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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

2 情報公開・文書管理に関する取組

1 情報公開制度の適切な運用の必要性

民主主義の根幹は、国民が正確な情報に接し、これに基づき国民が適切な判断を行い、主権を行使することにある。国民が正確な情報に接する上で、政府が保有する行政文書は最も重要な資料であり、これを適切に管理し、国民からの情報公開請求に適切に応じることは、政府の重要な責務である。このことは、防衛省・自衛隊においても例外ではなく、行政機関の保有する情報の公開に関する法律によって防衛省・自衛隊に課せられた重要な責務である。

参照資料69(防衛省における情報公開の実績(平成29年度))

2 南スーダンPKOの日報問題に係る特別防衛監察結果及び再発防止に向けた取組

南スーダン派遣施設隊の日報をめぐる問題の経緯については、次のとおりである。当初、16(平成28)年10月3日にあった情報公開請求に対し、防衛省としては、「文書不存在のため不開示」との陸幕長からの上申を受け、不開示決定したところであるが、当時の防衛大臣の指示により改めて探索作業を行ったところ、同年12月26日に統幕において当該日報が発見されたことから、翌17(平成29)年2月6日に公表の上、同13日には当初の決定を取り消し、改めて開示決定(一部開示決定)を行ったものである。その後、同年3月15日に、日報のデータが陸自に保管されていたが、当初の説明と矛盾するため、その事実は一切公表されず、さらにデータの消去が指示されたとの報道がなされたことを踏まえ、通常の調査では不十分であるとの当時の防衛大臣の判断により、同年3月17日から、防衛監察本部による特別防衛監察が実施され、同年7月28日にその結果が公表された。

当該特別防衛監察の結果は、防衛省・自衛隊において職員による情報公開法違反につながる行為を含む、不適切な行為を確認しており、防衛省・自衛隊にとって大変厳しく、反省すべきものであったと深刻に受け止めている。

この問題の根底にあったのは、防衛省・自衛隊における情報公開の重要性に対する認識が十分でなかったこと、そして、省内関係部局の意思疎通が十分になされなかったことなどと考えられる。防衛省・自衛隊としては、情報公開・文書管理に関する再発防止策を進めるとともに、職員の意識改革を促し、風通しの良い組織文化の醸成や、部局間での一層の連携強化を図り、二度とこのようなことが起きることのないよう、職員一丸となって国民の信頼回復に向けて全力で取り組んでいかなければならない。

ア 特別防衛監察の結果など

防衛監察本部は、防衛大臣の命を受け、本件日報の管理状況4について、元高等検察庁の検事長をトップとし、現役の検事も勤務する独立性の高い立場から、17(平成29)年3月17日より4か月にわたって、厳正かつ公正に徹底した調査を行い、同年7月28日にその結果を公表し、防衛省は、同日、関係者を厳重に処分した。

参照資料70 特別防衛監察の結果について(概要)

イ 再発防止に向けた取組

同年7月28日に公表された本件特別防衛監察の結果における指摘を受け、再発防止のために主として以下の措置を講じてきている。

○日報の取扱い

  • 日報の保存期間の見直し(10年保存)

    南スーダン派遣施設隊の日々報告に加え、自衛隊の部隊が作成した日報の全てを10年保存とし、保存期間満了後、国立公文書館に移管

  • 統幕参事官5による一元的な管理

    当該日報については、統幕参事官においてデータなどにより整理・保存することによって一元的に管理するとともに、じ後の情報公開請求に対しても一元的に対応

  • 統幕参事官付の体制強化

    情報公開業務に的確に対応するため、情報公開業務担当職員を統幕参事官付に配置

○情報公開業務

  • 「情報公開査察官」の新設によるチェック機能の強化

    文書不存在による不開示決定がなされた全ての案件について、その判断の妥当性を厳格に確認することを目的として、関係者からの聞き取りや当該文書を保有する可能性のある部署に対する現地調査などを行う「情報公開査察官」を新設

  • 防衛監察本部による情報公開業務全般に対する定期的な検証

    防衛監察本部により防衛省・自衛隊における情報公開業務全般に対して、定期的に監察し、検証を実施

  • 行政文書の不存在を理由とする不開示の場合の入念な確認の徹底

    文書管理者の置かれている全ての組織に「情報公開実施担当者」を設置。開示請求の対象文書が不存在であるとの判断に至った場合においても、複数回の確認・探索を行い、文書の特定に係る判断が正確であることを確保

  • 各幕などと内局・統幕総括官などとの密接な連携・情報共有の確保

    他の機関などに開示請求の対象文書が保有されている可能性を考慮し、各幕などは、関係する内局関係課などと密接に連携し、情報共有に努め、文書探索・特定を更に徹底

  • 職員の意識向上を図るため、教育・研修を徹底

    各種職員研修における職員(特に幹部職員)向けの情報公開業務に係る科目の充実・必須化、情報公開手続きの流れなどをわかりやすく示した「情報公開ハンドブック」の作成・配布などを通じ職員の意識を向上

○行政文書管理業務

  • 自衛隊の行動に係る報告などの保存期間の見直しなど

    海外における活動に関するものか否かにかかわらず、各種命令に基づく活動であって、防衛大臣などの判断に資するものなどについては、その種類に応じ、3~30年保存することとするとともに、保存期間満了後は、国立公文書館に移管

  • 防衛省全体の文書管理の適正性の確保など

    各機関などが標準文書保存期間基準を作成・改正する時は、総括文書管理者(大臣官房長)に協議することとするとともに、行政文書の取扱区分の適切な表示、適切なアクセス制限の徹底、保存期間満了日の明確化、複数の部局で行政文書を共有する場合の責任部局の明確化などの措置を実施

  • 職員に対する教育など

    これらの措置の徹底を図るため、職員向けのマニュアルを作成し、全職員に配布したほか、地方機関を含め、幹部職員や文書管理の実務担当者を対象として、個別に教育を実施

    また、行政文書の管理については、行政文書の管理に関するガイドライン(平成23年4月1日内閣総理大臣決定。以下「新ガイドライン」という。)の見直しを踏まえ、防衛省においても、防衛省行政文書管理規則などの諸規則の見直しを行うとともに、職員に徹底

3 適切な公文書管理のための取組

公文書に関する問題を受け、18(平成30)年3月23日の閣僚懇談会において、安倍内閣総理大臣から、①幹部職員が先頭に立って、同年4月からの新ガイドラインによる厳格なルールを全職員に徹底し、確実に運用すること、②更新等の履歴が厳格に管理できる電子決裁システムへの移行を加速することの2点について、直ちに取り組むよう指示があった。

防衛省においては、この指示に先立つ同年3月12日に小野寺防衛大臣から、情報公開、行政文書管理、情報保全の重要性を改めて認識し職務に当たるよう幹部職員に対して指示があり、その後、上述の安倍内閣総理大臣の指示を受け、この新ガイドラインに従い行政文書の適切な管理を徹底するとともに、電子決裁システムへの移行を加速するよう周知徹底し、適切な文書管理に努めていくこととしている。

4 イラク日報問題などについて

南スーダンPKOの日報問題を踏まえた再発防止策の一環として、日報を含む定時報告6を統幕参事官7において一元的に管理する作業を進めていく中で、日報をめぐって極めて不適切な対応があったことが明らかとなった8

その中において、陸自研究本部(当時。以下同じ)9で発見されたものについては、17(平成29)年2月22日に当時の防衛大臣から再探索指示がなされていた中、同年3月27日の時点で研究本部においてイラク日報が発見されていたにもかかわらず、当時の防衛大臣まで報告が行われていなかったことも判明した(18(平成30)年4月4日に公表)。このことは、文民統制にも関わりかねない重大な問題が含まれている可能性があると考えられたことから、18(平成30)年4月4日、小野寺防衛大臣の指示により、大野防衛大臣政務官を長とする陸上自衛隊のイラクの「日報」に関する調査チームによる調査が行われることとなった10。また、一連の過程で以下イ、ウ及びエの経緯についても調査が行われることとなった。

今般の調査を通じて明らかとなったところによれば、防衛省・自衛隊が防衛大臣の指示に対し、組織として適切に応えておらず、また、国会議員からの質問や資料要求、情報公開請求に対して不適切な対応をし、それを速やかに正すことができなかったものであり、反省すべき問題と認識している。

調査において、防衛大臣の指示や国会における質問などに係る事務処理を行った際、何らかの不適切な意図があったとは確認されておらず、また、一連の日報は、防衛大臣の指示の下、再発防止策を講じる中で発見及び公表されたこと、国会による議決や承認に反するような行為が行われたとは認められないことなどを総合的に考えれば、結果としても、文民統制そのものを損なう問題はなかったものと考えているが、文民統制に対する懸念や不信感を生じさせたことは重く受け止めなければならない。18(平成30)年5月23日に公表されたそれぞれの調査結果の概要は、次のとおりである。

ア イラク日報に関する調査11

南スーダンPKO日報問題に関する特別防衛監察が実施されていた状況において、研究本部でイラク日報の存在が確認されたことに関しては、調査の結果、当時の防衛大臣の再探索指示を伝えるメールの意図が必ずしも明確に読み取れるものではなかったことや情報公開請求に対して十分な探索が行われなかったこと、適切な事務処理が行われなかったことなどから、当時の防衛大臣に対しイラク日報の存在が報告されなかったことなどが明らかとなった。このことは、結果として、防衛省・自衛隊が防衛大臣の指示に対し組織として適切に応えておらず、また、国会からの質問・資料要求や情報公開請求に対し不適切な対応をし、それを速やかに正すことができなかったものであり、反省すべき問題である。

イ 統幕などによるイラク日報に係る大臣報告の経緯等12

本件については、調査の結果、18(平成30)年3月2日に統幕がイラク日報の存在を確認して以降、統幕参事官などの関係部署は、確認された日報の精査、大臣報告に係る関係部署との調整、日報の探索漏れがないかの再確認、国会議員からの資料要求や情報公開請求への対応状況の確認などの必要な作業を行った結果、同年3月31日に防衛大臣に説明することとなった。しかしながら、このような問題を認知したのであれば、防衛大臣には時間をかけずに直ちに一報するべきであり、適切とは言い難い対応であった。

ウ 陸自国際活動教育隊において日報が確認された経緯等

本件については、調査の結果、国会議員からの資料要求に対し、十分な探索を行わず、日報を保有していない旨の回答をしたことは適切とは言えず、また、特別防衛監察や情報公開請求により日報を発見したが、資料要求に対する回答や国会答弁を改めるための必要な取り組みを実施しなかったことも適切とは言えない。

エ 空幕においてイラク日報が確認された経緯等

空自では、17(平成29)年2月、同年8月及び18(平成30)年3月の探索ではイラク日報は確認されなかったが、同年4月になって3日分のイラク日報を確認するに至った。これは、保有する日報の把握が不十分であったと言わざるを得ないことから必ずしも適切ではなかった。

オ 再発防止策13

防衛省としては、調査を通じて明らかになった事実関係を踏まえ、18(平成30)年5月23日に調査報告書を公表し、防衛事務次官以下関係者17名に対する処分を行うとともに、以下の再発防止策も併せて公表した。同年6月8日に開催された行政文書の管理の在り方に関する閣僚会議において、安倍内閣総理大臣から、各閣僚が先頭に立って、公文書管理の適正の確保に万全を期するよう指示があったところであり、今後の政府全体の取り組みとの整合性を十分に図りつつ、この再発防止策を徹底して実施し、防衛省・自衛隊に対する国民の信頼回復に全力を注いでまいりたい。

○大臣の指示・命令を履行する体制の強化

  • 防衛大臣などからの重要な指示・職務命令などは文書に具体的に明記
  • 上記の指示などは、課長などに伝達し、回答も課長などの決裁を得ることを義務付け
  • 上記の指示などがなされた場合、担当部局などが大臣官房に連絡し、実施状況や調整状況を大臣官房に報告することを義務付け

○行政文書の電子ファイル化による的確な行政文書管理・情報公開への対応

  • 電子決裁システムへの移行を加速
  • 担当部署の責任者等に対応状況を報告することを徹底

○行政文書管理・情報公開に関するチェック体制の強化

  • 行政文書管理・情報公開について監察を担当する組織を新設
  • 部外有識者から指導・助言を受ける枠組みを構築

○行政文書管理・情報公開などに関する個々の隊員の意識改革

  • 隊員の業務遂行に必要な判断力を向上させるための研修を充実
  • 行政文書管理・情報公開などを人事評価の項目とすることを検討

○情報公開などに迅速かつ確実に対応できる組織づくり

  • 電子ファイル化された行政文書を一元的に保有・把握するための体制を検討
  • 特に統幕においては、専属体制を強化。その一環として、「日報」などについて、行政文書管理・情報公開などに熟達した隊員OBの非常勤職員としての活用など

全国の隊員に向けて特別訓示を行う小野寺防衛大臣(18(平成30)年4月)

全国の隊員に向けて特別訓示を行う小野寺防衛大臣(18(平成30)年4月)

4 本件特別防衛監察の対象項目は、「平成28年10月3日付で行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)の規定に基づく開示請求のあった「南スーダン派遣施設隊が現地時間で2016年7月7日から12日までに作成した日報」の管理状況」
なお、報告書本文については、https://www.mod.go.jp/igo/inspection/pdf/special04_report.pdf(別ウィンドウ)を参照

5 当時の呼称。18(平成30)年4月1日に統幕首席参事官及び参事官へと改編され、日報などの一元的な管理が行われている。

6 行動命令に基づき活動する部隊が作成した上級部隊(司令部を含む。)への定時報告であって、防衛大臣又は上級部隊の判断に資するもの

7 脚注5参照

8 本件は、17(平成29)年、国会において、確認したが見つけることができなかったと当時の防衛大臣が答弁するなどしていたイラク日報の一部が陸幕衛生部及び研究本部において確認されたこと(18(平成30)年4月2日に公表)に端を発するものである。

9 研究本部は、18(平成30)年3月27日に陸自教育訓練研究本部に改編

10 後日、元東京高等検察庁検事長である弁護士からの補佐も得ながら調査を行うこととなった。同調査チームは、書類などの収集のため陸自教育訓練研究本部に赴き、関係職員のパソコンや行政文書ファイルの確認を行うとともに、関係職員の記憶や認識などを把握するため、約70名に対する聞取り調査、約400名に対するアンケート調査を行った。調査チームの報告書の公表までに34回の会議を開催している。

11 本調査チームによる調査報告書の本文は、https://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/05/25a_1.pdf(別ウィンドウ)を参照

12 本項イ、ウ及びエに関する報告書の本文は、https://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/05/25a_2.pdf(別ウィンドウ)を参照

13 再発防止策の概要資料は、https://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/05/25a_3.pdf(別ウィンドウ)を参照