Contents

第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

2 多国間安全保障枠組み・対話における取組

拡大ASEAN国防相会議(ADMM(ASEAN Defence Ministers' Meeting)プラス)や、アジア太平洋地域における安全保障協力枠組みであるASEAN地域フォーラム2(ARF:ASEAN Regional Forum)をはじめとした多国間枠組みの取組が進展しており、安全保障・防衛分野における協力・交流の重要な基盤となっている。わが国としても、日ASEAN防衛当局次官級会合や東京ディフェンス・フォーラムを毎年開催するなど、地域における多国間の協力強化に寄与してきている。

参照資料40(多国間安全保障対話の主要実績(アジア太平洋地域・最近5年間))資料41(各種協定締結状況)資料42(留学生受入実績(平成29年度の新規受入人数))資料43(防衛省主催による多国間安全保障対話)資料44(その他の多国間安全保障対話など)

1 拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)のもとでの取組

ASEAN諸国においては、域内における防衛当局間の閣僚会合であるASEAN国防相会議(ADMM)のほか、わが国を含めASEAN域外国8か国3を加えた拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)が開催されている。

ADMMプラスは、ASEAN域外国を含むアジア太平洋地域の国防相が出席する政府主催の唯一の会議であるため、地域の安全保障・防衛協力の発展・深化の促進という観点から、極めて大きな意義があり、防衛省・自衛隊も参加・支援している。なお、ADMMプラスは、閣僚会合のもとに、①高級事務レベル会合(ADSOM:ASEAN Defence Senior Officials' Meeting)プラス、②ADSOMプラスWG、③専門家会合(EWG:Experts' Working Group)が設定されている4

17(平成29)年10月、小野寺防衛大臣は、フィリピンで開催された第4回ADMMプラスに出席し、北朝鮮に全ての核・弾道ミサイル計画の放棄に向けて政策転換させるべく、国際社会が一致団結して北朝鮮に最大級の圧力をかける必要がある旨強調するとともに、海洋をめぐっては、わが国としても南シナ海における米海軍との共同訓練をはじめ自由で開かれた海洋に資する活動に取り組んでいる旨言及した。

また、これに先立ち開催されたADMMで発表された共同宣言では、14(平成26)年から17(平成29)年までラオスと共に共同議長を務めた人道支援・災害救援(HA/DR:Humanitarian Assistance/Disaster Relief)EWGで作成した支援外国軍の活動効果を最大化するための多国間調整所(MNCC:Multi-National Coordination Centre)に係る標準作業手続書(SOP:Standard Operating Procedure)について、ASEANの標準作業手続書の一部とするための手続をさらに進めることが盛り込まれた。

参照図表III-2-1-3(拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)の組織図及び概要)

図表III-2-1-3 拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)の組織図及び概要

2 ASEAN地域フォーラム(ARF)

外交当局を中心に取り組んでいるARFについても、近年、災害救援活動、海洋安全保障、平和維持・平和構築といった非伝統的安全保障分野において、具体的な取組5が積極的に進められており、防衛省・自衛隊としても積極的に貢献している。例えば、海洋安全保障分野においては、09(平成21)年以来、海洋安全保障に関する会期間会合(ISM on MS:Inter-Sessional Meeting on Maritime Security)が開催6されており、わが国の取りまとめにより、海洋安全保障分野の能力構築支援に関する「ベストプラクティス集」を作成した。また、災害救援分野においては、同年以来、ARF災害救援実動演習(ARF-DiREx(Disaster Relief Exercise))が実施されており、防衛省・自衛隊からも、隊員や航空機などを派遣している。

3 防衛省・自衛隊が主催している多国間安全保障対話
(1)日ASEAN防衛担当大臣会合及び「ビエンチャン・ビジョン」

13(平成25)年12月の日ASEAN特別首脳会議における安倍内閣総理大臣の提案に基づき、14(平成26)年11月、バガン(ミャンマー)において、初の日ASEAN防衛担当大臣会合が開催された。人道支援・災害救援(HA/DR)や海洋安全保障といった非伝統的安全保障分野における協力について意見交換を行った本会合は、50年近くに及ぶ日ASEAN友好・協力の歴史において、初めてわが国とASEAN諸国の防衛担当大臣が一堂に会した画期的な機会であり、今後の防衛協力強化に向けた重要な一歩となった。

16(平成28)年11月、ビエンチャン(ラオス)において第2回日ASEAN防衛担当大臣会合が開催され、同会合において稲田防衛大臣(当時)から、日ASEAN防衛協力の指針として、わが国独自のイニシアティブである「ビエンチャン・ビジョン~日ASEAN防衛協力イニシアティブ~」を提示し、ASEANの全ての国々から歓迎された。また、17(平成29)年10月に開かれた第4回ADMMプラスに合わせて第3回日ASEAN防衛担当大臣会合が開催され、地域の安全保障課題が多様化・複雑化する中、参加国は地域の平和と安定を確保するため日ASEANの防衛協力がより一層重要になっているとの認識で一致するとともに、ASEAN側からは「ビエンチャン・ビジョン」に対する歓迎・支持が表明され、双方は同ビジョンに基づき日ASEAN防衛協力を一層推進していくことで一致した。

同ビジョンは、ASEAN全体への防衛協力の方向性について、透明性をもって、重点分野の全体像を示した初めてのものである。具体的には、ASEAN個別の国に加えて、ASEAN全体の能力向上に資する協力を①法の支配の貫徹、②海洋安全保障の強化、③多様化・複雑化する安全保障上の課題への対処、の3点に重点を置いて推進していくこととしている。

同ビジョンに基づき、①国際法の実施に向けた認識共有促進、②能力構築支援、③防衛装備・技術協力、④訓練・演習、⑤人材育成・学術交流といった多様な手段を組み合わせた実践的な防衛協力を推進しており、初の日ASEAN協力プログラムとして、17(平成29)年6月には護衛艦「いずも」及び「さざなみ」において、乗艦研修及び海洋安全保障と人道支援・災害救援(HA/DR)のセミナーを組み合わせた「日ASEAN乗艦協力プログラム7」に加え、「日ASEAN自衛隊統合防災演習(JXR)研修プログラム」を実施し、ASEAN全加盟国及びASEAN事務局から参加者を招へいした。また、17(平成29)年8月から9月にかけて、在京ASEAN各国大使館員を対象とし、内閣府での業務説明や「九都県市合同防災訓練8」や都内防災施設の視察などのプログラムを主催した。18(平成30)年2月には、グアムで開催された日米豪人道支援・災害救援(HA/DR)共同訓練「コープ・ノース・グアム18」のオブザーバー・プログラムにASEAN加盟国を招へいするとともに、「HA/DR(人道支援/災害救援)に関する日ASEAN招へいプログラム」では、大規模災害時のわが国の対応体制及び実績などに関するセミナーや自衛隊部隊の視察などを通じて能力向上支援及び相互理解・人的ネットワーク構築の促進を図ることを目的として、ASEAN全加盟国及びASEAN事務局から参加者を招へいした。

参照資料45(ビエンチャン・ビジョン~日ASEAN防衛協力イニシアティブ~)

(2)日ASEAN防衛当局次官級会合

日ASEAN間の次官級の人脈構築を通じた二国間・多国間の関係強化を図るため、09(平成21)年より毎年、防衛省の主催により日ASEAN防衛当局次官級会合を開催している。

17(平成29)年9月には第9回会合が福岡で開催され、ASEAN全加盟国及びASEAN事務局の次官級の参加を得て、①「ASEAN50周年-成果とさらなる一体性の強化」、②「地域の安全保障情勢」及び③「『ビエンチャン・ビジョン』-現状と今後の見通し」の3つのテーマについて意見交換を行った。朝鮮半島情勢、東シナ海・南シナ海情勢など地域における多岐にわたる共通の課題を確認するとともに、わが国とASEANが緊密に連携してともに対応することが重要との認識で一致した。

福岡で開催された第9回日ASEAN防衛当局次官級会合に議長として参加した防衛審議官(左から6人目)(17(平成29)年9月)

福岡で開催された第9回日ASEAN防衛当局次官級会合に議長として
参加した防衛審議官(左から6人目)(17(平成29)年9月)

(3)東京ディフェンス・フォーラムなど

防衛省は、1996(平成8)年から地域諸国の防衛政策担当幹部(国防省局長・将官級)を対象とする「アジア太平洋地域防衛当局者フォーラム(東京ディフェンス・フォーラム)」を毎年開催し、各国の防衛政策や防衛分野での信頼醸成措置への取組について意見交換を行っている。

18(平成30)年3月に開催された第22回フォーラムでは、アジア太平洋地域の26か国に加え、英仏などの計28か国、及びASEAN事務局、欧州連合(EU)及び赤十字国際委員会(ICRC)の参加を得て、①「朝鮮半島情勢」、②「多様な危機への対応」及び③「国防当局間の相互信頼の促進─コミュニケーションと透明性」について幅広く議論を行った。

また、01(平成13)年より、わが国の安全保障・防衛政策、自衛隊の現状などに関する理解の促進を目的として、アジア太平洋地域の国から、主に安全保障政策の関係者をわが国に招へいしている。

4 その他
(1)国際機関主催の国際会議

山本防衛副大臣は、17(平成29)年11月、バンクーバー(カナダ)で開催された「国連PKOに関する国防大臣会合」において、本会合の共催国としてスピーチを行い、「国連アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト」へのさらなる貢献や女性PKO要員増加のための取組を進めていく旨表明した。

参照3節2項(国連平和維持活動などへの取組)

(2)民間機関主催の国際会議

安全保障分野においては、政府間の国際会議だけではなく、政府関係者、学者、ジャーナリストなどが参加する民間機関主催の国際会議も開催され、中長期的な安全保障上の課題の共有や意見交換などが行われている。主な国際会議としては、IISS(The International Institute for Strategic Studies)(英国国際戦略研究所)が主催する「IISSアジア安全保障会議(シャングリラ会合)9」や、欧米における安全保障会議の中でも最も権威ある会議の一つである「ミュンヘン安全保障会議10」がある。

18(平成30)年2月に開催された第54回「ミュンヘン安全保障会議」に、わが国から、河野外務大臣と、山本防衛副大臣がそれぞれ出席した。今回の会議には、米・英・仏・露などから外相・国防相を中心に数十名の関係閣僚などに加え、10を超える国際機関の長が参加し、欧州をめぐる安全保障に関する議論や、サイバー・核セキュリティなどに関する議論が行われた。

同年6月に開催された第17回シャングリラ会合では、小野寺防衛大臣が、第2全体セッション「北朝鮮危機の安定化」においてスピーチを行い、北朝鮮問題の解決への取組と、インド太平洋地域の長期的な安定と発展に向けた決意を表明した。また、参加国との二国間・三か国間会談を実施し、北朝鮮情勢や東シナ海・南シナ海情勢を含む地域情勢や防衛交流などについて意見交換を行い、各国との今後の協力強化の方策を確認した。

(3)各軍種間における取組

統幕長は、17(平成29)年10月、「日米韓参謀総長級会談」に参加し、地域の平和と安定を強化するため、共通の安全保障問題に対し、さらなる協力を継続していくことで一致した。

日米韓参謀総長級会談に参加した統幕長(17(平成29)年10月)

日米韓参謀総長級会談に参加した統幕長
(17(平成29)年10月)

陸幕長は、17(平成29)年9月に米陸軍及び韓国陸軍主催の「第10回太平洋地域陸軍参謀総長等会議」に参加した。本会議を通じて、太平洋地域の陸軍参謀長などと会談を実施し、各国ハイレベル間における信頼関係構築の強化を図るとともに、特に日韓間及び日米韓間での会談を通じ、地域の平和及び安定のため、日韓及び日米韓陸軍種間の連携強化の必要性について確認した。

第10回太平洋地域陸軍参謀総長等会議に参加した陸幕長(17(平成29)年9月)

第10回太平洋地域陸軍参謀総長等会議に参加した陸幕長
(17(平成29)年9月)

海幕長は、17(平成29)年10月にイタリア海軍が主催する「地域シーパワーシンポジウム」に参加し、米海軍作戦本部長、英海軍第1海軍卿らとともに能力構築支援を通じた協力の重要性や海洋安全保障におけるわが国の取組を広く発信した。また、G7の海軍参謀長らが一堂に会した同シンポジウムの機会をとらえ、各国参謀長と会談し、法の支配に基づく海洋秩序維持のために海軍種として努力すべき事項について議論し、認識を共有した。

地域シーパワーシンポジウムに参加した海幕長とG7各国の海軍参謀長など(17(平成29)年10月)

地域シーパワーシンポジウムに参加した海幕長とG7各国の海軍参謀長など
(17(平成29)年10月)

空幕長は、17(平成29)年7月、英空軍参謀長からの招待に応じ、英軍が主催するシンポジウム「Air Power Conference(APC)」及びエアショー「Royal International Air Tatoo(RIAT)」に参加し、地域情勢、防衛協力・交流などについての幅広い意見交換を通じ両国空軍種の関係強化を図った。また、17(平成29)年9月、ハワイを訪問し、米太平洋空軍が主催する「太平洋地域空軍参謀長等シンポジウム(PACS)」に参加した。同シンポジウムにおいては、日米豪比四か国参謀長等会同を実施するなど、各国との相互理解を深化させ、信頼関係の強化を図った。さらに、空幕長は、18(平成30)年2月には「シンガポール・エアショー」に、同年3月には豪空軍の主催するシンポジウム「Air Power Conference(APC)」にそれぞれ参加し、参加各国の空軍参謀長らとの意見交換を実施するとともに、関係の強化を図った。

デイヴィース豪空軍本部長と会談する空幕長(17(平成29)年9月)

デイヴィース豪空軍本部長と会談する空幕長
(17(平成29)年9月)

2 ARFは、政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じ、アジア太平洋地域の安全保障環境を向上させることを目的としたフォーラムで、1994(平成6)年から開催されている。現在26か国(ASEAN10か国(ブルネイ、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、カンボジア(以上1995(平成7)年から)、ミャンマー(1996(平成8)年から)に、日本、オーストラリア、カナダ、中国、インド(以上1996(平成8)年から)、ニュージーランド、パプアニューギニア、韓国、ロシア、米国、モンゴル(以上1998(平成10)年から)、北朝鮮(00(平成12)年から)、パキスタン(04(平成16)年から)、東ティモール(05(平成17)年から)、バングラデシュ(06(平成18)年から)、スリランカ(07(平成19)年から)を加えた26か国)と1機関(欧州連合(EU:European Union))がメンバー国となり、外務当局と防衛当局の双方の代表による各種政府間会合を開催し、地域情勢や安全保障分野について意見交換を行っている。

3 10(平成22)年10月に発足し、ASEAN域外国として、わが国のほか、米国、オーストラリア、韓国、インド、ニュージーランド、中国及びロシアが参加している。

4 EWGにおいて、わが国は積極的に貢献してきており、17(平成29)年には、5月及び9月に人道支援・災害救援(HA/DR)EWGに、5月及び10月にPKO-EWGに、5月及び10月に地雷処理EWGに、7月に対テロEWGに、7月及び11月にサイバーセキュリティEWGに、11月に海洋安全保障EWGに、12月に防衛医学EWGに、それぞれ参加した。

5 毎年、外相級の閣僚会合のほかに、高級事務レベル会合(SOM:Senior Officials' Meeting)及び会期間会合(ISM:Inter-Sessional Meeting)が開かれるほか、信頼醸成措置及び予防外交に関する会期間支援グループ(ISG on CBM/PD:Inter-Sessional Support Group on Confidence Building Measures and Preventive Diplomacy)、ARF安全保障政策会議(ASPC:ARF Security Policy Conference)などが開催されている。また、02(平成14)年の閣僚会合以降、全体会合に先立って、ARF防衛当局者会合(DOD:Defense Officials' Dialogue)が開催されている。

6 わが国は11(平成23)年、インドネシア及びニュージーランドとともに第3回会期間会合を、17(平成29)年、フィリピン及び米国とともに第9回会期間会合を東京で共催した。

7 コラム「日ASEAN乗艦プログラムに参加して」(P.376)参照

8 本訓練に参加している地方公共団体は、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市及び相模原市

9 諸外国の国防大臣クラスを集めて防衛問題や地域の防衛協力についての議論を行うことを目的として開催される多国間会議であり、民間研究機関である英国の国際戦略研究所の主催により始まった。02(平成14)年の第1回から毎年シンガポールで開催され、会場のホテル名からシャングリラ会合(Shangri-La Dialogue)と通称される。

10 欧米における安全保障会議の中で最も権威ある民間主催の国際会議の一つであり、1962(昭和37)年から毎年(例年2月)開催されている。欧州主要国の閣僚をはじめ、世界各国の首脳や閣僚、国会議員、国際機関主要幹部が例年参加している。