジョンソン南礁、クアテロン礁、ガベン礁、ヒューズ礁、ファイアリークロス礁、ミスチーフ礁、スビ礁の7つ

72 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(17(平成29)年6月)は、中国が「南沙諸島で2015年末までに3,200エーカー(約13km2)超を拡張し、埋立ては完了した」と指摘している。

73 国際社会においても、中国の南シナ海の活動に対して軍事拠点化(militarization)との指摘が相次いでいる。例えば、米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(18(平成30)年8月)は、「中国による埋立て活動が他の係争国による埋立て活動よりも格段に大規模である」との認識を示した上で「米国は、領有権について争いのある地形のさらなる軍事拠点化に反対」するとしているほか、18(平成30)年6月、マティス国防長官(当時)は、「中国による南シナ海の人工地形の軍事拠点化には、対艦ミサイル、地対空ミサイル、電子ジャミング装置の展開及びより最近のウッディー島での爆撃機の着陸が含まれる」などと述べた。

74 中国は、16(平成28)年1月2日、3日及び6日の3回、ファイアリークロス礁において試験飛行を実施したとされている。これに対し、2日にベトナム外務省報道官から断固とした反対が表明されたほか、8日にはフィリピンから文書による抗議がなされた。

75 16(平成28)年7月14日、ベトナム外務省報道官が、ベトナムの主権の侵害であるとして抗議した。

76 16(平成28)年3月、リチャードソン米海軍作戦部長は、スカーボロ礁周辺における中国の活動について、「水上艦船が活動し、分類や測量の類いの活動を進めていることを確認していると思う。そこは次に埋立てを行う可能性がある場所として注意している。」と発言した。また、18(平成30)年11月、中国が西沙諸島ボンバイ礁に情報収集装置とみられる設備を大規模な埋立てを行うことなしに設置したことが報じられており、大規模な埋立てを伴わない類似の建設活動がスカーボロ礁において行われる可能性も指摘されている。

77 中国のH-6爆撃機が15(平成27)年3月及び16(平成28)年12月に、「九段線」に沿って飛行したとの報道もある。また、17(平成29)年12月などにも、空軍機が「島嶼部の周回飛行訓練等」を実施した旨、中国国防部が発表している。

78 17(平成29)年11月、フィリピンのロレンザーナ国防大臣が、現地紙に対し、南沙諸島のサンディ・ケイ付近で中国艦艇が常時活動していると述べたと報じられた。また、18(平成30)年4月には、中国海軍や海警の艦船が南沙諸島の人工島を定期的に訪問している旨、戦略国際問題研究所・アジア海洋透明性イニシアチブ(CSIS/AMTI:Center for Strategic and International Studies/Asia Maritime Transparency Initiative)が指摘している。

79 中国は、海南島南端の三亜(さんあ)市に、原子力潜水艦用の地下トンネルを有する大規模な海軍基地を建設していると伝えられている。中国にとって同基地は、南シナ海のほか、太平洋へ進出する上での戦略的要衝に位置しており、空母の配備を含め、南海艦隊の主要な基地として整備が進められているとの指摘もある。

80 米国からの懸念としては、例えば、18(平成30)年5月、米国防省は「南シナ海で領有権が争われている地形において中国が軍事拠点化を進めていることは、緊張を高め地域を不安定化させるのみ」として、中国軍に対する環太平洋合同演習(リムパック)への招待を取り消した。国際社会からの懸念としては、例えば、17(平成29)年5月に開催されたG7タオルミーナサミットにおいては、「東シナ海及び南シナ海における状況を引き続き懸念し、緊張を高め得るあらゆる一方的な行動に対し強く反対する」などとした首脳宣言が発表された。

81 15(平成27)年4月29日、中国外交部報道官の発言。

82 米国防省「アジア太平洋海洋安全保障戦略」(15(平成27)年8月)は、「中国は2015年6月時点で2,900エーカー(約11.7km2)以上を埋め立てた」「これは他の係争国が40年間で埋め立てた総面積の17倍を20か月で行ったことになり、南沙諸島での埋立地の約95%に相当する」と記述している。

83 中国は、パキスタンのグワダル港、スリランカのハンバントタ港、バングラデシュのチッタゴン港などにおいて、現地政府との港湾整備プロジェクトなどに協力している。

84 16(平成28)年11月1日、岸田外務大臣(当時)は、同海域において追加的なガス田掘削の動きがあると明らかにし、「一方的な開発に向けた行為を継続しているのは極めて遺憾」と述べた。

85 東シナ海資源開発に関しては、いわゆる「2008年6月合意」を実施するための国際約束締結交渉について、10(平成22)年9月に中国側が延期を一方的に発表した。交渉が再開されない中、樫ガス田などにおいては、中国による生産が行われている可能性が高いなどとの指摘がなされている。一方、南シナ海においては、中国国家海洋局が、12(平成24)年5月に石油掘削装置「海洋石油981」が初の掘削に成功したと発表している。

86 III部3章1節2項6(中国)参照

87 中国国防部ホームページ(19年5月)による。なお、中国は、17(平成29)年9月、8,000人規模の部隊を国連平和維持活動即応能力登録制度に登録したと発表した。

88 国連PKO予算における中国の分担率をみると、15年は約6.6%と第6位だったが、16年には大幅に増加し、わが国を抜いて米国に次ぐ第2位となった。18年の分担率は約10.2%である。また、19年及び20年の国連通常予算の分担率についても、わが国を抜いて米国に次ぐ第2位となっている。

89 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(19(令和元)年5月)は、外国の機微、軍事及びデュアル・ユース技術を取得するため、サイバー技術を含む様々な手段を中国が使用している旨指摘している。18(平成30)年11月には、米司法省が、サイバー攻撃等により他国の民間企業から航空技術を窃取した疑いで、中国国家安全部の職員を起訴している。

90 具体例としては、独自開発の進捗が限定的とされる航空機のエンジン開発・製造の分野において、17(平成29)年8月、エンジンに特化した国有企業が設立された際、習国家主席が、「軍民を緊密に融合発展」する旨強調している。