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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

8 大規模災害などへの対応

自衛隊は、自然災害をはじめとする災害の発生時には、地方公共団体などと連携・協力し、被災者や遭難した船舶・航空機の捜索・救助、水防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送などの様々な活動を行っている。

1 基本的な考え方

大規模災害などの発生に際しては、所要の部隊を迅速に輸送・展開し、初動対応に万全を期すとともに、必要に応じ、対処態勢を長期間にわたり持続する。また、被災住民や被災した地方公共団体のニーズに丁寧に対応するとともに、関係機関、地方公共団体、民間部門と適切に連携・協力し、人命救助、応急復旧、生活支援などを行う。

また、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うための初動対処態勢を整えており、この部隊を「FAST-Force(ファスト・フォース)」と呼んでいる。

参照図表III-1-2-14(大規模災害などに備えた待機態勢(基準))、II部3章2節4項(災害派遣など)

図表III-1-2-14 大規模災害などに備えた待機態勢(基準)

2 防衛省・自衛隊の対応
(1)自然災害への対応

ア 平成29年7月九州北部豪雨にかかる災害派遣

17(平成29)年7月5日、大雨による道路の冠水や土石流などにより、福岡県朝倉郡東峰村及び大分県日田市の各地で道路が寸断され、孤立者が発生した。同日、福岡県知事及び大分県知事からの災害派遣要請を受け、自衛隊は、福岡県においては同年8月20日までの間、大分県においては同年7月13日までの間、人命救助、行方不明者捜索、道路啓開、人員及び物資輸送、給水支援、給食支援、入浴支援を実施した。本派遣の規模は、人員延べ約8万1,950名、車両延べ約7,140両、航空機延べ169機に上った。

イ 鳥インフルエンザにかかる災害派遣

18(平成30)年1月、香川県さぬき市の農場において、高病原性鳥インフルエンザの発生が確認され、速やかに鶏の殺処分などの防疫措置を行う必要が生じた。自衛隊は、香川県知事からの災害派遣要請を受け、鶏の殺処分などを実施した。本派遣の規模は、人員延べ約410名、車両延べ約75両に上った。

ウ 山林火災にかかる災害派遣

17(平成29)年4月から18(平成30)年6月末までに発生した山林火災のうち、秋田県、岩手県、群馬県、東京都、長野県(2件)、山梨県、兵庫県、島根県、大分県、宮崎県において、地方自治体により消火活動を実施するも鎮火に至らず、このため自衛隊は、各都県知事からの災害派遣要請を受け、空中消火活動などを実施した。本派遣の規模は合計10件で、人員延べ約110名、車両延べ約37両、航空機延べ111機、散水量約1,778t、散水回数414回に上った。

エ 噴火に伴う人命救助などにかかる災害派遣

18(平成30)年1月、群馬県草津白根山で噴火が発生し、同県吾妻郡草津町のスキー場において、噴石により負傷者などが発生した。このため自衛隊は、群馬県知事からの災害派遣要請を受け、人命救助などを実施した。本派遣の規模は、人員約280名、車両約75両、航空機9機に上った。

オ 給水支援にかかる災害派遣

18(平成30)年1月以降、水道管の破裂などにより、新潟県佐渡市、石川県輪島市、島根県大田市、沖縄県宮古島市で断水などが発生した。このため自衛隊は、各県知事からの災害派遣要請を受け、給水支援を実施した。本派遣の規模は、人員延べ約765名、水トレーラーなど延べ約450両、給水量約349tに上った。

カ 大雪にかかる災害派遣

18(平成30)年2月、福井県あわら市、福井市、越前市や吉田郡永平寺町において、大雪の影響により多数の車両の立ち往生などが発生した。自衛隊は、福井県知事からの災害派遣要請を受け、人命救助や除雪支援などを実施した。本派遣の規模は、人員延べ約4,960名、車両延べ約820両、車両救出台数約1,190両、食料等配布約6,750食、除雪距離約31.8km、給油支援約1万5,320ℓに上った。

キ 山崩れに伴う人命救助にかかる災害派遣

18(平成30)年4月、大分県中津市耶馬溪町において山崩れが発生し、住宅が土砂に埋まり、住人が安否不明となった。このため自衛隊は、大分県知事からの災害派遣要請を受け、人命救助を実施した。本派遣の規模は、人員延べ約3,250名、車両延べ約845両、航空機延べ2機に上った。

ク 大阪府北部を震源とする地震にかかる災害派遣

18(平成30)年6月、大阪府北部を震源とする地震(マグニチュード6.1)により、大阪府吹田市、箕面市、高槻市、茨木市で断水などが発生した。このため自衛隊は、大阪府知事からの災害派遣要請を受け、給水支援や入浴支援などを実施した。本派遣の規模は、人員延べ約1,145名、水トレーラーなど延べ約280両、航空機延べ12機、給水支援約46.7t、入浴支援7,951名、応急対策支援90箇所に上った。

大阪府北部を震源とする地震における陸自による入浴所開設の様子(18(平成30)年6月)

大阪府北部を震源とする地震における陸自による入浴所開設の様子
(18(平成30)年6月)

ケ 平成30年7月豪雨にかかる災害派遣

18(平成30)年7月、東日本から西日本の広い範囲で記録的な大雨により、各地で河川の氾濫、大規模な浸水、土砂災害が多数発生した。このため自衛隊は、京都府、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、高知県、愛媛県、福岡県の各府県知事からの災害派遣要請を受け、最大74か所の地方公共団体に連絡員約300名を派遣して緊密な連携を図りながら、人命救助、孤立者救助、給水支援、入浴支援、物資輸送、水防活動、道路啓開などを実施した。なお、支援の一環として、防衛省が契約する民間船舶「はくおう」を活用し、広島県三原市尾道糸崎港において入浴支援などを実施した。今般の豪雨に際しては、自衛隊の活動が長期化されることが見込まれることから、11(平成23)年の東日本大震災及び16(平成28)年の熊本地震以来3回目となる即応予備自衛官の招集を行い、最大で約300名の即応予備自衛官が生活支援活動に従事した。本派遣の規模は、人員最大約3万3,100名、艦船最大28隻(民間船舶「はくおう」1隻を含む)、航空機最大38機、人命救助・孤立者救助者数2,284名、給水量約1万8,973t、入浴支援者数9万4,119名、給食支援1万3,290食に上っている。

参照図表III-1-2-15(災害派遣の実績(平成29年度))、資料38(災害派遣の実績(過去5年間))

図表III-1-2-15 災害派遣の実績(平成29年度)

平成30年7月豪雨における陸自による捜索救助活動の様子(18(平成30)年7月)

平成30年7月豪雨における陸自による捜索救助活動の様子
(18(平成30)年7月)

(2)救急患者の輸送など

自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送(急患輸送)している。平成29(2017)年度の災害派遣総数501件のうち、401件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)、長崎県の離島などへの派遣が大半を占めている。

また、他機関の航空機では航続距離が短いなどの理由で対応できない、本土から遠く離れた海域で航行している船舶からの急患輸送や、火災、浸水、転覆など緊急を要する船舶での災害の場合については、海上保安庁からの要請に基づき海難救助を実施しているほか、状況に応じ、機動衛生ユニットを用いて重症患者を空自C-130H輸送機にて搬送する広域医療搬送も行っている。

さらに、平成29(2017)年度には、66件の消火支援を実施しており、そのうち、55件が自衛隊の施設近傍の火災への対応であった。

(3)原子力災害への対応

防衛省・自衛隊では、原子力災害に対処するため、「自衛隊原子力災害対処計画」を策定している。また、国、地方公共団体、原子力事業者が合同で実施する原子力総合防災訓練に参加し、地方公共団体の避難計画の実効性の確認や原子力災害緊急事態における関係機関との連携強化を図っている。さらに、14(平成26)年10月以降、内閣府(原子力防災担当)に自衛官(18(平成30)年4月1日現在5人)を出向させ、原子力災害対処能力の実効性の向上に努めている。

(4)各種対処計画の策定

防衛省・自衛隊は、各種の災害に際し十分な規模の部隊を迅速に輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、統合運用を基本としつつ、要員のローテーション態勢を整備することで、長期間にわたる対処態勢の持続を可能とする態勢を整備している。その際、東日本大震災などの教訓を十分に踏まえることとしている。

また、防衛省・自衛隊は、中央防災会議で検討されている大規模地震に対応するため、防衛省防災業務計画に基づき、各種の大規模地震対処計画を策定している。

(5)自衛隊が実施・参加する訓練

自衛隊は、大規模災害など各種の災害に迅速かつ的確に対応するため、各種の防災訓練を実施しているほか、国や地方公共団体などが行う防災訓練にも積極的に参加し、各省庁や地方公共団体などの関係機関との連携強化を図っている。

大規模地震時医療活動訓練において仙台空港で空輸した患者を救急車に引き継ぐ空自第1輸送航空隊(17(平成29)年7月)

大規模地震時医療活動訓練において仙台空港で空輸した患者を救急車に
引き継ぐ空自第1輸送航空隊(17(平成29)年7月)

ア 自衛隊統合防災演習(JXR:Joint Exercise for Rescue)

17(平成29)年6月、南海トラフ地震を想定して机上演習及び指揮所演習を行い、自衛隊の災害対処能力の向上を図った。

イ 日米共同統合防災訓練(TREX:Tomodachi Rescue Exercise)

17(平成29)年11月、南海トラフ地震発生時における在日米軍との共同対処を実動により実施し、自衛隊と在日米軍との連携による震災対処能力の維持・向上や関係地方公共団体などとの連携の強化を図った。

ウ 離島統合防災訓練(RIDEX:Remote Island Disaster Relief Exercise)

17(平成29)年9月、沖縄県が計画する沖縄県総合防災訓練に参加して、離島における突発的な大規模災害への対処について実動による訓練を実施し、自衛隊の離島災害対処能力の維持・向上や関係地方公共団体などとの連携の強化を図った。

エ その他

17(平成29)年6月には、陸自中部方面隊が南海トラフ地震を想定した訓練「南海レスキュー29」を、同月には陸自東部方面隊が南海トラフ地震を想定した訓練「ビッグレスキューあづま2017」を実施するなど、震災対処能力の向上を図った。

さらに、防衛省災害対策本部運営訓練の実施や、「防災の日」政府本部運営訓練などへも参加している37

(6)地方公共団体などとの連携

災害派遣活動を円滑に行うためには、平素から地方公共団体などと連携を強化することが重要である。このため、①自衛隊地方協力本部に国民保護・災害対策連絡担当官(事務官)を設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)及び事務官による相互交流(陸自中部方面隊と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。18(平成30)年3月末現在、全国45都道府県・291市区町村に432人の退職自衛官が、地方公共団体の防災担当部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化するうえで極めて効果的であり、東日本大震災などにおいてその有効性が確認された。特に、陸自各方面隊は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報共有・意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。

参照資料65(退職自衛官の地方公共団体防災関係部局における在職状況)

37 記載の他、平成29(2017)年度の訓練の実施及び参加として、①政府図上訓練への参加、②原子力総合防災訓練への参加、③大規模津波防災総合訓練への参加、④大規模地震時医療活動訓練への参加、⑤九都県市合同防災訓練と連携した訓練への参加、⑥近畿府県合同防災訓練と連携した訓練への参加、⑦中部ブロック南海トラフ地震防災対策推進連絡会広域連携防災訓練と連携した訓練への参加、⑧南海トラフ巨大地震対策九州ブロック協議会合同防災訓練と連携した訓練への参加、⑨その他、地方公共団体などの行う総合防災訓練への参加がある。